表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信康放浪記  作者: 雪国竜
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

249/418

第244話

 シギュンとの話を終えた信康はシキブの体内に入りDフロアに向かった。


 信康がDフロアに向かう理由は、オルディアとエルドラズ島大監獄乗っ取りの為に少しばかり打ち合わせの話がしたいからだ。


 シキブの中では時間の経過が分からないが、何も無いので退屈そうな顔をする信康。


(これでオルデに睡眠薬を入れるのは次の補給船が来る、二十五日後の晩飯にしてくれと頼めば良いな。後はDフロアのクリス達が、どんな調子か確認しておくか)


 信康がそう考えていると、トントンと肩を叩かれた。


「っと、着いたか」


 信康がそう呟くと、床がせり上がった。


 そのまま上がれば信康は、天井にぶつかると思われた。


 しかし天井の部分が信康にぶつかった瞬間、激突した鈍い音は鳴る事無く信康を飲み込んだ。


 飲み込まれた信康は、そのまま上に上がって行ってそのままシキブの中から出た。


 出た先は、オルディアの独居房であった。


「おっす。おひさ~だし。ノブッチ」


「おう。久しぶりだな。オルデ」


 信康はオルディアの手を叩いた。


「ノブッチがこうして戻って来たという事は、Eフロア下の階層は完全に掌握したのだし?」


「まぁ掌握したと言うと多少の語弊があるが、エルドラズを乗っ取る計画に参加して貰って、その際に俺が立てた作戦に従う様に約束させた」


「そっか。だったら、大丈夫だし」


「それで肝心の計画の実行日なんだが・・・」


「うんうん。それでその計画は、何時頃するんだし?」


「・・・一ヶ月後。正確に言えば、二十五日後だ」


「一ヶ月後? 随分と悠長じゃないッスか?」


「二十五日後に、物資を乗せたプヨ海軍の補給船が来るんだ。物資を運び出したら、連中も気が緩むだろう。其処を狙ってエルドラズを乗っ取るのさ」


「成程~了解なんだし。その間、あ~し達はどうしたら良いんッス?」


「そうだな。何時も通りに過ごしてくれたら良い。ただEフロアの奴等を、Dフロアのお前等にも顔合わせをさせておきたい。だからその時に改めて、俺が立てた作戦を話してやるよ」


「了解」


「じゃあ、また後でな」


「了解だし。ああ、そうだった。クリスナーア達に教えなくて良いのだし?」


「そうだな。久し振りだから、あいつ等にも一声掛けて行くか」


「それって一声じゃなくて、絶対抱きに行くの間違いなんだし」


「ははははっ。まぁお前にはお見通しか」


「当然ッス。これでも結構付き合いも長いんだし・・・でもその方が良いんじゃないッスか?」


「そうか」


 信康はそう言った後に、シキブの体内へ戻った。それから、シキブに命じてクリスナーア達に順番に会いに行った。


 その際に信康に朗報が届いた。中立を宣言していたラグンだったが、気が変わって協力すると信康に言ったのである。自分の協力がオリガ達に発覚しない様に秘密裏にと言う条件付きではあったのだが、信康はこのラグンの申し入れに大層喜ぶのだった。




 Eフロアに戻ると、信康は真っ直ぐ広場に向かう。


 広場では信康の報告を、首を長く待っているディアサハ達が居た。


「悪い。随分と待たせたな」


「全くだ。遅えにも程があるぞ。何をしてやがった?」


「まぁ、色々あったのさ」


「はぁん。色々ねぇ」


 スルドはニヤニヤしながら言う。


 その顔から、何かを邪推しているみたいだ。


「はいはい。俺がこうして戻って来たんだから、そんな事はどうでも良いだろ? 計画の事を話すぞ」


「・・・・・・ねえ、話すのはちょっと待ってくれる?」


「はぁ? 何を」


 クラウディアがそう言って、信康に抱き付いて首筋に顔を埋める。


「スンスン。・・・・・・女の匂いがするのだけど? それも一人や二人じゃないわね?」


「んっ、んん!?・・・まぁ、協力者は女が多いからな」


「そう。じゃあ、何で身体中に真新しいキスマークがあるのかしら?」


「っ!?」


 クラウディアは信康の服をずらし、露出した部分から大量のキスマークを見つけた。


 そう言われて、信康は身体を震わせた。


「あらあら」


「はぁ・・・・・・」


「随分と余裕がある事だな」


「まぁ、こいつらしいけどな」


 皆、呆れたり楽しそうにニヤニヤしていた。


「ゴホン。まぁ、これも俺に協力する対価だよ」


「協力する様にさせた、の間違いじゃあねえのか? 今更取り繕ってんじゃねぇよ」


「やかましいっ」


 クラウディアを退けて、信康は咳払いをした


「俺の故郷の諺にこんな言葉がある。口は災いの元ってな。他にも雉も鳴かずば撃たれまいって格言がな」


「まあまあ、ノブヤス様。早く本題に移りましょう。こう言うとご不快になるかも知れませんが、事実を指摘されて逆ギレしている様にしか見えませんよ」


「・・・・・・そうだな。お前等、茶番の付き合わせて悪かったな。早速だが、計画の実行日を何時にするか決まったぞ。その日だが・・・今日から二十日後にした」


「二十日後だと? 随分と悠長だが何故その日になったのか、説明して貰えるのだろうな?」


 セミラーミデクリスに訊ねられた信康は、直ぐに理由を説明し始めた。先ず第一に約一週間前から今までよりも厳戒態勢になったので、疲弊させる為の持久戦になった事実。最後に次に補給艦が来る事も隠さずに話した。


「成程。プヨの補給艦から運送された物資を移し終えれば、一仕事終えたと看守共も気が緩むであろう。更にエルドラズを完全に制圧する間、次の補給船が来るなど外部からの接触も抑えられる訳じゃな」


「セミラーミデクリスの言う通りだ。それで先ず計画の第一段階だが、俺達は時期タイミングを見計らってDフロアに向かう。Dフロアの連中と合流したら、シキブの身体に隠していたカガミが産んだ魔物を、上の階層の・・・そうだな、Bフロアに放つ」


「ふむ。看守共が突然現れた魔物に混乱している間に、我等は攻め込めんでエルドラズを制圧すると言う訳か」


 信康から説明の第一段階を聞いて、フィリアが意図を理解した様子でそう結論を推測した。


「理解が早くて助かるよ。更に言えばAフロアを制圧して外部との連絡手段を遮断してから、Bフロアをゆっくりと料理して行くって感じだ」


「ああ、そう言う事か。外部と連絡出来なくなりゃ、救援も呼べなくなる。本来なら受刑者の檻になってるエルドラズが、そのまま看守の奴等の檻になるって訳だ。するとAフロアを如何に早く制圧出来るかが、勝利の鍵になるよな?」


「そう言う事だ。しかしスルドが言った通りこのエルドラズを檻にするには神速を尊ぶから、看守連中と戦うのはやる事をやって檻が完成してから頼むぞ」


 信康の注意事項を聞いて、フィリア達は首肯して頷いた。すると信康の計画を黙って聞いていたクラウディアが、怪訝な表情を浮かべながら開口する。


「こうして聞くとやる事の規模のデカさの割には、随分と計画が簡単に聞こえるわね。もっと考えて計画を練った方が、良いんじゃないの?」


「クラウ。計画と言うのは複雑だったり規模が大きくなる程、一つ二つの想定外イレギュラーで崩壊し易いんだよ。だから却って簡潔シンプルな方が、修正もし易くなるし失敗も少なくなるもんなのさ」


「成程ね。だったらあたしからは、何も言う事は無いわ」


「説明は以上だ。計画は話し終えたが、何か質問は?」


 全員が異議など無いのか、黙って首を横に振る。


「計画の実行は二十日後だ。各自、英気を養っておく様にな。それと後でDフロアの奴等を紹介するから、その時にまた集まってくれ」


 信康がそう締め括ると、その場から立ち上がった。


 ガシッ。


 信康が立ち上がった瞬間、何者かに両腕が掴まれた。


「んっ!?」


 信康の腕を掴んだのは、ディアサハとクラウディアであった。


 信康が計画を話していた時は一言も話さなかったディアサハが、何時の間にか信康の傍にいた。


「師匠に、クラウ。どうかしたのか?」


「何、大した事では無いわ」


「そうそう。あたし達はちょっとだけ、あんたと話をしたいと思ってね」


「話?」


「そうよ。じゃあ、行きましょうか」


「行きましょうって、何処にだよ?」


「お前の独房(へや)に決まっているだろう? 行くぞ。馬鹿弟子」


「ちょ、ちょっとま」


「「問答無用」」


 そう言われて信康は、ディアサハとクラウディアに引き摺られて行った。


「あら、面白そうですね。では、わたくしも」


 そう言ってラキアハも、信康達のその後に付いて行った。


 広場に残ったセミラーミデクリス達は、呆れた様子で息を吐くと各々の独居房に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ