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第64話 シシルに会いに行った

「あれ……お姉ちゃん、それにライゼルさん!」


 シシルは俺たちに気が付くと、嬉しそうに声をかけてきた。


「おお、シシルよ……元気にやっておったか?」


「うん!」


 よほど嬉しいのか、シシルは子供みたいにスキップしながらメルシャに近づいて抱きついた。

 なんか今日ははしゃぐ国家元首をよく見る日だな。


「立ち話もなんだし……何か食べながらゆっくり話すか?」


「そうですね、それがいいと思います。ぜひ!」


 食事会を提案すると、シシルも賛成してくれた。

 俺は「眠れる古の竜」を新たに一体蘇生&討伐して希少部位を精肉すると、みんなで魔王城付属の宴会場に移動することに。

 そうして即席の焼肉パーティーが始まった。


「そうだ。せっかくじゃし……ここは実演がてら、例の魔道具で焼肉を焼かんか?」


 宴会場にて。メルシャはそんな提案をしつつ、俺が作った調理用加熱魔道具を一個取り出してテーブルに置いた。


「それは……?」


「ライゼルどのが開発した、消費魔力量が従来の千分の一の調理用加熱魔道具じゃ。実は今回ここへ来たのは、この魔道具をプレゼントしようと思ってのことだったんじゃが……せっかくならここでも使ってみようと思ってな」


「じゅ、従来の千分の一!? なんなんですかその常識が宇宙の彼方まで飛んでいくような代物は……」


 説明を聞くと、シシルは目を丸くした。


「ライゼルどのが常識を吹き飛ばすなど日常茶飯事だろう。じゃあ、点火するぞ」


 メルシャはそう返しつつ、魔道具を起動する。


「今回は同じタイプの魔道具を何千個か作って持ってきておる。民たちの省エネ生活の推進に役立てておくれ」


「いいんですか……ありがとうございます!」


 シシルは心底嬉しそうに、キラキラとした笑顔を見せた。

 そうこうしているうちにも、魔道具が焼肉を焼くのに十分な温度まで熱せられる。

 俺は第一陣の肉をプレートの上に乗せた。


「それでシシルよ。そちらの様子はどうだ?」


 肉を焼き始めると……メルシャのそんな質問を皮切りに、別れてから今までの経緯に関する雑談が始まった。


「すごく順調だよ! どこから話したらいいかな……あ、そうそう。まずはあの国王なんだけどさ。何者かに暗殺されたんだよね」


「そうなのか!?」


 まだ最初の肉の片面も焼けないうちから、とんでもない話題が飛び出す。


「うん、それもあの後割とすぐにね。これはまだ噂レベルの話なんだけど、どうやらその暗殺、国王の精鋭部隊が裏切ってやったらしいんだ」


「ほおう……そんなこともあるもんなのだな」


 国王の精鋭部隊……まさか、俺を暗殺しようとした例の奴らだろうか。

 あり得るな。あの国王ならあいつらに濡れ衣を着せようとか考えかねないし、それであの暗殺部隊が愛想を尽かしたとしたら、混乱に乗じてそれくらいのことをやってもおかしくはない。

 などと考えていると、メルシャが次の質問に移った。


「結構衝撃的な話ではあったが……それはそれとして。世界情勢としてはどんな感じなのだ?」


「そっちも結構順調だよ! 奴隷にされてた魔族も完全に解放されたし、人族側にもだんだんと『人族と魔族は対等だ』という意識が根付き始めててね。このままいけば、良好な関係を築いていけるんじゃないかなって思ってる!」


 メルシャの質問に、シシルは胸を張ってそう答えた。


「おお! それは何よりだ」


 かと思うと、今度はシシルが質問するターンへ。


「お姉ちゃんの方はどんな感じなの? ライゼルさんについていけてる?」


「何を以てして『ついていけてる』とするのかが難しいところだが……着実に力を伸ばせていってはおるな。新しい力も手に入れて、今はそれを使いこなせるように実戦経験を積んでいっておるところだ」


「そうなんだ! それってどんな力なの?」


「そうじゃな……簡単に言うと、あらゆる物を消滅させることができる力ってところだ。どんな物体やエネルギーが相手でも、存在そのものをなかったことにできるというか……口で説明するのは難しいが、まあなんとなくで理解してくれ。我らはこの力を『消滅の力』と呼んでおる」


「な、なんか凄い力なんだね……」


 二人がそんな話をしている間に第一陣の肉が焼けたので、とりあえず話は途中にして食べることに。

 第一陣を食べ終えると、シシルがこんなことを言い出した。


「その力ってさ……ほんとにどんな物でも無条件に、問答無用で消せるの?」


「ああ。消滅させるということに関しては、本当に万能の力だな」


「そうなんだ! だったらさ……実は一個、お願いしたいことがあるんだけど……」


 消滅の力と聞いて、頼みたいことが思い浮かぶ……?

 一体なんだろうか。


「どうした? 我にできることならなんでも協力するぞ」


「『厳戒管理廃棄物X』をさ、消滅させてもらったり……できるかな?」


「厳戒管理廃棄物……X?」


 聞いたこともない物質名を耳にし、メルシャはそうオウム返しした。


「うん。やっと目の上のたんこぶの不平等条約も消えたことだし、未来をより良くするために新しい産業の開発でもしようと思ってさ。ライゼルさんが消費魔力量の少ない魔道具を作ってくれたのと発想がちょっと似てるんだけど……エネルギーをインフラ化するための研究に乗り出したんだ。だけど、その途中でとんでもなく危険な副産物ができちゃって……」


 メルシャの問いに、シシルは複雑そうな表情でそう答えた。

 エネルギーインフラの開発に、危険な副産物、か……。

 なんだか話が見えてきた気がするぞ。


「そんな事情があったのだな。もちろん、消せないことはないはずだ。協力しよう」


「俺も一応見に行こうか」


「いいんですか!? ありがとうございます、本当に助かります」


 というわけで、俺達はこの後「厳戒管理廃棄物X」とやらの処理に向かうことに決まった。

 焼肉をひととおり食べ終わったら、俺達はシシルの案内のもと廃棄物の保管場所に向かった。


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