第222話
信康はラキアハの承認を得て、会得したばかりの性魔法の実証実験を始める。先ず最初に実証実験する性魔法は赤き炎の棘だった。
信康が赤き炎の棘を発動させると、指先から赤い棘付きの触手が出現した。
「よく考えると、魔法初心者の俺は魔法を詠唱しなければ発動しないのが普通なんだが・・・俺が無詠唱で発動していると言うより、元々詠唱する呪文が無いと言うべきか?」
「そうですね。未熟な魔法使や魔術師が詠唱破棄や無詠唱と呼ばれる高等技術を使った所で、魔法の威力は早く発動出来ても威力は半減してしまいますから・・・ノブヤスさんの性魔法は、詠唱が不要な魔法と言う認識で良いと思います」
「そうか、便利と言えば便利だが・・・実際に詠唱する呪文が無い魔法なんてあるのか?」
「普通にありますよ。ただ学べば誰でも習得出来る属性魔法や精霊の力を借りる精霊魔法では無く、ノブヤスさんみたいな固有魔法である事例が大半ですね」
「それだけ、固有魔法は特別と言う事か」
信康はラキアハの魔法に関する解説を聞きながら、赤い棘付きの触手を動かしてた。
翌日。
信康はディアサハと鍛練をしていた。
少し前までは終わる頃には倒れていた信康であったが、今は自力で鬼鎧の魔剣を杖にしながら如何にか立っていた。
「ほぅ? 最初と比べれば、多少は良くなったな?」
ディアサハは如何にか立っている信康を見て、素直に感心していた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・まぁな」
信康は何とか答えた。
「ふむ。早速会得したばかりの魔法を使っているみたいだな。素人にしては、上手く使い熟せているではないか」
「やっぱり知っていたか・・・・・・」
「ふっ、当然だ。良し。今日は此処までにしてやる」
ディアサハは笑みを浮かべて、その場を後にした。去って行くディアサハを見ながら、信康は息を整える為に何度か深呼吸を繰り返して呼吸を整えた。
「・・・俺が身体強化を使っていたのが、バレていたみたいだったな。まぁ師匠に見抜けない筈も無いか」
信康がこれまでと違ってディアサハとの鍛錬で倒れずに済んだのは、魔法書によって会得した性魔法のお陰であった。そうでなければ一朝一夕で、これだけ差が生まれる筈も無かった。
信康は自身が会得した性魔法の有用性を理解しながら、ある場所へ向かう。
目的地に到着すると、ドアノブを回して独居房に入室した。
ラキアハを味方に引き入れ結ばれてから数日間、信康はディアサハとの鍛練を終えてからラキアハと過ごすのが習慣となっていた。
「そう言えば、ラキアハ・・・お前は他の受刑者の情報について、何か知っているか?」
「あら? ノブヤス様は、ディアサハさんから何も聞いてないのですか?」
「ああ、一応は聞いている。ただどういう経緯から犯した罪状で投獄されたかは聞いたが、肝心の名前は教えてくれなかったんだよ。まぁ俺も聞かなかったから、とやかく言えんのだがな」
「そうですか。でしたらわたくしが、教えても別に問題は無いですね」
「だったら頼む。ああ、それと・・・あいつ等の経緯を知っているなら、お前からも聞いておきたい。師匠だと、端折って言っていない事もあるかもしれないからな」
信康の頼みを聞いて、ラキアハは逸物を手で扱きながら承諾した。
「分かりました。それで先ずお聞きしますが・・・ディアサハさんはどんな風に、皆さんを紹介したんですか?」
「確か六大聖女の一人なんだが、魔宝武具の制御に失敗した奴。魔物を生み出せる高位蛇美女。冤罪に掛けられて死んだ騎士が、首無し騎士になった奴。そして王族を毒殺した奴と猛将と言われた奴だったな」
「では、順にお教えしますね。まずは、現聖女で魔宝武具の制御に失敗した方の名前はクラウディア・ドゥ・ベルべティーンという方です。今年で十九歳になります」
「俺より一つ上か。此処に入ったのは、何時頃なんだ?」
「三年前と聞いています」
「三年前・・・という事は、当時は十六歳か。受難の始まりが一緒と言うのは、妙な親近感を抱かせてくれるな。因みにその若さで聖女になるのは、やっぱり難しいのか?」
「そうですね。外の情報を知る為に定期的に新聞を頂いているんですけど・・・これまで六大神で聖女に認定された方は、過去を遡っても最年少が十八歳でした。その事実を考えると、クラウディアさんが最年少記録を更新したと言えますね」
「魔宝武具の制御の失敗と言ったが、つまりは暴走だろう? その場合、使用者も死ぬんじゃあないのか?」
「いえ。話を聞いた限りでは途中から制御出来て、最後には完全に制御したそうです。その代わりに、多数の死傷者が出たそうです」
「成程な。それにより、この監獄に自分から入ったと・・・自責の念もあるだろうが、これって悪い事なのか?」
「普通はそう思うでしょうが、この話には裏があるんです」
「裏?」
「はい。正確に言えば死傷者と言っても死んだのは六名で、他は重傷者はいたそうですが・・・命に別条が無い負傷者だけだそうです。それも手足や目を失ったと言った事も無かったとか」
「聖女が使う魔宝武具は、全部神具級なんだろう? その程度の損害で済んだなら、寧ろ御の字じゃないのか? 幾らほとぼりを冷ます為とは言え、三年も投獄とか長過ぎるだろ?」
戦場ではない所で人が死んだ場合は、贖罪の為にも罰を受けるべきだろう。しかしそれでも監獄に投獄される程の大罪だとは、信康は思わない。
そもそも神具級魔宝武具の制御に成功したのだから、クラウディアは称賛されて然るべき案件だ。何故なら宝具級以上の等級である魔宝武具は、使用者を選ぶ武具だからだ。
傭兵部隊に居たグランみたいに、未熟または相性が悪い使用者が入手したら暴走する事例がある。故に使用者は、慎重に選ばなければ周囲に被害を齎してしまうのだ。
神具級の魔宝武具が暴走したら最悪の場合、都市一つが壊滅する程の被害も覚悟しなければならないだろう。
魔宝武具の制御に成功したのであれば、死者の冥福を祈る期間を設けるなどと理由を付けて一、二ヶ月だけ謹慎していれば良い。
被害者の方ならば、謝罪と賠償金で済ませるだけでも良いのだ。何ならそう言った危険性を考えずにクラウディアの近くに居た被害者こそ軽率であり、逆に責められても文句は言えないだろうとすら思えた。
「その暴走で亡くなったのは全員、彼女の御家族だったそうです。その為か彼女は自分で自分を許せず、プヨや教団が帰還要請に出しても無視し続けているそうです」
「成程。被害者は血の繋がった家族で、それで此処に居るのか。・・・・・・うーん。まぁ、そう言われたら分からなくもないな。詳細を教えてくれて感謝する。次のも頼む」
「はい。次の者は仰った様に高位蛇美女と言って、蛇美女の上位種で名前は無いですね」
「無いのか?」
「はい。この高位蛇美女ですが、年齢や出身などの出自が一切不明なのです。人語も喋れませんし・・・昔話になりますが、ある日に魔物が大量発生した事件がありました。その事件の発生源と思われる場所を特定して軍を派遣しますと、大量の魔物とこの高位蛇美女が居たそうです」
「そうか。結末を考えると魔物は討伐したが、高位蛇美女じゃ駆除せずにこのエルドラズに投獄したと?」
「入った経緯はそうです。因みに高位蛇美女を捕獲した理由ですが、軍部が飼い慣らして上手く使役しようとしたのが理由だそうです。しかし何時まで経っても上手く行かず、半ば放置された結果がこれです。最後にこのEフロアの受刑者一番古くから居る最古参が、その高位蛇美女です」
「そうなのか。高望みが過ぎたのだな・・・その魔物大量発生事件って、何時頃起こった事件なんだ?」
「確か今からですと・・・百五十年ほど前の事件だと思います」
「そんな昔か。まぁ、だから一番古いんだな・・・そんな長い間こんな薄暗い所に閉じ込められていると思うと、少し同情してしまうな」
「そうですね」
「まぁ良い。で、次は?」
信康はそう尋ねると、ラキアハは逸物を扱く速度を上げ始めた。
「次は首無し騎士ですね。首無し騎士の名前はフィリア・フォン・ロレキリーシズギャンと言います。第三騎士団の元団長で、当時では名将として名の知れた女性騎士だったそうです。性格は謹厳実直で、廉直な性格と聞いてます」
「そうか。それでだろうな」
「どういう意味ですか?」
「世の中、私欲なく真面目な奴ばかりじゃない。相手を蹴落として成り上がったり、讒言で地位を貶めて自分を高い地位に就けようとする奴も居る。大方、そいつらに足元を掬われたと言った所だろうな」
信康は悲しそうな顔をして首を横に振る。
「・・・・・・その顔を見る所、どうやら貴方も覚えがあるみたいですね?」
「うん? ああ、まぁな」
信康は曖昧にだが認めた。
「そうですか。では、話の続きとしましょうか。ノブヤス様が言った様に、フィリアさんは清廉な性格故に融通が利かず嫌う者達が少なからず居ました。御実家が男爵家と爵位が低かった事もあり、成り上がり者と呼んで嫌っていたそうです。彼女を追い落とそうと日々、当時の王宮内では嘘八百の噂話が飛び交っていたと聞いてます」
「それで?」
「ですがその噂話も譫言も、何一つ効果がありませんでした。彼女は自分に非は無いと公言しつつ次々と功績を立て続けて、第三騎士団で順調に出世を重ねていきました。王家からの信頼も厚く、当時の英雄として国民からも人気が高かったそうです。しかし彼女が第三騎士団の団長に就任して間も無くの頃に、総大将を務めたシンラギとの戦争で敗北してしまった事でそんな栄光の日々は終焉を迎える事になるのです」
「ああ、その責任を取らされたんだな」
「そうですが、この話には隠された真実があります。その戦争は開戦当初から、勝ち続けていたのです。しかしもう直ぐ決着が付くと言った所で、総大将を変えられてしまいました。すると戦況は忽ち逆転してしまい、一転して敗北してしまったそうなのです。ですが彼女を嫌う者達は好機とばかりに、フィリアさんの指揮により戦争に敗けたと報告したそうです。これにより、彼女は軍法会議に掛けられました。関係者は全て、彼女の敵しか居ないという絶対絶命の状況で」
「それで処刑されたのか」
「はい。ですがフィリアさんの不幸は続きます。彼女を嫌う者達が禍根を断つ為なのか、彼女の家族も連座して処刑させたのです」
「惨いな」
「ええ、そうですね。それでフィリアさんはその怨嗟により、首無し騎士となり自分を陥れた者達を全員に復讐したのです。しかし彼女は現世に未練が残っていたのか、復讐を終えても浄化せず現世に留まり自首しました。フィリアさんの証言と再調査によって発覚した真実を、当時のプヨは公表出来なかったそうです。其処でプヨは公式には別件の罪で関与した者達を改易処分を下して御家取り潰しをした後、私財を没収して残った一族も永久国外追放にしてから彼女をこのエルドラズに投獄したのです」
「胸糞悪い話だが、プヨの立場も分からんでもない。当時の英雄を冤罪で一族ごと処刑したなどと言えば、非難轟々だからな。仕方が無いと言えば、まぁ仕方がないな」
「ええ、その通りですね。この話を聞いたわたくしもそう思いました。因みに余談になるのですが、プヨはほとぼりが冷めた頃に真実を伏せつつもフィリアさんや実家のロレキリーシズギャン男爵家まで処刑した事は誤りだったと公式に謝罪し、汚名返上した上で侯爵位を贈呈し立派な墓標を王都に作ったそうです。そしてロレキリーシズギャン侯爵家ですが、フィリアさんが戻って来た時の為に王家預かりになっていると聞いています」
ラキアハは憂いを帯びた顔で首を横に振る。
「そうか。まぁフィリアにとってそれが慰みになるかは分からんがな・・・しかしフィリアの為に、実家の跡を継がせられる用意があるとはな。取引材料の一つにしておくか。良し、次は?」
「はい。次の方はセミラーミデクリス・フォン・シリヴァスと言う、取り替え子です」
「取り替え子?・・・ああ、オルデと同じ人間の赤ん坊が妖精に連れ攫われて、その赤ん坊の代わりに妖精の赤ん坊に代わると言うやつか」
「そのオルデさんとやらは知りませんが、その通りです。それででしょうか? 彼女は赤ん坊の時に、実の母親に気味悪がられて山に捨てられたそうです。尤も捨てられても直ぐに、ある工夫に拾われたそうです。因みにその工夫が鳩を飼っていたので、名前に入れられているそうです」
「鳩か」
信康は名前に鳩が入ってるという事だから、性格は大人しく温厚な女性なんだろうなと考えた。
「彼女は美しく成長して、やがてとある者と結婚しました」
「どんな奴なんだ?」
「オネスン・フォル・シリヴァスと言う、六十歳を超えて現役だった当時の大将軍です。当時のプヨでは筆頭将軍と称えられた、名将だったそうですよ。功績の一部を紹介しますと・・・件の高位蛇美女を捕獲したり、あのフィリアさんのお師匠様だったお方だそうです」
「それは実にやり手な御老人だったろうな・・・だが、六十歳? 因みにその時のセミラーミデクリスは、何歳だったんだ?」
「確か、二十歳を越えて少し経ったと言っていました」
「政略結婚でもないのに歳の差が、あり過ぎやしないか? 年齢差が親子どころか、祖父と孫娘程の差があるぞ」
「でも、夫婦仲は良かったそうらしいですよ」
「本当か?」
「ええ、本人が言っていましたから」
「・・・・・・」
信康としてはどうも、違和感を拭えなかった。
「そんな幸せな夫婦生活も何年続いたのかは知りませんが、彼女を見染めた当時の公爵家の公子シャノスの目に留まった事で終わりになりました。何故ならこのシャノスと言う男は、公爵家の権力を好き勝手に振る舞う傍若無人で自分本位な最低の部類に入るロクデナシだったからです。実家も親馬鹿だったのか言いなりだったのかまでは知りませんが・・・シャノス本人が性格を除けば有能で実績があったが為に、当時の国王も含め誰も止められなかったと聞きます」
「・・・それで?」
「よりにもよってこのシャノスがオネスンの妻であるセミラーミデクリスの美貌を見染めた事で、オネスンに『望みは何でも叶えてやるから、お前の妻を献上せよ』と言い寄ったそうです。しかしオスネンは毅然と『儂が死んでから、幾らでも妻にお声を掛けられるがよろしい』と断り続けたと言います。どれだけ好条件を提示したり恫喝したりしても断り続けるオスネンに、遂に激怒したシャノスは強硬手段に走ります。シャノスは自分の息の掛かった者達をオスネンの側近に潜り込ませると、シンラギとの戦争の最中でどさくさに紛れてオネスンを暗殺させたのです。余談ですがオスネンが暗殺された事で戦争は逆転負けの窮地に陥ったそうですが、副将として参戦していたフィリアさんが奮戦して何とか勝利を収めたと聞いてます」
「・・・・・・っち。これも胸糞悪い話だな。フィリアも、尊師を失った状態で戦うのは辛かったろうに」
「ええ。シンラギとの戦争は指揮を執ったフィリアさんによって勝利で終わりましたが、オネスンの墓前で守れなかった事を悔やみ一晩中泣き明かしたと聞いております・・・オネスンが暗殺された事で、未亡人になったセミラーミデクリスはシャノスの側室になりました。しかし彼女はシャノスに対して反抗する事無く、献身的に支え続けました。そして裏でシャノスの正室を病死と偽装して毒殺し、彼女が代わって正室に繰り上がりました。正室の唐突の死にも関わらず大した騒ぎになる事無くセミラーミデクリスが直ぐに正室に繰り上がった事実こそ、シャノスの信頼を勝ち取った証拠でもありました。そしてオネスンが暗殺された命日に、シャノスを毒殺したそうです」
「むぅ、何とも見事な仇討ちだな」
「彼女が凄いのは、此処からですよ。その殺したシャノスの首を斬り取ると、手が血で濡れるのも構わず笑いながらシャノスの首で投げ遊んだそうです」
「それだけ恨みが溜まっていたのだろうな」
「その首を持ったまま王都を歩き続けて、死んだ元夫のオネスンの墓標に持って行き墓前に供えたそうです。そんなセミラーミデクリスの凶行を目の当たりにした当時の警備部隊は、恐怖で震え上がって止められなかったとか」
「まぁ実際に見たら、凄ぇ怖いだろうな。しかし、其処までするか。非難する心算は無いけど」
「暗殺事件の結末ですが、この大事件は彼女の大胆な行動も相まって直ぐにプヨ王国中に知れ渡りました。事前に彼女がシャノスの悪行や表向きは戦死とされていたオネスンが実は暗殺されていたた事実などを、色々な方面に広めていたそうです。シャノスの不人気と不遇の名老将の敵討ちをした事実も相まって、国中の国民が拍手喝采しプヨに彼女の助命嘆願が殺到したとか。なのでセミラーミデクリスは処刑されずに、エルドラズに収容されたそうです」
「公子を殺したとはいえ、世論を敵には回せなかった訳だ」
「公爵家は強硬に処刑を嘆願したそうですけど、プヨは無視したそうです。もしセミラーミデクリスを処刑すれば、公爵家はともかくプヨは恥の上塗りと考えたのでしょう。尤も、手に負えなかったシャノスを始末してくれた、僅かばかりの感謝の気持ちもあったとは思いますが」
「だろうな。最後のはどんな奴なんだ?」
ディアサハの話だと頻繁に命令を無視して上官に口答えする猛将と言っていたので、筋骨隆々の大女を想像していた。
「ええ、可愛らしい少女ですよ。尤も、年齢はそれなりだそうですが」
「何っ!? 少女だと?」
「はい。小人族ですから」
「小人族か。成程、それじゃあ少女だよな」
小人族。
成人しても大人の人間の半分程度の、身長しか持たない亜人類の総称だ。
本来は部族ごとに名前があるらしいが、ぱっと見では分からないので総称でこう言われている。
種族としては手先が器用で職人だったり、身軽な身体能力を活かして斥候になったりする者が多い。
余談だが鋼人族と小人族に似ているが、あくまでも近親種であって同族ではない。
「しかし小人族の女で猛将とか、想像が出来ないな」
「確かそうですね。因みに年齢は今年で四十歳だそうですよ」
「それなりの年齢だな。というか、その年齢で上官に歯向かうとか、どんだけ血の気が多いんだよ」
「さぁ、其処までは・・・名前はスルド・リリパットです」
「そいつがプヨの王族を誤って殺したそうだが、誰を殺したんだ?」
「確か、現国王の叔父の娘の嫁ぎ先の姉の子供だそうです」
「師匠にも言ったけどやっぱりそれ、王族とは言えねぇだろ?」
「ええ、そう思わなくも無いですけど・・・その嫁ぎ先が貴族ですから、一応は王族と言えるでしょう」
「そうかい。んで、どうして殺したんだ?」
「本人から聞いたのですが、何でもその殺した同僚は元々は上官だったそうで・・・スルドさんは傭兵だった頃に勧誘して、鋼鉄槍兵団に入団出来る様に色々と尽力してくれたそうです。何せ、当時の鋼鉄槍兵団の副団長だった方だそうですから。しかし幼児嗜好だったらしく、ある時期から本性を現して自分に頻繁に性的言動をして来たそうです」
「幼児嗜好って、まさか・・・」
「ご想像の通りですよ。その元上官は、少女しか愛せない性癖を持った方だったそうです。容姿端麗で人柄も良く実力も高かったそうで、鋼鉄槍兵団では大層慕われていたそうですが・・・その困った性癖の所為でお見合い話は全て白紙になるなど、御実家も大いに頭を抱えていたそうです」
「やっぱりな。と言うか完全無欠なのに、一つの性癖で全部台無しになるタイプか。そりゃ困った奴だな」
「スルドさんは性的言動に耐えながらも出世を重ね、その方と同じ副団長にまでなったのですが・・・事件が起こった当日は二年前にカロキヤと起きた戦争で敗北してしまい、苛立ちながら敗走していた時も性的言動を受けて遂に積もりに積もったスルドさんの怒りが爆発してしまい、とうとう大喧嘩になったそうです」
「それで殴り殺したと?・・・ちょっと待て。二年前にカロキヤと起きた戦争って、まさかデァグアラ河の戦いって奴じゃないのか? その戦争、鋼鉄槍兵団も参戦してたろ?」
「その戦争で、間違いありませんよ。お互いに実力が高かったので手加減を誤って、殺害してしまったと聞いています。事件の切っ掛けを作った非は元上官にありますが、末端の末端と言っても王族の一員です。プヨとしても身内の醜聞を広めたくなかったので事件の経緯は一切公表せず、表向きは戦場で戦死した事にして真相を闇に葬りスルドさんを処刑する所だったそうですが・・・彼女の上官だったアルディラ団長を筆頭に、部下の団員達も事件を知っている知人達も助命を嘆願したのでエルドラズに収容されました」
「う~ん。何と言うかやっぱりと言うか、大事件に関わった奴ばっかりだったな」
「ですね。因みにわたくしの場合は、エダキローステン教団が反乱を起こす一歩手前まで来ていたのですが、わたくしは反乱を起こさせまいと粛清した所を、警備部隊の方々が来てわたくしを逮捕して此処に居ます」
「うん。話を聞いたまんまだな」
「そうですか。それで、次はどなたから会いに行かれるのですか?」
「何だ。よく分かったな」
「Eフロアの受刑者が全て力を貸したら、このエルドラズを手に入れるなんて簡単ですから」
「そうだな」
「それで最初は、何処の部屋に行かれるのですか?」
「そうだな。取り敢えず最初にセミラーミデクリス。次はスルド。その次はフィリア。その次はクラウディアで、最後に高位蛇美女の所にする」
「そうですか。では、直ぐに?」
「いや、明日からだ。今日は、休む」
信康はそう言って、休憩を取るのであった。




