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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第290話

 カロキヤ歴R十九年六月六日。朝。




 カロキヤ公国とプヨ王国の国境にある城郭都市アグレブ。


 そのアグレブ市内にある某所。




 其処では二名を除いて、真紅騎士団(クリムゾン・ナイツ)の十三騎将全員が一室に集結していた。


 当初は軍議かと思われていたが、誰も一言も発しない。


 何事かと思い、全員が発言していないみたいだ。


 しかしいい加減焦れて来たのか、ネイファがアナベルに話し掛ける。


「なぁ、じっちゃん。そろそろ何で十三騎将おれたちを集めたのか、いい加減話してくれよっ!?」


 ネイファは机を叩いて、アナベルに抗議する。


 かなりの力を込めて叩いた所為か、机には罅が入った。


「まあまあ、ネイファ。落ち着けって。ちゃんと副団長が話してくれるに決まってんだからさ」


 大きな声を上げるネイファを、宥めるサグァン。


「しかしネイファの言う事も一理ある。副団長。もう集まっているのだから、そろそろ十三騎将われわれを集めた理由を教えて頂きたい・・・まだ焦らすと言うのであれば、自分は帰らせて頂く」


 アナベルを睨み付けながら、セイラルはそう言って警告した。


 セイラルにそう問いかけられたアナベルは、元々細い糸目を更に細め始めた。


 それを見て全員が、アナベルは何か重大な事を話すと思った。


 アナベルは何か重大な事を話す際は、目を更に細めるという癖を持っているからだ。


「・・・実は先刻『血染』と『隠密』から報告が入った。このままプヨは何事も無ければ今年中に、このアグレブに奪還するべく軍を起こす可能性が高そうだ」


 それを聞いて全員が、ビクッと身体を震わせた。


 ある者は来る戦への興奮で、ある者は今の状況に対して。


「よっしゃああっ!? 来やがれ、プヨ軍っ! 俺がギタギタにしてやるっ!」


「いや、此処は俺に暴れさせろっ! パリストーレじゃあ、俺は後方にいた所為で暴れられなかったからなっ!!」


 オクサとポルトスは興奮のあまり叫び出した。


「おいおい、おっさん達。先陣は俺だろう!?」


 ネイファは自分を指差した。


「手前みてぇな餓鬼が俺達を差し置いて、先陣なんざ五年早ぇんだよっ!!」


「あんだとっ!?」


 オクサとネイファが、睨み合いを始めた。


「落ち着け、二人共。副団長。征南軍団は残念ながら、まだ再編成を終えていない。正直に言って我々だけでは、このアグレブを守りながらプヨ軍を迎え撃つのはかなり難しいのでは?」


 二人を宥めながら、アナベルに尋ねるマックス。


 現在の真紅騎士団(クリムゾン・ナイツ)の総兵力は一万。


 プヨ王国軍の総兵力を考えれば最大で、その十倍もの戦力を出陣させかねない。


「その通りだ。もし我等だけでプヨ軍と交戦した場合、精々三倍差が限界だ。それ以上の兵力を繰り出されれば、野戦でも籠城戦でも必敗は避けられぬであろう」


 真紅騎士団(クリムゾン・ナイツ)の頭脳たるアナベルの分析から出た結論に、全員が言葉を失った。


「しかし、副団長。カロキヤに援軍を乞うと言う手段は、当然遺されているのでは? 中央から近衛軍団か、東の征東軍団当たりならば・・・」


 ロザリアは援軍を要請すれば良いのではと言う、アナベルは溜息を吐いた。


「通常ならばそうなのだが・・・カロキヤ曰く、『不倶戴天の宿敵たるプヨを滅ぼすべく、深謀遠慮の策を水面下で進めている。真紅騎士団(クリムゾン・ナイツ)は策が成るまで、可能な限りプヨ軍の戦力を削れ。武運を祈る』だそうだぞ」


 アナベルが溜息を吐きながら、失望した様子で言う。そう聞いて全員が、再び言葉を失った。


「まさかカロキヤは、我等に死ねとでも言いたいのか?」


 バルドがそう問い掛ける。


「そんな真似などさせぬ」


 今まで沈黙を貫いていたヴィランが、此処で漸く口を出した。


「もしカロキヤが我等を捨て駒にしようと考えているならば、その時は契約破棄するまでだ。しかしその一方でカロキヤが言う必勝の策とやらを、真面目に進めている事は分かっている。ならば我々は、出来る事を全力で尽くすまでだ」


「団長。カロキヤは、本当にプヨに勝てると思いますか?」


 セイラルは半信半疑と言った様子で、ヴィランに尋ねていた。


「うむ。どうやら去年の征西軍団の壊滅が、カロキヤに火を付けた様だ。ならば此処は依頼主の期待に応えてこその、真紅騎士団(クリムゾン・ナイツ)ではないのか? 諸君」


 ヴィランの問い掛けに、全員は一斉に首肯した。


「と言ったは良いが現状では、打つ手が限られている。しかしそれでも最善を尽くさねばならぬ。その為には・・・・・・」


 ヴィランはアナベルを見た。


「我が右腕よ。例の要塞の建造だが、早めれそうか?」


「団長。どうぞ御任せあれ」


 アナベルは一礼しながら、ヴィランにそう答えた。


 真紅騎士団クリムゾン・ナイツの頭脳であるアナベルがそう断言したので、ヴィランは安堵した様子で吐息を漏らした。


 それからヴィランは、セイラル達の方に視線を向けた。


「お前達も、アナベルに協力してやってくれ」


『了解っ!』


 ヴィランの頼みを聞いて、セイラル達は一斉に異口同音にそう答えた。


「感謝する」


 ヴィランは十三騎将の全員に、感謝を述べた。


 それを見て、アナベルが話し出す。


「では特別にカロキヤが描く策の全容を教えよう。言うまでも無いが皆、口外無用ぞ?」


 全員が頷いたのを確認して、アナベルは話し出した。

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