第49回 「なんでそんなことゆうの?」
「ばかでかいコーレルバードに追いかけられた?」
どうにかキャラクター死亡などという事故には発展せず、俺たちはアーヴァインの店に戻ってきていた。
「あんなバカでかいのがいるなんて聞いてないっス!」
「だから雛鳥を襲うなんてやめようって言ったんだよぅ」
「罰が当たったっていうのか・・・とほほ」
俺たちが店前においてあったテーブルで、へたり込むように椅子に座っていると、アーヴァインが難しい顔をして考え込んでいる。
何度も言うが、命からがらといった体で全力疾走したとて、俺たちの本体は部屋のPCの前から動いてないわけで、疲労は全くない。
しかしながらキャラクター死亡の憂き目を、ぎりぎりで回避という状況が精神をゴリゴリと削っていた。
考え込んでいたアーヴァインがふと思い至ったように、ポンと手を打つ。
「あーそれボスモンスターだわ。ほら、固有名称付きっていうの?」
「「ええっ!?」」
俺とマナはそろって声を上げた。
ったく、最初の探索で森のボスと遭遇って・・・。運がいいのか悪いのか。
「えーと、たしか"サイラス・フェザー"ってやつだな。森の支配者って意味の名前らしいぞ」
「大ボスじゃないですか・・」
俺はため息をつきながら、ふと思い出してインベントリから1枚の羽根を取り出す。
→コーレルバード(雛鳥)の羽根×1:収集アイテム
「お、転んでもタダでは起きない」
アーヴァインはからからと笑いながら、俺から羽根を受け取った。
「残念だがこれ1枚の価値は50シルバーってとこだな」
「まぁこの際、徒労じゃなきゃなんでも・・」
俺とアーヴァインがそんなやり取りをしていると、その横でマナは何やら思案顔。
「"サイラス・フェザー"・・・森の支配者・・・」
「ん?どうかしたのか?」
気になってそちらを向くと、マナも何やらインベントリを操作し手何かを取り出す。
出てきたのはなんと、抱えるほど巨大なコーレルバードの羽根。
いや、まさかとは思うけど、マナ。それって。
「うぉ、サイラスの羽根か!?」
アーヴァインも流石に驚愕の表情だ。
→サイラス・フェザーの大羽根×1:森の支配者たる大怪鳥の羽根。収集アイテム
恐る恐る羽根をタップすると、そんな情報。
「え、えと、ほら。攻撃される度にちらほら抜け落ちてたから・・」
そう言って希少なボスモンスターの羽根を何枚も、ええと、合計で4枚、インベントリから取り出すのだ。
なんと言う強かさ。
「お前、略奪はやめようよ、とか言っておいて・・」
「ぼ、ぼす相手なら、一方的じゃないもんっ」
ばつの悪そうな顔をして、マナはアーヴァインに羽根を手渡す。
羽根の状態を確認したアーヴァインは顔をほころばせて、口笛を吹く。
「うん、いいね。状態も悪くない。1枚1000として合計4000シルバー。ってところでどうだい?」
「わ、そんなにいいんですか?」
「大きさっていうより、この場合希少価値もあるからね。加工して売ればこちらとしても十分利益が見込める」
アーヴァインは早くも何に加工しようか構想しているようだ。羽根を眺めながら楽し気に頷いている。
「まぁ、もう一度とって来いって言われてもカンベンですけどね」
「それは私も同感・・・」
「まぁそれは流石に高望みだけどね。まぁ普通の羽根も随時買い取ってるから、しばらくコーレルに居るなら引き続きどうだい?ほら、"ナイトフェス"の間だけでもさ」
羽根の事は、ありがたく稼がせていただくとして、何やら聞き慣れない単語が出てきた。
「ないとふぇす?」
「??」
マナもそれは気になったようで、説明を求める様に二人してアーヴァインに視線を送る。
しかしながら、アーヴァインは首をかしげて意外そうな顔。
「あ、あれ?もしかして昨日、知らないで参加してたの?」
「え、じゃあ昨日のアレって」
「たまたまイベント中だったのか」
コーレルってこんなお祭り騒ぎ、毎晩のようにやってるのかな。なんて考えてたわけだけど。うへぇ、コーレル在住のプレイヤーってお祭り好きなんだなーとか、漠然と考えていたわけだけど、平素はそうでもないらしい。
なんというか、がっかりしたような、安心したような?
「コーレル・ナイトフェスティバル。毎月どこかの週末にぶっ通しでお祭り騒ぎするのさ。本当は今日からなんだけど、毎回気の早い奴らが"前夜祭"とか言って、木曜の夜から騒いでるよ」
オレはふと、森へ出かける前にアーヴァインが言っていたセリフを思い出した。
「なるほど、それで"前夜祭の歌姫"・・・ね」
「ええ~・・私、もしかして悪目立ちしちゃった?」
納得顔で頷く俺に、急に人目が気になりだしたようにキョドるマナ。
アーヴァインが堪えるように笑った後、すうっと、マナの顔を覗き込む。マナがどきっとしたように、わずかに身を引くのが分かった。
なんにしろ。
「んー、そうだなぁ。このルックスだもんな。人気出てもおかしくないかもなァ」
そんなことを言うもんだから。
「え、ええ!?困るっ!」
自他ともに認めるコミュ障気味のマナは、悲鳴じみた声を上げる。
俺はちょっと面白がるようにマナの肩をバシバシたたく。
嗚呼、そうだ。そういえば俺は、俺の親切の押し売りを、何でマナがドはっきり拒否したのか。それをちゃんとわかっていなかったんだ。
「ははは、良いじゃないか。もしかしたら友達いっぱいできるかもしれないぞ」
だからそれは、本当に何気なく、つるっと飛び出したような軽い気持ちの一言だったのだ。
しかし、マナはわかりやすく不機嫌面になると、俺には聞こえない小声でぼそぼそ何か言うのだが、俺が気になって聞き返すようなニュアンスを送っても、プイっと横を向いてしまう。
そんで。
「もう、しらないよっ。私、先に部屋に戻ってるからっ」
「お、おいマナ?」
止める間もなく、マナはすたすたと帰路についてしまう。
隣ではアーヴァインが心底面白そうにくっくっと笑い声を漏らしている。
「え、ええ~・・・俺が何言ったってんだよぉ」
マナの去って言った方の夜道に向かって、無意味に手を伸ばして、何もつかめずにしょぼんと手を下ろす。
「"そういうのが欲しいんじゃないもん。もう、何でユージンがそんなこと言うのサ"・・・だってさ」
今度は俺が、ニヤニヤ笑いながらのアーヴァインに肩をたたかれる。
「え、聞こえたんスか? ていうかどういう意味?」
肩をたたかれながら俺が首をかしげていると、今度はアーヴァインがぽかんとした顔になる。
「え、えー・・・そこで首傾げちゃう? いや、そうすっとにーさんもにーさんで大概だよなぁ」
どういうわけか困った顔でそんなことを言うのだ。
「え、なんなんですか、いったい」
俺が重ねて問うても、アーヴァインはなお困った顔で頭を掻き、更にため息。
「んーそこは自分で気が付かないとなァ・・っていうか早く彼女サン追いかけなきゃ。ほら御機嫌取りご機嫌取り。ハリィハリィ」
そんな風に追い立てられ、訳が分からないうちに俺も帰路につく。
何だっていうんだ・・・。
◇◆◇◆◇
戻ってきまして宿屋の一室。
マナはベッドの向こう端に、俺に背を向けて座っている。
顔は見えないが、背中越しにも不機嫌なのがわかる。
うわぁ、声かけづらい。
でも、いままで"ちょっと軽く拗ねてみました"みたいな事は有っても、ここまでひどく拗らせたようなのは稀だ。きっと何か理由があるんだろうし、今後の為にも無視ってわけにはいかない。
「・・・ごめん」
「・・・なんで謝るの?」
そんなつれない返事。重症だな。
でもここに至って俺にはその理由がわからない。
やれやれ、今夜も長くなりそうだ・・・。
俺は長期戦を覚悟して、マナの反対側に腰を下ろすのだった。




