第3回 「ゲンザイチー」
「ぬぅぉぉぉぉ……」
俺はうめき声をあげながら、裏路地を歩く。
時刻はそろそろ日も暮れようかという、いい時間。
「ぬぅぅぅぅぅん……」
俺は自分がうめき声をあげるに至る理由、それを持つ自分の手元に目を落とした。そこには紙でできた折り畳みの簡素な地図、所謂タウンマップの様な物があった。
今何をしてるかって?
いやぁ、よくぞ聞いてくれました。
ピンク姐さんとの壮絶な名刺交換の後、俺は気を取り直して「俺の物語」を開始した。
そして意気揚々と街へ繰り出した俺は、早々に道に迷った。
い、いやだって、リアルの俺の街より広いんだぜ!?
遠目に見える王城のおかげで、何とか方向感だけは見失うことはなかったが、一歩大通りを裏に抜ければ、街は迷路のようだった。まぁ元から行く当てがあったかというと、目的地すら決まってないわけだが。
これから俺がこの世界で何をするにしろ、まずは情報を集めなければ何も始まらない。早くバトルがしたくて、何も知らないまま即街の外を目指しても、最弱モンスターにぼこぼこにされて死亡、さっきの「始まりの庭」で復活する……なんてのは御免だ。
兎にも角にも人口密集地、ちゃんと俺と会話できるプレイヤーの集まる場所を目指さなければならない。
途中たまたますれ違ったプレイヤーにすがる思いで話しかけた。
「初心者が情報集めるのにいい場所? んー、それなら『商業区』かなぁ? ああそうだ。オレちょっと用事あるから案内とかできないんだけどさ……いいもんがあるよ」
そう言って渡されたのがこのタウンマップ【王都ヴァルハラ】だ。
今の俺にとっては願ってもない神アイテム! 俺は立ち去るそのプレイヤーに向かって拝みながら別れ、今に至る。
ならなんで、いまだに路地裏でうなり声をあげているのかって?
それなんですよ奥さん。ききまして? え、きいてない? ああ、そう。
それはいいとして、喜々としてトレードで受け取ったタウンマップアイテムを使おうとして、インベントリの中のアイテム名を指でタップする。
目の前の空中でやや控えめに光が起こり、マップアイテムが具現化する演出が起こる。俺のキャラクターは自動的に設定された挙動を行い、具現化したタウンマップを開いて両手に持った。
持った。
持った。
持った…………だけだった。
「んん?」
そのあといくら待っても、画面いっぱいにこの街の地図が拡大表示されるとかはなく、手の中に在る紙切れがやけにリアルに、凪に揺れるだけだった。
「持つだけかーい!!」
かーいかーいかーぃぁーぃ ーぃ……。(エコー)
そろそろ日が傾きだし、朱に染まる街並みの、どこともわからない路地裏で俺の悲痛な叫びがこだました。
そんなこんなで今に至るというわけだ。
「く、くそう、このまま終わるものか! せっかくのゲームデビュー初日に、区画ひとつ移動できないままログアウトだなんて!」
躍起になった俺は、フリーモーションモードで手に持った地図に顔を近づけ、食い入るようにそのアイテムを見つめる。
そして気が付いた。
「よ、読める……?」
いや、ちょ、まさか!?
俺はそのまま「地図アイテムの外観」に視線を向け続ける。驚いたことにそれは、タップしたら周辺の地図情報が画面に表示される類のアイテムが、簡略表示された「紙切れの様な物」などではなく、現実と同じようにそのまま内容が確認できる代物ったのだ。
なんて高解像度! 地図アイテムひとつにこのデータ量! やべぇ、どうなってんだこのゲーム! すげぇを通り越してちょっとキモぃぞ!
注:褒め言葉です。
なんにしろこれで迷子から脱出できる。
一瞬、神アイテムどころか文字通り紙アイテムじゃねぇかくっそ! とか思ってたけどやっぱり神アイテムでした!
俺はさっそく教えてもらった「商業区」を目指すべく、地図に目を走らせていく。
そして──
「現在地!?」




