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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第280話

 プヨ歴V二十七年五月三十一日。朝。




 その日は信康は海の貴族が所有する海賊船である冥界の悪魔(オルキヌス・オルカ)号の船長室に居た。


 その船長室では信康とジャンヌが居た。


「それで、お前等はこれからどうするんだ?」


「どうするって?」


 信康の言葉の意味が分からないのか、ジャンヌは首を傾げた。


 信康は溜め息交じりで話し出した。


「今回の件で海の貴族は、表向きには全員お縄に事になってその歴史に終止符を打つ事になるだろう。きっとお前もその功績が認められ、上手く行けば貴族位も叙爵されるに違いない。そうなったら、ドルフィン商会はどうするんだ?」


 信康の質問に対して、ジャンヌはその展望について答えた。


「そんなの決まっているでしょう。これからは真っ当な商売をするだけだわ。貴族になったからって商売をしちゃ駄目なんて国法には書かれてないもの。ただ強いて言うなら、ひいお爺様が作った海の貴族を、あたしが売り飛ばして功績にするって事実が、複雑って感じよ。それに、あんたには逆らう事は出来なくなったしね」


 ジャンヌは溜息を吐いた。


「ふっ。気にする必要は無いだろう。お前のひい爺様も爺様も親父殿もきっと、海賊を続けているよりも貴族に復帰して正道を歩いてくれる方が喜ぶに決まっている」


「そうだと良いけどね。と言っても、まだ貴族に復帰出来る保証も無いし」


「そうだが、それでも大きな一歩にはなる筈だろう?」


 信康はニヤリと笑う。


 そんな信康を見て、ジャンヌは溜め息を吐いた。


「まぁそうだね。それにしても今回の儲けは、あんたを捕まえる際に貰った前金の金貨一千枚に副船長達を売り飛ばして得られるだろう金貨一万枚以上・・・大体だけど合計で、金貨一万五千枚に届くかどうかって所だね。あの森人族(エルフ)を売れば、金貨二万枚には届いたんだろうけどさ」


「トレニアの事か? あいつは森人族(エルフ)だけど、そんなに高く売れるのか?」


 森人族エルフは高額で取引されるが、信康の金貨五千枚分の価値はあるとは思えなかった。


 その訳を、ジャンヌはあっさりとバラした。


「ああ、あのエルフはね。世にも珍しい混血森人族ミクスブラッド・エルフだよ」


「何だ。その混血森人族ミクスブラッド・エルフと言うのは?」


森人族(エルフ)森人族(エルフ)でも、違う森人族(エルフ)同士で出来た森人族(エルフ)の事をそう言うんだよ。何せ縄張りから出ない森人族(エルフ)が、他の森人族(エルフ)と子を作るなんて滅多に無いからね。それとどっちの親かは知らないけど、奇跡の森人族(エドリアエルフ)の血を引いているのよ」


「え、えっと・・・奇跡の森人族(エドリアエルフ)?」


 初めて聞いたのか、信康は何だそれという顔をする。


「あたしも見た事はないけど聞いた話だと、下半身は触手で上半身は人間の姿をした森人族(エルフ)らしいわよ。で、その森人族(エルフ)は手を翳せば傷口を癒やし、血を飲めば死者を復活させると言われているわ」


「随分と凄まじい力を持った森人族(エルフ)だな。高位森人族(ハイエルフ)でもそんな奇跡の真似事なんて出来ない筈だぞ」


「まぁ何処かの大森林に結界を張って隠れるみたいに暮らしているらしいから、詳しい事は知らないよ。稀にはぐれになるそうだけどね」


 ジャンヌから奇跡の森人族(エドリアエルフ)の逸話を聞いて、信康は納得した様子を見せた。


 もし奇跡の森人族(エドリアエルフ)が引き籠って外界に出て来な得れば、その種族は世間知れ渡る事も無くまた混血森人族ミクスブラッド・エルフなど誕生しないからだ。


「トレニア本人から聞いたけど、癒しの手を持っているみたいよ。実際にあたしは腕を切って試したら、本当に手を翳しただけで治してたし・・・言っておくけど、この事実を知ってるのはあたしとあんただけだからね。あまり言い触らしたりしないでやりなよ」


「ああ、知られたら面倒になりそうだからな・・・うん? となると何故、あいつは薬を作ったりしているんだ?」


「トレニアから、薬師をしているって聞いてない? 大ぴらにやると注目されて益々狙われるから、趣味と実益も兼ねた偽装工作(カモフラージュ)だなんて言ってたわね」


「ああ、成程」


 ジャンヌからトレニアの話を聞き終えた信康は、真剣な様子で思案を始めた。


(俺の部隊に、治療部隊が欲しかったからな。あいつを部下に出来たら、レムに続いて二人目の治癒要員に出来るな)


 そうと決めた信康は、トレニアをどうやって自分の配下にするか思案を始めた。



 信康がジャンヌとトレニアの事で話をしていると、船長室の扉が叩かれた。


「何だい?」


「お頭。報告なんですけど、このままなら予定通り夕方に・・・日が沈む前にドルファンに到着出来そうです」


「分かった。入港準備を進めておきな」


「それからマリーアとトレニアを呼んで来い」


「了解」


 それから暫くすると冥界の悪魔(オルキヌス・オルカ)号が、動きを止めるのを身体で感じ取った信康とジャンヌ。それから扉の前から、二人の人の気配を感じ取った。


「ノブヤス。マリーアよ」


「トレニアです。呼ばれて来ました」


「入れ」


 信康の許可を貰って、マリーアとトレニアが入室していた。


 こうして信康、ジャンヌ、マリーア、トレニアにシキブも加わり合計で四人と一体で輪を作って席に着いた。


「こうして集まった理由について、最早言うまでも無い。海の貴族の本拠地アジトから出港前にも言っていたが・・・今回の一件で全員がウィンウィンの関係で終わらせるには、綿密な口裏合わせが必要になる」


 信康の言葉を聞いて、全員が頷いた。それを見て、信康が満足そうな表情を浮かべて続ける。


「マリー。一時的にお前の魅了チャームで、ジャンヌを除いた全員を洗脳しろ。プヨ海軍からの事情聴取の時に、全員で言う事を統一させるんだ」


「分かったわ」


 ノブヤスの指示を聞いて、マリーアは承諾して頷いた。


「ちょっと・・・ちゃんと皆、元通りになるんでしょうね?」


「御心配無く。ちゃんと元通りにするから」


 怪訝そうに睨み付けて来るジャンヌに、マリーアは苦笑しながら答えた。


「それで、ノブヤス。副船長さん達はどうするの?」


「そうだな・・・副船長と偽頭領にだけ喋らせて、他の奴等は完全黙秘させろ。喋らせる必要など無いからな」


「それだと調書を取るのに、余計に時間が掛かるわよ? 時間を掛けるとそれだけ、怪しいと思う人も増えて来るわ。だから名前だけ名乗らせて、それ以外は完全黙秘とかはどうかしら?」


「・・・それが良いかもしれんな」


「では、そうさせるわね? それと入港する時に全員、縄で縛っておくわよ。自由に動き回っていたら、不自然だもの」


「そうだな。それに何人か、見張りの名目で立たせないとな」


 信康とマリーアが副船長達の対応について話し合った後、次にトレニアが信康に話し掛けた。


「あの、口裏合わせをすれば良いんですよね? 他に私は何をすれば・・・」


「お前は俺の指示通りに動いてくれたら良いから、安心してくれ。マリーに洗脳させたりしないから」


 信康の言葉を聞いて、トレニアは安堵の溜息を吐いた。


「さて・・・色々話し合ったが、本題に入るぞ。その本題とは、『俺が捕まった後の経緯』だ。其処で提案なんだが・・・・・・」


信康が本題について議題を振ると、ジャンヌ達も姿勢を正して向き合った。


「・・・と言う場面なんだが、其処を俺が颯爽とだな・・・」


「ちょっと、それは幾等何でも盛り過ぎなんじゃないの?」


「そうね、もうちょっと・・・こう・・・」


「すみません、それは少し都合が好過ぎるかと思います」


「言っただけでは、疑われるかもしれないわね。物証も作らないと駄目よ」


「では、こちらはこう偽装致しましょうか?」


 信康達はプヨ王国海軍の事情聴取に備えて、ああでもないこうでもないと偽りの経緯の創造について話し合った。


 それから暫くして漸く纏まったのか、全員が納得の表情を浮かべた。信康が満足そうな表情を浮かべて、ジャンヌ達に伝える。


「良し。話は纏まった。今の通りでやって行く。各自、準備を始めてくれ。あ、トレニアは残ってくれ。話したい事がある」


 暫く話し合った後、ジャンヌ達は頷いたので話は終わった。


 ジャンヌ達はトレニアを残して、船長室を退室した。


「ノブヤスさん。話とは何ですか?」


 トレニアが気になって、信康に訊ねる。


「聞いておきたいんだが・・・お前はプヨ王国に着いたら、行く当てはあるのか?」


「・・・・・・それに関しては、これからどうしようかと悩んでいまして」


 頭を抱えた様にトレニアがそう言うと、信康の目が一瞬だけ光った。


 信康は咳払いした。


「ああ~その何だ。お前は何処の出身なんだ?」


「シンラギ王国です」


「あそこか。戻るのは、確かに無理だな」


 信康はトレニアから、見えない方の顔を歪めた。


 プヨ王国の東側の隣国であるシンラギ王国は、内乱で国内が荒れている。


 国境には第四騎士団が配備されているので、行く事も難しい。


「じゃあ、プヨには頼る知人も居ないという事か」


「そうなんです」


 トレニアは溜め息を吐いた。


「・・・じゃあ、俺の所に来るか?」


 信康がそう言うと、トレニアは耳をピクピクと動かした。


「えっと、それはつまり愛人という事ですか?」


「違う違う。お前、薬師だろう? だからさ俺の部隊で、衛生兵担当の隊員になってくれないか?」


「傭兵になれ、と言う事ですか?」


「そうだ。お前の薬師としての力を見込んで、治療薬を作って欲しいんだ。可能なら、お前の能力・・・・・を使って欲しい所だがな」


「っ!?・・・・・・ジャンヌさんから聞いたのですか?」


「ああ、そうだ。だがお前にも事情があるだろうから、部下になったから言って強制する心算は無い。俺にとっての最善なのは、お前が俺の部下として傭兵部隊の薬師になってくれればそれで良い。最初にも言ったが、これは強制じゃあない。考えておいてくれるだけでも、俺としてはありがたい。話はそれだけだ」


 信康がそう言ったのは、もし傭兵部隊に入るのを拒否した場合の事を考えての事だ。そうやって少しでも自分との関係を維持して、その内に麾下部隊に組み込もうと考えていた。


「無論、薬代やその材料費は国軍の経費で落とす様にしてやるぞ。まぁ一番良いのは先刻さっき言った様にお前が俺の部隊に入って其処から直接、国軍の経費で落とす様にした方が一番楽だがな」


信康はそう言って、トレニアを見る。これ以上言っても効果がないと思い、信康は言うのは止めた。


「まぁ、俺がドルファンを出る前に決めておいてくれ」


 信康はそう言ってトレニアを残して、船長室から退室した。それから信康達は再度、ドルファンを目指して航行を再開させた。


 プヨ王国の近海で、二隻の船舶が航行していた。一隻は白を基調とした中型船舶であり、海豚を抱いた乙女の商会旗が掲げられていた。この商会旗こそ、ジャンヌの表の顔であるドルフィン商会を指し示す商会旗だった。


 その白い船舶の背後には、冥界の悪魔(オルキヌス・オルカ)号が縄で牽引される形で航行していた。


 青地に鯱の紋章が描かれた海賊旗も畳まれており、代わりに白旗が掲げられていた。


 これならば、もしこの海賊船が冥界の悪魔(オルキヌス・オルカ)号だと分かっても、撃沈される心配は無いからだ。


 信康達が辿り着いたのはプヨ王国三大港湾都市の一つにして、最大の港湾都市である南のドルファンだ。


 其処は信康が初めて踏んだ、プヨ王国の大地であった。信康は懐かしさを感じながら、白い船舶の船首からドルファンを見詰めていた。


 両船はドルファンに入港すると、桟橋に降りる信康達。


 信康達が降りるのを見計らうかの様に、信康が着た時と同じく官吏が数人やって来た。


 その中には、信康の入国審査官を担当した女性官吏の顔もあった。


『なっ!!?』


 信康の存在を確認して、官吏達は騒然となった。


 そんな官吏達の中から、女性官吏が代表者として信康に訊ねた。


「あの、どうして貴方が此処に居るのかなど、色々聞きたい事はありますが・・・先にお訊ねします。背後のあの船は、まさか・・・」


「ああ、そのまさかだぞ。海の貴族が使ってた、冥界の悪魔(オルキヌス・オルカ)号だ。それから海賊共の方だが・・・あの海賊船の中で首領共々、縄で括って拘束してあるぞ」


「直ぐに水竜兵団を此処に呼んで来なさいっ!!」


「は、はいっ!!」


 女性官吏が叫ぶ様にそう命令すると、一人の官吏が慌てながらその場を去った。息を荒げる女性官吏に、信康が声を掛ける。


「提案なんだが、入港の手続きを済ませておかないか?」


「そ、そうですね・・・」


 女性官吏は疲れ切った表情を浮かべながら、他の官吏と共にドルフィン商会の関係者の入国手続きを始めた。先に女性陣に受けさせて、最後尾で信康はジャンヌとトレニアと共に待って、三人でコソコソと小声で話し合っていた。


「あの、ジャンヌさん。副船長達が調べられて、ドルフィン商会が海の貴族の隠れ蓑だったと発覚しませんか?」


「大丈夫よ。うちのドルフィン商会は、女性だけの商会って事で売り出しているの。男連中は荒くれ者ばかりで、表の商売に支障を来たしかねないからね。使うにしても、外部から雇った臨時の日雇いバイトって形でしか使わなかったわ」


「それを聞いて安心したぜ」


 一抹の不安を抱いて居た信康は、安堵の溜息を吐いた。するとトレニアが今度は信康に訊ねた。


「ノブヤスさん。あのマリーアさんは何処へ行ったんですか?」


「それは・・・秘密だ」


 トレニアの質問に、信康は笑って誤魔化した。信康が船を降りる前に船内を探したが、何処にも姿が無かった。


 恐らくディアサハが機を見て、エルドラズ島大監獄に戻したのだろうと予想した。


 其処へ女性官吏が、信康達に話し掛けて来た。


「お待たせしました。取り敢えず簡潔にですが、入港手続きをします・・・そちらの森人族(エルフ)は?」


「名前はトレニアでシンラギ王国出身。内乱で祖国から脱出しようとした所を海の貴族に捕まっていたんだが、結果的に俺達に救われたって訳だ」


「・・・そうなのですか?」


 どうして貴方が答えるのか? と信康に言いたげな女性官吏だったが、余計なツッコミを入れずトレニアに確認を取った。


「え、ええ、その通りです」


「成程。それは不幸だったのか幸運だったのかは分かりませんが、大変でしたね。プヨ王国への入国を希望しますか?」


「はい、お願い出来ますか?」


「書類を書いて頂きますが、よろしいですか?」


「はい。構いません」


「では、こちらの書類を名前等をご記入下さい」


女性官吏が手渡した書類の記入欄をトレニアが埋め込んで行く。トレニアが書き終えた書類を見て、女性官吏は信康達に告げた。


「お疲れ様でした。ノブヤスさんとトレニアさん、そしてドルフィン商会の皆さん合わせて五十三名の入港を今此処で正式に認めます。皆さん、おかえりなさい。お疲れ様でした」


 女性官吏はそう言って信康達を労った直後に、何十人もの足跡が聞こえて来た。


「あ、あちらですっ!!」


 官吏の案内で、水竜兵団の団員と思われる集団がやって来た。大海賊海の貴族と聞いてか、水竜兵団の団員達は完全武装であった。その団員達を率いる、指揮官と思われる士官らしき人物が先頭に出た。


 ジャンヌは水竜兵団の姿を見て、一瞬だけビクッと身体を震わせた。


 信康はそのやってくる指揮官の顔に見覚えがあった。


「少佐ぁっ! ノブヤス少佐ぁっ!!」


「あんたは確か・・・シュライト大佐」


 信康は驚きながら、先頭に出て来た指揮官の士官の名前を呼んだ。


その士官とは、信康を護送していた補給艦ドルファン号艦長のシュライト・フォン・アーヅヴェントだった。


「少佐、無事だったのだな」


「えぇ。大佐こそ無事で良かったです。帰って来るついでに隙を突いて海賊共を一網打尽にして、最後に逆転勝ちしてやりましたぜ」


 信康は勝ち誇る様に右腕で握り拳を作ってから、勝利をアピールした。その報告を聞いて、水竜兵団の団員達からどよめきが起きた。


「はっはは、そうか。君を無事にプヨ本国へ送り届ける事が、私達の任務だったからな。こうして戻って来てくれて、本当に嬉しいよ。これで死んだ部下達も、浮かばれるというものだ」


シュライトは両眼に涙を浮かべた。背後の団員達の何人かも、シュライトに連られて貰い泣きをしている。


 信康はシュライト達の涙を見て、流石に罪悪感を感じた。


(その一番の仇が、俺の隣に居るんだがな)


 思わず、信康は隣にいるジャンヌを見る。


 ジャンヌもビクついていたのは最初だけで、今は平然としていた。一海賊団を纏めていた胆力は、伊達では無いと言う事だろう。


 シュライトは両眼の涙を拭うと、真剣な表情を浮かべて信康に訊ねた。


「少佐、海の貴族の海賊共は・・・」


「ああ、船内で拘束してありますので御自由に」


 信康は親指で冥界の悪魔(オルキヌス・オルカ)号を指差すと、シュライトは直ぐに団員達に命令を下した。


「よろしい。では連中は我々に任せておきたまえ。おい、海賊共を連行するんだっ!」


『はっ!』


 水竜兵団の団員達は駆け足で冥界の悪魔(オルキヌス・オルカ)号へと向かって行った。シュライトは兵士達とは一緒に行かず、信康にある事を話していた。


「少佐。こんな所で何だが、君が海の貴族』に誘拐された後の経緯を話して欲しい。普通ならばちゃんとした取調室で事情聴取をするべきなんだが、もう間も無くして日は沈む。君達も休みたいだろう?」


「そうですね。俺もそうだが、皆も疲れているんでね。休ませてくれると助かります」


 シュライトの気遣いに感謝しながら、信康は事の経緯を語り始めた。女性官吏達も気になるのか、意識を信康に向けている。


「・・・そうか。君が誘拐された後、海の貴族がドルフィン商会と遭遇したので続け様に襲撃し、その襲撃に乗じて君がドルフィン商会の者達と海の貴族をを挟撃。そのまま一網打尽にした・・・と言う事で良いのかね??」


「その通りです。海の貴族にとって想定外だったのは、ドルフィン商会の女達全員が腕の立つ女傑ばかりだった事です。御蔭で楽に背後を取れましたよ」


 信康が言い終えた所で、シュライト達の視線が自然とドルフィン商会の会頭であるジャンヌに向けられた。


「そんなに熱い視線を向けないで頂戴よ。何たってうちは女しかいない小さな商会なもんでね。せめて男共に舐められない様に、独自で訓練を重ねて腕っ節を上げているのさ」


「そうか。確かにジャンヌ会頭のドルフィン商会は女性しかいない事で有名だったね。分かった、信じよう。ただ明日の朝にまた、事情聴取を受ける事になると思う。その時はノブヤス少佐共々、一時ご足労願いたい」


「了解。その時は誰か使いを寄越しておくれよ」


「無論だ」


 シュライトは其処まで言うと、真剣な表情を崩して笑顔を浮かべた。


「しかし少佐。海賊から誘拐されて無事に戻って来ただけで無く、長年我等プヨ海軍を悩ませていた四大海災の一角を捕まえてしまうとは、君は本当に凄い男だなっ!!」


「い、いや・・・俺は運が良かっただけだよ」


 シュライトが言う四大海災って何だと思いながら、信康はシュライトの称賛を謙遜して見せた。その謙虚な姿勢がシュライトには好印象だったのか、益々嬉しそうな笑みを浮かべる。


「少佐、必ずお礼はさせてくれ。でなければ、私は部下達にも先祖にも顔向け出来んからなっ!」


「お、おう。でも先に海賊共を連行した方が、俺は良いと思いますよ?」


 信康がそう言ってから、縄で縛られている海の貴族の海賊達を連行していた団員達へクイッと首を向けた。


「ああ、そうだな。ジャンヌ会頭。皆さんが休まれるのは、ドルフィン商会でよろしいか?」


「えぇ、其処で休んでいるわ。うちの商船には、海の貴族の本拠地アジトから押収した物もあるから、預けても良い?」


「何とっ! 了解した。では、私はこれにて」


 シュライトは信康達に敬礼すると、海賊達を連行する任務に専念するべく去って行った。官吏達も仕事を終えたとばかりに、信康達に一礼してからその場を去って行く。


 シュライト達が見えなくなると、ジャンヌ達は身体を伸ばした。


「ふう~漸くドルファンに入れるよ」


「だな」


「まだ安心は出来ないが、何とか上手く行きそうだな」


「そうだね。じゃあ、皆っ! 私達の商会の店に行くよ」


ジャンヌはそう言って、信康の手を掴んで歩き始めた。その後ろを、トレニアと女性陣が付いて行く。信康はジャンヌと手を繋ぎながら、ある事を訊ねた。


「ところで、聞いて良いか?」


「何だい?」


「どうして、商会なんて作ったんだ?」


「そんなの簡単だよ。色々な商品(・・)を運ぶ時に、商会の者だと言えば意外とすんなりと通れるんだよ」


「奴隷もか?」


「当然だろう? もう奴隷なんて、扱う事も無いだろうけどね」


 そんなの分かり切った事だろうと、そう言いたげな顔をするジャンヌ。


「だよな」


 信康も言っていて、分り切った事だよなと言う顔をした。


「さて、店に行って休もうじゃないか」


「そうだな」


 信康はジャンヌの案内で、ドルフィン商会の店舗へと向かった。

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