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第63話 討伐許可獲得と報告

「お……お前は……!」


「ラ……ラララライゼル……なぜここに……!」


 二人とも怯えているのか、完全に声が震えてしまっている。


「話は聞かせてもらったぞ。なるほど……なぜ『脱獄者の楽園』があんな大胆な手に出ているのかと思ったら、こんなにも強大な後ろ盾がいたとはな」


 若干わざとらしく、俺はガルミア国王に向かってそう言い放った。


「もしこのことを全世界に向けて発信したら、世界はこの国を許すかな?」


 ノーライフキングのほうはもう用済みなので、効果範囲を限定したデスプロテクトで首から下を粉砕し、絶命させておく(アンデッドを絶命というのも変な話だが、要するにまあ活動不能にしたということだ)。


「この無礼者……一国の王を脅迫しようとは……!」


「脅迫? 別にそう思うなら構わないが」


 なぜか国王は強気に出てこようとしたので、俺は物体転送用魔道具を取り出し、今回の癒着の件を世界各国の国家元首に向けて周知するための手紙を書き始めようとした。

 すると――。


「ま、待ってくれ! それだけはやめてくれ!」


 さっきまでの威勢はどこへやら、国王は急に弱腰になった。


「頼む、余にできることなら何でもする。だから……」


 ようやく自分の置かれている状況を冷静に捉えられるようになったか。

 これでやっと交渉に入れるな。


「じゃあ、こういう条件にしよう。この国には確か、第三の狂乱がボスとして鎮座しているダンジョンがあったな。そこのボス攻略許可をもらえれば、今回の件は不問に伏す。それでどうだ?」


「そ……その程度で良いのであれば全然構わない! だから頼む、今回のことは一生黙っていてくれぇ!」


 単刀直入に聞いてみると、あっさり許可がもらえた。


「分かった。では気が変わらないうちに、これにサインしておいてもらおうか」


 攻略許可は得たものの、俺は今すぐ第三の狂乱を倒しに行くつもりはない。

 もっと第二の狂乱から得た消滅の力を極めてから討伐に行くつもりだ。

 それまでの間に「やっぱり気が変わった」とか言われても困るので、俺は書面にて契約を交わしておくことにした。

 国王がそれにサインすると、俺はその書面とノーライフキングの首を併せて収納魔法にしまう。

 これでこの謁見の間でやるべきことは全て完了だ。

 あとは、ノーライフキングについて来ていた何人かの残党を始末すれば「脱獄者の楽園」は完全に消え去るな。


「じゃあ行こうか、メルシャ」


「ああ」


 俺達は王宮の外で待っている「脱獄者の楽園」の残党のもとに転移すると、適当に消滅のエネルギー弾を数発放って彼らを消滅させた。

 以前は適当に壊滅させたところで満足してしまったせいで、面倒な事に発展してしまったが……もうここまでくれば、二度とこいつらが悪さをすることはない。


 せっかくなので、今回のことは一応どこか親交のある国の国王にでも報告しておくか。

 問題は誰にするかだが、まあそれは今回の件の一番の被害者である、第二の狂乱がボスをやってるダンジョンを擁する国(ちなみに国名はリゼイド王国だ)の国王に言うのが妥当だろう。


 もちろんガルミアとの癒着の件は伏せるが、「脱獄者の楽園」を完全に撲滅したということくらいは、宣言しておいたほうがみんな安心できるだろうからな。

 今回は敵地に入るわけではないので、転移阻害を破ってまで謁見の間に直接転移はしない。

 神界から国王が一人でいるのを確認すると、俺達は王宮の正門前に転移した。



 必要な手続きを済ませると、俺たちは門番の案内のもと謁見の間へと向かった。


「ライゼル様、お久しぶりじゃないですか!」


 謁見の間のドアを開けると、リゼイド王国の国王・アークス=リゼイドが笑顔で俺たちを迎え入れた。


「昔はこうして良く会っていたのに、急に音信不通になっちゃうんですから……」


「本格的に狂乱一族を倒すための研究にかかりっきりになってからは、ほとんど用事がなくなってしまったからな。確かにこうして会うのは懐かしいな」


「ほんとですよ……」


 そんな会話の後、アークスはメルシャの方に視線を向ける。


「ところで、そちらの方は?」


「俺の弟子だ」


「はじめまして。我はメルシャと申す」


「ほう、ライゼル様の弟子ですか……よくぞライゼル様のレベルについていける人材を発見できたものですね」


 軽く紹介すると、アークスは感心したようにそう言った。


「お弟子さん、魔族のようにも見えますが……ライゼル様、ついに魔族の心を洗浄する魔法でも創造なさったんですか?」


 かと思うと、アークスは今度はそんな素朴な疑問を口にする。


「そういうわけではない。話すと長くなるが、メルシャはこの世界の魔族ではないんだ」


 アークスが言うようなことも、量子魔法陣で術式を組めばできなくはないと思うが……正直、実行する気はほぼ皆無だ。

 なぜなら、そもそもこの世界の魔族にそこまでするほど人材としての魅力を感じていないからな。


「この世界の魔族じゃない……?」


「ああ。この世界の魔族しか知らないと考えられないだろうが、他の世界には王政が機能するほど社会性のある魔族がいてな。この子はその世界の元魔王なんだ」


「はあ〜。何を仰っているかよく分かりませんが、まあライゼル様が満足しているならそれに越したことはありませんね。私も信じます」


「ああ、そうしてもらえるとありがたい」


 こんな端折りまくった説明でどこまで理解できたのかは不明だが、とりあえずアークスには納得してもらえたようだ。


 ……っと、別に俺はこんな話をしに来たわけじゃないんだ。

 そろそろ本題に入らせてもらおう。


「ところで、今日ここに来た理由だが……実は一つ、朗報があってな」


「朗報?」


「ああ。『脱獄者の楽園』という犯罪者集団についてなんだが……今日を以て、奴らは根絶された」


 そう言いつつ、俺は収納魔法からノーライフキングの頭を取り出した。


「こ、これは……!?」


「『脱獄者の楽園』のボスだ。構成員を全員消し去ったから、今はもう組織自体が存在しない状態だ」


 一瞬、アークスは真顔で目がノーライフキングの頭に釘付けになる。

 それから彼の表情は一気に明るくなった。


「確かにあの組織のボスは最上級のアンデッドと聞いておりましたが……こんな形でお目にかかることになろうとは! 流石はライゼル様、こんな芸当はライゼル様にしかできませんよ!」


 柄にもなく、アークスは若干はしゃぎ気味だ。

 俺の知ってるこの人は、もうちょっと威厳のある国家元首らしい風格の人だったと思うんだがな。


「適当に勝利宣言出しといてもらえないか? こいつらがいなくなったと知れば、世界中みんなホッとするだろうからな。必要なら、この首を証拠として使ってもらって構わない」


「任せてください。適当になんて言わず、盛大にやらせてもらいますよ! どんなに大規模なお祝いを開催しても、各国からの祝言が予算を上回るでしょうしねえ」


 勝利宣言を依頼すると、アークスはにやりと不敵な笑みを浮かべた。


「まあ、そのへんは自由にやってもらって構わないが、あまり羽目を外すなよ?」


「ハハハ、ご心配なさらずとも」


 アークスはノーライフキングの頭を丁寧に持ち上げると、一旦席を外してどこかへと向かった。

 然るべきところに保管しにでも行ったのかと思ったが、しばらく経って戻ってきた彼の手には、なぜか勲章が一つ握られていた。


「ライゼル様からすれば、もう何個目だって感じでしょうが……一応お渡ししておきます。リゼイド王国最高勲章です」


「本当に何個目なんだろうな」


「他国からいくつ頂いていらっしゃるのかまでは把握しておりませんが……我が国からは、これで16個目ですな」


 そんなにもらってたのか。

 意外に思いつつ、俺は手渡された勲章を収納魔法でしまった。


「もちろん、この数の勲章授与は歴代最高です。ちなみに歴代2位が3個なので、ライゼル様の授与数はほんとうにずば抜けていますね」


「そうなのか」


「……あまり興味がなさげですね」


「正直、な。まあ、一応ありがたくいただいておこう」


「そうしてください!」


 こうして、俺たちは束の間の謁見を終えた。

 王宮を出たところで、メルシャがポツリとこんなことを呟いた。


「初めて見たな……」


「何がだ?」


「人族に、あんなまともな国王がいようとは」


 なるほど、そこか。

 確かにメルシャ、今まで人族の国王といえばロクでもないのばかり見てきたもんな。

 逆にアークスみたいなのが珍しく感じるのも無理はないか。


「こっちの世界じゃガルミアの国王みたいなのが少数派で、基本はまともなのが多いんだがな」


「我の世界の人族の国王もあんな方だったら、始めから上手く共存できていたのだろうがな……」


 メルシャはしみじみとそう口にした。


「ま、昔のことを嘆いても仕方ないさ。それより、今のシシルたちがどうなっているのかを早く見に行こうか」


「そうだな」


 今度こそ、満を持して異世界転移魔法を発動する。

 視界が一変し、俺たちにとって懐かしい景色が目の前に広がった。


本日2巻が発売されました!

よろしくお願いいたします!


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