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信康放浪記  作者: 雪国竜
第二章

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第231話

 翌日。


 信康はそのまま、クラウディアの独居房で一晩過ごした。


 クラウディアの独居房は破壊の限りを尽くされており、独居房内に設置されていた家具も例外無く全て破壊されている。そう言った事情もあって、クラウディアの独居房には寝台と言える物が無かった。


 しかし、其処はシキブが分身を生み出して、そのシキブの分身が寝台に変形する事で信康とクラウディアは寝床を確保出来ていた。


 クラウディアはシキブの存在に驚き、更にシキブの正体が不定形の魔性粘液(ショゴス)だと知って更に驚愕した。しかしそれも一瞬の話で、直ぐにクラウディアの関心は信康に戻った。


 信康はクラウディアを抱き締めながら眠り、クラウディアは信康の腕を枕にしつつ信康に抱き付きながら眠っていた。クラウディアは信康の温もりを感じながら、安らかな寝顔を浮かべながら眠っていた。


『起きろ。馬鹿弟子』


 ディアサハの声により、信康は目が覚める。すると自分を抱き枕の様に抱き締める、クラウディアが視界に入った。


「・・・・・・」


 規則正しい寝息を立てるクラウディア。クラウディアにとって三年振りになるであろうその穏やかな表情を見ると、昨日の狂戦士の如く暴走していたとは到底思えなかった。


 何時までもクラウディアを眺めて居たかったが、早く行かねば今度はディアサハの声では無く槍が飛んで来る可能性があった。なので信康は自分の身体に絡みつくクラウディアの腕を剥がして、シキブの分身で作られた寝台から起き上がろうとした。


 ガシッ!


 すると信康の腕が、何者かに掴まれた。


 何だと思って信康は見ると、寝ているクラウディアの腕が伸びて自分の腕を掴んでいた。


 信康はクラウディアが起きたのかと思い、クラウディアを見たが未だに眠っているのを確認した。


 どうやらクラウディアは、無意識に信康に手を伸ばした様子だった。それはまるで、信康に行って欲しくないとクラウディアが言っている様に見えた。


 信康はクラウディアの手を、優しく剥がして頬を突っつく。


「――――――」


 クラウディアはまだ眠っていて、起きる気配は全く無かった。


「・・・悪いな。直ぐ戻るから、許せよ」


 信康は申し訳無さそうに、眠っているクラウディアに向かって静かに謝罪した。


 そして眠っているクラウディアに気遣ってそっと起き上がり、静かに扉の方へ向かうと事前にシキブが開けてくれたので、そのまま独居房から出て行った。


 独居房を出た信康は、直ぐにディアサハが居る場所に向かう。


「・・・・・・昨日はお楽しみだったか?」


「むっ」


 ディアサハはニヤニヤしながら、信康に訊いて来た。どうやら信康がクラウディアの独居房で、一夜を明かした事を知っている様だった。


(どうせ一部始終覗いてただろうに、たくっ・・・)


 信康はディアサハの問いに答えず、黙って鬼鎧の魔剣オーガアーマーズ・ソードを構える。


「何だ。揶揄いの無い奴だな」


 そう言ながらも全く気にした様子も無く、ディアサハは信康に向かって槍を構える。


「お主も最初と比べて、上達したのがはっきりと見て取れる。其処で儂も、もう少しばかり本気を出しても良いだろう」


 そう言って、赤い槍をもう一本出した。


「その槍、もう一本あったのか?」


「少し違うな。この槍はルーンの魔法で複製したのだ」


「複製? まぁ、良い。要するは魔法で槍を作ったって事だろう」


「間違ってはいないな」


「そして師匠は二槍流という事か。さて、胸を貸してくれよ」


「良かろう」


 そう言って、ディアサハが駆けだしたので、信康も少し遅れて駆け、お互いの得物をぶつけた。


 その日の鍛練が終わった頃。


 朝と昼の鍛錬をやり遂げた信康はフラフラになりながらも、如何にか立つだけでなくそのまま歩く事が出来るだけの耐久度を手に入れていた。


 これも全てディアサハが自分の師匠として鍛えてくれている御蔭だと思える位には、信康にもディアサハへの感謝の気持ちはある。


 あるのだがそれを口に出したら、ディアサハが更に調子に乗って来ると思い口外しなかった。


「ふ、ふふ、随分と強くなったものだ」


 信康がフラフラに歩く姿を見て、ディアサハは笑い出した。


 信康は笑い出すディアサハを見て、訳が分からず困惑していた。


「強くなったな。我が弟子よ」


「そう、かもな」


 最初の頃はこてんぱんに打ちのめされていた鍛錬後は動く事もままならなかったのに、現在では限り限りではあるが歩く事すら如何にか出来ている自分を見てそう思う信康。


 そんな信康に、ディアサハはある独居房を指差す。


「そろそろ、再戦をしても良い頃合いだろうな」


「再戦?」


「ああ、あの高位蛇美女(エキドナ)に一泡吹かせたらどうだ?」


「っ!?」


 ディアサハにそう言われて、信康は驚く。


 高位蛇美女(エキドナ)に痛い目に遭わされて、暫く時間が経過しているのは確かだ。


 その高位蛇美女(エキドナ)に再戦して勝って来いと、信康に薦めるディアサハ。


「・・・俺はあの高位蛇美女(エキドナ)に、勝てるのか?」


「お主の心掛け次第だろう。勝てると思うなら、自分を信じて行けば良いのだ。まだ無理だと思うのであれば、このまま儂との鍛練を続ければ良いだけではないか。尤も、お主が高位蛇美女(エキドナ)と戦おうが戦わなかろうが、エルドラズにおる間は鍛錬は継続だがな」


「・・・・・・」


 信康は少し考えた。


 純粋に自分の実力が、あの高位蛇美女(エキドナ)に届いたかどうか思案しているみたいだ。


「結論の方は、お主に任せる。今日の鍛錬は、これで終了とする」


 そう言って、ディアサハはその場を後にした。


 信康は一人その場に残り、少し考えていた。

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