第288話
信康は部屋に居る、ルノワを優しく抱き締めた。ルノワもまた、信康を優しく抱き締め返す。
「・・・・・・お前には迷惑を掛けたな」
「いえ。これ位でしたら、何ともありません。それよりも・・・」
ルノワは信康の顔を見る。
「お帰りなさいませ。ノブヤス様」
「ああ、ただいま」
信康は笑顔でルノワの頭を撫でる。
ルノワは嬉しそうに微笑む。
「それはそうと、どうしてお前が俺の部屋に居るんだ?」
何となく分かっているのに、信康は訊ねる。
ルノワは顔を赤らめながら、恥ずかしそうに言う。
「それは、その今宵の相手をして頂きたくて・・・・・・」
言っていて恥ずかしくなったのか、ルノワは顔を伏せる。
「コニーが良く許したな?」
信康はルノワの銀髪を、弄りながら尋ねる。
コニゼリアも信康の事を好いているので、良く譲ったなと思い訊いているみたいだ。
「ええ。ですから」
ルノワが何か言葉を続けようとしたら、扉が開けられた。
「はーい♥ ノブヤス。ルノワだけじゃ物足りないだろうと思って、あたし達も来てあげたわよ」
「ですぅ」
そう言って無断で部屋に入って来たのは、ティファとコニゼリアであった。
「・・・ノックくらいしてくれ。吃驚しただろっ」
「そんな事はどうでも良いじゃないっ。あたしとノブヤスの仲なんだし・・・ふふっ。来て正解だったわね。コニーからルノワと一緒に相手をすると聞いて、急いで来たのよ」
「そりゃありがたい話だな。じゃあ、相手をしてくれるか?」
「はい。ティファお姉様と一緒に相手しますね♥」
「ティファお姉様? あれ? 何時の間にそうして呼んだり呼ばれたりする関係になったのか」
初めて聞いた言葉の内容から、勝手な想像で推測する信康。しかしティファは、怒ってコニゼリアを叱り始めた。
「こらっ!? あたしはそう呼ばれたくないって、前にも言ったでしょうがっ」
「ああ、ごめんなさいっ。間違えました、ティファお姉さんっ」
ティファに叱られたコニゼリアは謝罪して、直ぐに呼称を変えて呼び直した。
すると今度は許容範囲内なのか、ティファは怒らなかった。
「・・・お姉様とお姉さんの違いがよう分からんのだが、それってそんなに大切か?」
「大違いよっ。って、そんな事はどうでも良いじゃないっ。さぁ、相手をしてあげるわっ!」
「いっぱい御奉仕しますね♥」
「そうか。じゃあ取り敢えず、こっちに来いよ」
信康が手招きすると、三人は笑顔で頷き同時に信康に抱き着いた。
そして直ぐに三人分の嬌声が、部屋から聞こえだした。その嬌声は朝になっても止む事は無かった。
プヨ歴V二十七年六月五日。朝。
信康は寝台で横になっていたが、朝日が部屋に入り込んで来たので目が覚めた。目を開けると、自分の周りにはルノワ達が全裸状態で穏やかな顔をして熟睡していた。
信康は身体を起こすと、三人を起こさない様に寝台から降りる。そしてシキブが密かに用意してくれたであろう衣服を着用して、音を立てない様にしながらそっと部屋を退室してそのまま外に出た。
「んん~~やっぱり娑婆の空気は美味いな」
身体を伸ばしながら、朝日を全身に浴びる信康。陽光で身体が温まるのを感じていると、不意に視線を感じた。
信康は視線を感じた方に顔を向けると、其処には女性が居た。誰だろうと思い、信康は目を凝らした。それで、其処に居るのが誰なのか分かった。
「おう、おはよう。久し振りだな、ライリーン」
信康の視線の先に居たのは、ライリーンだった。灰色のノースリーブを着て、同色でタイトなスカートを穿いている。三つ編みにした長髪は銀色のリボンで留めて、左鬢に垂らしていた。
「おはよう、ノブヤス。それから久し振りね」
「私服みたいだが、今日は学園に行かないのか? 平日だろ?」
昨日も平日で今日も平日だった筈だが、と思いながら訊ねる信康。
「お馬鹿ね。丁度昨日から、夏休みに入ったのよ」
「ああ、成程な。そう言えば、そんなのがあった気がするぞ・・・ははっ、懐かしいな。去年の夏は、グランの事件の真っ最中だった」
去年の夏休み期間中はグランによって連続殺人事件が起きていたので、その事を懐かしく思う信康。そんな回想をしている信康を他所に、ライリーンが話し掛けて来た。
「それは良いとして、貴方も随分と大変だったわね。濡れ衣を着せられて監獄に収監された挙句、海賊にまで誘拐されるんだから」
「ん? 何だ。ライリーンも知っていたのか」
一般人である筈のライリーンにまで自分の近況を知っている様子を見て、信康は何処まで知られているんだろうと思った。
「当然じゃない。知らないの? 冤罪を着せられた悲劇の英雄って事で何度も新聞を賑わせてたし、海賊騒動の件も昨日の号外でノブヤスを知らない人なんて居ないわよ」
「あーそうだったな。うん」
信康もヘルムートやルノワ達から話自体は聞いているのだが、未だに実感が湧かないでいた。
「言っておくけど・・・ノブヤスを心配して泣いてた人達は沢山居るんだから、後で謝っておきなさいよ」
「うーん。そう言われると心配を掛けて、申し訳ないと謝るしかないな・・・もしかして、お前も心配して泣いてくれてたとか?」
信康は内心でそんな訳無いかと思いつつ、揶揄い半分でライリーンにそう尋ねてみた。
「馬鹿じゃないの。貴方が監獄にぶち込まれたからって、それ位でくたばる訳無いじゃない・・・まぁ肝心のエルドラズって監獄の看守は女しかいなかったそうだから、ノブヤスにとっては楽園パラダイスみたいな環境だったかもしれないわね?」
「ははははっ、お前ならそう言うと思っ・・・うん? 何でお前が、エルドラズの看守は女しか居ないって知っているんだ?」
信康はライリーンが詳し過ぎる事に疑問を持って思わず尋ねたが、ライリーンは沈黙を貫き黙秘して答えようとはしなかった。その所為で信康とライリーンの間を、静寂が包み込む。
「・・・・・・ああ、おほん。それはそうと、お前はどうして此処に居るんだ?」
静寂に耐え切れなくなった信康はライリーンへの追及を諦めて、此処は別の話に持って行く事にした。
「レギンスさんに頼まれたのよ。バイト代は弾むから、今日だけでも露店みせに来てバイトしてくれないかってね。お金に困っている訳じゃないけど、今日だけって条件で引き受ける事にしたわ」
「へぇ。そうなのか。そう言えば去年の戦争の前に、お前に店番押し付けたんだよなぁ・・・後でレギンスにも顔を出した方が良いと思うか?」
信康に尋ねられたライリーンは、少しだけ思案を始めた。
「・・・別に無理して会いに行かなくても、機会があればで良いと思うわよ。じゃあ私も、流石にそろそろ行くわね」
ライリーンはそう言うと、レギンスの露店に向かうべく歩き出そうと動き出した。しかし一歩踏み出した瞬間に何故か振り返り、信康の耳元近くまで来て囁いた。
「朝ご飯を食べたら、十時前位に軍病院に行ってみると良いわ。それと十一時になったら、マリーザの屋敷に行ってみなさい」
「・・・・・・何? おい、ライリーン。其処に行くと何があるんだ?」
ライリーンはそれだけ言うと、信康に返事せずに兵舎前から立ち去った。信康は解せないと思いながらもライリーンの背中を見送り、自分の部屋に戻ろうと踵返そうとした。
「ああああぁぁぁぁぁっっっ!!? ノッ、ノブヤスだああああぁぁぁぁっっ!!!」
そんな絶叫に近い大声が聞こえて来たので、信康は急いで振り返る。信康が振り返った瞬間、腹部に強い衝撃が走った。
「ごふっ!?」
信康は倒れ込まずに踏ん張って衝撃を受け止めると、視線の先には見覚えのあるショートカットにした茶髪があった。
「・・・な、ナンナか?」
信康は思い出す様に該当する人物の名前を口にしたが、肝心の当事者は答えようとはしなかった。厳密に言えば、答えられなかったのである。
「ひくっ・・・ふぐっ・・・っっ・・・うぅっ」
何故ならナンナと思われる女性は、信康の腹部に顔を埋めて嗚咽を漏らすばかりだったからだ。信康は暫く何もせずにそのまま好きにさせていると、不意に声が聞こえて来た。
「ひぐっ・・・ずずっ・・・えへへっ。ノブヤスだぁっ・・・ノブヤスが、本当に帰って来たんだっ・・・・・・っ」
涙を流し鼻水を垂らしながら、ナンナは嬉しそうに信康の帰還を心から歓喜していた。
「・・・ほら、顔を拭け。折角の美人が台無しだぞ」
信康はそう言って懐からハンカチーフを取り出すと、急いでナンナの涙と鼻水塗れの顔を拭く。信康の衣服は既にナンナの体液でびしょ濡れになっていたが、これ程自分の帰還を喜んでくれては怒るに怒れなかった。
「あはっ、ありがとう・・・(ずずーっ!)」
ナンナは信康に顔を拭かれながら感謝しつつ、信康のハンカチーフで鼻をかんだ。
(おい、誰が鼻をかんで良いと言った?)
信康はツッコみたかったが、心中に留める事にした。それからナンナが落ち着くのを待って、信康はナンナに話し掛ける。
「久し振りだな」
「うん、久し振りだね・・・それと、お帰りなさい」
目と鼻が赤くなったナンナはそう言うと、首に掛けているタオルで額に溜まった汗を拭った。ナンナの服装は動き易い様に短いパンツを穿き、黄色いシャツの上に白いシャツを重ね着していた。
「お前はランニングの途中か?」
何時だったかナンナが作ったジョギングコースの一つで、この兵舎は近いのだとナンナが言っていた事を思い出す信康。
「うん。今、ランニング中なんだ。君も一緒に走る?」
「それは、また今度にしてくれ」
「そう。じゃあ、また今度ね」
ナンナはそう言って、手を挙げて走って行った。
信康はナンナの背中が見えなくなるまで、その場に留まる。見えなくなると今度こそ、自分の部屋に戻った。
信康が部屋に戻ると、ルノワが起きていた。
「何だ。起きていたのか?」
「ええ、今しがた」
ルノワは困惑した顔で、信康を見る。
「どうかしたのか?」
「・・・・・・あの、これを」
ルノワは手に持っている花を、信康に渡した。
それは太陽みたいに黄色い大輪の花を咲かせている、立派な向日葵だった。
「どうしたんだ、その花?」
見覚えの無い向日葵を見て、信康はルノワに訊ねた。
「先程、烏が口にこの花を咥えて、窓を叩いていたのです。それで窓を開けると、烏が私にこの花を渡して『ノブヤスに伝えろ。その内、儂もそちらに顔を出すぞ』と言って、烏は飛び立って行きました」
「ふぅん。こいつをね」
信康は向日葵を見ながら、そう呟いた。
何故向日葵が自分の下へ届いたのか、信康には理由が分からなかった。
「ノブヤス様。この花の名前は知っておりますか?」
「流石にそれは分かるぞ。向日葵・・・向日葵だよな?」
信康が向日葵の名称を答えると、ルノワは男性が花の名称が答えられるのは珍しいと感嘆した。
「まぁ傭兵として色んな国を見て回ったからな。その時に得られた雑学だ」
「そうですか・・・・・・ノブヤス様。花言葉と言うものを御存じですか?」
花言葉と言う単語の意味が分からず、信康は首を傾げる。
「花言葉とは、花を象徴的に例える言葉を言います。例えで言うなら薔薇の花言葉は、愛情や告白があります。一つの花に複数の花言葉があり、本数や色で花言葉の意味が変わる場合もあるのです。なので花屋の店員は、花言葉を熟知する必要があると聞きますね」
信康はルノワの話を聞いて、そんなものがあるのかと思った。
「それでその・・・この向日葵の花言葉なのですが・・・・・・」
ルノワは何故か、言葉を詰まらせた。
「どうした? そんなに言い辛い言葉なのか?」
信康の脳裏には、呪いとか地獄に堕ちろとかいう言葉でもあるのだろうかと思った。
「この向日葵の花言葉ですが・・・貴方だけを見ている・・・・・・・・・、です」
「・・・・・・」
ルノワから向日葵の花言葉を知って、信康は思わず言葉を失った。あまりに重い言葉に、信康は何とも言えない顔をした。そしてこんな事をする、自分と関係を持つ女性を思い出す。
(う~ん。烏に花を咥えさせたと言う事は、烏を操る事が出来ると言う事だから・・・魔法を使えると言う事だよな? こんな事をする女で、魔法を使える奴と言えば・・・・・・)
其処まで考えて信康は、複数人の美女の姿が脳裏に浮かんだ。その中から更に特定するべく、信康は更にルノワに尋ねた。
「ルノワ。その烏は『儂』と言ったのか?」
「はい。そう言いました」
ルノワの返事を聞いて向日葵の送り主を特定してしまい、信康は思わず右手で顔を覆った。
「あの、ノブヤス様・・・お知り合い、ですよね?」
「うん。エルドラズにぶち込まれた時に知り合ってな」
信康は少々困った表情を浮かべながら、一部の事実を隠しつつルノワに伝える。
「そうですか。はぁ、それはその・・・何とも大変な方に、ノブヤス様は愛されたのですね」
「・・・確かに大変だが、その大変さと付き合うだけの甲斐がある女ではあるぞ」
信康は如何にかして、そう言って擁護するのがやっとだった。
信康は結局送られて来た向日葵を捨てるなど出来る訳も無く、御機嫌取りも兼ねて押し花として残す事にした。
(・・・あのライリーンが意味も無くあんな事を言うとは思えないから、先ずは病院の方に行ってみるか。仮に何も無かったとしても、セーラとキャロルに会いに行けるだろうからな)
改めて着替えた後にティファ達が起きるのを待ってから、一緒に食堂で朝食を食べる信康。そしてライリーンが言っていた内容を気になった信康は、先ず最初にプヨ王国軍アンシ総合病院へ行こうと考えていた。
食堂で朝食を食べ終えた信康はルノワ達と別れを告げると、中年女性の管理人に外出届を提出してから九ヶ月振りに斬影に騎乗してプヨ王国軍アンシ総合病院へ向かって駆け出した。
(さて、もう直ぐ病院だ・・・あっ)
信康がプヨ王国軍アンシ総合病院前に到着すると、六人の女性が丁度立っていた。斬影の馬蹄を聞いて女性陣は一斉に振り向くと、同時に固まってしまった。そんな女性陣の反応に苦笑しつつ、信康は斬影を進ませて女性陣の前まで進ませてから停止させて下馬した。
「・・・えっと?・・・ただいま、皆」
「「「ノブヤスさん(君)!!」」」
信康の下へ飛び込むみたいに、三人もの美女が抱き着いて来た。一人はアパートメントの管理人であり有名なディーラーでもあるカルレアであり、後の二人はプヨ王国軍アンシ総合病院で看護師をしているキャロルとセーラであった。
「おおっ? 随分と熱烈な歓迎だな?」
「馬鹿ぁっ!! あたし達、心配したんだからねっ!?」
カルレア達を受け止めた信康が茶化す様にそう言うと、キャロルは泣きながら抗議して来た。カルレアもセーラも、信康に顔を押し付けながら同意してうんうんと頷いている。そう言われては信康も、頭を撫でながら謝罪するしかない。
「・・・んっ。でも、良かったです。おかえりなさい、ノブヤスさん」
「ええ、本当に・・・私、また夫を失ってしまうのかと思って心配で・・・」
セーラとカルレアは涙を拭いながら、信康の帰還を喜んでくれた。信康はそれが嬉しくて、順番にキャロル達の頭を優しく撫でる。其処へ信康達の下へ、三人の女性が近付いて来た。
「カルレアさん。贈られた首飾りネックレスを肌身離さず付ける位に、愛しい男性ひとが帰って来て嬉しいのは分かるけど・・・あたしもちょっと良いかしら?」
女性にそう言われたキャロル達は、慌てて信康から離れた。その女性とは信康がエルドラズ島大監獄に収監される原因となった、高位森人族のヴェルーガだった。
ヴェルーガの背後には、愛娘のエルストとネッサンも控えていた。
「おかえりなさい。そして、ごめんなさいね。あたし達の所為で、大変な目に遭ってしまって・・・」
「そんなもん、一々謝らなくても良いぞ。俺は好きでやったんだし、こうして無事に帰って来れたんだから気にする必要など無いぞ」
ヴェルーガが謝罪しながら信康を抱擁すると、信康はヴェルーガの豊満な乳房を堪能しながら抱擁を返した。エルストとネッサンも自分達の所為と言う負い目があるのか、同じく信康に謝罪していたが信康は止める様に手で制した。
それから信康はキャロル達と話をするとヴェルーガ達は、健康診断の為に一斉にプヨ王国軍アンシ総合病院に来たのだと知った。そしてキャロル達は信康が心配で、仕事では外していたプリンセスネックレスを上司の許可を得て着用していた事も知った。
信康はそれだけ自分を想ってくれた事を嬉しく思いつつ、雑談も程々にしてプヨ王国軍アンシ総合病院から去って行った。それから時間潰しも兼ねて王都アンシ内を巡ってから、ルベリロイド子爵邸へと訪れた。信康が呼鈴を鳴らすと、女性執事のダリアが出て来た。
「ノブヤスさんっ!?」
ダリアは信康の存在を認識すると、慌てて信康の前まで走って来た。信康はダリアに挨拶をしようとしたら、片腕を抱きかかえると、信康はダリアの豊満な胸の感触を味わう余裕も無いままダリアに連れられてルベリロイド子爵邸へと連れ込まれて行った。
「ちょっと、何事なのっ? わたくしの屋敷いえで、そんなに慌てるなんてはしたなくて・・・」
ダリアはノックもせずに応接室に入室すると、無断で入室して来たダリアを咎めようとマリーザが声を上げるも、途中で止まって固まってしまった。それはマリーザと向かい合わせで、椅子に座っている女性達も同様にだ。その女性達とは、ドローレス一家とレズリーとアメリアだった。
「よ、よぉ・・・久し振りだな?」
「・・・・・オニイチャンだああああぁぁぁっ!!!」
信康が困った様子でマリーザ達に挨拶すると、一早く我に返ったアリーナが信康目掛けて走って来た。その際にダリアはそっと抱きかかえていた腕を離して、信康から離れて距離を取った。
「オニイチャンッ! オニイチャン!! うわあああぁぁんっ!!」
アリーナは号泣しながら、信康を強く抱き締める。絶対に放すものかと言わんばかりに強く抱擁するアリーナに、信康は申し訳なさそうな表情をして頭を撫でる。そして視線を向けるとその先には、アリーナの両親であるハンバードとモナが居た。
「おかえりなさい、ノブヤス君。無事で本当に良かったわ。アリーも私達も皆さんも、貴方の事を心配していたのよ?」
「ああ、全くだね。でも無事で何よりだ。それにアリーが其処まで喜んでくれるなら、私も頑張った甲斐があったと言うものだよ・・・・・・アリー。何時までもそうしていたい気持ちは分かるけど、レズリー達にも譲ってあげなくてはいけないよ?」
モナもハンバードも信康との再会を喜びつつ、アリーナに信康から離れる様に諭した。するとアリーナは名残惜しそうにつつも、信康から涙を拭いながら信康から離れた。信康はアリーナに感謝して前に出ると、其処にはレズリーとアメリアが居た。
「二人共、久し振りだな・・・最後に会った時より、綺麗になったか?」
「・・・っ・・・馬鹿野郎っ!!?」
信康が茶化す様な発言をした事に対して、レズリーは怒って腹部を殴った。
信康は腹部に衝撃を受けてうっと声を漏らすも、所詮は鍛えられていない少女の拳なので痛みは感じなかった。すると今度はレズリーが抱き着いて来た事で、別の衝撃が胴体に直撃して来た。
「あ、あんたが死刑になるって聞いて、あたし達はずっと心配してたんだぞっ! この馬鹿ああぁぁぁっ!!?」
「はい・・・本当に・・・もうノブヤスさんに会えないんじゃないかって私・・・私っ・・・っっ」
号泣したレズリーは信康に抱き着いた後に何回も殴りながらそう言っていると、アメリアも嗚咽を漏らしながら信康の帰還を喜んでいた。
二人の反応を見た信康は流石にバツが悪そうにすると、謝罪しながら二人の頭を優しく撫でる。それから少し時間が経ってから、信康はレズリーとの抱擁を解いてマリーザの前まで移動した。
「全く・・・これだけの淑女達に心配を掛けて、貴方は随分と罪な殿方ですわね?」
「いや、まぁ・・・我ながら、俺もそう思う」
優雅に紅茶を嗜むマリーザにそう言われた信康は、頭を掻きながらそう答えるしか無かった。マリーザはティーカップの紅茶を飲み干すと、徐に立ち上がって信康に抱き着いて来た。
「わたくし、ノブヤスが濡れ衣で逮捕されて死刑になったと知って、怒りに震えたわ。誇り高い筈の大貴族が特権を悪用して、この様な道理の通らぬ不条理を罷り通した事に。だからこそわたくし・・・頑張ったのよ。ノブヤスの冤罪を証明する為に、どれだけ奔走した事か」
「まぁ俺もあそこまでやられるとは思わなくて、我ながらしくじったと思ったぜ。それとお前が尽力してくれた事は、ルノワから聞いてるよ。本当にありがとうな」
信康は笑いながらそう言うと、マリーザは逆に唇を噛んで更にギュッと強く抱き着いた。
「・・・・・・光栄に思いなさい。わたくしが殿方をこうして抱き締めるのは、家族を除けば貴方以外には居なくってよ?」
「そりゃ光栄な話だな。だったら御言葉に甘えて、堪能させて貰おうかな」
信康はマリーザの豊満な胸を堪能しながら、マリーザの頭を優しく撫でる。マリーザは静かに涙を流しながら、信康から離れようとはしなかった。
信康はそれからマリーザの好意で、昼食に相伴する事となった。何でもルベリロイド子爵邸にハンバード達が集まっていた理由は、マリーザが全員を昼食に招待していたからなのだそうだ。
其処へ信康が突然訪問して来たので、ダリアは慌てて信康をマリーザ達の下へ連れて来たのだと信康は知った。ダリアは後でマリーザに自分の不躾を謝罪したが、マリーザはダリアの行動を逆に賞賛して感謝していた。
(ハンバード達は誰も自分達がマリィの屋敷で、食事をする事を言っていなかったらしい・・・・・・となると何故ライリーンは、その事を知っていたんだろうな?)
信康はライリーンの粋な計らいに感謝しつつ、その情報力の高さに疑問を抱いていた。
しかしその疑問を直ぐに忘れてしまい、信康はルベリロイド子爵邸で夕食も堪能してから漸く傭兵部隊の兵舎に帰るのであった。




