第38話 それぞれの世界へ
皆さんのお陰で、29日には日間総合2位を達成できていたようでした。
本当にありがとうございます!
魔王城に着くと……そこでは、メルシャとシシルの祖父が待っていた。
「おお、帰ってきたか! 結果は……どうじゃったんじゃのう?」
「条約は締結成功です」
「そうか! それは良かった」
シシルの報告を聞き、満足げに頷く祖父。
「しかし……メルシャと師匠どのも帰ってきたのじゃのう。召喚女神とやらは現れなんだか」
「それがだな……」
続けて祖父が発した問いに、メルシャが答えようとする。
しかしメルシャは、どう説明していいか迷ったのか、一瞬言葉に詰まった。
続けて彼女から出てきたのは、こんな説明だった。
「我もびっくりしたのだが……ライゼルどの、なんと女神を吸収してしまってな。今や彼女の異世界転移能力は、ライゼルどのの物なのだ」
「……は!?」
メルシャの説明を聞き、祖父は口をポカンと開ける。
「そんなことが……可能なのか?」
……そういえばここの人たち全員、俺の帰還を今生の別れだと思っているんだよな。
そうじゃなくなった事含め、俺から説明しようか。
「原理上は他の人を吸収するのと変わらないからな。わざわざ精神操作とかするよりこの方が手っ取り早いし、俺が転移能力を持っておけば定期的にこの世界に来れると思って、こっちを選んだんだ。メルシャもたまにはシシルや祖父の顔を見たいだろう?」
「「「な……!」」」
俺が説明を終えると、全員が息を呑んだ。
「と、いうことは……」
「お姉ちゃん、またいつか私たちに会いに来てくれるんですね!」
「こりゃ朗報じゃわい」
俺の意図するところが分かると、三人とも表情が明るくなった。
いくら鍛錬の対価としてついていくことに納得してたとはいえ……そりゃあまた会えるようになるに越したことはないよな。
それはさておき、転移能力に関して言えば、俺にはもう一つやっておきたいことがある。
「ところで……せっかく俺に異世界転移能力が宿った以上は、この間の召喚勇者たちも元の世界に帰してあげようと思うんだが。彼らは今どこにいる?」
「彼らなら……まだ前と同じ宿に泊っているぞ」
「そうか。じゃあちょっと行ってくる」
俺はそう言い残すと、召喚勇者三人が泊まる宿に転移した。
ドアを数回ノックすると、彼らがドアを開けて出てくる。
「お久しぶりですライゼルさん。本日はどのようなご用件で?」
「お前たちに朗報があってな。全員を元の世界に戻す手はずが整ったから、それぞれの世界に帰してやるために来た」
「「「ほ……ほんとですか!?」」」
帰れると聞いて、三人とも目を輝かせた。
「しかし……一体どうやってそんなことが?」
「上手いこと女神を説得してくださったってことか?」
かと思うと、彼らは急な事情の変化の理由の推測を始めた。
「いや、というか……俺が女神を吸収した。お前たちの元の世界も、吸収した女神の能力を使って把握済みだ」
「「「え……はいいいいぃぃぃ!?」」」
詳しい事情を述べると、彼らは揃いも揃って口をあんぐりと開けた。
「神を吸収って……」
「次元が違いすぎてよく理解できねぇ……」
「うん……とりあえず、大事なのは帰れるってことだな。考えるのをやめよう」
……勇者合成用魔道具さえ手にすれば、割と自然とでてくる発想だとは思うんだがな。
まあ例の脆弱性に気づかずに女神吸収を試みたら、逆に吸収されてしまうので、脆弱性に気づけないレベルの解析能力しかない人の場合思いつかないほうが安全とも言えるが。
とにかく、駄弁っていても時間の無駄なので、一人ずつ帰していくとしよう。
具体的に誰がどの世界から来たかは分からないが、履歴の時系列に合わせて三人を来た順に帰せばいいだけなので、誰から順に来たか聞いていくとするか。
「お前たちを帰すに差し当たって一つ聞きたいんだが……この三人の中で、最初に王宮に来たのは誰だ?」
「多分俺だと思う」
「俺が来た時にはもう二人いたな」
「俺が来た時は他には一人だけだった」
質問すると来た順がハッキリしたので、俺はまず一番最初に来た人を、半年前の四つの履歴のうち最も古い世界に帰すことにした。
「じゃあいくぞ」
履歴から該当アドレスを選択し、魔力を流すと……俺がこの世界に来た時と同じく、近くに空間の歪みが生じた。
その歪みに、最初にこの世界に来た勇者だけが吸い込まれていく。
しばらくすると歪みが消え、転移が完了した。
使用魔力量は……だいたい総魔力量の1%か。
たいして魔力を使わないし、全員をそれぞれの世界に間違いなく帰せてるか、確認しに行ってもいいかもしれないな。
などと考えつつ残り二人の転移も終えると、俺はそれぞれの世界を訪れ、全員が元の世界に帰れているか確認した。
召喚勇者のうち一人は元の世界では騎士団長だったらしく、「お礼に騎士団所有の古代魔法が封入された剣をあげます」と言われたが……封入されていたのは何の変哲もない立体魔法陣だったので、逆に俺が立体魔法陣の教科書と魔素排出装置を十個ほど置いて帰ってきた。
古代魔法ということは、一度は立体魔法陣を扱える文明ができてそれが滅びたということなんだろうが、今度は同じ過ちを犯さないでほしいものだな。
そして全員の世界の訪問が終わると、俺は魔王城に戻ってきた。
「どうだった? 無事全員戻れたのか?」
「ああ。というわけで、俺たちも行こう」
「そんな……三人も送ったあとで、まだ余力があるというのか? 一旦休んだりせんでも大丈夫なのか……」
「一回の転移に使うのは総魔力量の1%程度だからな、全然余裕だ。だいいち、召喚勇者たちをそれぞれ正しい世界に帰せているか、わざわざ行ってチェックしてきたくらいだしな」
……異世界転移、多大な魔力を消費するイメージでもあるのだろうか。
まあでも確かに、今の俺にとって1%程度ということは合成勇者吸収前の俺にとっては50%ほどになるので、消費魔力が多いといってもあながち間違いではないのか。
そんなことを考えつつ……俺は転移先のアドレスを「192.168.233.24」に、転移人数は二人に設定して、異世界転移魔法を発動した。
直後、俺とメルシャの中間に空間の歪みが。
「シシル、お祖父様……お達者でな」
「お姉ちゃん、また会いましょうね!」
「元気にするんじゃぞ」
最後の挨拶が済む頃、空間の歪みは俺とメルシャを飲み込んだ。
しばらくすると、俺たちは見覚えのある溶岩地帯に立っていた。




