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信康放浪記  作者: 雪国竜
第二章

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第250話

エルドラズ島大監獄Aフロアの指令室。




 Bフロアに居た刑務官達の捕縛に成功し、カガミが産んだ魔物達も大人しくさせて無事に味方に加えたクラウディア達。


 その後はラグン手製の交信(メッセージ)の魔法の巻物を使って連絡を取り合い信康に報告すると、信康の命令で指令室へ向かう事にした。


 魔物達は一旦シキブによって回収され、そのままシキブの案内でクラウディア達は指令室へ向かう。時間は少しばかり掛かったが、それでも概ね予定通りにエルドラズ島大監獄乗っ取り計画は順調だった。


 その事実を信康が喜んでいる内に、クラウディア達は指令室に到着して信康達と合流を果たした。


「良し。御苦労だったな」


 信康は先ず合流したクラウディア達に、Bフロア制圧の貢献を労った。


「うん?・・・セミラーミデクリスだけ居ないが、どうしたんだ?」


「ディグリス様なら、途中で何処かに向かわれた」


「はぁ、そうかい。まぁあいつらしいと言えば、実にらしいかもな」


 信康はフィリアからセミラーミデクリスの行動を知って、苦笑するしか無かった。


 フィリアもセミラーミデクリスの性格を把握しているので、何とも言えない表情をしていた。


「あの気位が高い女、セミラーミデクリスとか言ったな? このままあいつを放置して、好き勝手させて良いのか? ノブヤス、何だったら私が・・・」


 クリスナーアは、首を掻き切る仕草を取った。セミラーミデクリスの殺害を頃つに提案しているものだったので、クリスナーアの仕草を見たフィリアは思わず納刀している、盾鎧の魔剣シルドメイル・ブレードの柄に手を掛けた。


「止めとけ。セミラーミデクリス相手だとお前の実力でも、返り討ちに遭う可能性が高いぞ。そもそもあいつなら放っておいても、特に問題など無い。今はそれよりも・・・」


 信康は後ろに居る、シギュンに目をやる。


「凄ぇな。本当にあの副所長の一人が寝返ってやがる」


「ええ、そうみたいね」


「・・・・・・何時もの手で誑し込んだんだろうな」


「ふんっ。そんな事知らないわよっ」


 スルドが自身の推測を口にすると、クラウディアは不機嫌そうな荒れた声を上げた。


 そしてクラウディアは拗ねた様子で顔を背けたが、横目ではシギュンを睨み付けていた。


 元々目付きが悪いクラウディアが更に目を細めて、シギュンを睨み付けているので尚更怖いと思えた。


 シギュンもクラウディアに睨み付けられて、困った様子でソワソワしていた。そんなシギュンの様子を見て、見かねた信康がクラウディアを注意する。


「はいはい。其処までにしとけよ、クラウ。そうやってシギュン(情報提供者)を、睨むのは止せ」


「・・・ふんっ」


「さてと・・・全員、聞いてくれ。このシギュンからの情報なんだが、オリガを含めた他の奴等は何処に居るか分かったぞ」


「何処に居るんだ?」


「奴等は全員、このAフロアの娯楽施設及び屋内闘技場(コロシアム)に居るそうだ」


「その情報は確かなのか?」


「シギュンからの情報だぞ。ほぼ間違いないだろう」


 信康はシギュンを指で指しながら言うが、誰も心からは信用していないという顔をしていた。シギュンを信頼していると言えたのは、信康とラグンの男性陣二人だけであった。


「まぁまぁ、皆さん。良く考えて御覧なさい。もしシギュン殿がオリガ達の側でしたら、ノブヤス殿の下に解放された瞬間に通報していますよ。と言っても皆さんの心情も理解出来ますから、現在いまはシキブを娯楽施設及び屋内闘技場(コロシアム)に向かわせて、シギュン殿の情報を裏付けを行っている最中です」


「・・・そうかよ。それだったら安心だ。でもなぁ・・・ラグンに言われてみりゃ確かにそうだと、理解は出来るんだけどよぉ・・・」


 ラグンが理論的にシギュンの情報に信憑性がある事を伝える、スルドは理解を示した。しかし今一つ信用出来ないのか、シギュンを見る目には疑惑の色があった。


(まぁ、仕方がないか。受刑者に看守を信じろと言われても全員、こいつ等みたいな顔をするだろうからなぁ)


 クラウディア達の心情もそう理解しているので、信康は敢えて何も言わない。


 厳密に言えばもうラグンが自分の言いたい事を代弁してくれているので、言う事が無いと言うべきであった。


 シギュンも自分の立場が分かっているので、何も言わずにその視線を甘んじて受けている。そうしていると、信康の足に何かが当たる。


「おっと、来たか」


 信康は視線を下に向ける。


 視線の先には、シキブが居た。


「御苦労。どうだったんだ? シキブ?」


 信康がそう尋ねると、シキブは身体を板状にした。


「どれどれ・・・『オリガは娯楽施設で休憩中で、ミレイも同じく。屋内闘技場(コロシアム)にはイルヴとアルマは看守達と一緒に開放中の受刑者達を監視していた』か。シギュンの情報通りだな」


 信康がそう言うとシキブは再び板状の身体を変化させて、『YES』と表記して答えた。


『ノブヤス殿。こちらはビヨンナです。応答願います。聞こえますでしょうか? どうぞ』


 すると指令室の机に置かれていた一枚の紙から、声が聞こえて来た。その紙とは交信メッセージの魔法の巻物であり、声の持ち主は名乗った通りビヨンナのものだった。


「ビヨンナか。エルドラズの出入口をラキアハと一緒に見張っている筈のお前から連絡とは、何か其処で起こったのか?」


『いえ、出入口こちらは異常などありません。ですが死霊(ゴースト)を使って周囲を探ったのですが、屋内闘技場コロシアムで動きがありました。アルマが看守を二十人程度連れて・・・この進行方向だと、Bフロアに向かっていますね』


 ビヨンナからの報告を受けて、信康達の大半は驚いていた。


「そうか・・・教えてくれて、感謝する。看守の回収も御苦労だった。ありがとう、ビヨンナ・・・だったら其処を見張っても、時間の無駄だろう。ラキアハと一緒に戻って来い」


『分かりました。お役に立てたなら幸いです。今から戻りますが途中でまた何か分かったりしたら、なるべく早くお知らせしますね。それでは』


 信康に礼を述べられたビヨンナは、それだけ言うと交信(メッセージ)の魔法の巻物の使用を止めた。因みにビヨンナは信康に感謝されて、喜びからか声が上擦っていた。


「・・・成程。看守てき側が動いているのは、そう言う絡繰か」


 ラグンは何か納得した様子で、そう独白を呟いていた。必然的にラグンに、信康達の注目が集中する。


「恐らくですが・・・この指令室から定時連絡か何かが途絶えたので、アルマが看守を率いて現場の確認にやって来る心算なのでしょう。しかし自分達だけで指令室に向かうのでは無く、Bフロアに居るシギュン殿達と合流してから指令室に行く心算なのだと思います」


 信康達はラグンの推測を聞いて、納得していた、


「成程。確かに連絡が唐突に途切れたら、不審に思うわな・・・しかしアルマもまさか、そのシギュンが俺達に寝返ってBフロアの看守も全滅しているとは、夢にも思うまい。直ぐにこの指令室にも向かって来るだろうから、その間に罠でも仕掛けて迎撃準備でもしておくか」


「それが良いでしょうね。でしたら私から一つだけ、作戦(さく)を献策しましょうか。もう暫くしてからシギュン殿に通信機を使って、アルマに救援要請でも入れて頂くのです。そうすれば簡単に、アルマ達を誘い出せると思いますよ」


「何気にえげつない作戦だな。そりゃ・・・だが有効な作戦なのは、間違い無い。良し、それで行こう・・・しかし魔法使いが二十一人となると、結構な戦力だよな。一応聞くけど、アルマと戦うのはスルドって事で良いか?」


 信康が確認の為に、クラウディア達に訪ねた。


「そうだな。言っとくがアルマと戦るのは、予定通りこのあたしさ。これは譲れねぇな」


 スルドはそう言うと、指の関節をポキポキと鳴らし始めた。


 スルドからしたら威嚇行為なのだが、事前に決めた取り決めに異論は無いのか、クラウディア達は特に反応せず何も言わなかった。


「予定通り、アルマの相手はスルドに頼むか。しかし周りの連中が邪魔だな。そいつ等の相手をしたい奴は居るか?」


「デハ、私ガ」


「じゃあ、あたしも参加するわ」


 カガミとクラウディアが、アルマ達の相手役に立候補した。


「これで三人か。後はそうだな。シキブ」


「・・・・・・」


「ラキアハ達は間違い無く、指令室(此処)まで向かっているな?」


 信康がそう尋ねると、シキブは『YES』と回答した。


「だよな。では次の作戦を伝える」


「作戦? 一体どんな作戦なのよ?」


「別に難しい事でも無い。スルドとカガミとクラウの三人はこの指令室の出入口は、広い空間を持つ通路になっているだろ? 其処でビヨンナと一緒に、アルマ達を迎え撃て」


「あそこで?・・・あたし達に、待ち伏せでもしろっ言うの?」


「やるんだったら、別の場所でした方が良くねぇか? 何も本陣の前まで敵を誘い出さなくても良いだろ?」


「普通の戦争だったらそうだけど、向こうもこのエルドラズの構造は頭の中に入っているだろうからな。地の利を持つ敵にこれは愚策だが、もう戦後処理みたいなもんだ。しくじってもシキブが援護(フォロー)するから、気楽に戦えよ」


「成程な。でもあたし達はしくじりなんて有り得ねぇから、援護(フォロー)なんて要らねぇよ」


「頼もしい限りだ。ではクラウ達は指令室に残って、アルマ達と戦って貰おう。その間に俺を含む他の奴等はラキアハと合流して、イルヴが居る屋内闘技場(コロシアム)とオリガ達が居る娯楽室に分かれて向かう」


「その方が効率的だな」


 フィリアは頷く。


「そして此処の指令室だが、シギュンとラグンの二人に留守を預かって貰いたいと思う。シギュンには通信機で、アルマ達を誘い出して貰う必要もあるからな」


「私達が、ですか? あの、ノブヤスさん。アルマさんを誘い出したら、私も御一緒しても良いですか? 私も戦えますし良ければ治療の方も、担当する事も出来ますよ?」


 信康にラグンと共に留守番を命じられたシギュンは信康に貢献したいのか、是非自分も同行させて欲しいと信康に頼んだが信康は首を横に振った。


「いや、治療役ならラキアハとクラウが出来る。そもそもシギュンには十分過ぎる程、役に立って貰った。これで同僚達とまで戦えだなんて、言う心算は無い」


 信康はそう言ってシギュンの貢献に感謝すると共に、戦いに同行させない理由を明言した。


「ラグンを連れて行かない理由だが、戦闘は不得意な上に俺達に協力した事がオリガに発覚されたら今後も困るだろう? だから指令室に残って貰うんだよ」


「それはそれは、お心遣いありがとうございます」


 ラグンは信康が自分を同行させない理由をきいて、一礼して信康に感謝した。


 信康は慇懃なラグンの態度を見て、ただ微笑する。


「まぁお前は頭脳労働が専門なんだから、何かあれば続けて協力しろよな」


「そんな事で良ければ、私は構いませんよ」


 信康の要請を聞いて、ラグンは快く快諾した。


「と言う訳で、全員此処で待機な?」


「了解した」


「さっさと行きましょうか」


「よっしゃあ、じゃあ行くとするかっ」


 信康の掛け声に、クラウディア達も応えた。


 それから信康達はラキアハとビヨンナが戻って来てから、アルマ達を迎撃するアルマ達を残して娯楽施設と屋内闘技場に向かって出発した。

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