12 きっとずっと
家に帰り、夜、店の片付けの手伝いをしながら母さんと話をした。
「今日、菜摘ちゃんと会ったよ」
「元気だった?」
「うん。すげえ元気。でも、ちょっと無理しているようだった」
「そう…」
「うん。これからは俺のこと、兄貴って呼ぶって言ってた」
「そうなんだ」
「でもさ、葉一がそばにいるから、大丈夫かなって」
「葉一君が?」
「うん。付き合っているんだって」
「あら、そうなの?!」
母さん、すごく驚いているな。
「あいつは俺よりずっと大人で優しいから、菜摘ちゃんもきっと、あいつがそばにいたら大丈夫だよね」
「うん、そうね」
「……。これで、良かったんだよな」
「ん?」
「全部、必要で起きているってことだよね」
「うん。そう思うわよ」
にこりと母さんは微笑んだ。
「サンキュ。母さんにもいろいろと心配かけたけど、俺はもう大丈夫だから」
「そう?前に進めた感じ?」
「うん」
母さんは優しく目を細めて微笑んだ後、
「そうね、桃子ちゃんもついていてくれてるしね。でも、本当に杏樹も言っていたけど、可愛いわよね。今度一緒に買い物に行きたいわ。洋服とか、ふわふわした女の子らしいの、似合いそうじゃない?」
と目を輝かせた。
「うん、似合うかもな」
「いいわよね~。ほら、杏樹ってどっちかって言うと、男の子っぽくて、そんな服ばっかりで小学校の頃からスカートも穿かないし、洋服買う楽しみもなくて。もっと、ふわふわしていてかわいらしい服を着せたかったのに」
「ああ、そう」
俺にはよくわかんないけどさ。でもそう言えば、杏樹は俺のお下がりとかを、小学校の頃は着ていたっけ。
「桃子ちゃんは、似合いそうだわ。一緒に洋服買いに行きたいって、言ってくれない?」
「嫌だ」
「え?どうして~~?」
「母さん、あれこれ桃子ちゃんで遊びそうだし」
「遊ぶ?」
「うん、桃子ちゃんのことだから、絶対に断れないだろうし」
「そ、そうねえ。」
「だから、駄目」
「わかったわよ~」
母さんは少し口を尖らせ、仕事をし始めた。
それにしても、油断も隙もないっていうか…。まあ、母さんと桃子ちゃんが仲が良くなるのは、悪いことじゃないけどさ。
翌朝、目が覚めて窓を開けると、すげえ快晴!もろ、秋晴れっていう天気だ。その日は祝日。俺は店の手伝いをしてから、父さんと海に散歩に行くことにした。
海を眺めながら、父さんはいろんな海の話をし始めた。俺は小さい頃から、その話を聞くのが好きだった。いつも、わくわくしながら聞いていた。
父さんの仕事部屋は青くって、海の中にいるみたいだった。海の写真や、鯨や、いるかの写真が貼ってあって、たくさんの海のDVDもある。
父さんの仕事部屋が好きで、俺はよく入りこんで父さんと海のDVDを観た。
そのDVDを観ながら、いろんな海の話をしてくれたっけ。だから、俺、ものすごく海に惹かれたんだ。
海、でかいな~。穏やかな海も、波が荒い海も、どんな表情の海も俺は好きだ。
これから父さんと、いろんな国に行っていろんな海を潜りたいな。そんな話も、父さんとした。その時には、絶対くるみも連れていくとて父さんは言った。
「はいはい、仲のいい夫婦だもんね」
「お前も、好きな子を連れて行ったらいいじゃんか」
父さんに言われた。
「え?桃子ちゃん?」
「うん」
「……」
俺は多分、真っ赤になっていたと思う。
「そんな、先のことはわかんないよ」
「でも、好きなんだろ?」
「うん」
「ま、いつか、一緒に行くことになるかもな」
「父さんは、母さんのこと可愛いって思ったことある?7つも上じゃそうそう思わないか」
「え?思うよ!7つも年が上なのに、こんな可愛いところもあるの?ってそのギャップがいいんじゃん」
「あ、そう」
いきなり、惚気かよ。
「お前も、桃子ちゃんが可愛いって思うことあるの?」
「え?!」
あるも何も、可愛いと思ってばっかりだ。でも、父さんには恥ずかしくて言えなくて、つい、
「いいじゃん。俺のことは」
って誤魔化した。
「何それ?俺には聞いといて、ずるいんじゃないの?」
「いいんだよっ」
「あはは。お前って、けっこうシャイだよね~~」
「うっさいよ」
俺はわざと海の方を見ながら、ふてくされたように言った。
「くるみのことは、そうだな~~。可愛いとも思うし、綺麗だとも思うし、優しいとも思うし、愛しいとも思うし」
「ふ~ん」
よくもまあ、息子の前で言えるよな。こっちが聞いていて恥ずかしくなる。って、初めに聞いたのは俺か。
「たまに逞しいとも思うし、強いとも思うし。前は虚勢張って生きていたって。強がって生きていたって言ってたけど、今は、まじで強いよなって思うんだよね」
「強い?」
俺は思わず父さんの方を見た。
「お前と杏樹、産んでからかな。母は強しだよね」
「へえ。そう言えば、いつも優しいけどたまに男っぽいところもあるもんね」
「うん。それだ、それ。男っぽい」
「父さんの方が、逆に女性っぽい時あるもんね」
「え?!」
「あ、女々しいってことじゃないよ。こう、優しいっていうか、穏やかっていうか…。あんまり怒んないし、感情の起伏もないほうでしょ?」
「そうだな。キレるとけっこう怖くなるけど、あまり、キレることがないかな。いつも、すごく幸せだしね」
「ふうん」
「海、今日も綺麗だよな~~」
父さんは立ち上がり、大きく伸びをした。
「父さんは、母さんと結婚して良かったって思う?」
「思ってるよ。後悔もしたことない」
父さんは海を見ながら、そう答えた。
「じゃ、俺が子どもになって、良かったって思ってる?」
父さんは振り返って、
「え~?何回言わせるの、それ」
と、ちょっと呆れ気味に言った。でも目は優しく笑っている。
「そっか…」
「そうだよ」
「じゃ、生まれてきて良かったって思ってる?」
「思ってるよ~。生まれなかったら良かったなんて、1度も思ったことないからね」
「そうなんだ」
「生まれなければ、くるみには会えなかったし、お前の父親になることもなかったし」
「うん」
「それに、こんな綺麗な風景も見れなかった」
そう言うと父さんはまた、海を眺めてから俺の横に座った。
「桃子ちゃんってさ、お前のことすごい好きみたいだよね」
「は?!」
いきなりそんなことを言われて、俺は仰天した。
「観てたらわかるよ。桃子ちゃんは、お前に出会えたことも、お前がこの世に誕生したことも絶対喜んでるし、生まれて良かったって思ってるよね」
「そ…そうかな」
俺は照れくさくて、「うん」とは言えなかった。
「人って、すごいよな。みんな繋がりあっている。俺がいなかったら、ここにお前もいなかったかもしれないし、そうしたら、桃子ちゃんはお前に出会えていなかったしね」
「うん」
「だから、もう断然思うね。俺、生まれてきて良かったって。いろんな人に影響与えてる。俺一人の存在がいるかいないかで、世界が180度変わる人がいるんだからさ」
「そうだよね。俺も、そうだよね」
「そうだよ。お前っていう存在がいなかったら、俺やくるみの幸せは半減していたかもよ?」
「血とか、関係ないんだよね」
「ん?」
「自分の血の繋がった子だからとか、そんなの関係なく、俺の存在を父さんは大事に思ってくれたんでしょ?」
「ああ、そうだよ」
「存在か…」
「どの存在も、かけがえのない存在なんだ。みんな天使だ。うん」
「天使?」
「そ。お前も、俺も、くるみも、杏樹も」
「俺、性格悪いよ?とても聖なんて名前負けしてるって、思うことあるし」
「あはははは!そうなの?性格悪いの?どこが?どんなふうに?」
「笑うところ?」
「よくわかんないや。お前の言う、性格の悪いお前」
ちぇ。まじめに話しているのにな…。
「ま、いいや。お前が自分のこと、性格が悪くて、聖って名前負けしてるって思っていても」
え?いいわけ?
「でも、そんな性格の悪いお前でも、俺やくるみは愛しちゃってるの。わかる?」
父さんはちょっと得意げ…。
「わっかんね~~」
なんか、平気で愛してるとか言うから、照れくさくてわざとそう言ってみた。
「だってさ、どんな性格だろうと、どんな聖だろうと、聖って存在には変わりないわけだから」
「……」
「だろ?」
「うん」
「お前やっぱり、素直!可愛いやつ!」
そう言って、父さんは俺の髪をぐしゃぐしゃにした。
「ちょ~~!そういうのやめてって言ってるじゃん。俺のこと、いくつだと思ってんだよ?」
「いいじゃん!」
ほんとにこの親は…。母さんといい、俺のこと子ども扱いし過ぎ。
「可愛くて、いじらしくて、しょうがないの。わかる?」
「わっかんね…、あ…」
それって、俺がいつも、桃子ちゃんのことを思っている感じ?
「どうした?」
「いや…」
そっか。
「なんか、わかるかもって思って」
「え?」
「なんでもない…」
恥ずかしいからそのことは、父さんには言わなかった。
「父さん、あれ」
「え?」
「自叙伝、母さんに見せたら駄目?」
「ああ、あれね、絶対駄目」
「なんで?いいじゃん。母さん喜ぶよ」
「いいの、あれはお前に宛てたものだから」
「じゃ、杏樹に見せちゃ駄目かな?今じゃないけど。杏樹も誰かを好きになったら、けっこう役に立つと思うんだよね」
「杏樹には、また別に書いてあるから」
「え?そうなの?!」
「杏樹が高校生くらいになったら、見せようかなって思ってるよ」
「そうなんだ。あ、じゃ、もしかして母さんにも書いてある…とか?」
「いえ~~~~す」
って、また得意げ…。
「ああ、そうなんすか」
なんだ~。そういうことか。
「くるみには、そうだな~~。お前と杏樹が結婚して、家を出てって、二人になったら見せるとするかな」
「は?そんな先?」
「うん。そんな先。でも、あっという間のような気もするよ」
「でも、俺らが家を出るかどうかは、わかんないよね」
「あはは、そっか。それもそうだな~~」
父さんはそう言って、海を見ながらしばらく笑っていた。嬉しそうに幸せそうに。そして、
「あ~~あ。やっぱり、くるみは天使だったな~~」
って呟いた。
父さんと母さんの物語を読んで思ったこと。人を愛するってすげえ…。愛ってすげえ…。
俺も、いつも愛することを忘れない、そんな人生を送るんだ。
そして俺の子にも、そのことを伝えていくんだろうな。 そうしたら、俺の子もまた自分の子どもに。
きっと、じいちゃんが父さんに愛することを伝えたから、父さんは俺にも伝えてくれたんだ。
そう考えたら、じいちゃん、すげえ、ばあちゃん、すげえって思ってしまった。
それを父さんに言ったら、
「父さんの父さん、つまり俺のじいちゃんも、父さんのことをすごく愛していたんだよ。父さんが癌だってわかった時、きっと、父さんのことをおっきな愛でちゃんと包んでくれたんじゃないかな。だから、父さんから始まったことじゃないんだ。ずっと、ずっと、この愛するってことは、親から子へ、受け継がれていたんだ。ただ、気付くかどうか、それだけだよ。多分ね」
父さんは、そんなことを言った。
「その逆もだよ」
「え?」
「子どもは、親を無条件で愛しているんだ。俺も父さんや母さんのことが、無条件で好きだよ。そりゃ、尊敬できる親だって思うけど、でも、自分を産んでくれた、それだけでも愛する存在でしょ?」
「そうだね。母さんのこと、俺もそう思う」
「うん。いつだっけな~。俺の母さん、お前のばあちゃんが言ってた。子どもは、親を選んで生まれてくるって」
「え?じゃ、俺も?」
「うん」
「そっか…」
「うん、お前は俺らに、たくさんの愛を教えてくれるために、生まれたんだと思うよ」
「愛?」
こっぱずかしい会話だけど、なんだかその時には、俺は真剣になって聞いていた。
「そ。だから、俺もくるみも、お前が生まれたこと、感謝しているってわけ。わかる?」
「母さんが、生まれてきてくれてありがとうってよく言ってたけど…。そういうこと?」
「そういうこと!」
「そういうこと、俺も自分の子どもにできるかな」
「はは…。できるさ。その前に、無条件で愛せちゃうような人に、出逢えたらいいな」
「無条件で?」
「うん。俺が、お前がどんなでも愛しちゃってるよってやつよ」
「……」
俺が何も言わないと、父さんはまた俺に向かって、
「存在、まるごと、愛しちゃってるよってやつ」
と言った。
「父さんは、母さんのことそう思ってた?」
「思っていたから、結婚した。俺の父さんと母さんもだ。お互い、無条件で愛し合っていたと思うよ」
「すごいね、それ。そんな人と出逢うのかな?俺も」
「多分ね」
「それって、どんななんだろ」
「う~~ん。俺がお前を思うみたいな感じ?何やっても可愛いし、いじらしいし、愛しいし」
「げ、きもっ!」
「なんだよ、わかりやすいように、説明しているんだろが!」
「そうだけど、父さんにそういうこと言われてもさ…」
「素直じゃないね、素直に喜べよ」
「素直じゃないところも、愛しちゃってるってわけか」
「ああ、まあ、そうだけどねっ」
父さんはニカッと笑った。
そうか。それって…。
「桃子ちゃん」
ぽつりと思わず、俺はそう無意識に呟いていた。
「え?」
「いや、なんでもない」
俺、そんなふうに思っているな、そう言えばって…。あれ?じゃ、もしかして?もしかする?
まあ、いいや。これから先のことは、わからない。
でも、今は、今を生きたらいいのかなって気もする。そして、きっとずっと、この「愛」は受け継がれていく。
俺が愛する人と、そして子どもたちに…。きっと、ずっと、永遠に。
「か~~!海ってでかいな~~。すげえ、綺麗だよな~~。生まれてきて、ほんと良かったよ。父さん」
いきなり、父さんが海に向かって叫んだ。
「は?」
「俺が1歳の時に、俺のこと海に連れて来てくれて、父さんが言った言葉」
「え?覚えてるの?」
「うん。なんかね、覚えているんだよね。その時の海も、その時の父さんや母さんの優しい瞳とか」
「そうなんだ」
そりゃあ、すげえ。
「この世界って、素晴らしいだろ?父さんが言ってたな」
「うん、俺もそう思うや」
そう答えると、にこって父さんは隣で笑った。
これから、何か大変なことが起きたとしても、それでもやっぱり、この世界は素晴らしいって俺は思っていくような気がするよ。
俺の話は、ここでおしまい。いや、俺の人生はまだまだ続くけどさ。
これから結婚して、家庭を持ったり、仕事したり、海潜りに行ったりして、これから先も楽しく生きていくと思うよ。
だけど、俺のショッキングなことが、すごく素敵なことを引き起こしてくれたって話はここでおしまい。
やっぱりさ、必然だった。起こるようになっているんだね。それも、俺らがみんな、幸せになるようになっているんだ。
桃子ちゃんと俺は、相変わらずラブラブ。
それに、菜摘ちゃんとも、仲いい兄妹でいるよ。俺も菜摘ちゃんちにたまに行く。そうすると、血の繋がった父さん(これ、他に言い方ないかな?)が、嬉しそうに俺を出迎えてくれる。あ、もちろん、菜摘ちゃんのお母さんも。
菜摘ちゃんと葉一も仲がいい。時々、6人で会う。トリプルデートってやつ。
学校では、相変わらず俺や基樹は、硬派で通っている。でも、すごく可愛い彼女がいると、みんなが知っている。
うん。文化祭にね、桃子ちゃんが来て、俺の彼女だってばれたから、みんな知っちゃったんだよね。まあ、いっか。
俺の、硬派な姿を桃子ちゃんは見ちゃったわけだけど、そんな俺もめちゃくちゃかっこよかったらしい。歌も、めちゃくちゃうまいと褒められた。
でも、俺は相変わらず、桃子ちゃんの前ではめろめろ。顔文字だらけのメールを相変わらず、送っている。
そうそう、暇な時に、父さんにもメールを送ってみた。
>用はないけど、夕焼け綺麗だから、写メ送るよ。
って。ほんとは、桃子ちゃんに送るために撮った写真を、ついでに送っただけ。
その日の夜家に帰ると、父さんにいきなり抱きつかれた。そして髪をぐしゃぐしゃにされた。あ~~。面白いよね、うちの父さんって…。
蘭ちゃんと基樹、このカップルはなかなか激しい。すごい喧嘩をたまにして、もう別れるってなる時がある。でも、放っておいても、2~3日後にはラブラブになっている。ほんと、1番人騒がせなカップルだよ。
母さんは…。とうとう桃子ちゃんを買い物に連れ出してしまった。そして、ひらひらの可愛い洋服をプレゼントしたらしい。あ~~あ。やっちまった。
次のデートで、桃子ちゃんがそれを着てきた。超可愛かった。だから、俺は心の中で「やったね、母さん!」って喜んだ。あ~~あ。結局俺も、そんなもんだよ。
だけど桃子ちゃんも、母さんにプレゼントされたって、すごく嬉しそうだった。そんな桃子ちゃんも、超可愛いよね。
そうそう。最近、我が家は家族が増えた。杏樹が捨て犬を拾ってきたんだ。真っ黒で、目がまん丸で…。名前は「クロ」。俺が、8歳の時に死んじゃった犬の名前。真っ黒だから、また、「クロ」って名付けた。
目がまん丸で潤んでいて、もう、桃子ちゃんに7そっくり!本当は、俺、「桃ちゃん」って名前をつけたかったほどだ。でも、母さんに、紛らわしからその名前はやめてねって言われた。
え?そんな理由?でも、母さんもクロのまん丸の目を見るたびに、
「ほんと、桃子ちゃんに似ているわ。もし、名前が桃ちゃんだったら、桃子ちゃんに話しかけてるって錯覚しちゃうところだわよ」
って言ってるよ。
ああ、そう言えば、もうクリスマスイブじゃん。俺の誕生日じゃん。
最近、俺、名前負けしているって思わなくなった。「性格悪っ」て自分のことを思っても、ま、いっか、そんな俺でも。神様は、そんな俺でも愛してくれてるね…。なんてさ、そんなふうに思ってさ。
12月24日。クリスマスイブ。父さんや母さんは、誕生日プレゼントをくれる。
小学校5年の時に友達からばらされて、サンタはこの世にいないことを知った。でも父さんは、
「はい。サンタさんからのプレゼント」
と言って、誕生日のプレゼント以外に、もう一つプレゼントをくれる。
「サンタはいないんだよ。そんなこと、俺もう知ってるよ」
俺は、父さんに大人ぶって言ったけれど、
「じゃ、父さんからのプレゼントってことでもいいや」
と父さんはその時、嬉しそうに笑った。
今までのも、全部父さんがくれてたプレゼントなんだって、初めはがっかりしたけれど、いつだっけか、父さんに感謝した。
「クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントが一緒って、なんか悲しいじゃん。もし俺がいっしょくたにされていたら、悲しいもんな」
父さんはそう俺に言った。母さんは、
「それ、聖を妊娠したってわかった時から、言ってるよね」
と、父さんの隣で笑ってた。
そんな父さんも、いじらしいじゃん。って思ったりするけど、そんなことは絶対に父さんには言わない。
明日のクリスマスは、桃子ちゃんと二人っきりで過ごす。プレゼントも買ってある。
俺はプレゼントを眺めながら、つい、にやけてしまう。明日、桃子ちゃん、どんな顔をするのかな。
今日も最高の日だった。そして、きっと明日も…。
これからもずっと…。きっとずっと、最高の日だね。
~おわり~




