第225話
「・・・・・・今日は此処までしてやるか」
信康は肩を揉みながら、スルドから離れた。
そのスルドはと言うと。
「・・・・・・・・・・・・」
全身をピクピク震わせて、白目を剥いて失神していた。
「おぅい。意識はあるか?・・・どう見ても無さそうだな」
信康はスルドが失神して意識が無い事を承知で敢えて尋ねてみたが、やはりスルドからは一切の反応は無かった。
なので信康はスルドをそのままの状態で放置して、独居房から退室した。扉をノックして、外にいるシキブに扉を開けさせた。
部屋を出た信康は、自身の身体の調子を見る。
「ふむ。何処も異常は無いな・・・だが腹が減ったな。此処は腹拵えを済ませてから、他の受刑者に会いに行くか。シキブ、食事の準備をしてくれ」
信康は魔法の効果なのか、何処も疲れてなかった。しかし空腹は何時も通りだったので、信康は食事を済ませてから予定通り次の独居房に向かう事にした。
こうして信康はシキブが用意してくれた食事を堪能した後、次の受刑者の独居房の前まで進んだ。
そして目的地である独居房に到着すると、信康は扉をノックした。
信康がノックをすると、スルドの時とは対称的に直ぐに返事が帰って来た。
「誰だ?」
「Eフロアに来たばかりの新人だ。話があるので、入っても良いか?」
話があるのは確かなので、信康がそう尋ねた。
「・・・・・・良いぞ」
独居房の主が入る許可をくれたので、信康はドアノブを回す。
そして何時も通りシキブに任せた後、独居房の中へ入室した。
独居房の中は明かりこそあったが最低限であり、家具と言える物が何も無い部屋であった。
これまで見て来た独居房の中で一番殺風景過ぎる室内を見て信康が呆気に取られていると、独居房の主と思われる人物が大剣を突き刺してその剣を背に凭れている様に座っていたのが見えた。
その独居房の主は全身を、漆黒の全身板金鎧を着用していた。
「何用だ?」
兜を被っているので、くぐもった声で話し出す。
「俺は信康と言うんだ。あんたはフィリア・フォン・ロレキリーシズギャンだよな?」
「そうだ。で、貴方は何の用で来たのだ?」
「事前に話を聞いているかもしれないが、ちょいと話があるんだ。良ければ、訊いて貰えるか?」
「暇を持て余していた所だ。良いだろう」
信康はフィリアに自分が立てたエルドラズ島大監獄乗っ取り計画を、包み隠す事無くフィリアに話した。
「と言う訳なんだよ」
「成程な」
「で、力を貸してくれないか? あんたが手を貸してくれたら、かなり楽になるからな」
「ふむ。私一人手を貸した所で、大して変わらないと思うぞ。私よりも、あの高位蛇美女エキドナを味方に引き入れた方が良いと思うが?」
「隠すなよ。首無し騎士は特殊能力を持っている筈だ。不死者作製と言う名前のな」
信康が口にした言葉を聞いて、フィリアは僅かだが反応する。魔物に換算すると高位等級のA級に分類される首無し騎は、自分の魔力を使って骸骨兵士を作製する事が出来る。
「俺には不死者の知り合いが何人かいてな。そいつ等が高位等級の不死者はそういう芸当が出来ると教えてくれたんだよ」
「そうか。ならば」
フィリアは立ち上がり、背凭れにしていた大剣を手に取り抜いた。
「力を見せろ。そうすれば、貴方に手を貸してやろう」
「そうか。単純明快で分かり易いな」
信康は鬼鎧の魔剣を構える。
フィリアと信康はそれぞれの得物を構えながら、互いに静かに睨み合った。




