表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/418

第26話

 プヨ歴V二十六年五月二十四日。


 信康の身体の傷口が開いた次の日。一日大人しく動かずに療養した信康は身体を動かしても、痛みがしなくなった。引き続き、ヴィーダギイアのの診察を受けた。


「ふむ・・・・・・・・」


 信康のあちこちを触りながら、何処か異常がないか調べている。


「どうなんだ? 先生」


「傷はもう大体塞がっている。これだったら明日の朝にでも、退院の許可を出しても良い位だ。しかし此処は大事を取って、明後日の朝には退院してくれ。三日掛かると思っていたが、二日でほぼ君の傷がほぼ完治してしまいそうになるとは、やはり研究したい程の回復力だな」


「お褒めのお言葉、どうも。そいつはありがたい話だ」


「だからと言って、前みたいに身体を動かそうとすれば、君の傷がまた開くかもしれないので、迂闊な行動は慎む様に」


「そんな事は分かっている」


 あんな思いをもう一度するくらいなら、静かに休んだ方がマシだと思う信康。それにこれ以上、病室で過ごしたいとは思わなかった。


「では、退院するまでちゃんと療養する様に。もう少しの辛抱だから、我慢しなさい」


 ヴィーダギイアが病室を出て行く。


 信康は気になった事があったので訊ねる。


「先生、俺の担当のセーラはどうした? 昨日の夜から、一度も見ていないぜ」


「ああ、セーラか。明後日まで休みだ。君が退院するまでの新しい担当は、もう少ししたら来るだろう」


「そうか、ありがとな」


「どういたしまして」


 ヴィーダギイアは病室を出て行った。


(そっか、セーラは居ないのか、まぁ、退院するまで顔を会わせないのは助かるな)


 外を見ながら、セーラの事を思う。


 あの時は、やり過ぎたと思っている。


 幾ら触れられたくない事に触れたからといっても、正直に言って、やり過ぎだと思っていた。


 だが、どれだけ悔やんでも時間は巻き戻らない。


 向こうもハッキリとは言ってきてないが、暗に「謝らないで下さい」と解釈出来る事を言っている。


 だからと言って、自分がした事を謝らないのは人間性として問題があった。


 どうしたら良いか考えていたら、扉がノックされた。


 多分、自分の担当が来たのだろうと思い「どうぞ」と声を掛ける。


 扉を開けて入って来たのは、看護師だった。


 青髪を後ろで束ね、端正な顔立ちの女性だった。


 胸はそれなりにある方だ。腰は程よく締まっている。臀部は小ぶりであった。


「君が退院するまで担当になった、キャロル・フォレスターよ。短い間だけど、よろしくね」


「ん、よろしく」


「じゃあ、早速検温をするから、これを腋に入れてね」


 言われるがまま信康は、体温計を腋に入れる。


 体温を計っている間、キャロルは話しかけ続けた。


「ねぇ、君って東洋から来たんだよね?」


「ああ、そうだ」


「じゃあさ、東洋では今でも丁髷をしているの?」


「それは前時代の話だな。もう、そんな風習は無い。あるとしたら歴史ものの舞台劇で、役者が被る鬘程度のものだ」


 大和皇国は四方が海で、陸続きの大陸が無い。


 今でこそ内乱で荒れているが、百年前は貿易国家として有名だった。


 外国の文化を吸収した事で、丁髷をする者が段々と居なくなった。


 信康が大和皇国を出る際には、丁髷をしている人はあまりいなかった。


「へぇ、そうなんだ」


「・・・・・・あんた、よく俺に話し掛けてくるな」


「うん? あたしはただ、患者とコミュニケーションを取っているだけよ」


「普通、俺みたいな傭兵には、腫れ物みたいな扱いをするけどな」


 事実、これまで信康が入院した事がある病院では、腫れ物を扱うみたいな接し方をされた。


 これが普通と思っていた信康は、セーラやキャロルみたいな対応をされると、変に思えてしまう。


「あたしはどんな患者でもこう接しているだけだし、それに」


「それに?」


「セーラがね。あたしに君の事をよろしく頼みますと言われてね。だから、こうして私なりに接しているだけだよ」


「・・・・・・そいつはありがたいな」


 信康は此処には居ない看護師を思う。


 お節介だと思うが、同時に嬉しいと思える。


(美人に構われて、喜ばない男は居ないし)


 信康はその後もキャロルが話しかけてくるので、話につきあった。


 キャロルが検温を終えて病室を出て行くと、入れ替わるようにルノワは入って来た。


「おお、来てくれたか」


「今日は随分と機嫌が良いみたいですね」


「喜べ、明日には退院出来るそうだ」


「それはおめでとうございます」


「ありがとよ」


 信康も漸く長い入院生活からオサラバできると思うと、年甲斐もなくウキウキしてきた。


「と言う訳で悪いが、明後日になったら荷物を持ってくれ。兵舎に帰りたいから、大きい袋を持って来て欲しい」


「分かりました。明日、持ってきますね」


「頼む」


 ルノワは離れ難そうにしながらも、信康から離れて行く。


「はい。では」


「ああ、また明日な」


 信康はルノワに手を振って見送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ