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第21話 魔剣をお土産に

 転移用魔道具を起動すると、メルシャの部屋に直接転移できるよう移動先の座標を設定する。


 だが……その作業をしていると。

 まるで皆既日食かと思うくらいに、急に空が暗くなった。


「何だ……?」


 上を向いてみると……上空では巨大なドラゴンがホバリングしつつ、不機嫌そうにこちらを睨んでいた。


 ……もしかして、環境に配慮せず戦っていたせいで、寝ているところを起こしてしまったか。

 それなら申し訳ないが、もうじき帰るので、許してほしいところだ。


 などと思っていると……メルシャがこう呟いた。


「これはまさか……眠れる古の竜?」


 ……眠れる古の竜?


「メルシャ、あのドラゴン知ってるのか?」


「実物を見るのは、これが初めてだがな。あの竜は、なにかと有名なのだ。というのも……魔族や人族の文明は、一万年ほど前、一旦とある竜に滅ぼされていてな。その竜の名が『眠れる古の竜』なのだが……滅ぼされた古代文明が遺した手記に記された外見的特徴が、目の前の竜とそっくりなのだ」


 つまりは俺たちが起こしてしまったドラゴンが、かつて文明を滅ぼした個体かもしれないというわけか。

 試しに俺は「サテライト」の解析機能を用い、目の前のドラゴンを鑑定してみた。

 すると……次のようなことが分かった。


 このドラゴンの年齢は約30000歳、睡眠時間は11000年〜13000年。

 その割に、一度起きてから眠りにつくまでの時間はたったの10年だそうだ。

 肝心の戦闘能力は……合成勇者にちょっと劣る程度だな。

 ……うん。これだけで確実な証拠とは言えないが、仮にコイツが「眠れる古の竜」そのものだったとしても、何ら矛盾は無さそうだ。

 今起きたのは、やはり俺たちの戦闘のせいで、中途覚醒してしまったのだろう。


「どうする、倒しとくか?」


 俺たちにとっては一ミリも脅威ではないが……合成勇者を倒した後、俺たちがこの世界から去ってしまうと、魔族にも人族にもコイツへの対抗手段がなくなってしまう。

 禍根を残すのは、メルシャとて望まないだろう。

 というわけで、俺はそう聞いてみた。


「無論だ。実は……言い伝えによると、我々魔族は条約を締結させられる際、『いざとなったら眠れる古の竜は合成勇者が倒すから、その借りを返すべく魔族は人族に尽くせ』と迫られたらしくてな。コイツを討伐しておけば、『そんな借りは無い』と突っぱねられるようになるのだ」


 すると、そんな新たな事実が発覚した。


 ……なるほど、コイツの死体を持っていけば、条約改正の交渉材料にもなるというわけか。

 ならますます、討伐一択だな。


「分かった。合成勇者戦の予行演習としては、少し物足りない相手だが……一応自力で倒してみろ」


 そう言って俺は、観戦することに決めた。

 一応さっきの模擬戦、俺なりにパワーファイターっぽい戦い方に寄せたとはいえ、寄せ具合には限界があったからな。

 結局最後は術式の改変というガチガチの頭脳プレーで引き分けに持って行っちゃったし。

 このドラゴンの方が、まだ合成勇者の完全下位互換っぽいムーブをしてくれるだろう。

 そういう戦いを経験しておくのも、自身につながるはずだ。

 などと思いつつ、俺は腕を組んで空を見上げた。


 ……しかし。


「……む? 今の一撃で伸びてしもうた……」


 メルシャが「魔槍」を放つと、槍のうち一本がドラゴンの顎にクリーンヒットし、ドラゴンは気絶してしまった。


 ……前言撤回。どうやら下位互換とすら呼べない相手だったようだ。

 メルシャは追加でドラゴンの首元に次元切断魔法を放ち、完全にドラゴンを絶命させた。


「なんか呆気なかったのう……」


「同感だ」


 などと話しつつ、俺たちは地面に降り立った。




 ……さて。

 この死体、どうやって持ち帰ろうか。


 俺の収納魔法に入れてもいいのだが……メルシャも立体魔法陣を覚えたことで、大容量空間収納魔法が使えるようになったしな。

 このドラゴン一匹くらいなら、入らなくもないはずだ。

 自分で持っておいた方が、人族と交渉する際にも、何かと便利だろう。


「このドラゴン、自分で収納するか?」


 そう思い、俺はメルシャにそう聞いた。

 だが……それに対し、メルシャはこう提案した。


「いや、我が持っておくのは、この竜のうち特に外見が特徴的な部分だけでいい」


 そしてメルシャはドラゴンの心臓あたりを指しつつ、こう続ける。


「例えば骨や魔石なんかは……魔道具の材料として使えるだろう? お主、とんでもない高性能な魔道具を大量に作るようじゃからな……。材料が欲しいのではないかと思うが、どうだ?」


 ……このドラゴンの素材を俺にくれるということか。

 自分は最低限、「眠れる古の竜」の討伐証明ができるだけの部位さえ手に入ればそれでいい、と。

 俺はこの申し出に、どう答えるか少し迷った。

 申し出自体はありがたいんだが……実は俺、特に素材不足で困ってたりはしないんだよな。

 確かに俺は、過去に大量の魔道具を開発・生産してきたが……自分が必要だと思う分は既に相当量作り溜めてしまっているので、これ以上新規に作る必要がない。

 なので正直、この素材を貰っても、使うかどうかは未定となるのだ。


 とはいえ、このレベルのドラゴンの素材は、元の世界含めても結構レアなのも事実。

 貰えるものは貰っておくか……。


 ……などと考えていたその時。

 俺は一つ、この素材の良い使い道を思いついた。


「そういうことなら……一個いい使い道がある」


 そう言いつつ、俺は魔法でドラゴンの死体をパーツことに分解する。

 メルシャが必要な部位を収納すると、俺はこう続けた。


「俺たちがこの世界を離れたあとのために……こういうのをシシルにでも渡しとくのはどうだ?」


 提案しながら、俺は魔石と脚の骨の一部に加工魔法をかけ、一本の剣を作った。

 といっても、ただの剣ではない。

 特殊な効果を組み込んだ魔剣である。


「所有者が魔力を流すと、ひとりでに魔法陣が組みあがり、効果を発動する魔剣だ。といっても誰もが魔力を流せるわけではなく、メルシャの血族にしか扱えないよう、ロックをかけてある。立ち上がる魔法陣は、立体の『身体強化』と『次元斬撃』。……どうだ?」


 魔力操作が稚拙な者でも……ただ一個だけ、立体魔法陣を扱える場合がある。

 それがこの魔剣のような、「魔力を流すだけでひとりでに魔法が組みあがる」という効果を持った剣に、自身の魔力を流した時だ。

 特定の魔法陣しか組み込めない上、魔法の発動までに3秒かかるので、メルシャレベルの魔法使いとなるともはや無用の長物だが……平面の魔法陣しか扱えない者には大きな力となる。

 ただその強力さ故に、盗まれると一気に不利に陥りかねないので、血族を条件に使用者制限もかけておいた。


 これがあれば……仮に人族が俺の帰還を知り、条約を元に戻さんと戦争を仕掛けた」としても、余裕で対応できるだろう。


「そ、そんな大層なもの、頂いてしまっていいのか?」


「大層なものって言っても、俺やメルシャによっては既に使い物にならないような物だぞ」


「それは……。……素材を自分のために使ってもらうつもりが、逆に加工品を頂くことになってしまって、なんか申し訳ないな……」


「気にするな。もともと自分に必要な魔道具は、過剰なくらい量産・備蓄してあるんだ」


 などと会話しつつ、今度こそ俺は転移用魔道具を発動した。

 ただ……今回の行先は、シシルの部屋だ。


 もうあとは宣戦布告して、実際に合成勇者と戦う日が来るのも目前だからな。

 お土産を渡すついでに、一度ちゃんと別れの挨拶をしておいた方がいいだろう。


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