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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

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第163話

「・・・来たか」


 砦攻略の為に出陣準備で忙しい中、ヘルムートは傭兵部隊の諸将に緊急招集を呼び掛けた。


「忙しい中、集まって貰って済まない。全員居るか?」


「総隊長。ノブヤスを除き、リカルド以下七名。全員集まりました」


 リカルドはそう言って、ヘルムートに敬礼して報告した。ヘルムートは首肯した。


「総隊長。ノブヤスの姿が無いのですが、どうかしたのですか?」


「・・・これから行く所に行けば分かる。行くぞ」


 ヘルムートは溜め息を吐いた後、リカルド達を連れて歩き出した。


 ヘルムート達が向かった先は、第四騎士団の旗印が掲げられた大天幕だった。ヘルムートは入口に立っていた見張り役の団員に一礼して所属を告げて入室許可を得ると、リカルド達を連れて入室した。


「待っていましたよ。ヘルムート総隊長」


 大天幕に入った先に居たのは、第四騎士団団長のフェリビアだった。フェリビアの他にはサフィルロット達、八人の十二天騎。そして信康が座っていた。


「はっ! ヘルムート以下八名。お呼びにより参上しましたっ!・・・して、フェリビア団長。どの様な御用件で、我らをお呼びになったのか、早速ですが教えて頂きたいっ」


 ヘルムートは緊張した面持ちで、フェリビアにそう尋ねた。


 ヘルムートがこの天幕に来たのは、早朝にヘルムートに文が届けられたからだ。


 その文には少し話したい事があるので、傭兵部隊の諸将も連れて第四騎士団の大天幕まで来て欲しいと書かれていた。


 そして傭兵部隊の信康は、既に参加していると書かれていた。


 因みにリカルド達は初めて見るフェリビアの美貌に、呆然とした様子で見惚れていた。


「ええ。その件についてですが・・・先ずはお掛けになって下さい。戦地ですので大した物は用意出来ませんが、食事を取りながら話を続けましょう」


 フェリビアに促されて、ヘルムート達は適当に用意された椅子に座った。ヘルムート達が座ったのと同時に、昼食がテーブルに並べられて行った。


 大天幕内に居る全員に昼食が並べられたのを確認してから、フェリビアは再び開口する。


「皆さん。どうぞ好きに食べ始めて下さい。話を戻しますが・・・私は偵察に出ていて事後報告で知りました。傭兵部隊(貴方がた)が現況打開の為に、砦攻略に出陣するとか?」


「確かにその通りです。それが何か問題でも?」


 フェリビアが言った内容を聞いて、ヘルムートは問題の有無が存在するか尋ねた。


 仮に作戦が失敗しても損害を被るのは傭兵部隊だけであり、第四騎士団は無関係であるにも関わらず干渉して来る理由が分からなかったからだ。


「ええ、それが残念ながらありまして・・・それは傭兵部隊(そちら)のノブヤスが、第四騎士団(こちら)のゲルグスに共に参戦しないかと誘って来たのです」


「な、何ですとぉっ!?」


 ヘルムートは驚愕した声を上げた後、咄嗟に信康の方に視線を向けた。


 リカルド達はヘルムートの反応を見て、困った様子で一斉に溜息を吐いた。


「傭兵部隊にのみ下された作戦に第四騎士団に所属しているゲルグスが勝手に参戦しては、流石に問題があります。ヘルムート総隊長」


「ぐっ! 言葉も無い・・・っ。」


 フェリビアの指摘に、ヘルムートはただ頭を下げるしか出来なかった。


 その一方で、当事者の信康は昼食を食べていた。


「ノブヤスッ! 何故そんな真似をしたっ!?」


 ヘルムートは怒りながら、信康に問い詰めた。


 そんなヘルムートの様子に対して、信康は顔色一つ変えずに食べている手を止めて返事を始める。


「そんなに怒らないで下さいよ。総隊長・・・俺はただ、保険の心算でゲルグスに声を掛けたんです。ゲルグスも初戦で敵に煮え湯を飲まされそうになりましてね。その鬱憤を晴らすのに、丁度良いかと思っただけですよ」


「だからと言って、別の部隊に声を掛ける奴があるかっ!! これは明らかな越権行為だぞっ!!」


 信康は悪びれずにそう言うと、ヘルムートは激昂して信康に怒鳴り付けた。そんな憤怒しているヘルムートに、信康はただ肩を竦めた。


「独断専行の罪に問われる懸念、勿論ありました。しかし、作戦を成功さえさせれば、誰も文句など言えないし咎めないだろうと思いましてね。俺の行動が些か軽率だった事は認めます。すみませんでした」


 信康は自分の非を素直に認めて頭を下げた。


「そ、それを言うならばっ、何も考えず手柄欲しさに参戦しようとしたわたくしに問題がありますっ! ノブヤスは何も悪くありませんわっ!!」


 ゲルグスは立ち上がって、信康を庇い始めた。


 ゲルグスが信康を擁護した様子を見て、フェリビア達は驚いた様子でゲルグスを見詰めていた。


「落ち着きなさい。ゲルグス。ノブヤスも頭を上げて結構ですよ」


 其処へフェリビアが現況を収める為に、信康達三人の間に仲介に入った。


「確かに問題視こそしましたが、この件に関してノブヤスに罰を与えようとは思いません」


「フェリビア団長。それは、とてもありがたいご配慮ですが・・・それでは他に、何かご要望でもお有りでしょうか?」


 ヘルムートはフェリビアの真意が読み取れず、思わず本人にそれを尋ねた。


「はい。砦攻略の件ですが・・・此処は砦攻略の成功率を高めるべく、傭兵部隊単独ではなく第四騎士団(わたしたち)との合同作戦任務と言う事にしないか提案します」


 フェリビアの提案に、ヘルムート達傭兵部隊の諸将は驚愕してお互いの顔を見合わせた。サフィルロット達も反応の大きさに大小の差はあれど、フェリビアの提案に驚いていた。


「それは・・・願っても無い話です。しかし何故、フェリビア団長達が参加して下さるのですか?」


 ヘルムートが困惑しながら、フェリビアに参戦理由を尋ねた。


「簡単な話です。このままではジリ貧であり、現況を打開しなければ我が軍は敗戦する・・・とまでは言いませんが、被る被害が大きくなるのは間違いありません。・・・更にノブヤスが立案した作戦の全容を聞いて、成功率が非常に高いと判断しました」


 フェリビアは信康が立案した作戦を称賛しながら、第四騎士団が参戦する理由を簡潔に述べた。


「へぇ。フェリビアが其処まで言うなんてね」


「興味深い話です」


 フェリビアの称賛を聞いて、サフィルロット達は興味深そうに信康を見詰めていた。その様子から、十二天騎士も全員が信康の立案した作戦内容を知っている訳では無いみたいだった。信康は注目が集まった事に、少し照れ臭そうに鼻を掻いた。


「なので此処は一つ、私達第四騎士団二千と傭兵部隊約五百。合計約二千五百で作戦を実行しましょう。ノブヤスが言うには傭兵部隊は全員ではなく、約二、三百程が本陣に待機すると聞いてますが?」


「ええ、その予定「いやいやいやっ! それは違いますよっ!!」・・・おい、ロイドッ」


 フェリビアが確認する様にそう尋ねると、ヘルムートが肯定しようとして途中で遮られた。ヘルムートの返答を遮ったのは、参戦を辞退したロイドであった。


「総隊長。プヨ軍に戦況を有利に出来るかどうかの、大事な一戦ですよ? 参戦するに、決まっているじゃないですか」


「ロイドの言う通りです。我々傭兵部隊は、ヘルムート総隊長を含め全員で参戦させて頂きます。無論、ノブヤスが立てた作戦通りに動きます」


 ロイドに続いて、同じく参戦を辞退していたカインも同意する様に参戦を表明していた。


 第四騎士団が砦攻略に参戦するのを見て、成功率が跳ね上がったと判断したのだろう。


 そんな図々しい二人を見て、リカルド達は思わず半眼視で二人を睨み付けていた。


「・・・はぁ~」


「ぷっ、くくくくっ」


因みにヘルムートは、ただ呆れた様に溜息を吐いていた。そして信康は、笑いを堪えて腹を抱えていた。


「・・・フェリビア団長。此度の砦攻略ですが、我々傭兵部隊はロイドが言う様に全員で参戦します。ノブヤスが立案した作戦通りに」


「分かりました。よろしくお願いします」


 ヘルムートが改めて傭兵部隊は総員約七百で参戦すると正式に表明すると、フェリビアは余計な反応をする事無く承諾した。


 こうして砦攻略は、第四騎士団と傭兵部隊の合同任務として実行される事となった。

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