第267話
信康がエルドラズ島大監獄に投獄されている、プヨ王国での某日。
プヨ王国の西部にある、港湾都市オーデル。
三方を海で囲まれたプヨ王国には大小数多の港町は存在するが、都市にまで発展している港は三つしかない。これを世間ではプヨ王国三大港湾都市と呼んで、この三つの都市が近辺の港町を統率している。
一つは南部にある、プヨ王国最大の港湾都市と呼ばれているドルファン。
一つは東部にあるインチュエ。
最後に西部にあるオーデル。
そのオーデルにある家の一つに現在、プヨ王国に指名手配されているザボニーが居た。
室内にあるベッドで裸で横になっていた。
その室内に妙齢の女性が入って来た。
「ねぇ、アナタ・・・何時までこんな生活をするのかしら?」
女性はザボニーにそう訊ねて来た。
窓のカーテンの隙間から、月明かりが部屋に差し込み部屋を明るくした。
その月明かりにより、女性の顔が分かった。
猫の目の様にパッチリと大きく、目尻がきゅっとつり上がった目。
黒曜石の如き黒き瞳。目鼻立ちしてきりっとした美しい顔。亜麻色の髪を腰まで伸ばしたロングヘアー。
盛り上がった山みたいな胸。蜂の如くくびれた腰。豊かな尻。
実に見事なプロポーションを持った美女であった。
「ミレディ。もう少しだけ待ってくれ。愛人達の邸宅に預けてある隠した金を何とか手に入れて、その金で何処かの国に行く心算だ」
「ねぇ、何処の国に行くか決めたの?」
「・・・・・・いや、まだだ。隠れる事に専念していたから、何処の国に行くかは」
「そう。じゃあ、まずは逃亡資金ね」
「ああ、近い内に王都に戻る算段を付ける。その時に愛人達に預けた金を僅かばかり手切れ金代わりに渡して、残りは全部持って行けば何処の国に行っても不自由なく暮らせるだろう」
「ふふふ、それだけあるなら大丈夫ね」
「だが、その前に・・・儂を虚仮にしたあの東洋人に一泡吹かせてくれるっ」
ザボニーは怒りの気持ちが、抑えきれない様子であった。
信康を監獄送りにして、釈放を条件にヴェルーガ達親子を自分の愛人にするのが当初の予定であった。
しかし、いざ実行してみれば、自分の不正が全て明らかにされて今では国中で指名手配されている。
これもそれも全て、信康の所為だと言う逆恨みの気持ちがザボニーにはあるのだろう。
「何かするの?」
ミレディはザボニーの様子から何かすると察した。
伊達にザボニー行動を共にしていなかった。
「ふふ、まぁな。午前中に海の貴族に接触して、依頼したからな」
「ああ、アナタの取引相手の海賊ね」
「そうだ。儂が指名手配されたと言う事は、何れはあやつも釈放されるだろう。ならば、出来ない様にすれば良い」
「どうやって?」
「簡単な事だ。監獄に補給物資を送る補給艦を、襲う様に指示しただけだ」
「帰りの補給艦をね。何の荷を持っていない補給艦を襲っても、人ぐらいしか・・・・・・ああ、そう言う事ね」
「そうだ。もしあの東洋人が乗っていなくとも、その時は乗組員と補給艦も隣国のトプシチェに売れば良いと言っておいた」
「酷い人ね。仮にも同じ国の国民なのに」
「あの東洋人が捕まれば、あやつ等もせんだろう。それに捕まった奴は運が悪かったと言う事だ」
ザボニーはそう言ってサイドテーブルのグラスを取り、瓶の水を注ぎ喉に流しこむ。
「ぐふふ、あの東洋人め。生きてプヨの土を踏めると思うなよ」
信康が海の貴族に捕らわれる様子を想像し、影の如き暗い笑みを浮かべるザボニーであった。




