第68話 竜化補助装置
肝心の活用方法だが……実は既に一個、ガス惑星での鉱石回収中に思いついた案がある。
早速、アイデアを形にしてみよう。
数秒頭の中で設計を整理すると、俺は収納魔法で必要な材料を適宜取り出し、加工を始めた。
十数分で、俺は指輪型の魔道具を一個完成させた。
この魔道具についてる機能は主に5つ──亜空間収納、魔素臨界反応プラント、魔力調質装置、大容量魔力コンデンサ、生体内魔力注入装置だ。
それぞれの機能の役割について解説すると、まず亜空間収納は魔道具の小型化を担っている。
この亜空間に魔素臨界反応プラントから生体内魔力注入装置までの全てを入れてあるため、これだけの多機能を指輪の体積に納められているのだ。
特筆すべきことは、この亜空間は内部の時間が実世界と同期している、ということくらいか。
通常、収納魔法を始めとする亜空間は内部の時間が停止しているのだが、この魔道具は量子魔法陣で特殊な術式を組むことで内部の時間が停止しないようにした。
こうすることで、さまざまな装置を亜空間に入れたまま作動させることができるってわけだ。
この魔道具を戦闘中に邪魔にならないよう身につけていたかったので、俺はここまでして魔道具の外見にこだわった。
続いて魔素臨界反応プラントの役割は、もちろん膨大な魔力の生成。
これは何も特筆すべきことは無いな。
魔力調質装置は、魔素臨界反応でできた魔力を生体に入れられるような質感にする役割を担っている。
後に生体内魔力注入装置があることからも分かるように、俺は魔素臨界反応でできた魔力を体内に入れるつもりでいる。
だが魔素臨界反応でできた魔力というのは若干荒々しく、そのまま大量に体内に入れると致命的なアレルギー反応に繋がりかねないので、この装置でその問題を回避しようというわけなのである。
そして、大容量魔力コンデンサは調質済みの魔力を溜めておくためのもの。
さっき実験で使った魔力バッテリーとの違いは二つ。
容量がバッテリーに比べて更に圧倒的に大きいこと、そして最大まで溜めた魔力を一瞬で全放出できることだ。
容量もさることながら、この「瞬間的に全放出できる」というのが、実は大きな意味を持っている。
まあそれは一旦置いとくとして、最後の生体内魔力注入装置はコンデンサから解放された魔力を俺の体内の魔力回路に入れるためのものだ。
まとめると……この魔道具の概要を一言で言うと、「超大量の魔力を一瞬で体内に入れ、瞬間的に自身の総魔力量を大幅に傘増しする装置」といったところだろうか。
肝心なのは、こんな装置を作って一体何がしたいのかだが……俺はこの魔道具を、「竜化の術を補助する装置」として活用するつもりでいる。
こんな装置を作っといて何だが、本来「外部から体内への大量の魔力注入」というのは、人体にとってあまり好ましくない行為だ。
ちょっと考えれば分かることだが、自身の総魔力量を超える量の魔力を注入するのは「魔力回路に無理やり魔力を詰め込む」ということに他ならないので、魔力回路に過負荷がかかりダメージを与えてしまうのだ。
魔力回路にダメージが入るとどうなるかというと、軽いダメ―ジでも魔法制御の質が一時的に落ちたりするし、重症だと長期に渡って魔法が使えなくなる後遺症が残ったりしてしまう。
そして過剰魔力注入による魔力回路への負担は当然、注入する魔力量が多くなればなるほど甚大になる。
魔素臨界反応で生成されるような量の魔力を魔力回路に押し込んだりすれば、たとえ俺であっても重篤な後遺症が残るのはほぼ間違いないだろう。
つまりこの装置は、魔力を体内に注入するものでありながら魔力を補給する用途で使用することができない。
それでも手間をかけてこれほど複雑な魔道具を作ったのは、初めからこの魔道具の真価を全く別の形で発揮させるつもりだったからだ。
その「別の形」こそが、「竜化の術の補助」なわけだが……なぜそこに繋がるのかを語ろうと思えば、まずは竜化の術のメカニズムにまで遡らないといけない。
高位のドラゴンのみが人化の術を使えること、そして俺が「人化の術を用いた竜」に変身する戦法を使えるようになったのは合成勇者を吸収して以降であることから分かるように、竜化の術は術者の総魔力量に応じて変身する竜の格が決まる仕組みになっている。
ここで重要なのは――より厳密に言えばこの術が「総魔力量からの格の判定→変身」というプロセスを踏んでいるということだ。
「格の判定」は一瞬で行われており、一旦「変身」の段階に入ってしまえば、そのタイミングで総魔力量がどう変化しようが関係なくあらかじめ決まった格のドラゴンに変身することとなる。
これが何を意味するかというと――「格の判定」の瞬間に合わせて一瞬だけ総魔力量を増幅させれば、本来ではあり得ないほど高位のドラゴンに変身することができてしまうのだ。
その「瞬間的な総魔力量の増幅」に、俺は先ほど作った装置を活用しようと考えているわけである。
この装置では、魔素臨界反応プラントで生成された魔力が一旦コンデンサに溜められてから放出される仕組みになっているため、魔力回路への魔力の注入は一瞬で行われる。
そして過剰魔力による魔力回路への負担の大きさは「魔力超過量」と「魔力超過の時間」の掛け算で決まるため、注入された魔力を直後に消滅させれば、魔力回路へのダメージは魔法制御に支障が出ないほど小さくすることができる。
ということは、時系列が「魔力注入→格の判定→魔力消滅」となるようにタイミングを調整してやれば……俺はほとんど何の代償もなく、従来とは比較にならないほど高位のドラゴンに変身することができるようになる。
だからこの装置は、「竜化の術を補助する装置」なのだ。
長いので、以降は「竜化補助装置」とでも呼ぶことにしよう。
ここまでして高位のドラゴンへの変身を追い求めるのにも当然理由はあって……それは単純に、高位のドラゴンはべらぼうに強いからだ。
理論上最高位のドラゴンがどんな存在かというと、一言で言えば「理不尽をまんま具現化したような存在」。
ブラックホールの中心にいても原型を留めていられるほどの圧倒的耐久力。
一兆分の一秒で静止状態から光速の数十倍にまで加速できる圧倒的敏捷性。
光速を超える動作による、時間を遡行する攻撃や魔法の発動能力。
理論上最高位のドラゴンは、そんな圧倒的なスペックの詰め合わせセットみたいな存在なのだ。
もし仮に俺がそんなドラゴンと対峙すれば、俺は一歩も動くことができないまま瞬殺されてしまうだろう。
しかし俺は、かつて世界最強のドラゴンと戦い、勝利することに成功している。
なぜなら、この理不尽の塊のようなドラゴンはあくまで理論上最強の存在であり、歴史上一度として実在したことが無いからだ。
それゆえ俺はこの理論を打ち立てた時、このクラスのドラゴンを「超実在級」に分類することにした。
だが「超実在級」のドラゴンが架空の存在だったのは、じきに過去の話となる。
竜化補助装置を使うことで、俺がその第一号になるんだからな。
ぶっつけ本番で失敗……「時系列が前後して格の判定に反映されない」とかならまだしも「注入から消滅までにタイムラグがある」みたいな失敗をすると取り返しのつかないことになってしまうので、一旦は注入機能のみオフにしてタイミング合わせの練習に励むとするか。
ここで練習して万が一魔力災害とかが起きても洒落にならないので、何が起きても大丈夫な場所の確保のため宇宙空間に転移する。
それから俺は、ひたすら何度も竜化補助のタイミング合わせの反復練習を繰り返した。




