第212話
信康とシギュンは、『太陽の目を持つ美女』が居る独居房に向かう。
その独居房に到着すると、シギュンは壁に手を置き独居房を開けてくれた。
信康はシギュンに御礼を述べてから、その独居房に入室した。
独居房に入室すると、其処には両目を眼帯で隠された一人の女性が居た。その女性は三つ星の三人やビヨンナと違い、囚人服ではなく普通の平服だった。
黒茶色の長髪。豊満を通り越して、巨大ともいえる女性の象徴。折れそうな位に縊れた細い腰。たわわに実っている臀部。まるで獲物を惑わし、誘き寄せる妖花の様だ。
普通は片目を隠す眼帯を着用する人物ならば見た事はあるし知人にも居るが、黒革で無骨な両目を隠す眼帯など見た事が無かった。珍しいので信康は声を掛けずに、マジマジと女性を見ていた。
「・・・・・・看守じゃないみたいだけど、何か用かしら?」
「目隠しの状態でよく、俺が看守じゃないと分かったな」
「目を普段から使ってない所為か、他の感覚が鋭くなったのよ。今回の場合、匂いで分かったわ。男性の匂いはどんなに綺麗にしても、男性特有の匂いがあるから」
「そうかい。で、あんたが『太陽の目を持つ美女』で良いのか?」
「ええ、そうよ」
「名前は・・・・・・えっと、なんだったかな?」
シギュンから事前に聞いていたのだが、『太陽の目を持つ美女』の衝撃ですっかり名前を忘れた信康。
その言葉を聞いて、『太陽の目を持つ美女』はクスクスと笑う。
「あたしはマリーア・タヘルート・イダツェレータよ」
「おお、そうだった。そうだった。ではマリーアと呼んでも良いか?」
「マリーで良いわよ」
「そうか。ならばマリー。早速聞くが、どうして眼帯をしているんだ?」
「あたしの目には、魔力が宿っている魔眼だからよ。自在発動型の魔眼なんだけど、誤ってうっかり発動したら事だから、という理由で付けているのよ」
「そうなのか? 『太陽の目を持つ美女』ともあろう女に、そんな心配は杞憂だと思うんだがなぁ」
信康はそう言いながら、マリーアが装着している眼帯を見た。
錠前で拘束されている訳ではなく、ただ巻いているだけという感じだ。
何かの魔法で拘束されているのかも知れないと思い、信康は眼帯に触れてみた。
だが、特に何の妨害も無く触れる事が出来た。
「ふっふふ、この眼帯はね。あたし以外だったら、誰が触っても取れる仕様になっているのよ」
「そうなのか」
「あたしの顔を見たいのだったら、取ってみたら?」
マリーアが言っている最中であったが、信康は眼帯を取った。
眼帯を取ると、其処には十代と言われても通じそうな若々しい顔立ちがあった。
信康は見蕩れていると、マリーアは笑顔を浮かべた。
「それで、何の御用なのかしら? えっと・・・・・・そう言えば、貴方の名前を聞いていなかったわね」
「信康だ」
「ノブヤスさんは、あたしに何の用があるのかしら?」
「ああ、実はな」
信康は自分がエルドラズ島大監獄に収監する羽目になった経緯と、エルドラズ島大監獄乗っ取り計画の全てをマリーアに話した。
信康からエルドラズ島大監獄乗っ取り計画を聞いたマリーアは、顎に片手を添えながら返事をする。
「話は分かったわ。あたしはオリガさん達を捕まえる時に、手を貸して欲しいのね」
「そうだ」
「・・・成功した見返りに、あたしには何かあるのかしら?」
「そうだな。エルドラズから出獄出来る様に手配させる事と、俺に叶えられる範囲の謝礼と言った所か」
「それだと、あたしはそそらないわね。あたしがエルドラズに居るのも、世間から秘匿する為であって受刑者と言う訳じゃないのよ。シンラギの内乱騒動でちょっと目立っちゃったから、熱りを冷ますって目的もあるもの。理由は全然違うけどお隣さんの、ラグンさんみたいにね。欲しい物ならオリガさんが何でも手配してくれるし、特に不自由している訳でも無いのよねぇ。それに此処に居れば少なくとも、外国の諜報員連中に狙われる心配も無いのだから」
「そうか。無理強いなどは強いる心算は無いが・・・改めて俺に用意出来る事や出せる謝礼であれば、何でもすると約束する」
「何でも?」
「ああ。何でもだ」
「そう。だったら・・・・・・一つだけ条件があるわ」
マリーアは悪戯を思いついた子供の様な顔をした。
「協力を承諾する前に、貴方を一つ試してみたいわ。別に良いかしら?」
「試す?」
また試されるのかと思うが、顔には出さない信康。そしてビヨンナと違って、真面なものだろうなと若干の心配をした。
「今からあたしを満足させる事が出来たら、貴方の計画に乗ってあげる。そして今後も、貴方に協力してあげるわ」
「満足?」
その二文字の言葉を、どう解釈すれば良いのか判断に困る言葉であった。
「貴方は、どんな事をしても良いわよ。勿論、この身体を好きにしても良いわ♥」
マリーアは腕を組んで胸を持ち上げて、色っぽくウインクした。マリーアの美貌も相まってこの動作一つで、並の男性ならば一撃で篭絡しかねない威力があった。
事実として女性関係で百戦錬磨の信康も思わず、マリーアの動作を見て生唾を飲み込んだ。
(こほん・・・さて、どうやったらマリーアの言う満足を達成させる事が出来るのだろうか?)
信康は頭を抱えながら、マリーアの要望に応えるべく思案を始めた。




