表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

165/418

第161話

 プヨ歴V二十六年八月二十七日。朝。




 プヨ王国軍はダナン要塞の西側に広がる、パリストーレ平原に布陣していた。


 そのパリストーレ平原に布陣しているプヨ王国軍だが、全軍の士気は未だに低下していた。


 救援に向かったダナン要塞の救援に間に合わず、守将以下全ての将兵が殺された。


 幸いだったのは、その城塞には非戦闘員である村人達は居なかった事だ。ダナン要塞の周辺には村々は無く、避難先の対象に選ばれていなかったのが不幸中の幸いだった。


 しかし結果で言えば、唯一と言える幸運な点はそれだけだ。


 カロキヤ公国軍は殺した将兵の首を斬り落としてその死体を杭に刺して、プヨ王国軍が見える所に放置した。それを奪還しようとプヨ王国軍の第一騎士団が奪還部隊を派遣した結果、待ち構えていたカロキヤ公国軍の伏兵が攻撃して被害が増す。無論、その攻撃で倒れた団員達も城兵達と同じ末路を辿った。


 プヨ王国軍が奪還に失敗した後、カロキヤ公国軍は残酷にも殺したプヨ王国軍の将兵の首を一斉にプヨ王国軍の陣地に届けていた。


 馬を荷車に繋げて、その荷車に生首を乗せた袋を満載して。


 しかもその生首の耳には、その首の耳には穴を開けてられ紐に通された紙があった。その紙には、生首の者の名前が書かれていた。


 届けられる首級は皆、苦痛に満ちた表情を浮かべていた。


 全ての首級がそんな表情を浮かべているので、どんな死に方のしたのかと思われた。


 プヨ王国軍は敵の非道な行為により、士気が下がっていた。こういった残虐行為の類は逆に憤怒や憎悪を増長させて士気を上げてしまう悪手なのだが、度が過ぎるとこういった士気低下に繋がるものであった。


 既に兵士の中には、カロキヤ公国軍征西軍団軍団長のブラスタグスに恐怖する者も出始めた。


 このままでは不味いと考えてプヨ王国軍の諸将は早朝から軍議を行い対策を練ているが、妙案が出ていない。


 第三副隊長兼第四小隊小隊長になった信康だが、軍議に参加は出来なかった。


 と言うよりも、ヘルムート以外の傭兵部隊の諸将は全員参加出来なかった。


 フェネルの時は自軍の状況と作戦を伝える為に傭兵部隊にも参加させたが、本来であれば軍議に参加させる必要は無かった。


 更に言えばリカルドが分不相応にグレゴートに意見した事に反発した一部の諸将が、傭兵部隊の諸将を締め出したのも、不参加の要因であった。


 なので現在、信康達はダナン要塞奪還の軍議に参加する事が出来なかった。こう言った現状から、グレゴート達が現在どの様な話し合いをしているか分からない。


 そんな訳で暇を持て余している傭兵部隊の諸将は、朝食を終えてからある天幕に集結して独自で対抗策を練っていた。


「このまま布陣していたら、士気は下がるだけだ。大将達は何か良い考えが無いものかね?」


 カインは顎を撫でながら言う。


「だがよ。敵は落とした城塞に本陣を置いて、外にも軍を置いているぞ。守りに入っているんだ」


 ロイドは現況を把握している様で、その情報を話した。


 それを聞いて、バーンは吼える。


「守りに入ったからと言っても、無理攻めで要塞はボロボロなんだっ! 探せば必ず、何処かに敵の弱点はある筈だ。其処を攻めりゃ、敵は瓦解する筈だろう!」


「バーンの意見に同意するけど・・・敵は川を盾にしているから、攻めるのはかなり難しいわね」


 ライナは頬に手を当てて、困ったように言う。


 この状況では打つ手が無い。これでは、武功を稼ぐ事が出来ない。


 稼げなければ金が手に入らない。それでは傭兵からしたら、商売あがったりだ。


「上層部は何かしら手を打とうと考えているみたいだけど・・・今の所何も言ってこない所を見ると、何の手立てが出てこない様ね」


 ティファはこの状況を見て、何の考えも浮かばない上層部に不満のようだ。


「流石にこの状況だと、どうしても攻めるのが難しいからね。でも、このままだとジリ貧になるわね」


 ヒルダレイアはこの状況をどうにかしないと駄目だと言う。


「じゃあ、ヒルダ。何か案があるのか?」


「う~ん。いきなり敵の要塞を攻めるんじゃなくて、先ず近くにある砦を攻め落として敵を挑発するとかはどうかしら?」


 バーンが訊ねてきたので、ヒルダレイアは自分の考えを答える。


 ヒルダレイアの言う通り、ダナン要塞の近くにある川を挟んで南に数キロ行った所にある小山には監視所があった。


 カロキヤ公国軍はその監視所も接収して砦に改造した。その砦にもカロキヤ公国軍は一千人程配備されていた。


「それも悪くないが、一つだけ問題があるな。砦に行く途中には、串刺しにされた味方の死体があるんだぜ。其処ら辺に行くと、敵兵の攻撃を受けるぜ」


「そうなのよね~」


 ヒルダレイアも溜め息を吐いた。なので、どうにも出来ない。


「・・・・・・いっその事を、串刺しにされた味方の死体を回収するというのは、どうだろうか」


 今迄、一言も発しなかったリカルドがボソリとこぼした。


 それを聞いて、全員がリカルドを見る。


「おいおい、リカルド。第一騎士団がその死体を回収しようとしてお前、どうなったか知っているだろう?」


「うむ。死体が置いてある場所の付近は、兵が隠れるのに絶好の場所だ。迂闊に近づけば、嬲り殺しになるぞ」


「そうね。でも、大部隊を動かせば敵も動くわ。そうしたら、分かるでしょう?」


「部隊が攻められたら、その部隊を助ける為に戦力を投入しないといけない。敵も同じ事をするわ。そうやって逐次戦力投入された先は、泥沼よ」


「それでもしお互いの軍が瓦解したら、私らの出番もなくなるわね」


「リカルド。それぐらいは分かっているだろう?」


 バーンが皆の話を締めくくる様に言う。


「確かにそうだ。でも、このまま味方の死体を放置したら、余計に士気が下がるだけだぞ。だったら、士気を回復させる為にも死体を回収すべきだよ」


「確かに、そうだが」


 リカルドの言葉にも一理あるので、皆言葉を詰まらせた。


 それを見て信康は、漸く口を出した。


「・・・・・・だったら、敵が増援が来れないようにしたら良いだけじゃないか?」


 信康の言葉に、全員が意味が分からず首を傾げた。


「どういう意味だ?」


「簡単な事だ。串刺しにされた味方を回収する策が一つあるんだが、乗るか?」


「考え?」


「乗る前に、どんな考えか訊いて良いか?」


「ああ、先ずはな」


 信康は考えを話した。


「・・・・・・と言うのが俺の考えた策だ。どうだ? 乗るか?」


「乗った」


 リカルドは話を聞いて、直ぐに乗った。


「私もよ。と言うかノブヤスの案なら、心配してないから」 


 ティファも乗った。


「「「「・・・・・・・・・」」」」


 ヒルダレイア、バーン、ロイド、カインはどう答えるか悩んでいた。


 ライナは信康を見る。


「ねぇ、ノブヤス。一つだけ聞いても良いかしら?」


「何だ?」


「その作戦だと、敵の飛行兵に見つからない様にしないといけないけど、それはどうするの?」


「それについては第四騎士団に伝手があるから、援軍を頼んでみる。もし無理なら、俺の第四小隊が騎乗する魔馬人形(ゴーレムホース)に搭載されている飛行形態で、飛行兵の相手をする予定だ」


「成程・・・それにしても羨ましいわね。私も一騎、頼もうかしら?・・・作戦の方だけど、私も乗るわ」


「ライナ!?」


「お前もかよ」


 ヒルダレイアとバーンは、呆れた様に言う。


「お前等はどうする?」


「ちょっと上手く行くか分からないから、俺は辞退(パス)だ」


「俺もだ」


 ロイドとカインは参加を拒否した。バーンは頭を掻き、ヒルダレイアも少し考える。


「・・・・・・俺は乗るぜ。少なくとも、馬鹿な作戦よりも良いだろう。それにノブヤスは前の戦争で立てた作戦が、上手く行った訳だしな。信頼してるぜ」


「・・・私も参加しておくわ。リカルドとバーンの抑え役に必要でしょうし、兵力も足りないでしょ? 二人の小隊は、どっちも二十人以下で人数が居ないんだから」


 ヒルダレイアがそう言うと、リカルドとバーンがばつが悪そうな表情を浮かべた。


 更にライナも不機嫌そうな表情で、リカルドを睨み付けていた。実は初戦でカロキヤ公国軍が仕掛けて来た誘引計に、最も被害を被ったのがリカルドとバーンの二小隊であった。


 壊滅的な損害を受けて二小隊の生存者はヒルダレイアが言う様に、二十人以下にまで減らされて小隊を通り越して二個分隊程度になってしまっていたのだ。


 更にライナもリカルドと共に行動していた所為で、要らぬとばっちりを受けていた。


 ライナの制止を聞かずに罠に嵌り、ライナはリカルドを救援する為に麾下小隊が半壊する程の被害を被るとばっちりを受けていた。


 更にリカルドは自身の軽率な行動に関して謝罪はしても、プヨ王国の民を救おうとした行動自体に後悔は無いと余計な一言を口にしたが為に、ライナと大口論になったらしい。


 ただでさえリカルドとライナは相性が悪かったのがこの事件を切っ掛けに、二人の不仲は決定的なものになってしまったのである。因みに信康を除くヘルムート達他の六小隊も損害を被っているが、それでも百人以上の兵力は温存出来て居た。


「ふむ。総隊長は本陣に残らないといけないだろうから、不参加者はロイドとカイン。残りは全員参加だな? となると人数は四百五十前後か。まぁ俺の小隊だけでもやろうと思っていたから、これで満足しておくか。後はこの作戦を総隊長に話して許可を貰うだけだな」


 信康はヘルムートが戻って来るのを待った。


 軍議を終えたヘルムートに信康は自分が立てた作戦を話し出した。


 その作戦を聞いたヘルムートはこれは上の裁可が必要だと判断し、グレゴートの下に出向き自分の指揮下の傭兵部隊からこの様な作戦が立てられたと報告した。


 話を聞いたグレゴートは、再び諸将を招集して暫し話し合った。


 結果。成功すればプヨ王国軍の士気が回復し、失敗しても戦力が其処まで低下しないと判断され、作戦の実行の認可を与えた。


 その話し合いが行われている頃、フェリビアは麾下の第四騎士団を率いて偵察に赴いていたので、参加出来ていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ