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第48話 力を使ってみた

 14階層にて……少し歩いていると、俺たちは5人の脱獄者の楽園の構成員に遭遇した。


 実力は——先ほどの二人組と比べれば少しマシ、といったところだろうか。

 おそらく、メルシャだと戦いが自動回復の応酬になるくらいの魔法制御力はありそうだ。

 そうなった場合魔力量の関係からメルシャが勝つのは自明だが、こういう時こそ消滅の力の出番。

 幹部でもなさそうだし、こいつら相手に消滅の力を試運転してみるとするか。


「何者だお前ら」


 などと悠長に考えていると……5人のうち真ん中のヤツが、警戒心を露にそう尋ねた。


「新しい力の実験をしに来た者だ」


 ギルド長の頼みで脱獄者の楽園を殲滅しに来たことを伝えて、ギルド長に危害が加わってもまずいので……あえてそう答え無関係を装う。


「かかってこい」


「てめえなんか俺一人で十分だ!」


 指をクイッとすると……何をどう勘違いしたらそんな判断になるのか、5人のうち端の一人が襲いかかってきた。


 まあ5人全員でかかってきて、全員返り討ちにしてしまったらメルシャの訓練相手がいなくなってしまうので、かえって好都合ではあるが。


 とりあえず適当な攻撃魔法で首から上を吹き飛ばすと……相手の自動回復が作動し始めた。


「見ての通り……普通はこの状態になっても、相手は自動回復で復活してくる」


 それを指しつつ、俺はメルシャに説明を開始した。


「……まあ魔法の熟練度がこの程度の相手なら、自動回復魔法の術式の脆弱性を突いて決着をつけることも可能だが。せっかくなので今回は、消滅の力で存在を消してみよう」


 そして復活途中の相手に……消滅のエネルギー弾をぶつける。

 するとソイツは、エネルギー弾が当たった箇所から、まるで風呂に入れた入浴剤のように速攻で溶けて消えていった。


 もちろん、復活する兆しは全く無い。


「この力の使い方は……ザッとこんな感じだ。イメージは掴めたか?」


「なんとなく、な」


 おそらくこれで、メルシャも見よう見まねでこの力を使えることだろう。


「な……なぜ復活しない!?」


「貴様、何をしやがった!」


 一向に自動回復の兆しを見せない様子に……残り4人は、目に見えて動揺し始める。


「新しい力の実験をしに来たと言っただろう。その実験に成功したまでだ」


「「「「な……!」」」」


 そして……奴らの目の色が変わった。

 かと思うと、真ん中の奴がこう指示する。


「こいつらは油断していい相手じゃねえ! 二人づつに分かれて確実に始末しろ!」


 その指示により……4人のうち二人が俺に、もう二人がメルシャに迫っていった。


 ちょうどいい感じにバラけてくれたな。

 4人全員がメルシャを狙うと、チュートリアルとしてはちょっとどうなんだって難易度になってしまうし。


 とりあえず……俺のほうに来た二人は、ササッと始末しよう。

 俺は消滅のエネルギー弾を、いい感じの角度で二発投げた。

 すると……その二発がそれぞれジャストタイミングで二人の移動先に到達し、命中する。

 うん。いい感じに偏差射撃が決まったな。


「ぐあああぁぁぁぁ!」


「何だこれええぇぇぇぇ!」


 二人は断末魔の叫びを上げながら消えていった。



 俺の戦いの様子を見て……メルシャは意を決したように、両手に消滅のエネルギー弾を用意する。

 そしてそれらを、相手2人の軌道を読みつつ投げ飛ばした。

 が……。


「っぶねえ!」


「気をつけろよ。あのエネルギー弾は当たると洒落にならねえ!」


 すんでのところで、消滅のエネルギー弾は避けられてしまった。


 空を切った消滅のエネルギー弾は……ダンジョンの壁に着弾する。

 かと思うと、ダンジョンの壁が急速に崩壊し始めた。


 おっと、これはマズい。

 俺は第二の狂乱戦で開発した特異結界を逆にした結界(長いので以下反・特異結界とする)を、ダンジョンの壁の崩壊部分を包むような形で展開した。

 それにより、崩壊は結界に面したところで止まってくれた。


「メルシャ、無理はしないほうがいいぞ。偏差射撃にこだわらなくとも、自動回復中に当ててやるやり方でも十分効果的だからな」


 消滅のエネルギー弾……使ってみて分かったんだが、多分慣れないとなかなか弾速を出すのが難しいんだよな。

 それでもなんとか俺は敵が見てからでは避けられない弾速で飛ばせたのだが、メルシャの場合はその8割くらいの速度しか出せていなかった。


 この戦いの中で、偏差射撃を当てられるようになるのはなかなか難しいだろう。


「あ、ああ。我にはまだ早かったようだ」


 メルシャは一瞬だけバツの悪そうな表情を浮かべた後……真顔に戻り、戦闘に再度集中する。


 本当は、偏差射撃でもトドメに消滅の力を使うんでも、自由に戦法を決めさせてやりたいところなんだがな。

 これ以上ダンジョンがズタボロになって後でギルド長からクレームが来てもアレなので、これだけは言わせてもらうことにした。

 消滅のエネルギー弾の高速発射練習は、後々広い場所でやってもらえばいいだろう。


 それからは、ほんの十数秒で戦況が一気に変わり……二人とも、自動回復中に消滅のエネルギー弾を食らってきれいさっぱり消えた。


「……すまなかったな、迷惑かけて」


「気にしなくていい。消滅半径は3メートルくらいに抑えられたからな。アレが原因でダンジョンが崩落することはまずない」


 などと、戦いの反省をしつつ。

 俺たちは、次の敵がいる13階層に転移した。


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