第207話
シギュンとシキブがシイの独居房に戻ると、シイの他に信康が居た。
「只今、戻りました」
「ご苦労さん。で、成果は?」
「二人共、捕縛出来ました」
「上出来だな」
信康は嬉しくて、思わず手を叩く。
「まさか、本当に二人共捕まるなんてっ」
信康が立てた作戦で、本当に捕まると思わなかったシイは驚いていた。
「はっはは、お前に二人の性格を聞いたからな。作戦を立てる事が出来たぜ」
「あれだけの情報で、よく分かったわね」
「覚えておくと良い。激情家な性格の人間と言うのはな、人一倍仲間思いなんだよ。美点とも長所とも取れるんだが、だからこそ却って弱点や短所として付け狙われ易い。悪どいが其処を利用して仲間や身内を使って誘い込めれば、一緒に捕まえる事なんて簡単に出来るんだぞ。他にも人質作戦も有効だから、其処も注意する所だな」
「そうなんだ」
シイは信康の洞察眼に感心した。
「それで、その二人はシキブの体内なかに居るのか?」
「はい。で、どうするのですか?」
「先ずは、話をする。これまで通りにな」
「部下になるとかいう話?」
「そうなってくれたら俺としては御の字だが、それは別に断わられても良い。取り敢えずは俺がエルドラズを掌握するのに、手を貸してくれればそれで十分だ。その後は俺を害しない限り、好きにしてくれればこちらとしては何の問題もない」
「気前が良いわね。あたしを犯した奴とは思えないわ」
「それは、あれだ。お前が良い女だったからと言う事で、理解してくれると嬉しいな」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、あれはやり過ぎだと思うのよ?」
「俺って独占欲が強いからさ。あれだけしたら、もう他の男には靡かないだろう?」
「・・・あたしを抱きたかったら、今後からは普通に抱いて頂戴。あたしも拒んだりしないから」
シイは少し困った様子を見せながら、懇願する様に信康にそう言った。
「ならそうするとしよう。さて、交渉の時間と行くか」
信康はシキブの所に行くと、シキブは信康をアテナイ達を入れた自分の体内に案内した。
信康がシキブの体内に入ると、アテナイ達はいきなり現れた信康を見て身構える。
「誰だ?」
「どうやら男の受刑者みたいだけど」
「いきなりで済まんが、話を聞いてくれるか? こちらは話を聞いてくれるなら、手を出す心算はない」
信康は手を挙げながらそう言う。
それを見て、アテナイ達は顔を見合わせて頷く。構えを解き、話を聞く体勢を取る。
「俺は信康と言う者だ。あんた等の名前は知っているから、一々名乗らなくても結構」
「そうか」
「それで、どんな話なの?」
「単刀直入に言おう。俺がエルドラズを掌握するのに、味方になって手を貸してくれ」
「ほぅ」
クリスナーアは興味深そうに顎を撫でる。
「私達があんたの手伝いをして、何の利点があるの?」
「そうだな。一番の利点となると、お前等をエルドラズにぶち込んだ奴等に復讐が出来る事だな」
信康がそう言うと、アテナイは顔色を変える。その一方でクリスナーアは、アテナイとは対照的に平然としていた。
「貴方は私達を捕まえた者達を、知らないと思うのだけど?」
「シイから話は聞いている。銃士部隊の中でも、特に腕が立つ四人組に捕まったそうだな」
「シイから?・・・シイは無事なの?」
「シイは無事だから、その点は安心してくれて良い。この話も先にシイに言ったんだが、本人は『二人と相談してから決める』と答えた」
「そう。じゃあ、シイには会えるのね?」
「近い内には。その前に、お前等の考えを聞きたい」
「考えとは?」
「ぶっちゃけていうと、現時点ではこの作戦の成功率はそれほど高くない。だから、この話を断っても構わない。その時は、暫くお前達が居た独房へやに居てくれ。妨害などしてくれなければ俺がエルドラズを掌握した後にでも、お前等を釈放出来る様に手配してやる。後は好きにすれば良い」
「手を貸したら?」
「復讐にも手を貸してやろう。幸い、俺はお前等を捕まえた四人組の顔は知っているからな。それに俺は傭兵部隊に所属していて、其処の副隊長をしている。所属は違えど同じ軍部であるから、銃士部隊の情報を集める事は出来るぞ」
「「・・・・・・・」」
信康の話を聞いて、アテナイ達は考える。
アテナイ達からしたらこの話は断っても乗っても、特に不自由は無い。
だからこそ、直ぐに飛びつかない二人。
旨い話には裏があると、本能的に警戒しているのだろう。
伊達に裏社会で、仕事をしていた訳では無いみたいだ。
「で、どうだ? 考える時間が欲しいなら、勿論やるが?」
「・・・・・・いや、話を乗る前に試したい事がある」
「クリスっ!?」
殺人に快楽を見出す殺人狂の悪癖はあれど普段は冷静沈着で、三つ星のリーダーを担っているクリスナーアが信康の提案に乗り気である事に驚くアテナイ。
「試したい事とは?」
「お前の実力を試したい。それで伸るか反るかを、決めさせて貰おう」
「成程な。だとしたら、二対一でするか?」
信康は後で難癖つけられるのが嫌だったので、そうクリスナーアに提案した。
信康の提案を聞いて、アテナイは信康を睨みつける。
どうしたと聞く前に、先に反応があった。
「ハッハハハハ!!」
クリスナーアが笑い出した。
いきなり笑い出すので、信康は首を傾げる。
「正気か、お前? 私達が普通の人間・・・・・だと思っているのか?」
「いいや、別に。お前等の事情ならば、既に知っているぞ。三つ星トゥリー・スヴェズダの三人は全員、超人種ミュータントなんだってな?」
超人種
嘗てはロマノフ帝国で極秘裏に研究されて、人工的に生み出された種族。
元は国土に比例した国力を持たなかったロマノフ帝国が、強い兵士を生み出す為の計画であった。
しかし研究が進むにつれて、様々な能力を持つ兵士を生み出すという考えを持つ様になった。
それによってありとあらゆる種を掛け合わせ、生み出された物を更に調整という改造を施すと言う、命を弄ぶおぞましく非人道的な研究となった。
結果、様々な能力を持った人間が生み出された。
しかし皮肉にもその研究は生み出されたとある超人種の手によって、研究所の研究員ごと研究所が破壊され、研究そのものが消失した。
研究成果である超人種達も、何処かに雲隠れして何処に居るかも分かっていない。
「分かっていてそう言うとは、お前は馬鹿なのか?」
「さてな。それは俺と戦ってみれば、自ずと分かると思うがな」
「ふん。面白い。追加条件だ。私がお前に勝ったら、お前は暫く私の玩具になって貰うぞ」
「玩具ね。何を企んでいる心算か知らないが、俺にその条件を受ける必要や利点メリットがあると思うか?」
「お前が勝ったら、そうだな・・・お前の女になってやっても良いぞ。それでこの身体を好きにすると良い」
「・・・はい?」
それを聞いて、信康は反射的にクリスナーアの身体を見る。
スレンダーな体型だが、十分巨乳の範囲にあるそれなり大きい女性の象徴を持っている。クリスナーアの胸が小さいと言うよりも、アテナイとシイが持つ胸が立派なので小さく見えるだけだ。
気が強そうなのでこういう女性は一度ガツンと立場を分からせたら、二度と逆らわないというのが信康の経験上で分かっている。
「前言撤回。面白そうだから、その話に乗った」
「ちょっ、貴方ね」
「断っておくが・・・好きにして良いのは私の身体であって、間違ってもアテナの身体を好き勝手にするのは無しだからな?」
「了解した」
「では、そろそろ」
「ああもう、余計な条件を付けてっ。負けても知らないからねっ!?」
クリスナーア達は構えるのを見て、信康も構えを取った。




