第66話 厳戒管理廃棄物Xを消滅させた
中に入ると……そこには黄色く強烈に光るまぶしい鉱石のようなものが大量に積み上げられていた。
「……やはりな」
その光る物体を一目見て、俺はただ一言そう呟いた。
「や、やはり……?」
俺の呟きに違和感を覚えたのか、メルシャが不思議そうにそう聞き返してくる。
「ライゼルどの、もしやこの物体を知っておったのか……?」
「見れば一瞬で分かった。俺の世界では『厳戒管理廃棄物X』という呼び名ではなかったので、見るまでは確信を持てなかったがな」
何を隠そう……この物質は、俺の世界でかつて行われたエネルギー実験の副産物と全く同一の物質だったのだ。
ちなみに副産物が同一ということは、そこから逆算すればシシルたちが行った実験が何であったかも容易に分かる。
「シシルが言っていたエネルギーインフラの開発研究って……魔素臨界反応のことだろう?」
「な……その話、私言いましたっけ!?」
実験の内容を言い当てると、シシルは驚いて目を丸くした。
「いや。けど、他にこの物質が生成される反応なんて無いからな」
魔素臨界反応。
それは、魔石の中の魔素を分裂させることで、分裂の際の質量の損失を膨大な魔力に変換する魔力生成法のことを指す。
この方法は大量に魔力を得るという点のみにおいては非常に有用で、普通に魔石を魔力源として使う場合の千~一万倍の魔力を同じ質量の魔石から得られるという圧倒的な効率の良さを誇っている。
だがこの方法は、俺の世界では一瞬で廃れた。
なぜなら、最大一万倍の魔力生成量という圧倒的アドバンテージをかき消して余りあるほどのとんでもないデメリットを併せ持っていたからだ。
そのデメリットとは、分裂の末できた「小さい魔素」が生命にとってとてつもなく有害な魔力を放つこと。
「数年も実用化すれば惑星全体が汚染されてクマムシ以下の耐久性の生物が全滅する」という試算まで出され、この方法は国際条約で未来永劫封印されることに決まったのである。
「ライゼルさんの世界でも、この研究がなされたことがあったんですね」
「ああ。ちなみに俺の世界では、この副産物は『クリティカルデブリ』と呼ばれていたな」
「そんな呼び名だったんですね……」
さて、こんな無駄話は後にするとして、とりあえず目の前の危険物質を消し去らないとな。
結界で守っているから安全とはいえ、目の前にあって気分が良いものではないのだし。
「じゃあ、早速アレを消滅させるぞ。消滅の力ってのは……使うとこんな感じだ」
などと説明しつつ、俺は「厳戒管理廃棄物X」に向かって消滅の力を放った。
すると目の前でまばゆく光っていた「厳戒管理廃棄物X」は、一瞬で跡形もなく消え去った。
「こ、これが噂の……」
一瞬の出来事に、シシルは息を吞む。
「どんな魔法を使っても破壊できなかった物体が……。本当に魔法とは全然別種の力なんですね……」
続けてシシルは、しみじみとそう呟いた。
そんな中、メルシャはふとこんな疑問を口にした。
「そういえば……ライゼルどのの世界では、この物体をどうやって処理したのだ?」
確かに、その疑問はもっともだな。
俺の世界で魔素臨界反応の実験が行われていたのは、俺が初めてこの世界に転移するよりも遥かに昔の話。
当然当時の俺は、消滅の力なんて使えるはずもなかった。
それどころか、あの頃の俺はまだ一部の最高難易度立体魔法陣を扱う魔法を習得しきっていなかったくらいだ。
そんな状況下で、どうやって俺がクリティカルデブリを処理したかというと……。
「人工衛星で宇宙に打ち上げて、太陽に放り込んだな。あの頃の俺にはその解決方法しか無かった」
けっこうな力技で解決していた。
「それもそれでなかなか常軌を逸した解決策だな……」
良いじゃないか。太陽とは、非常に頼りになる最終手段なのだ。
用事は済んだので、俺達は一旦扉の外に出て管理人の男に消滅完了を告げた後、転移魔法で魔王城に戻った。




