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第67話 安全な魔素臨界反応の燃料の確保

 魔王城に戻ってからは、俺はメルシャたちと別れて来賓用の寝室に一人籠もることにした。

 せっかくの再会なので、姉妹水入らずで団欒する時間も欲しいだろうと思ったからだ。

 寝室に籠もってからは、俺は寝具に寝っ転がりながら、次にどんな魔道具を発明しようかとぼんやり考えていた。


 考え始めてから一時間ほど経った時のこと。

 俺はふと、重要なことを一つ忘れていたのを思い出した。


「ん、待てよ。そういえば……」


 俺が思い出したのは、かつて理論を打ち立てるだけ打ち立ててお蔵入りさせた、魔素臨界反応に関するとある理論。

 内容は――「危険な副産物が発生しない例外的な条件について」だ。


 さっきも見ての通り、魔素臨界反応では通常、エネルギーを取り出す過程で生命にとって他に類を見ないほど有害な副産物が発生してしまう。

「クリティカルデブリ」や「厳戒管理廃棄物X」などと呼ばれるその物質は実に目の上のたんこぶで、俺の世界では数多の研究者がその発生を回避する方法を研究してきた。

 だが誰一人として、クリティカルデブリを発生させない魔素臨界反応の手法を完成させることはできなかった。

 俺も例外ではなく、今日に至るまでそのような装置を実現するに至ることはできなかった。


 だが俺は一つだけ、条件さえ揃えば有害な副産物を一切発生させることなく魔素臨界反応を行える方法を見出すことができていた。

 それは、「巨大ガス惑星の核に存在する高密度魔鉱石を燃料に用いて魔素臨界反応を行う」という方法だ。


 なせ、その方法でクリーンな魔素臨界反応が可能なのか。

 要因は、高密度魔鉱石に含まれる魔素の粒子の大きさだ。


 クリティカルデブリの正体は、魔素の分裂の際にできる「粒子の小さい魔素」なわけだが……高密度魔鉱石の魔素の粒子は、そもそものサイズが通常の2倍強ほどある。

 それが分裂したとしても、できるのは通常サイズの魔素なのだ。

 当然、通常サイズの魔素は人体にとって何ら有害ではないので、そのような副産物がいくらできようが環境には一切の影響を及ぼさない。

 それゆえに、燃料次第ではクリーンに魔素臨界反応を起こすことが可能なのである。


 この理論がお蔵入りとなった理由は……シンプルに、原料を取りに行くことが現実的ではなかったからだ。

 高密度魔鉱石が採れるような巨大ガス惑星は、人間が住む惑星からは何十億キロも距離が離れている。

 そんな場所に行こうと思ったら、万単位の転移用魔道具を使い捨てにする必要があったわけだ。


 国単位で本気を出せばやれないことはなかったかもしれないが、エネルギー資源を得るためにそこまでの労力をかけるのははっきり言って本末転倒。

 俺自身、この理論を作るだけ作りはしたものの、あまりにも馬鹿馬鹿しいと思いどこにも発表はしなかった。


 けれど……よく考えたら、今となっては事情が違う。

 今の俺には、神界を経由する転移魔法がある。

 物理的距離を一切無視できるこの方法ならば、最寄りのガス惑星だろうが系外惑星だろうが簡単に行き来し放題だ。


 である以上……採取に赴かない理由があるだろうか。

 いや、無い。

 思い出したからには、さっそくやってみよう。

 膨大な魔力が安全に手に入る手段があれば、新たな戦闘用魔道具の発明の幅も広がるし、仮にそこに結びつかなかったとしても、シシルへの良いプレゼントくらいにはなるからな。


 俺はかつてこの世界で打ち上げたサテライトを望遠モードに切り替え、巨大ガス惑星を探してみた。

 すると程なくして、40億キロほど離れた地点に直径5万キロほどの真っ青な惑星が一つ見つかった。

 スペクトル分析をかけてみたところ、確かにあの惑星には高密度魔鉱石が存在するようだ。


 そうと決まれば早速転移……といきたいところだが、その前にまずは竜化魔法と人化の術を併用して、人の姿の竜族に変身だ。

 流石の俺でも、生身で時速2100キロの暴風が吹き荒れる氷点下220度の世界に飛び込みたくはないからな。


 変身が終わると、転移先座標を核に合わせて転移した。


「これでも寒いな……」


 ドラゴンのタフさを身に着けて尚凍えそうだったので、俺は全身を特異結界で覆って風を凌ぐことにした。

 これでだいぶマシになったな。

 即席で高密度魔鉱石探知魔法の術式を考案し、発動してみると……そこら中の石が反応した。

 もはや適当に拾っても全部当たりなんじゃないかってレベルだ。

 しばらく俺は核の上を練り歩きながら、鉱石拾いに勤しんだ。


 拾っては収納魔法にしまい、拾っては収納魔法にしまいを繰り返す。

 ある程度山積みにできるくらい集まったところで、俺は再度転移魔法を発動し、魔王城の来賓用寝室に戻ってきた。


 さて、じゃあ早速実験してみるか。

 俺は錬金魔法で必要な材料を拵えると、小型の魔素臨界反応用簡易プラントを組み立てた。

 収納魔法を探ってみると、かつて何かの機会に作った大容量魔力バッテリーが見つかったので、それをプラントに接続した。

 それからプラントに採ってきた鉱石を少量セットし、起動してみる。


 すると……想定通り膨大な魔力が生成され、バッテリーのメーターがとんでもない勢いで回り始めた。

 たった数秒でバッテリーは満タンとなってしまい、溢れた魔力が部屋に漏れ出してきた。


 このままでは最悪魔力災害が起こってしまうので、漏れた魔力は適宜消滅の力で消し去っていく。

 時空調律魔法も併用してセットした鉱石の反応が終了するまで時間を進めると、俺はプラントから反応後の鉱石を取り出してみた。


 当たり前ながら、反応後の鉱石からはクリティカルデブリが放つような有害魔力が一切検出されない。


「……使えるな、これは」


 魔族領でもこれをエネルギー資源として使えると助かるだろうし、後で未使用の鉱石を一部シシルに渡しておくとしよう。


 さて、これで膨大かつ安全な魔力源の検証も済んだことだし。

 次は、この魔力源の活用方法を確立していくとするか。


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