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信康放浪記  作者: 雪国竜
第二章

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第257話

 Aフロアの指令室前での、スルド達の戦闘が終了した頃。



 同じくAフロアにある、娯楽施設出入口付近。


 其処では一方的に善戦していたクラウディア達とは打って変わって、戦闘は激化し膠着状態に陥っていた。


 ミレイ率いる刑務官達がシイ達を狙って魔法を放つが、アテナイの銀鱗鋼殻(シルバーメタル)の能力とシイの神災(アッティラ)とオルディアの魔法障壁(バリア)で魔法を防いでいた。


 その間にクリスナーアが刑務官達に接近し気絶させようと目論んで行動するのだが、ミレイがそれを許そうとはしない。


 ミレイの指揮で刑務官達がクリスナーアが居ると思われる場所に魔法を、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとばかりに手当たり次第に撃ち込ませていた。


 刑務官達の飽和攻撃とも言える魔法の弾幕を受けては、クリスナーアも接近を諦めて回避か防御に専念せざるを得なかった。


「ええいっ! 小癪な真似をっ」


「やるわね。流石は元部隊長様って所かしら?」


 思い通りに行く事が出来ず、苛立ちながら魔法を回避するクリスナーア。


 そんなクリスナーアとは対照的に、アテナイはミレイの見事な指揮に感嘆していた。


 そんな膠着状態の中でミレイが自分の固有能力である銀鱗鋼殻(シルバーメタル)を駆使して魔法を弾くアテナイに向かって、ある魔法を放つ準備をしていた。


雷精(ヴォルト)よ。この場に来たりて、龍となり我が敵を射貫け。―――雷撃破龍ライトニング・ドラゴン!」


 ミレイが雷撃系の上位魔法である雷撃破龍ライトニング・ドラゴンを詠唱し、アテナイに向けて放った。


 放たれた雷撃破龍ライトニング・ドラゴンは、魔法名通りに龍を模った雷撃が狙い違わずアテナイに直撃した。


「きゃあああああっ!?」


 ミレイの雷撃破龍(ライトニングドラゴン)を受けて、アテナイは悲鳴を上げた。


 それによりアテナイは無意識に、銀鱗鋼殻(シルバーメタル)の能力を解除してしまった。


「「アテナ!!」」


「大丈夫ッス!?」


 クリスナーアとシイは思わず、アテナイに駆け寄った。その一方でオルディアはアテナイを心配しつつも、ミレイ達の方を優先して警戒した。


 アテナイの銀鱗鋼殻(シルバーメタル)は物理的攻撃には強く、大抵の魔法も弾く事が出来る。しかし雷撃系の魔法だけは弾く事が出来ず、直撃を許してしまうのである。


「ご、ごめんなさい。ちょっと、せんとうはむり、のよう、っう!」


 アテナイは雷撃の痛みで、顔を顰めた。アテナイの様子を見れば最早、継戦能力は無いのは火を見るよりも明らかであった。


「やっぱ雷系統の魔法が、苦手なのは情報通りね」


 ミレイは自分が放った雷撃破龍ライトニング・ドラゴンで倒れたアテナイを見て、予想通りに行き笑みを浮かべる。


「っち! あのオルガの片腕を担っているだけの実力は、ある訳か」


「だからと言って、そう簡単に私達が敗れると思わない事ねっ!」


 シイはアッティラを構え直し、クリスナーアはアテナイを庇う様に前に立つ。


「一人沈めたからって、調子に乗り過ぎなんだし」


 オルディアはそう言うと、ミレイ達に向かって魔法を放つ。


「御返しなんだし―――雷撃破龍ライトニング・ドラゴン!」


『なっ!?』


 オルディアはミレイがアテナイに放った同じ魔法を、詠唱破棄してそっくりミレイ達に向かって放った。


「防げっ!」


 ミレイの号令で、刑務官達は一斉に魔法障壁(バリア)を展開した。


「「「ぎゃあああっ!」」」


 しかし魔法障壁(バリア)が未熟だったのか展開が遅かったのかは分からないが、三人の刑務官が雷撃破龍ライトニング・ドラゴンを受けて失神した。


「ふぅっ・・・スッキリしたんだし」


「お前・・・一緒に戦って思ったが、中々やるな」


「伊達に長い間、傭兵をやっている訳じゃないんだし。でも御褒めの御言葉、ありがとうッス」


 クリスナーアは些か呆然としながらもオルディアを賞賛すると、オルディアは何でも無いと言った様子でそう返事をした。


「くっ!・・・オルディアさん。何故貴女がそんな奴等と協力して、この様な真似を・・・」


「今更、そんな事を聞くッス? あ~しはノブッチと長い付き合いだから、手伝ってるだけなんだし」


 ミレイに問われたオルディアは、淡々とそう言ってから再び構えた。


「もうそろそろ、効いても良いと思うんスけどねぇ」


「「「・・・何?」」」




 ―――ドクン。




「あっ!?・・・っっ」


「うっ!?・・・」


「えっ・・・な、何ッ?・・・っ」


 ミレイ達の中から、何人かの刑務官が頭を押さえて狼狽え始めた。


「なっ!? ど、どうしたっ!?」


 当然異変を生じた刑務官達の様子を、ミレイが気付かない筈も無い。


 直ぐにミレイは動揺しながらも、異変を生じている刑務官達に声を掛けた。


「・・・あぐっ」


「ちょっ!? あんたまでどうし・・・うぐっ・・・」


 すると数人の刑務官達だけに起きていた異変が、他の健全だった刑務官達にも広がっていた。


「な、ななな」


 そんな状況を見て、ミレイは言葉を失うしか出来なかった。


 しかしミレイが動揺している間にも、異変は伝染病の如く広がって行った。


 その異変はやがて、ミレイを除く刑務官達全員にまで拡大してしまう。


「ミ、ミレイ・・・ふく、しょちょうぉ・・・っっ」


「もう、だめぇ・・・」


 そして最初に異変が生じていた刑務官達が遂に、床に倒れてそのまま動かなくなってしまう。


 そして刑務官達はドミノ倒しの如く、次々と床に倒れて動かなくなってしまった。


「一体、何が起こったと言うの・・・」


 当初は圧倒的な人数を誇っていたミレイ達、エルドラズ島大監獄の刑務官達。


 しかし現在となっては、ミレイを除いて娯楽施設に居る刑務官達は全滅してしまった。


 幾らアテナイを戦闘不能にしたとは言え、現時点でクリスナーア達と三対一になってしまったミレイ。


 状況が逆転してしまい圧倒的に不利な立場に追い込まれてしまったミレイは、そうやって呆然としながら呟く事しか出来なかった。


「これは、まさか・・・」


「そのまさかッス」


 クリスナーアは眼前の状況に驚きながらも、直ぐにその原因に心当たりが思い浮かんだ。


 するとオルディアが、口にしていないが察しているクリスナーアに肯定する旨が含んだ発言をした。


「これで形勢逆転、なんだしっ。ふふふっ」


 オルディアは自分達に圧倒的に優勢な現状を見て、勝ち誇った様子でそう言った。


「オルディアさん・・・いや、オルディア・ド・ユンシャント! 貴様っ! 私の部下達に何をしたっ!」


 ミレイはオルディアの敬語を忘れて、オルディアが刑務官達に何かしたと思い問い詰める。


 憤怒と憎悪からか、ミレイの身体から溢れる程の魔力が放出されていた。


「確かに実行したのあ~しッスが・・・まぁ別に良いんだし」


 ミレイに睨み付けられたオルディアは、肩を竦めた後に語り始めた。


「事は極めて単純ッスよ。あ~しが作った夕食に、睡眠薬を盛っただけなんだし」


「睡眠薬、だと?・・・」


 部下である刑務官達が意識不明になった原因を知り、再び呆然としながらその原因を口にしたミレイ。


「そうなんだし。遅効性の睡眠薬ッス・・・つっても効き目が効くのが遅過ぎて、正直に言えば結構焦ったんだし」


「くっ! そんな下らない代物もので・・・っっ!」


 ミレイは喋っている最中に、フラッと朦朧とする感覚に襲われた。そんなミレイを見て、オルディアがニヤッと笑みを浮かべた。


「どうやら睡眠薬(くすり)が、あんたにも効き始めたみたいなんだし。いやぁ助かるッス」


 そう言って喜ぶオルディアに、フラフラとしながらも片手で頭を押さえつつミレイは毅然と睨み付けた。


「ふざ、けるな。こんな・・・」


「別に巫山戯てなんかいないんだし。あ~しはともかく、作戦を考えたノブッチは大真面目だったッスよ」


「くそっ・・・」


 ミレイは右手をオルディアに向かって伸ばして魔法を放とうとしたが、身体が持たずにそのまま前から倒れ込んで意識を失った。これにより戦闘音が響いていた娯楽施設は、一転して静寂に包まれた。


「・・・終わったの?」


 すると漸く痺れが解けたアテナイが、そう口にした。


「終わったッスね。さーて。あ~しは疲れたし、休ませて貰うッスよ。看守の回収はシキブの分身に任せて、皆も休んだ方が良いんだし」


「あ、ああ。そうだな。アテナとシイは先に休んでおけ。私は通信機を使って、クラウディア達に連絡を入れておく」


 クリスナーアはオルディアに同意すると、先にアテナイとシイに休む様に言ってから通信機を使って連絡を取り始めた。




 数分後。




「御苦労様。呼ばれて来たわよ」


 通信機を使ったクリスナーアからの連絡で、指令室に居たクラウディア達が娯楽施設に集結した。


「敢えて尋ねますが、この娯楽施設に居た看守達との戦いは終わったと言う事ですかね?」


「愚問だな。戦いが終わって居なければ、こうしてお前達を呼んだりはしない」


「なーんだ。あたしはてっきりミレイとその看守連中相手に苦戦してて、応援要請でも出したのかと思ったぜ」


 そう言って拍子抜けした様子で、つまらなそうにスルドが愚痴を零した。


 そんなスルドを、アテナイとシイが思わず睨み付ける。


「何よ? 随分と嘗められたものね」


三つ星(トゥリー・スヴェズダ)のあたし達が、看守程度に後れを取るとでも言いたいの?」


 そう言ってスルドをアテナイとシイが睨み付けるが、スルドはそんな二人の視線を受けても鼻で嗤う。


「何が三つ星(トゥリー・スヴェズダ)だよ。お前等は防戦一方だった所を、睡眠薬(くすり)が漸く効いた御蔭で全員眠ったから助かったって事は分かっているんだぞ。何せセミラーミデクリスから、お前等の戦い振りを一部始終見せて貰っているんだからな」


 スルドがそう言うと、全員の視線がセミラーミデクリスに集中した。


「そやつの言う通り、我の使い魔を使って貴様等の戦い振りを最初から観戦しておったぞ。我が処方した睡眠薬(くすり)の御蔭で、助かって良かったな?」


「・・・貴様の睡眠薬(くすり)がもっと早く効いていれば、私達は戦わずに済んだのだがな?」


 セミラーミデクリスの挑発的な発言を聞いて、クリスナーアは短剣を構えながらセミラーミデクリスを睨み付けた。


 ドオンッ!


『!』


 一触即発な空気が流れそうになる中、其処へ轟音がクラウディア達の耳に聞こえて来た。その轟音とは、信康達が居る部屋から聞こえていたものだった。


「・・・まぁまぁ皆さん。無事に終わったのですから、それで良しとしましょう。此処は一つ、皆で仲良く一緒ともにノブヤス殿の勝利を祈って待とうではありませんか?」


 ラグンがそう言うと他の二人も頷き、信康がオリガに勝利して部屋から出て来るのを待つ事にした。

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