第108話
第二陣の傭兵達に兵舎を案内して、各々で中年女性の管理人から自分の部屋の鍵を貰いその部屋で各自荷解きをしだした。
傭兵達が自分の部屋に引っ込んだのを見たヘルムートは『会議室に行くぞ』と言うので、信康達はヘルムートの後に付いて行った。
少し歩くと直ぐに、会議室の前に着いた信康達。
ヘルムートはそのまま、扉を開ける。
誰も居ないのだから、ノックなどする必要が無い。
ヘルムートが会議室の中へ、入って行った。
ヘルムートが会議室へ入室したのを見て、信康達もその後に続いた。
会議室にはに入った信康達は、各々で着席する。その際に信康は、これまで交流が無かった諸将の確認を始めた。
先ずは三人居る女性将校で、唯一信康と交流が無かった人物だ。
名前はライナと言って、種族は魔族であった。
ライナの容貌は、一般的に知られている魔族の姿の絵に描いたが如くであった。
青肌に金瞳。森人族の様に細長い耳に藍髪。羊の様に、捩じれた黒角。
着ている服は、露出が激しい格好であった。
襟は付いている、黒い水着の様な格好であった。
足には半ばまでの、黒いニーソックス。
女性でも余程自分に自信がないと着れない、ハイレグワンピースであった。
ウエストラインの所まで切り込まれており、生地の部分よりも素肌の方が多く出ていた。
現に下乳が見えるので、会議室にいる男性達は信康を除いて思わず見ていた。そんな男性陣の様子に、ヒルダレイアとティファは呆れていた。
信康と視線を交えると、目を向けて会釈した。
会釈したので、信康も会釈で返した。
信康はライナを見て、綺麗だなと思っていた。
あまりジロジロと見続けるのも失礼なので、信康はライナから視線を外す。ライナから視線を外して、男性陣に視線を変える。
其処に居たのはバーン、カイン、ロイドの三人だ。バーンを除いて、交流がない二人を信康はジッと見る。
カイン・ド・ホーランド。
ルノワとティファから聞いた話だと、ガリア連合王国に所属していた王国の一つであるブリュセル王国出身だと言う。実家は騎士の家系で、十代の頃から正騎士位を持つ騎士として活躍。
最終的には騎士団の団長にまで出世し、男爵位を陞爵された元貴族なのだと言う。しかし隣国との戦争でブリュセル王国は、敗戦の末に滅亡してしまったそうだ。
戦争から生き延びたカインは生き残った部下達を集めると、共に傭兵団を結成しその傭兵団の団長となった。心機一転して立身出世を求めて戦場を渡り歩くも、ある戦争に参加した所為で傭兵団は自分を残して全滅。
それから一匹狼の傭兵として、プヨ王国にまで流離っていたとの事だ。槍術の腕は傭兵部隊内では随一と言われており、堅実な性格の持ち主だと言われている。
ロイド・ビバーリオル。
ルノワとティファの話によると評判の良い大工だったらしいがその腕の良さを妬んだ先輩に、ロイドは嵌めて冤罪で刑務所に入れさせたらしい。刑務所を脱獄したロイドは報復として、その先輩を二度と仕事出来ない身体にしたと言う。
それから脱獄犯として祖国で指名手配されたので、祖国を出奔。以来傭兵として活動しているそうだ。元一流大工という事で、建築設計などはお手の物であり工作兵として活躍している。それは先のパリストーレ平原の会戦でも、その工作における練度の高さを証明している。
信康は初めてこの軍議に参加するので、分からない事があったら教えて貰える様に、リカルドとティファの間に座った。
「さて、諸将が全員揃った所で会議を始めたいと思う」
「会議の内容は、勿論新しく入って来た新兵共の事で良いんで?」
「と言うか、それしか無いだろう」
ロイドの確認する様な質問に、カインは答えた。
ヘルムートは頷いた。
「その通りだ。それから自己紹介などする必要も無いだろうが、一応言っておく。戦死したグスタフの代わりに新しい小隊長として、何より副隊長としてノブヤスを連れて来た。お前等、仲良くしろよ」
「任せろ!」
「ふっふふ、よろしくね」
バーンは胸を叩き、ライナは信康に微笑んだ。
「さて。ロイドが言った様に、今日の会議の議題はこれだ」
ヘルムートは会議室のある棚から、大量の資料を長机に置いた。
「これは?」
「今回募集した傭兵達の名簿だ。全員で目を通して、この中から自分の小隊に加えたい者を選んでくれ」
「もし欲しいと思った奴等が被っちまった時は、どうしたら良いんで?」
「その時は話し合いか籤引きか、何でも良いから決めてくれ。但し決闘だけは許さんからな。分かったな?」
ヘルムートが念押しして言うと、信康達は一斉に頷いて首肯した。それから新兵名簿を、この場に集まった諸将に渡した。
「ああ、それと・・・これはお願いなんだが」
ヘルムートが言葉を濁らせながら、何かをお願いしてきた。
リカルド達は何だろうと思いながら、ヘルムートの言葉を聞く。
「知っている奴もいるだろうが、今回の募兵で『魔学狂姉妹』が居るんだが、そいつらについてだ」
ヘルムートがそう言うと、信康以外の全員が嫌そうな顔をした。
「まさか俺達の小隊にあの姉妹を入れろとか、そんな無碍な事は言ったりしないっすよね? 総隊長??」
ロイドがそう言うと、ヘルムートは拝む様に頼み込んだ。
「そのまさかだ。折り入って頼む。俺の小隊じゃあ、あいつ等を絶対持て余すだろう。と言うかはっきり言って、入れたくないんだよ。お前達の小隊で使ってくれっ!!」
『断固拒否するっっっ!? と言うか、自分が嫌な事を他人に押し付けるなっっ!!?』
バーン、ロイド、カイン、ヒルダレイア、リカルドは異口同音で、即答でヘルムートの頼みを断った。
ティファは呆れる様に肩を竦め、ライナは苦笑した。
「総隊長も分かっているだろう!? あの姉妹、命令違反や独断専行なんて朝飯前。開発した新兵器とやらを試験運動もさせないで、いきなり実戦に持ち込んで敵味方多数の被害者を出す事も数え切れず、挙句の果てにゃ、自分等の魔法実験で小国が巻き込まれて滅亡したなんて噂もあるんですぜっ!? そんな危ない奴等を自分の小隊の中に入れてみろっ!? 敵と戦う前に、こっちが先に全滅しちまうよ!」
ロイドが諸将を代表して、敬語も忘れてはっきりとヘルムートにそう答えた。リカルドもロイドの回答に、何度も首肯して頷いていた。
ヘルムートもそう言われては、返す言葉も無いみたいだ。
「実はな・・・本人達の希望として、前線を希望しているんだよ。だから、頼むっ! あいつ等を後方に置いちまったら、何時背中に何が飛んで来るか分かったもんじゃないだろうっ!?」
ヘルムートが其処まで言うと、リカルド達は一斉に顔を合わせた。
ヘルムートの言い分も尤もなのだが、リカルド達とてどうしても自分の小隊に入れたくなかった。互いに視線だけでお前が入れろよと言い合っているが、誰一人として譲渡しようとはしない。
そうしている間にヘルムート達の視線が殺気立ち始めたのを見て、これまで沈黙を貫いていた信康が静かに手を挙げた。
「総隊長。俺で良ければ、サンジェルマン姉妹を引き取っても構いませんよ」
「お、おおっ!? 本当かっ!!・・・こちらとしても助かるが、本当に良いのか?」
「総隊長達は何だかんだ言ってますけど、此処はプヨ側に付いて傭兵部隊の下へ来てくれた事を喜ぶべきでしょう。敵に回せば、もっと厄介な事になっていた筈ですからね。それに・・・」
「うっ、お前が言っている事は正しいとは分かっているんだがな・・・それに?」
「『この世に無能で役に立たない奴は居ない。そいつ等を使い熟せない奴等が、無能で役立たずなだけだ』・・・俺の命の恩人で師匠だった人が言っていた言葉です。俺もそう思いますし、あの魔法と技術力を活用する方法は考えてありますから・・・それに美人が二人も傍に居るだけで、十分過ぎるだけの目の保養になりますからね」
信康がそう言うので、ヘルムートは笑い出した。
「はっははは、お前、折角良い事を言っていたのに最後で台無しだぞ。女で身を滅ぼさない様に気を付けろよっ」
「さて、どうだろうな」
「まぁ良い。こちらとしては、非常に助かる話だ。頑張ってあいつ等を使い熟してくれよ」
「承知しました」
サンジェルマン姉妹を自分の小隊に入れた信康は続けて名簿を開き、自分の小隊に入れる未来の隊員候補達を選出し始めた。リカルド達もサンジェルマン姉妹を引き取らずに済んだ事に安堵して、信康と同様に自分の小隊に入れる未来の小隊員候補達を選出し始めた。




