第232話
「・・・そうだ、クラウディアの独房に戻らないと」
信康は考えるのを止めて、取り敢えずクラウディアの独居房に行く事にした。
朝からクラウディアの独居房を出て以来、独居房に行ってないのでクラウディアがどんな状態か分からない。
なので信康はクラウディアの様子を確認する為、クラウディアの独居房に向かう。
信康はクラウディアの独居房に向かうと、扉をノックした。
しかしクラウディアの独居房からは、何の反応も無かった。
信康はもう一度ノックしたが、やはり反応は無かった。
仕方が無く信康は、扉を開けた。
扉を開けて入室すると、信康はクラウディア独居房の中を見回した。そして独居房の中央に、クラウディアを見つけた。
「おはようと言うには、かなり遅いか」
自分で言っていてもう昼過ぎであるという事に気付き、違うかと思った信康。
「・・・・・・」
しかしクラウディアは体育座りしたまま、顔を伏せた状態で反応が無い。
信康は不審がりながら、クラウディアに近付く。
信康がある程度近づくと、クラウディアは少し顔を上げて信康を見る。
鋭い三白眼で信康を見る。
「どうかしたか?」
「・・・・・・どうして、あたしが起きたら居なかったのよ?」
「ん? ああ、師匠に呼び出されたからだよ」
「そう」
クラウディアは不満そうな声をあげる。
信康はクラウディアに近付き、身体に触れる。
触れた瞬間、クラウディアは身体を震わせたが何もしなかった。
それを見て信康は、クラウディアを抱き寄せる。
クラウディアは特に抵抗なく、信康の胸元に顔を寄せる。
「起きたら俺が居なくて、驚いたか?」
「・・・・・・」
何も言わない所をみると、どうやら無言の肯定のようだ。
信康は調子に乗ってクラウディアの髪を撫でてみたが、特に何も言わないクラウディア。
「なぁ、クラウディア」
「・・・・・・クラウで良いわ。親しい人達は皆、あたしをそう呼んでいるから」
「じゃあ、クラウ」
「何?」
「これから俺は高位蛇美女の独房に行くのだと言ったら、お前はどうする?」
「どうして行くの?」
「そろそろ、自分の実力を試したいからな。何しろ負けたままと言うのは、個人的に気分も良く無い」
「一人で?」
「ああ、そうだ」
信康がそう言うと、クラウディアは少し考えだした。
「・・・・・・約束するなら、行っても良いわよ」
「約束?」
「ちゃんと戻って来なさい。良いわね?」
「そんな事か。当然だ。任せろ」
「・・・あの高位蛇美女は、魔法を使えるから気を付けてね」
「おう。一度戦って、それで痛い目を見た」
「特に得意なのは炎系よ。後、羽もあるから飛ぶ事も出来るわ。尤も狭過ぎて、地上よりも少し上程度にしか上がれないでしょうけど」
「そうか」
「・・・本当に、大丈夫?」
「まぁ、大丈夫だろう」
「何だったら、あたしも付いていくけど」
「お前が?」
「べ、別に、あんた一人でも大丈夫だと思うけど、あたしが付いて行った方が更に安全じゃない? だから付いて行った方が、あたしは良いと思うのよ」
「はぁ」
「ああ、あたしが独房から出るのは、問題だと思っているの? 其処は別に大丈夫よ。あたしはエルドラズを出ても、特に問題にならないわ。もうほとぼりも冷め切っているでしょうから、何時でも出ようと思ったら出れるのよ」
「プヨや教団の要請を無視して残り続けている事は、俺でも知っているぞ。今までクラウが出なかったのは、自責の念でか?」
「そうよ。まぁあたしが信仰しているエレボニアン教団の神官連中が戻って来いって五月蠅いし、仕事をサボりたくて此処に居るのもあるけどね」
「う~ん」
クラウディアが手を貸してくれるのは戦力的に助かるのだが、この前敗れた雪辱を晴らしたい気持ちがある信康。
なので戦力を借りるべきか、一人で意地を通すか考える。
そう考えている間。クラウディアは瞬きせずにジーっと信康を見ていた。
「・・・・・・いや、やはりお前の手は借りずに一人で戦る事にするよ」
「むぅ・・・・・・何でよ?」
「一人で戦って勝たないと、認められないだろうからな。あの高位蛇美女にも、師匠にもな」
「むぅ・・・・・・」
クラウディアは目を細める。
元々目付きが悪いので、目を細めると余計に睨みつけているみたいであった。
尤もクラウディア本人としては、そんな心算は無いのだろうが。
「気持ちだけ貰っておくよ・・・序でに聖女からの勝利のキスもな」
信康はそう言うと、クラウディアに口付けをした。
クラウディアは信康から口付けを受けて両眼を見開いたが、直ぐに閉眼して口付けを受け入れた。
それから信康はクラウディアの頭を優しく撫でてから、独居房から退室して行った。
クラウディアの独居房を出た信康は少し歩いて、高位蛇美女の独居房の前まで来た。
「さて、借りを返させて貰うか」
信康は扉をノックする事無く、ドアノブを回して高位蛇美女の独居房に入室する。
高位蛇美女の独居房に入室すると、独居房の主である高位蛇美女が信康を出迎えた。
「――――――――」
エキドナは信康を見るなり、人間の耳では聞き取れない音域の声が部屋中に響く。
信康は鬼鎧の魔剣を構えると、高位蛇美女も爪を伸ばした。
「さて、再戦と行こうか?」
信康は駈け出した。
「火炎球」
高位蛇美女が魔法を発動し、火の玉が飛んで来た。
信康はその火の玉を掻い潜った。
ディアサハとの鍛練により信康は高位蛇美女の攻撃を見切る事が出来る様になり、難なく躱す事が出来た。
そして高位蛇美女の懐まで来た信康は、そのまま鬼鎧の魔剣を振り下ろした。
「――――――!!?」
信康の攻撃は高位蛇美女の爪により防がれた。
しかし、信康は高位蛇美女に攻撃を防がれても、怯む事無くそのまま攻撃を続けた。
少しでも高位蛇美女にダメージを与えようと思い、攻撃を続ける。
高位蛇美女も爪で防いではいるのだが、全ての攻撃を防ぐ事が出来ず何発かは自分の身体に当たった。
「~~~~~~」
さほど痛みは無い様だが高位蛇美女は煩わしいと思っているのか、怒り混じりの唸り声をあげる。
信康はそのまま攻撃を続けていると、高位蛇美女は翼を広げた。
そして、天井すれすれまで飛び上がる。
「火炎球」
高位蛇美女はそう唱えると火の玉が幾つも生まれ、信康に向かって放たれた。
「っ!?」
信康は後方に跳んで、高位蛇美女の魔法を躱す。
放たれた魔法はそのまま地面に当たり、爆発して埃と煙を吹き上げる。
それにより、信康の視界が遮られた。
信康の視界は遮られたが、高位蛇美女の視界は問題なかった。
寧ろ煙に紛れて人影が浮かんだので、狙うのに問題なかった。
高位蛇美女は再度、火炎球の魔法を放った。
狙いは煙でうっすらとだが、見える信康の人影。
高位蛇美女は迷わずに、その信康の人影に魔法を放った。
狙い違わず、信康の人影に魔法が直撃した。
それによりまた埃が舞い上がるが、高位蛇美女は構わない。
高位蛇美女信康の死を確認しようと床に落ちようとしたが、あるものが目に入り下りるの止めた。
「――――――?」
それは先程魔法で殺したと思われる、信康の人影であった。
更に驚いた事に、その人影が幾つもあった。
どういう事か分からず、困惑する高位蛇美女。
そこに冷静な声が響く。
「赤き炎の棘」
その声が聞こえたのと同時に、何処からか赤い棘付きの触手が生み出され高位蛇美女の身体を縛りあげる。
「―――――――!!?!?」
いきなり、出て来た赤い棘付きの触手により、身体を縛り上げられた高位蛇美女は飛ぶ事が出来ず地面に降下した。
無様に床に落ちた高位蛇美女。それなりに巨体なので、床に落ちると独居房が軽く揺れた。
高位蛇美女は赤い棘付きの触手から逃れ様と藻搔いているが、其処に近付く者が現れた。
無論、それは信康だ。
「よし、捕獲成功っと」
「――――――!?!?!」
自分の魔法を喰らった筈の信康だが、何処も火傷も無い事に驚愕する高位蛇美女。
驚く高位蛇美女に向かって、信康はあっさりと種明かしした。
「人影を見て、俺だと思ったか? 残念。それはこいつだよ。夢幻の炎」
信康がそう唱えると、手の平から炎が生み出された。
そして、その炎が信康の姿形となった。
とは言え、完全に信康という訳ではなく遠目で見たら信康に見える程度だ。
しかし、煙に隠れた事で人影しか見えないので、高位蛇美女が見間違えるのも不思議ではない。
先程まで煙に浮かんでいた人影は、この夢幻の炎の魔法の様だ。
しかし高位蛇美女が今更それに気付いても、もはや後の祭りだ。
「さて、この前の借りを返して貰うぜ」
信康はニヤニヤしながら赤き炎の棘に縛り上げられた、高位蛇美女に近付て行った。




