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ふりちりすべる  作者: ぱじゃまくんくん男
13/15

織田全軍の参謀

 すえとたまの姉妹が庭隅の板塀沿いにしゃがみ込んで何かをしている。

 彼女たちの背後では幾羽の雀が跳ね回って地面をついばんでおり、姉妹が声を立ててもまったく動じない。

 縁側に座り込んでそれを眺めていた牛太郎は、不思議になった。雀は姉妹を知っているのだろうか。まるで、すえとたまが連れ添っているようにも見える。

「何をしているんだい」

 牛太郎が声をかけると、姉妹は振り向いてきて、花を植えているのだと言った。

「姉さんがどっからか摘んできたんです。根っこごと」

「川。いつもの川にあったの。ねえ、お父ちゃんもやって」

 すえからすると牛太郎はお父ちゃんらしい。無論、弥次右衛門もお父ちゃんなのだが、牛太郎に対してお父ちゃんと呼んでいるのはどういう意味合いからなのか、誰にもわからない。それにすえが言っていることなので、誰も咎めない。

 相変わらずのぼさぼさ頭の下の顔をにたにたとさせながら、すえは縁側の牛太郎に歩み寄ってきて、花を一輪渡してくる。確かに根ごと引き抜いてきたらしく、土くれが着物にこぼれた。

「ああっ、もうっ、姉さんったら!」

 たまがあわてて駆け寄ってきて、懐から手拭いを取り出すと、それで牛太郎の股の辺りにこぼれた土を払っていく。

「申し訳ありません、旦那様」

「いいよ、大丈夫だから」

 牛太郎は掌に花を乗せたまま腰を上げ、

「すえ。どこに植えればいいんだい。あそこでいいのか」

「違う。やっぱりこっちこっち」

 すえに手を引かれていくと馬屋のほうだった。栗綱と黒連雀が突っ立ったまま眠っていて、二人が近づいてきたものだから、栗綱はちらとだけ瞼を開けた。ただ、一回りしてこちらに尻を向けてしまった。黒連雀は頭を出してきて、すえに構ってほしそうに鼻を鳴らす。

「ここ。ここ」

 すえが指差したのは馬屋の前、黒連雀の足元だった。

「ここにあげればクロスケとクリツナ、いっつもお花見れるよ」

「ここじゃ、こいつらが踏んじゃうじゃんか」

「だめ。踏んじゃわない。ここ。すえはここがいいの。ねえ、クロスケ」

 すえが黒連雀の鼻面を撫でると、黒連雀はお返しにすえの頬を舐めた。

「わかったよ」

 牛太郎はすえから鋤を受け取ると、土を掘り返す。

「旦那様」

 たまとすえの三人で屈んでいたら、貞が草履をぱたぱたと鳴らしてやって来た。

「前田様がお訪ねに参りました」

「前田? マタザ殿か?」

「はい」

「じゃあ、ちょっと先に通しておけ」

 牛太郎は花を植えると、手を払いながら腰を上げた。

「お父ちゃん、またどっかに行くのお」

「いや、どこも行かないさ」

 牛太郎は井戸からくみ上げた水で手を洗い、衣服の土を払うと、庭先から縁側に上がって、広間に顔を出した。

「よお、羽州。急に押し掛けてすまんな」

 又左衛門はにこにこと右手を掲げてきたが、牛太郎は首を傾げながら向かいに腰を下ろした。

「ウシュウってあっしのことスか?」

「何を言っている。お前は出羽守じゃないか」

 正月も過ぎて落ち着きが戻ってきたころ、上総介のはからいにより、織田家臣団のおもだった者に拝官褒賞があり、牛太郎は新たに出羽守の官位を朝廷から賜った。

 牛太郎以外の家臣だと、

 丹羽五郎左衛門長秀が越前守に。

 羽柴藤吉郎秀吉が筑前守に。

 明智十兵衛光秀が日向守に。

 滝川彦右衛門一益が伊予守に。

 塙九郎左衛門直政が備中守に。

 これまで信濃守を自称していた荒木村重が摂津守に。

 簗田左衛門太郎広正は彼らより一つ位の低い右近大夫を叙官した。

 更に上総介は明智十兵衛、塙九郎左衛門、簗田左衛門太郎の三名に名族の姓を与えるよう朝廷に働きかけ、十兵衛は惟任姓を、塙は原田姓を、太郎は別喜姓を拝領した。

 この家臣の面々の中に牛太郎と太郎の二人が揃って入っているのは異様であった。おやかた様はよほど簗田親子を気に入ってらっしゃるというのが家中の人々のもっぱらの見解であったが、当然ながら、簗田家は二人の叙官を祝わなかった。皆が皆、慎ましく笑っただけであった。

 名前が変わったというだけで、何かが変わったわけではない。得られたものは糞の役にも立たないような名誉である。実際、家中の人間のほとんどは、今まで通りに、牛太郎、左衛門太郎と二人を呼んでおり、拝官を朝廷に奏上した上総介でさえ、牛、こましゃくれ、である。

 それでもたまに、又左衛門みたいに田舎武者からの脱却を目指す進歩的発想なのか、ただのごますりなのか、簗田出羽守殿、別喜右近大夫殿などと、いちいちかしこまってくる者もいる。

「どうでもいいッスよ。んなの。今まで通り、牛とか太郎で」

「まあ、そう言うな」

 又左衛門は無官である。藤吉郎や牛太郎に先を越されているにも関わらず、この男にしては妙に落ち着いていた。清洲時代の若かりし又左であれば、嫉妬のあげくに発狂して槍を振り回しかねないというのに。

 羽州などと呼んできて、昔なじみの叙官を我ごとのように受け入れている又左衛門の懐の深さが、牛太郎には薄気味悪い。

 ただ、それは又左衛門なりの遠慮であったことは、すぐにわかった。

「駒のことだが、残念だったな」

 又左衛門は視線を落としつつも、湯呑みを手に取って、無言の間を取りつなぐようにずるずると煎茶をすすった。

 もう、半年近くが経つ。その間、数々の人間から慰めや励ましの言葉を頂戴したが、いまだになんと答えていいのか牛太郎はわからない。駒という孫娘があたかも最初からいなかったように振る舞ってはいても、記憶のどこか、胸のどこかには、あの子の声が残っている。

 ただ、実の父母である太郎とあいりを考えれば、いつまでも空虚な心持ちでいてはならないと、近頃は思うようになっていた。あの二人の夫婦は昔から変わらぬ明るさで日々を送っているが、太郎とあいりのことだ、二人きりのときは悲しみに暮れているに違いない。

 彼らを励ましてやれるのは、父親である自分しかいない。

「実はな、今日来たのはだな」

 と、又左衛門は湯呑みを床に置きながら言う。

「まあ、俺のところは何に恵まれたのか子供だらけで、去年もまた一人産まれた。女なんだがな」

「お豪でしょう。この前、会いましたよ。おまつさんがうちに遊びに来たときに連れてきましたから」

「あ、ああ、そうか、そうだったな」

 何をあわてているのだろうと、牛太郎は瞼を怪訝に細める。

「いや、実はだな、まつとも話したんだが、俺のところはもはや子供を養うほどの扶持がなくて、どうしようか悩んでいたんだが、その、まあ、牛のところは子供がないしな、近所でもあるし、豪をお前のところにもらってもらわないかということなんだ」

 まさか、織田の中堅将校である又左衛門が女児一人も養えないなど有り得ない。おそらく、牛太郎に対する又左衛門なりの精一杯の励ましであり、友情なのだろう。

 牛太郎は静かに微笑んだ。

「ありがたいことですけど、あっしには太郎がいますし、太郎とあいりんもまだ若いんで、またいずれは子供ができるでしょうから。だから、あっしなんかよりも、藤吉郎殿にもらってもらったらどうなんですかね」

「藤吉郎?」

 又左衛門はあからさまに眉をしかめたが、藤吉郎の庶子である石松丸が先年の十一月に夭折してしまったのは又左衛門も存じているはずだった。

「あっしのところには太郎がいますけど、藤吉郎殿と寧々さんのところには一人も子供がいませんじゃないですか」

「まあ、そうだが・・・・・・、そうだがな・・・・・・、まあ、藤吉郎は好色だしな・・・・・・」

 牛太郎はさすがに笑うしかなかった。

「いくら藤吉郎殿だからって、赤ん坊に手を出すはずないじゃないですか」

「それはそうだが、うーん。でも、育てたあとに手を付けるなんてことも」

「寧々さんがいるから大丈夫ですよ。それに藤吉郎殿は織田の出世頭ですよ。養女にしてあげれば、お豪のためにもなるでしょ」

「うーん。しかし、あいつは昔からまつなどにも色目を使っていたような気がするし、豪に限らず、うちの娘は皆、まつに似ていて、俺が言うのもなんだが、なかなかのものだから、藤吉郎などに渡してしまったら」

 牛太郎は呆れた。昔の乱暴な又左衛門は嫌いだったが、今の親馬鹿な又左衛門はかぶいていたころのほうがましだったのではないかと思えるほど、武者ぶりが削げ落ちてしまっている。

「そんなことよりも又左さん。今年はいよいよ武田との戦いですよ」

 心配になって、少々たしなめる具合で言ってみたら、うんうん唸っていただけの又左衛門は突如として眼光を鋭くさせて、牛太郎に持ち上げてきた。

「わかっておるわ。お前こそ首尾よく整えられるんだろうな」

 ははあ、と、思わず唸りそうになった。どうやら、槍の又左は、親馬鹿の又左衛門を隠れ蓑にして、刃を研いでいるらしい。

 牛太郎は笑う。

「当然ですよ」

 フン、と、又左衛門は鼻で笑いながら、湯呑みを手にする。

「お前、清洲のころから比べれば、ずいぶんと逞しくなったな」

「出羽守ですから」

「ほざきやがって。今にお前を出し抜いてやるわ」

 又左衛門はもう一度鼻で笑うと、目尻に皺を寄せたまま煎茶をすすった。


「お主は牛太郎などというふざけた面を被った傀儡師じゃ」

 佐久間右衛門尉はそう言いながら、平伏する牛太郎の前に書状を放り投げてきた。

「己の立身出世のためだけに、玄蕃允や勝蔵のみならず、わしや権六までをも人形のように扱って、さも可笑しげにおやかた様に披露する長良川の河原乞食よ」

 佐久間は手にしていた扇子を、苛立たしげにぱちつかせながら、無言で頭を下げているだけの牛太郎に嫌気のさした眼差しを据える。

「孫娘に逝かれてしまったのも、お主の日頃の行いからではないのかあ?」

 悪口をついて、ちょっと気が紛れたらしい。佐久間は扇を広げ、垂れ下がるあごひげを風に揺らした。

「右近大夫も不憫なものじゃ。奴のような若武者はそうはおらんというのに、父がお主ではな」

「お言葉、しかと胸にとどめておきます」

 書状を懐におさめた牛太郎は、佐久間の前からさっさと退席した。

 武田に内通者に見立てられている現状が我慢ならないと佐久間は言っているが、実際のところは、ただ単に牛太郎に持ち駒として扱われていることが気に食わないだけなのだろう。

 器の小さい男だ。そのくせ、先日の拝官褒賞の折りには、叙任した家臣団の中でももっとも位の高い官位が与えられるという話だったのに、それを蹴った。というのも、上総介が、家臣団より低い「従六位上総介」にも関わらず、上総介の呼称が気に入っているからという理由で官位を上げず、佐久間と柴田権六郎の二人も、上総介の奇天烈になぞらって、叙官を辞退したのであった。

 あぐらを組んでいるだけの田舎武者野郎が言いたいこと言いやがって。牛太郎が鼻息を荒くしながら門をくぐり出ようとすると、

「旦那様」

 と、於松がいつのまにか背後にいた。於松は監視のために佐久間屋敷に奉公させており、それも上総介の了承を得てのことだった。不気味な老人に居着かれているのも、佐久間にしては憤慨やるせないのだろう。

 傀儡師と牛太郎を揶揄したくなるのも、もっともなことではある。出自も謎で、珍奇衆という得体不明な役職で上総介に取り入り、今では家中の人々を操ってやりたい放題。見ようによっては、簗田出羽守は君側の奸臣である。

 とはいえ、

「ここに来たときは、いっつもおもしろくなさそうに帰っていきますねえ」

 と、於松が顔色を指摘したように、牛太郎には織田家を掌握する気などさらさらない。

 牛太郎は佐久間の悪口に気分が悪くなりすぎて、見慣れた於松の醜い面も鬱陶しく、奥歯を軋ませながら門をくぐり出、稲葉山の坂道へと入っていく。

「おやかた様の一番家来なんだから、いい顔しておいたほうがいいんじゃないんですかねえ」

「黙れ、クソジジイ」

「中身は御覧になられたんですかい?」

 ちっ、と、舌打ちし、牛太郎は足を止めた。於松の歯抜けの笑顔を傍らにして、懐の書状を解いていく。

 差し出しの主は武田大膳大夫勝頼の側近、長坂釣閑斉であった。

 佐久間右衛門尉が武田家に寝返ったさいの待遇などについて記されている。

「ずいぶん気が早いことだな」

 フン、と、この謀略家は鼻で笑った。書状を於松に手渡す。

「いつもみたいに燃やしておけ。あと、さゆりんに返書を出すように伝えておけよ。ありがたき幸せとか書かせておけ」

「ししし」

 書状を受け取った於松はのそのそと引き返していった。

 木漏れ日が落とされている小怪に、鳥の地鳴きがかすかに届いてくる。従五位下出羽守として、文句なく織田の重席に列している牛太郎の歩く道は、前から来る誰もが譲っていく。荷駄持ちや使い番は当然として、岐阜城と城下を行き交う奉行衆も、どこかの家の子弟も、道の端に体を退けて、牛太郎が前を通り過ぎるまで頭を下げ続ける。

 だが、牛太郎はその優越に浸ることなく、次を見据えていた。

 正月、息子を喪って憔悴する藤吉郎とともに、珍しく竹中半兵衛も岐阜にやって来た。半兵衛は一度、実家の菩提山に帰ったが、ほどなく岐阜に戻ってきて、牛太郎に設楽ヶ原にて決戦を引き起こさせる奇策を口上した。

 きつつき戦法。

 武田軍が東三河に侵攻してきたさいの大目的は、玄関口である長篠城奪還であり、ここを取り押さえられたら、先年、東美濃長山城を落とされたように、決戦以前の問題であった。織田軍、ひいては牛太郎の課題は武田軍を設楽ヶ原まで引きずり出してくることである。

 半兵衛の奇策とは、長篠城を取り囲む武田軍を、きつつきが木の幹を叩いて虫を這い出させるようにして、長篠城包囲軍を、街道から迂回させた機動部隊に叩かせて、設楽ヶ原に押し出させるというものであった。

 そもそも、このきつつき戦法は、半兵衛の考案ではないと言う。

 かつて、武田徳栄軒と上杉不識庵が川中島で戦ったさい、山に陣を敷いた上杉軍を叩き出すために、徳栄軒が機動部隊を山の裏手に差し向けた。山から叩き出された上杉軍を挟み撃ちにするため、徳栄軒本隊は前進を開始したが、軍神不識庵はこれを悟って、霧に紛れて密かに下山し、突如として徳栄軒本隊の前に出現したのだった。

 思いもしなかった上杉軍の急突撃に、武田本隊はさんざんに打ち負かされて、迂回していた部隊が戻ってきたために窮地を脱して引き分けとあいなったものの、武田家はこの戦いで大多数の有能な将たちを失った。

 つまり、きつつき戦法が失敗したという過去が、武田軍にはある。

 織田徳川軍が同じことを行った場合、武田軍はどうでるべきか、大膳大夫にさまざまな思惑が交錯するであろうが、その思惑を設楽ヶ原の決戦に向かわせることが、

「簗田殿のお仕事です」

 さらには、きつつきを試みる機動部隊は、東三河の山間を把握しており、かつ、武田軍と渡り合える屈強な兵たちでなければならないとも半兵衛は言った。

「織田の兵にこの役目は成し遂げられません。やれるのは三河勢だけです」

 牛太郎は、再度、浜松を訪れなくてはならない。設楽ヶ原の作戦の全容を伝えるためにも、面会の相手は三河守自身だと思った。

 明日にでも岐阜を出よう。と、麓の屋敷町まで降りてきたところ、登城してくる佐々内蔵助成政に出くわした。内蔵助は馬に跨がっていて、下人を三人従えており、もちろん、この男が簗田出羽守に道を譲るはずがなく、牛太郎のほうが道端に押し返された。

 横切っていく馬上の内蔵助を、牛太郎はじっと見つめる。筋肉質に盛り上がった肩をゆうゆうと揺らす内蔵助は、作夏、嫡男と死別した。

 長島討伐で初陣を果たした佐々松千代丸は、中州への突撃戦のときに流れ弾を食らってしまい、十三年の生涯を終えている。

 息子がいたのか、と、それを聞いたときに初めて知った。牛太郎の中での内蔵助は、寧々の尻を追いかけ、部下を蹴り飛ばし、ちょっとでも火種があれば喧嘩ばかりという、傲岸な印象しかないが、一体、どんな父親だったのだろう。

 顔を合わせれば悪態をついてくるはずの内蔵助だが、目も合わせないまま、牛太郎の前を通り過ぎていった。

 太郎の話によれば、又左衛門とともに鉄砲奉行に付けられた内蔵助は、長島討伐以降、余計に鉄砲隊に厳しい訓練を施しているらしい。

 武田との決戦に向ける諸将の意気は、これまでとは格別に違う向きである。ただし、それは戦略上、武田の情報機関を出し抜くために、ひそかに、静かに、燃えたぎっていた。

「おい、牛野郎」

 振り返ると、内蔵助が馬を止めて横顔だけを見せてきていた。脂ぎった顔を仏頂面にさせている。

「首尾よく運んでいるんだろうな」

「当然ながら」

 内蔵助は顔を戻して稲葉山の坂を登っていった。


「明日、昼前に岐阜を出て京に向かうから、お貞、支度をしといてくれ。助さんと利兵衛と鉢巻きもな」

 牛太郎が米をかきこみながら言うと、家の者たちは一瞬静寂し、隣同士、顔を合わせた。

 長島から帰ってきて以来、牛太郎は何かが抜け落ちたように温和な家長となっていた。以前のように勝手気ままな行動で家の者たちにおかしなことを強要することもなければ、声を荒げることもなく、あれだけ不審がっていたたまにも優しく接している。一同が同じ床に並ぶ夕飯ともなれば、今日の魚はどこで釣ってきたのかと栗之介に訊ねたり、山内千代に最近は会っていないが元気なのかとあいりに訊ねたり、手ごねの茶碗を作る者が堺にはいて、その腕が実に見事なのだと梓に話したり、毎日毎晩、牛太郎は、家の者たちから見ればなんだかその健気さが悲しくなるほど、場の話題を作るのに懸命だった。

 ただ、出立を口にした今晩の牛太郎は、無口で、目つきもどことなく厳しく、背後にはほどよい緊張感が漂っていた。

 さすがに、家の者たちは、牛太郎が動くことすなわち、織田軍が動くということを、薄々感づいてきている。

 また、何かが始まるんだ。

 実際、上総介が近々上洛する。旦那様はおやかた様に先んじて上洛し、朝廷か各将に働きかけを行うのだろう、というのが、家の者たちの見方であった。

 本当は浜松なのだが。

「だ、旦那様。なんで、今度も俺は連れていってくれないんですか」

 七左衛門が泣き言のように顔を上げてきた。

「お前には他に役目がある。飯を食ったらおれの部屋に来い」

「えっ? や、役目ですか」

 七左衛門の驚きに、牛太郎は何ら反応せずに味噌汁をすする。

 以前の、簗田家の暴君であったころの牛太郎の言葉であったら、皆、裏に何かを秘めている七左衛門への「役目」に、眉をひそめて怪しんだであろう。

 ところが、長島以来、いや、駒の喪失以来、穏やかな人に変わってしまった牛太郎からは、以前のような私利私欲がまるで見受けられないので、裏のある「役目」とは、この巨大組織の織田家に関わること、簗田家の奉公人たちにとっては途方もないこと、言葉の緊迫と恐ろしさに沈黙せざるを得ないことであった、

 皮肉にも、牛太郎が以前に望んでいた、たるんだ空気を引き締めさせることに成功したのだが。

「亭主殿」

 重苦しさを和らげるように、梓が笑みを浮かべながら言った。

「暇があったらでよいから、先日に話していた手ごねの茶碗を土産にしておくれ」

 牛太郎は思わず箸を落としてしまう。あわてて拾い上げ、あわててあいりに交換してもらう。

「なんじゃ」

「い、いやっ」

 と、緊張を作り上げる家長になろうとも、相変わらずの恐妻家であった。この主人の仕草に、家の者たちはようやく眉根をひそめる。

「そ、そうは言っても、その茶碗は、結構な値段がしますんで、ま、まあ、あきらめてください」

「話だけを聞いていたら、その職人とは友人かのような口ぶりであったではないか」

「そ、そんな、滅相もないっ」

 そもそも、向かう先は畿内ではないのだ。

「まあ、母上。父上は忙しい身ゆえ、茶碗どころではありますまい」

 太郎の言葉に、梓は不服そうにしながらも矛をおさめ、その隙に牛太郎は急いで夕飯を平らげると、自室に逃げ込んだ。

 ほどなく七左衛門がやって来る。座らせると、七左衛門の手前に、金の小判を二枚、置いた。

 七左衛門が大きく見開いた目玉を右往左往させる。

「格さんが、おれらの目を盗んで遊び回っているのは知っているんだからな」

「えっ。い、いやっ、でも、お、俺はてめえの禄だけで遊んでいて、旦那様に取り立てがいくようなことはしてませんって」

「違う。これはくれてやるんだ」

「へ?」

「遊女をとっかえひっかえ、しこたま遊び回るんだ。それでもって、遊女に吹き込んでいけ。信長様と佐久間右衛門尉の仲が悪いってな」

 七左衛門は小判を見つめたまま呆然として固まり、当然ながら事の次第がまったく飲み込めていない。

 牛太郎は理由を説明してやった。遊女の中には武田のくのいちが扮装している可能性があり、彼女らをだますことによって、甲府の首脳たちもだませる。来たる武田とのいくさで有利に運べる。

「どうしてそんなことを格さんが知っているのかって訊かれたら、主人の簗田出羽守が信長様に告げ口をしているって答えるんだ。出羽守はおやかた様に気に入られているから、いずれ、羽柴様を追い越して出世頭になるに違いねえとかなんとか、うすら馬鹿が自慢している感じで振る舞え」

 その天性の馬鹿さ加減を期待したうえでの役目だというのに、七左衛門には壮大すぎたのか、まだ固まっている。

「嫌なら助さんにやらせるけど」

「や、やりますよっ。てか、あいつなんかには、こんな大任をこなせませんって!」

 七左衛門は小判を引ったくって懐に押し込めると、若干のにやつきを浮かべて退出していった。


 利兵衛を呼んだ。

「明日、弥八さんのところに行って、浜松に行くけれどどうするか訊いてこい」

「やっぱり、京じゃなくて浜松なんですか」

 ハア、と、利兵衛は溜め息をついた。

「京に行ったって、何かをするわけじゃないだろうが。何に憧れているんだか知らないけどよ」

「田舎で三年勉学に励むよりも、都で三日寝ていたほうが、身のためになると言います」

「誰がそんなことを言ったんだよ」

「私の見解です」

「どうでもいいわ。そんなことより、家康殿に会うかもしれないからっていうことを、弥八さんに伝えろよ」

「本多殿は行きませんよ。追放された身なのですから」

「一応、伝えておけ」

 利兵衛は面倒そうにうなずくと、戸を閉めていった。

 一人になると、牛太郎は机の前ににじり寄り、燭台のもとに和紙を広げると、腕を組んで、じっと考え込んだ。

 惟任日向守こと、坂本の明智十兵衛から文が届いており、返書しなければならなかった。

 先頃、細川兵部大輔が坂本にやって来て、伊丹城の荒木摂津守の目付を滞ることなく行うよう、牛太郎に伝えてくれと言っていたらしい。

 なんでも、摂津守は伊丹台地に一大城郭を築いており、有岡城などと勝手に命名したほど増長しているという。

 兵部は元来、物思いにふけることが多い男ゆえ、と、十兵衛も書面で一笑しているが、しかし、摂津守が本当に増長しているとしたら、災いの種になりかねないとも述べている。

 実は牛太郎、伊丹城の改修に一枚噛んでいる。長島から帰参してからすぐのこと、田中宗易からの文で伊丹城改修事業の計画を知った牛太郎は、摂津守に文を送って、伊丹は畿内と西国を繋ぐ要所であるから、頑強な要塞を築城するようあおった。さらに堺の四郎次郎に早馬を出し、摂津守に借財の誘いを持ちこませ、改修工事にかかる人夫や材木も、堺会合衆と摂津守の間を取り持って斡旋するよう命じた。

 なので、十兵衛や兵部に煙たがられては困るのだった。

 牛太郎は筆を取り、和紙に書き連ねていく。

 荒木摂津守は確かに増長しているかもしれないが、生来気の弱い男であり、信長様の恐ろしさも存じているから、織田に弓引くような真似は考えられない。築城も所詮は道楽の延長であり、気を揉むほどでもない。と。

 家長としては穏やかに振る舞うようになった牛太郎だが、事が銭儲けに至るとなると、相変わらずの貪欲な利己主義者であった。

「ヘタレ村重には稼がせてもらわないとな」

 にたにたと笑いながら、牛太郎は文を折り畳んでいく。武田家工作に日々追い立てられ、成長を楽しみにしていた駒も喪い、香りを楽しめる衣服も梓のものだけで飽きてきた。今の牛太郎が牛太郎らしくいられるのは、蓄財への情熱しかないのかもしれなかった。

 四郎次郎をこき使うことだけが唯一の楽しみとなってしまっている。



 尾張沓掛に栗綱と栗之介を置いていき、例のように旅人風情の目立たない姿で三河に入ると、事前に文を出していた松平善兵衛と再会し、遠江の地を踏んだ。

 さて、どのようにして徳川三河守と接触するかであるが、やはり、牛太郎は武田の忍びの目に怯え、浜松城への登城はためらった。

「前のように、本坂街道沿いの茶屋で落ち合うのはいかがかと」

 善兵衛が提案した。

「おやかた様は野駆けのついでに、あそこにたびたび寄られているようなので、不自然ではないでしょう」

「そっか。だったら好都合だな。じゃあ、早速、家康殿に日取りと時刻を訊いてきてくれ」

「でも、殿」

 と、利兵衛が口を挟んできた。いつもの出しゃばりかと牛太郎は苦々しくなったが、

「野駆けや鷹狩りのついでとあれば、使いの従者を大勢連れられているはずです。それではかえって目立ちますし、その中に間者がいないとも限らなくありませんか?」

 利兵衛らしくないが、確かに、もっともな意見だと牛太郎は得心した。

「そういうことだ、善兵衛」

 しかし、善兵衛は眉をしかめた。

「いや、万が一を考えたら、一人か二人の警護でおやかた様を城外にお連れすることはできかねます。今の武田と徳川の情勢ではなおさらです」

「平八郎がいるから大丈夫だろ」

「そんな」

「天下の三河武者が、武田怖さでお散歩もできないって言うのかい?」

「そ、そんなわけありませぬっ! いくら簗田殿とはいえ、口が過ぎますぞ!」

「ああ、失敬。ということで、段取りのほうよろしく」

 善兵衛は、血色豊かに床を叩き踏んでいきながら、宿を出ていった。

「殿。あのような口を叩いていいのですか」

「いいんだ。ごちゃごちゃ言い争っていたって先には進まないだろ。もう、ここまで来たら躊躇している暇はないんだ」

 慕ってくれている善兵衛をけしかけてしまって気分の良くない牛太郎は、大きく鼻息を抜くと、床の目をぼんやりと見つめる。

 責務であった。

 決戦地を設楽ヶ原と定めたそのときから、およそ一年。

 牛太郎は、人々が営む時空の流れに、設楽ヶ原作戦という川を作った。そうして、牛太郎は、竹中半兵衛ら、智謀家たちに川を広げる手段を授かり、又左衛門や内蔵助にここを掘らせ、そして、上総介が水を注ぐとき、大河となるであろう。

 天下布武の大海へと注ぎ込まれるこの流れは、山県三郎兵衛尉への復讐や、三方ヶ原の借りなどといった、一個人の心情で堰き止められるものではない。

 一蓮托生、織田家数十万の流れなのである。

「利兵衛も、助さんも、覚悟しろ。そして、誇りに思え。裏方は名前を残さないかもしれないけど、おれたちがやろうとしていることは、千年経っても二千年経っても語り継がれるからな」


 三河守の返答を待つ間、そういえば、と、牛太郎は急に起き上がった。

「おい、利兵衛。今から手紙を書くから、お前、それを大久保ナントカって人のところに持っていけ」

「ナントカってなんでしょうか?」

「ほら。弥八さんが子供を預けているっていう人だ」

「ああ、確か、大久保新十郎殿とか言っておりました」

「そうそう。新十郎さんだ。今から書くから、ちょっと待ってろ」

「なにゆえ、その大久保殿に文を」

「弥八さんの子供を世話してもらっているお礼を言いにいくんだ。あと、弥八さんは元気だとか、子供に教えてやるんだ」

 利兵衛は、治郎助と顔を見合わせて、首をかしげながらもひそかに笑った。

「殿はお節介を嫌っていたはずですが」

「おれが嫌いなのはお節介じゃない。お前がよくやっている押しつけだ」

「私は押しつけなどしておりませんよ」

「よく言うわ」

 牛太郎は大久保新十郎宛てに面会を求める旨の書状をしたためると、それを利兵衛に渡した。

「くれぐれも粗相のないようにな」

「今から行けとおっしゃっているのですか?」

「なんだよ。何が不満だ」

「だって、大久保殿の所在を私が知っているわけないではないですか。松平殿にお願いしたらよろしいではありませんか」

「馬鹿野郎! 弥八さんは追放されてんだぞ! 善兵衛に頼めるわけないだろうが! うっかり間違えれば、善兵衛に迷惑かけるだろうが!」

「そんなことおっしゃったって、私は大久保殿の所在を知りません! 松平殿に所在をお訊ねしてからでよろしいではないですか!」

「ま、まあ、利兵衛殿」

 と、治郎助が利兵衛をなだめるが、急に怒鳴られたのが気に食わなかったのか、利兵衛は鼻の穴を膨らませて、牛太郎をてらてらと睨み据える。

 利兵衛の言うことはまず間違っていなかったが、牛太郎はその態度に憤慨した。

「だったら、自分で探してこいやっ! 町中で聞き回ってこいっ! このくされまんじゅう野郎っ! なんでもかんでも楽しようとしてねえで、とっとと行けっ! さもないと―」

 牛太郎はおもむろに柴田権六譲りの太刀を引き抜き、刃先を利兵衛の鼻頭に突きつけた。

「叩き斬るぞっ!」

 利兵衛は顔を青ざめさせながら、逃げ出ていった。口は達者だが、凶器を突きつけられるとすぐに震え上がる臆病者であった。

「まったく、あの馬鹿がっ」

 太刀を鞘におさめて、治郎助は苦笑い。

 すると、逃げ出した利兵衛と入れ替わるようにして、善兵衛が戻ってきた。善兵衛は利兵衛とすれ違っていたらしく、

「さきほど、簗田殿の小姓が泣きながら飛び出していきましたぞ」

 と、不可思議そうな顔だった。

「ほっとけ。あいつは泣いているぐらいがちょうどいい」

「はあ」

「そんなことより、家康殿はどうだったんだ」

「ああ。ええ。おやかた様は簗田殿がお見えになられているとのことなら、今すぐにでも支度をするということで、例の三方ヶ原の茶屋で落ち合いましょうと」

「さすが、話が早いじゃんか」

 と、牛太郎は腰を上げた。

「でも、簗田殿、万が一のことを考えてくだされ。おやかた様に何かがあれば、我ら三河勢は終わりなのですから」

「善兵衛。あんまりそういうことばっか言うとな、本当にそんなことになりかねないんだから、あんまり口にするな」

 善兵衛は不服そうに口をつぐんだ。


 牛太郎は治郎助とともに、本坂街道を上っていき、例の茶屋にやって来た。相も変わらず野原へと朽ちていくようなあばら家で、中を覗き込んでみると、老婆は薄闇に溶け込むようにしてぼうっと腰掛けており、健在であった。

「いらっしゃい」

 老婆はしわがれた声とともに、白目だけを薄闇の中でぬうっと持ち上げてきて、治郎助が後ずさりした。

 勝手知る牛太郎もさすがに寒気がしたが、

「女将。小豆餅と茶を二つずつ頂戴」

「あいよお」

 老婆が奥に消えていくのを見届けて、治郎助とともに軒先の濡れ縁に腰掛けた。

「ほ、本当にこちらなんですか」

「まあ、騙されたと思って食べてみなさい」

 と、被っていた傘を外しながら、悠々自適の隠居風情であった。

 昼中ののんびりとした野原に温かな日差しが注ぎ込む。季節のわりに風も穏やかで、衣服を着込んでいるには暑いくらいであった。

「あいよお。小豆餅」

 急に現れてきて、びくっと肩を震わせた牛太郎と治郎助。老婆は欠けた歯をにやにやと覗かせながら、屑茶と小豆餅を濡れ縁に置いていき、また、ひんやりとした居場所へと帰っていった。

 治郎助が、睫毛の先を小豆餅にじっと落としている。

「食べてみろって。それとも、助さんは甘い物は駄目だったのか」

 と、牛太郎は小豆餅を手に取って、二つに割り、片方を口の中に放り込んだ。甘味が喉の奥まで染み渡り、鼻から抜けていく。突き抜けるような甘さに思わず瞼をつむってしまうも、糖分に不足がちな体を潤していくようであった。

「いやあ、うまいっ。土産に持って行きたいぐらいだ。あずにゃんやあいりんにも食わせてやりたいよ」

 舌鼓を打つ牛太郎を、治郎助はじっと眺める。

「食ってみろって。いらないならおれが食べちゃうぞ」

「あ、いや」

 治郎助はようやく手に取った。そして、食べた。

「どうだ」

「あ、う、うまいです。でも、うーん、やっぱり彩さんの団子茶屋のほうがうまいかも」

「なんだと?」

「い、いやっ、そういうつもりではなくて」

 あわてしきって屑茶を口につける治郎助をじいっと睨む。そうして、深々と溜め息をついて、牛太郎も屑茶をすすった。

「まあ、お前らは美男美女でお似合いなのかもしれないけどな」

 と、背中を丸くして小さくなっている。

「どこまでの仲なのかは知らんけど」

「いやっ、旦那様、そんな仲ではありませんって」

「でも、惚れてんだろ?」

 と、牛太郎は傍らの治郎助に目を持ち上げたが、その視界に怪しげな釣り目の少年が入った。わりと離れたところではあるが、いつの間にいたのか、手ぬぐいを頬被りした百姓風体の大柄な少年が、姿に似合わぬ小綺麗な杖を携えていて、こちらを凝視してきている。

「助さん」

 牛太郎は声をひそめた。

「やばいことになった」

 治郎助が振り向いた。と、そのとき、少年は右手に支えていた杖の端を左手で握り締めた。

 仕込み杖だった。

 武田の忍び――。

 牛太郎と治郎助は濡れ縁からおもむろに腰を上げる。牛太郎は脇差しも太刀も備えてきていない。が、治郎助は懐に短刀を忍ばせていた。



 冬枯れの野原に、陽光を吸い込んだような、柔らかく温かな風が流れていた。

「旦那様、逃げてください」

 治郎助が懐から短刀をちらつかせる。

 少年は杖の頭を握り締めたまま、微動だにせず、ただただ釣り目の中の瞳を尖らせている。

「奴は相当の達人です。早く」

 若干、治郎助の声が震えているような気がした。牛太郎は唇を噛んで、無用心でいた自分を悔やんだ。治郎助を置いて逃げることができるのか。たとえ、逃げたとしても同じじゃないのか。

 握り締めた拳に汗の冷たさを感じた。

 そのとき、牛太郎の背中に鋭利な寒気が襲った。何者かが一瞬のうちにして牛太郎の背後に降り立っていた。

 伊賀の里で得た感覚と同じもの。脳裏をよぎったのは茂みの中から見つめてくる二つの目だった。

 殺られる――。

 振り返るのも許されないほどの気配で、それに牛太郎は体を縛られ、喉元を震わせるのが精一杯だった。

 しかし、

「ご主人様」

 と、地鳴りのような低い声が牛太郎の耳元に吹きかけられた。

「あの子供は武田の者ではなく、徳川三河の小姓です。不貞な輩はご主人様の目に触れることなく葬っているので、ご安心を」

 牛太郎は緊張から解き放たれたように、がばっと振り返った。

 黒い影が瞬く間に消えた。

 治郎助も、少年も、牛太郎の背後にあった者に気づかなかったらしく、いぜん、刃をちらつかせて睨み合っている。

 日常において、あまりにも気配を感じなかったので忘れていたが、伊賀流の忍びを護衛にしていたのだった。

 当然、接触したのは初めてである。影が放っていたのは、さゆりや新七郎でも足下に及ばなそうな殺気で、雇っているのがそんな忍びであることが逞しくもあったが、少なからずの恐怖も覚えた。

 それにしても、目に触れることなく葬っているということは、この一年弱の間、自分を狙っている者がいたということなのだろうか。

 と、牛太郎が呆然とたたずむ中で、少年と治郎助は互いに抜刀した。

「お、おいっ!」

 牛太郎はあわてて二人の間合いの中に割って入ると、仕込み杖の刃を日差しにきらめかせている少年に呼びかけた。

「お前は家康殿の小姓だろうっ! おれは簗田牛太郎だぞっ!」

「何を言うか」

 と、少年は初めて口を開き、その目つきに似合わぬ、声変わりしたてのあどけなさ残る物言いであった。

「簗田羽州殿は、おやかた様のような恰幅のある御仁だと聞いておる。お主のような風体の冴えない者ではない」

「ち、違うっ! 痩せたんだ! おれは痩せたんだ! 善兵衛に聞けばわかる! 善兵衛に聞いてみろっ!」

「信用ならぬ」

「ま、ま、待てっ。落ち着けって。そ、そうだっ。これを見ろ。この耳を。傷跡があるだろ。三方ヶ原で負傷した跡だ。これを見ればわかるだろ」

 少年は抜刀したまま、牛太郎をじっと見つめる。そのうち、理解を得たらしく、仕込み杖をおさめ、頭を下げてくると、浜松のほうへ立ち去っていった。

「なんなんだ、あのガキは」

 牛太郎は大きな吐息をつきながら、濡れ縁に戻った。

 治郎助がまだ警戒していて、短刀は懐におさめたものの、その場に立ったまま、静寂の野原を厳しい眼差しで見回している。

「大丈夫だ、助さん。ゆっくりしろ」

 殺気を競り合わせていた余韻が抜けないのか、無言のまま牛太郎の傍らに腰掛け、眼差しに獰猛な火を宿らせたままだった。

「食べろ」

 と、牛太郎は小豆餅の皿を治郎助に押しつける。治郎助は頭を軽く下げ、小豆餅を手にとった。

 太郎や玄蕃允に鍛えられているし、長島では戦場を経験したしで、優男の治郎助も、戦国乱世に生きるようになったらしい。

 しかし、伊賀者を雇っていなければどうなっていたことやら。少年には勘違いで殺されていただろうし、影のあの口ぶりだと、不貞な輩が自分の命を狙っており、知らない闇の世界で、伊賀者と誰かの暗闘が繰り広げられているのだ。

 武田は動きに勘付いているのか? それとも甲賀流が懲りずに付け狙っているのか?

 抜き差しならない闇を実感しながら、野原を見つめる牛太郎は、屑茶をすすった。

 薄い雲が染みこむ白濁の空は、果てしなく広い。

 ぜえぜえと吐息を荒げる声が聞こえてきた。目を向けてみると、先ほどの仕込み杖の少年が、筋骨隆々の胸板を襟からはだけさせる百姓と、もう一人、頬被りの手ぬぐいを結ぶ二重顎を揺らしながらの肥え太りした男とともにやって来る。

 地面に顔を伏せながら、息を切らしているのは三河守で、連れているのは本多平八郎だった。

「はあはあ。こんなに遠いとは思わなんだ。はあはあ。馬でないときついわい。はあはあ。しかし、これも世のため人のため畑をこさえるためよ」

 などと、ぶつぶつ呟きながら牛太郎の前までやって来て、

「おやかた様」

 と、平八郎が顔を寄せてささやくと、三河守は顔を持ち上げて、頭を下げてきた牛太郎と治郎助を眺め見た。

 ぜえぜえと口を開けたまま、三河守はぎょろ目を丸めている。

「で、出羽の人は、どちらかな」

「そりゃないでしょ、三河の人」


 武田の忍びの気配がないことを教えると、三河守は遠回しな物言いもやめて、屑茶を五杯も飲んだあと、濡れ縁に牛太郎と肩を並べた。熱い茶を五杯も干したから汗がやまないらしく、手ぬぐいで何度も何度も顔を拭き拭き、呼吸を整えていくと、ようやく口を開いた。

「簗田殿、こたびの出羽守の叙任、お祝いしますぞ。嫡男殿は姓まで拝領したそうで、実にめでたきことですな」

「まあ、他にも大勢、織田の家臣は官位をもらいましたから、そんな大したことじゃありませんよ」

「いやいや、実に喜ばしい。なにせ、拙者と簗田殿は縁戚ですからな。息子の嫁のおじじ殿と父上殿が叙任ともなると、拙者も鼻が高いものですわい」

「は?」

 牛太郎が眉をしかめると、三河守は小粒な瞼をおどけて広げてみせてきて、笑いまじりに言った。

「何を言っておりますか。簗田殿の孫娘殿と拙者の息子は、内々ながら縁談を結んでおるではありませぬか。はっは。いやあ、嫡男の次郎三郎はすでに織田の姫を迎えておりますんで、あれですが、実はまことに都合が良いことに、先年、拙者の次男坊が産まれましてな。股に棒きれが付いていたのを確かめたそのときに、拙者は簗田殿の孫娘殿をお迎えしようと決めましたわい」

「あ、ああ、そうですか」

 牛太郎は、満面の笑みを浮かべている三河守から、そっと視線を逸らし、つらさまぎれに茶碗を口に寄せた。

 平八郎と仕込み杖の少年は、門番のようにしてあばら家の両脇を固めており、くせ者がないかと台地を睨み回している。

 牛太郎たちの傍らで、懐に手を入れたまま片膝をついている治郎助が、顔をうつむかせる。

「ずいぶんとよそよそしいではありませんか。嫁ぎ先がこの徳川では不服なのですかっ?」

「家康殿。孫は去年、死んだんです」

 三河守は黙った。

「ぶつぶつがいっぱいできたみたいで――」

 しかし、牛太郎は唇を内に押し込めて、自らの言葉を遮った。

「そんなことよりですよ、家康殿」

 茶碗を置くと、痛めつけられた小動物のような目をしている三河守を、口許を引き結びながら強く見据え、しばらくは過去のことを眼差しだけで訴えたあと、言った。

「武田ですよ。三方ヶ原の借りですよ」

 三河守は呼び覚まされたようにはっと顔を広げて、あわてたふうにこくっとうなずいた。

「あっしが武田を長篠で迎え撃とうとしていることは、ご存知ですよね」

「み、美作から聞いております」

 三河守にしてみれば、こと東海道の情勢にいたっては動きの鈍い織田軍が、武田作戦に力を入れているのは願ったり適ったりであろう。高天神城降伏の裏ではかりごとを働かせていたことはおくびにも出さず、牛太郎は設楽ヶ原作戦の概要を淡々と話した。

 設楽ヶ原が、守りにすぐれ、攻めには難渋する湿地帯であること。金ヶ崎のときのように三段撃ちを駆使すること。武田を引き入れるために佐久間右衛門尉をおとりにしていること。きつつき戦法のこと。

 すると、いつのまにやら、三河守のとぼけた顔は、三河武者の長の顔へと引き締まっていた。

「家康殿には、二つ、やってもらいたいことがあります。一つは天竜川の前線に兵を増強させると見せて、田植えの時期に合わせて長篠城の守兵を減らしてもらいたいこと。一つは三河勢がきつつきになってもらいたいこと」

 武田軍が長篠城に攻めかからなければ、雌雄を決める合戦は始められない。敵方当主の大膳勝頼は領土拡張に鼻息を荒くしているかもしれないが、しかし、思慮深く西上作戦を推し進めた徳栄軒の意思を受け継ぐ重臣たちはいまだ健在である。あまりにも出来すぎている罠に警戒するであろう。

 ただ、大膳が、それら重臣たちの意見を振り払ってでも長篠攻めを決行できる説得力はあるはずだ。佐久間右衛門尉しかり、長篠城の薄い守りもしかり、それに、高天神城へ援軍を出してきた織田軍の遅滞な進軍。これこそ、大膳の頭には残ったに違いない。

 だが、三河守の頭にも残っていたそうで。

「上総介殿はすぐさま兵を寄越してくれるのか」

 と、三河守には珍しく、怪訝そうに牛太郎を見つめてくる。

「寄越すも何も、決定事項です。あっしらはもう動いています。今、武田をつぶさないと、またいつ、包囲網を組まれるかわからないなんてことは、信長様もわかっています」

 三方ヶ原の失敗は、もう起こさない。

 高みの空が赤紫に沈んだ日暮れ、本多隊とともに駆け逃げていたときの、あのときの敗北感、悲愴感、絶望感。玄蕃允の怯えきった目。勝蔵が噛みしめていた唇。瞬く星。冷たい風にたなびくほうき草。

 脳裏にありありとよみがえったのは、敗者の光景であった。

「家康殿。一つだけ言っておく。あっしはこの戦いに限って言えば、織田全軍の参謀だ」


 今までのいくさとは、賭けてきたものが違う。

 全身全霊を賭けている。

 これに勝利しなければ、簗田牛太郎はない。

 これに勝利しなければ、この地においても、遙かな天においても、この存在は認められない。

 名無しの権兵衛同然だった男が、いっぱしの簗田出羽守になるまでの間、どれだけの人間がこの男を支えてきただろう。他意があってもなくても、仕方なしにそうしていたとしても、運命のままにそうせざるを得なかったとしても、どれだけの人間がこの男に関わってきただろう。

 鼻先に刃先を突きつけてきたうつけ者から始まって、かぶき者、猿面の男、幼き女房、腹の据わった女、声の大きい男――。

 障子戸の向こうで正座をしていた息子。腕輪をじゃらじゃらと鳴らしていた妻。

 自分たちの主人が有能か無能かで喧嘩をしていた兵卒たち。

 金箔のしゃれこうべの青年。

 駒。

 簗田出羽守牛太郎政綱を形成したのは、そのときを生きてきた人々の汗と涙と喜びであった。誰かの笑顔がなければ、男は救われなかったであろうし、誰かの死がなければ、男は生を感じなかった。

 人に完成はない。だが、作り上げられたものであったら、いつかは完成させなければならない。そして、証明せねばならない。

 己が、人々によって生かされてきたと感じているなら。

 それが人生の重荷であり、明日への重圧であり、存在の意義なのだ。

 簗田牛太郎はここにいる。それをあめつちに広がる大小の全世界に証明するものは、数々の大事件をしでかしてきたこの男の立場にあって、設楽ヶ原決戦という、天地を轟かせるほどの歴史的野心しかなかった。

 いや、それしか許されない。

 沓掛勢も、森三左も、浅井新九郎も、それしか許さないはずだ。

 やると決めたことならば。勝つと決めたことならば。

 傾きかけた太陽が、三方ヶ原台地にそよぐ草木を光に染めている。

 牛太郎は涙が流れるままに泣いていた。生命が到達してしまった闇の深さと光源の大きさに感じ入り、広々と渡るこの世界に立ちすくむちっぽけな人間にとって、怒りも叫びもあらゆる激情も、まったくもって虚空のそよ風にかき消されてしまうが、しかし、この虚空の風こそ、天海の恵みから産まれたあらゆる生命の香りなのであった。

 この豊穣な恵みを与えられているにも関わらず、つまらぬ野心のために殺し合うのは罪だろうか。

 違う。おれたちは本気なんだ。

 そうだろう、三郎兵衛。

「三河殿」

 牛太郎は泣いたままの顔を三河守に向けた。三河守は唇を結んだまま、牛太郎を見つめる。

「拙者は一人でもやりますからね」

 三河守は牛太郎の手を握りしめると、小さな眼の中に一点の光を据えながら、こくりとうなずいた。

「あいわかった」





「お茶、お代わりいるかあい」

 店の老婆が歯無しの口中を見せながら、にこにこと出てきた。三河守が五杯も飲んだものだから、売り上げも立って上機嫌なのだろう。

 牛太郎は治郎助から手ぬぐいを引ったくると、それで瞼の下を乱暴にぬぐう。三河守が牛太郎の肩に手をやりながら、老婆に手を振りかざし、

「いいや、これにて失敬させてもらうわい」

「んじゃ、勘定」

 ぐいと骨と皮だけの腕をぶしつけに突き出してくる。

「別々かい。それとも一緒かい」

「ああ、いいや、共に。簗田殿。ここは拙者が出しますわ。万千代。万千代。ほれ、勘定だ」

「い、いえ、そ、それが、おやかた様」

 万千代と呼ばれた少年は、仕込み杖を両手にしながらうつむいてしまう。

「面目ないことに、あわててこの格好で来てしまったため、申し訳ございません、忘れてしまいました」

「なにいっ?」

 三河守は握り拳をわなわなと震わせた。

「や、簗田殿の前で、は、恥を欠かせおって」

 怒気をはらませながらも、三河守はちろりと平八郎に視線を向ける。

 平八郎は視線の先を避ける。

「へ、平八もかっ!」

 平八郎は視線を逸らして黙ったまま。

「おのれえ」

 三河守は握り拳を震わせていたが、ややもすると、ごほん、と咳払いした。

「おばば」

 老婆は訝しそうに三河守を眺めていた。

「存じていると思うが、わしはの、浜松の城の徳川三河守だ。ゆえ、勘定はあとで使いの者が払いに来るゆえ、今しばらく辛抱しておくれ」

「嘘こけえっ! あんたみてえなお百姓が浜松の殿様のわけねんだろうがあっ!」

「ち、違うっ。こんな格好をしておるがな」

 三河守はあわてて頬被りの手ぬぐいを外してみせた。

「ほれっ。なっ? 見たことあるだろ。三河守じゃ」

「嘘こけえっ! この泥棒っ! お茶を何杯も飲んじゃってえっ! やっぱ、おかしいって思ったんだあっ!」

「待て待て女将」

 牛太郎は腰を上げると、三河守と老婆の間に割って入り、

「払えばいいんだろ。払えば。おい、助さん。勘定だ」

「だ、旦那様――」

 治郎助の顔がなぜか青ざめている。

「銭貫文はすべて利兵衛殿が――」

 牛太郎は血の気が引いた。懐をまさぐり、袖の下をかきあさる。

 ない。

「あんたらあ・・・・・・」

 老婆は餓鬼のような憎悪のこもった目玉を各々に剥き出してくると、ぷいっと背中を向けて店の奥へ引っ込んでいってしまった。

「い、家康殿。に、逃げましょう。あとで払いに来れば大丈夫でしょ」

「し、しかし、逃げてしまっては領内の者に示しが」

「あとで払いに来ればいいじゃないッスか」

「いや、しかし、話せばわかってくれまするっ」

「わかんないッスって。早くっ」

「あんたら、何を逃げようとしてんだあっ!」

 あばら家がひっくり返らんばかりの金切り声に振り返ると、老婆がこの世のものとは思えぬすさまじい剣幕で鍬を振りかぶって襲いかかってきた。

「に、逃げろおっ!」

 老婆が振り下ろしてきた鍬が、あわてて逃げ出した三河守の半纏の裾を裂いた。三河守は醜い悲鳴を上げながら転げてしまう。

「この泥棒めっ! ぶっ殺してやっからっ!」

 老婆は鍬を再び振り上げる。すると、万千代が仕込み杖を抜いており、一挙に間合いを詰めて、斜に振り下ろさんとした。

「やめんかあっ!」

 三河守の声に、ひた、と、万千代は刀を止めた。

「領民を殺せば、浜松に徳川はなくなるぞっ!」

 が、瞳孔が業炎の盛りのように開いてしまっている老婆は、万千代の脇腹めがけて鍬を振り抜く。万千代はすんでのところで脇に転げてよける。老婆が続けざまに鍬を振り下ろそうとしたところを、治郎助が老婆に飛びかかってなぎ倒す。その隙に平八郎が三河守を抱え起こし、牛太郎はといえば、とっくに駆け抜けてしまっていて、いない。

「おやかた様、早く」

 治郎助が腕を噛みつかれて、悲鳴を上げた。老婆の執念は獲物を仕留める蛇のごとく、どこにそんな歯があったのか、治郎助がいくら振り解こうとしても、噛みついて離れない。

 その様子を見てしまっていた三河守は、ぎょろ目を剥き出しながら、

「ば、ば、化け物じゃあっ!」

 と、恐怖のうえに、屑茶を飲み過ぎてしまっていたのもあって、脱糞してしまった。

「おやかた様っ!」

 狼狽している三河守を平八郎は背負い上げ、走り出した。万千代が老婆の髪の毛をつかみ上げ、治郎助から引き抜く。

「早くっ、従者の方っ」

 腕を掴んで悶絶している治郎助に万千代は肩を貸し、二人もようやくあばら家から散り散りに逃げ出した。

 しかし、老婆の執念は、かの第六天魔王も凌がんばかりの凄まじさで、三河守を背負って逃げていた平八郎に、鍬を振りかぶりながら追いすがってくる。

「へ、平八っ! は、早くせんかあっ! 追いつかれてしまうぞ!」

「おやかた様っ。何か、何か金目の物を捨てなされっ!」

「そんなもんあるかいっ!」

 すると、前から見たことのある顔がこちらに歩いてきた。見てくれは百姓だが、松平善兵衛であった。主君の外出がやはり心配になったのだろうか、しかし、善兵衛はこの珍妙な光景に呆然と立ち尽くした。

「善兵衛っ! 銭を払えっ! 銭をっ!」

 幸運なことに、善兵衛は持ち合わせていた。三河守は追いついてきた老婆に、善兵衛から払わせると、

「まったくっ。殿様の振りなんかして食い逃げなんて、二度とするんじゃないよっ!」

 と、老婆に説教を施されて、がっくりとうなだれた。


 利兵衛は城下の茶屋に立ち寄って、一服ついていた。

「殿はわがままだ」

 と、ぶつぶつ呟く。

「確かにさまざまな御仁にはお会いできているけれど、嘘つきだし」

 たま殿に近づくと目くじら立てるし。

 どうにか、殿の目を盗んで仲良くすることはできないものだろうか、と、利兵衛は、主人もよくやるような企みを脳裏に張り巡らそうとしたが、やめた。

 今は、武田だ。

「私だって、歴史に名を残したい」

 茶屋の主人を呼ぶと、巾着袋の中から文銭を取り出して、勘定を済ませた。

「ところで、ご主人。大久保新十郎殿のお屋敷をご存知ですか」

 利兵衛は茶屋の主人に新十郎の所在を教えてもらうと、腰を上げた。

 屋敷町まで来ると、さらに道行く人に詳細を訊ね、道草を食っていたのもあってか、大久保新十郎邸にようやく辿り着いたときには、太陽もかたむき始めていた。

 板塀に囲われた屋敷の入り口は、簡素ながらも面構えの厳めしい棟門であった。稲葉山の簗田邸と同じぐらいの大きさであろうか。

 新十郎の家柄は、三河松平家に古くから仕えてきた大久保一族の支流であるが、新十郎、新十郎の父、叔父、弟の冶右衛門の四人が、二十年前のいくさで活躍し、蟹江七本槍と称された豪傑たちで、他、数々の手柄を立てているので、本家を凌いでいるらしい。

 典型的な三河の猛者どもだと、そういえば本多弥八郎が言っていたような、言っていなかったような。利兵衛の知っている荒くれ者といえば佐久間玄蕃允ぐらいだから、厳めしい門の向こうには玄蕃のような男がごろごろしているのだと思うと、利兵衛は少々怯えた。

 やっぱりやめようか。と、利兵衛は踵を返した。

 利兵衛の仕える簗田家はぬるま湯である。玄蕃允だけがやたらと厳しいが、牛太郎の近習まがいの利兵衛は激しい鍛錬に参加せずに済んでいるし、事実上の家長である左衛門太郎は物わかりのよい人だし、女房たちは単純な人たちだし、牛太郎だけが威張っているが、平時は縁側でごろごろしているだけである。

 三河武者とはきっと、大酒食らいの短気な荒くれ者たちに違いない。是か非かで単純に物事を決め、茶とか和歌とかそうした素養とはまったく無縁の、話のわからない暴力集団に違いない。

「善兵衛殿に頼もう」

 利兵衛は大久保邸に背を向けて歩き出した。が、うつむいていた利兵衛はそこに聳え立っている者に気づかず、一歩足を踏み出したところで、大きな胸板に頭を弾き飛ばされた。

「善兵衛とは、どこの善兵衛だ」

 獣の唸りのような野太い声に顔を上げてみると、利兵衛は、ひっ、と、小さく悲鳴しながら、思わず後ずさりした。

 まるで、三国志の世界から関雲長がそのまま飛び出してきたかのような、雄壮な髭を顎から流している大男がそこに仁王立ちしていた。釣り上がった目尻の中の黒い目をぎろりと利兵衛に下ろしてき、

「答えろ、わっぱ」

 男の迫り来る威厳に、利兵衛はあわてて地べたに這いつくばる。

「み、三河岡崎の、ま、ま、松平善兵衛殿のことで、わ、私はその、やな――」

 そこまで言ったところで、牛太郎が武田忍びに怯えていることを思い出した。利兵衛は懐に忍ばせていた書状を取り出すと、震える手で大男に差し出した。

「あ、ある役目を仰せつかりまして、こ、これを」

 男が凶暴な手つきで書状を引ったくり、なぜか利兵衛は、ひいっ、と、頭を抱える。

 男は無言で書状を眺める。

「左様か」

 と、ぼそり呟くと、男の大きな掌が利兵衛の襟を掴み上げ、強靱な力で持ち上げられた。

「付いてこい、わっぱ」

 付いていくというか、利兵衛はそのまま屋敷の中へと引きずり込まれていく。岩肌のような感触を味合わせられながら、思った通りだと恐怖した。いや、想像以上の三河土人だ。

 ちょうど、庭先ではたすきをかけた袖まくりの女たちが、黄色い声を上げながら野菜か何かを洗っていたが、あたかも引っ捕らえられた泥棒のような利兵衛を見かけて、唖然と腰を上げる。

「ど、どうなされましたか、冶右衛門様」

「兄者はおるかっ」

「た、只今っ」

 女が縁側から屋敷の中へとあわてて飛び込んでいって、残った女たちもしんと押し黙って、元の仕事に戻る。

 玄関口に放り投げられた利兵衛は、

「上がれ」

 と、関雲長、もとい、治右衛門に強要されて、小刻みに震える指先で草鞋の紐を解いていく。そうしてまた襟首を掴み上げられて、屋敷の中、縁側を渡っていき、槍が何本も立てかけられている板間に放り込まれた。

 利兵衛のはす向かいにどかっと座り込んだ冶右衛門は、腕組みをして、目をじっと瞑る。利兵衛は肩を縮こませながら、ちら、ちら、と、冶右衛門を伺い見る。

 粗暴な扱われようはともかくとして、冶右衛門の体型といい風格といい、これこそ豪傑だと利兵衛は息を呑んだ。

 しかし、武田は、こんな豪傑たちがごろごろと転がっている三河武者を大いに苦しめたのだから、一体、どんな怪物たちなのだろう。

「何用だ、冶右衛門」

 大きな影が背後から覆い被してきて、利兵衛はおもむろに平伏した。

「なんだ、このわっぱは」

「や、や、や、簗田、出羽守が家臣、長束利兵衛と申しますっ!」

「簗田殿だと?」

 新十郎と思わしき人物は、震え上がる利兵衛の脇を抜け、上座に腰を下ろした。

「簗田殿のご家来が拙者ごときに何用だ」

「兄者、こちらです」

 利兵衛は頭を垂らしながらも、ちらと覗き上げた。眉間に皺を寄せながら渡された書状の文面を睨みつける男は、太い眉が燃え上がるように尻上がっていて、筋肉だけで膨れ上がったような輪郭に髭を生い茂らせており、弟が関雲長なら、こちらはまったくの張翼徳であった。

「左様か」

 と、男は言った。そして、書状をぐしゃぐしゃと丸め始めてしまい、利兵衛が口を半開きにして見入る中、後ろにぽいと放り投げてしまった。

 利兵衛は開いた口がふさがらない。

「な、な、何を――」

「利兵衛殿と申したな」

 男は口の端をへの字に折り曲げて、ただただ眼光だけを利兵衛に据わらせてくる。しかし、声音は冷静であった。

「我ら三河勢は、確かに簗田殿と歴年の戦友であるが、しかし、簗田殿のお気遣いを頂戴するいわれはない」

「何をっ!」

 利兵衛は珍しくかっとなった。主人の好意に対するこの仕打ち、恐怖などは消え失せた。

「貴公は我が主人の気持ちを踏みにじるというかっ!」

「気持ちも何も、三河のことは三河の者だけがおさめるのだ。三河を追われた者のことなどは知らん。そやつが千穂の父親であろうとなんであろうと、三河とそやつは何ら関係がない。ゆえ、そやつを預かっている簗田殿に世話をかけられる筋合いなどない」

「ぶ、ぶ、無礼なっ!」

「黙らっしゃいっ!」

 と、雷鳴のような咆哮を浴びせかけられて、利兵衛はすくんでしまう。

「三河者の意地など、織田者にはわからんであろうっ! 無礼千万重々承知よっ! これが気に入らなくば、岐阜に帰って上総介殿に報せたらよかろうっ!」

 冶右衛門は目を瞑ったままじっとしている。

 利兵衛はおもむろに立ち上がった。拳を握り締め、瞳孔を大きくさせながら、巨体をわなわなと睨みつけた。

「殿はただ弥八郎さんのためにしただけだというのに」

「弥八郎という男など、当方は存ぜぬ」

 わあっと、利兵衛は泣いた。どんな顔をして牛太郎のもとへ、弥八郎のもとへ帰ればいいのかわからなくて、一度立ち上がったくせに、また板床に突っ伏して、わあわあと、あどけなさをこれでもかとまき散らした。

「ひどい。貴公たちはなんてひどい人たちなんだ。三河武者がこんなにもひどい人たちだったなんて。これでは殿も弥八郎さんも浮かばれない」

 利兵衛の泣き声が赤ん坊のようにうるさかったせいか、男は狼狽し、

「ま、待てっ。違うのだ。これは誤解だ」

 と、両手を胸の前で広げて、なだめてきた。利兵衛はぴたと泣き声を止めると、伏せていた袖から、男をちらりと伺った。

 嘘泣きだった。

「すまんかった。な、利兵衛殿。わしもちと強情を張りすぎた。本当はわしも弥八郎が心配であるし、早く戻ってきてもらいたいのだ。ただな、その、わしもおいそれと弥八郎を心配しているなどと言えんしな。の、のう、冶右衛門」

 冶右衛門は唇を引き結んで腕を組んでいるだけ。

「し、しかしだな、あんまり男がそうわいわいと泣くものじゃないぞ」

 利兵衛は狼狽している髭むくじゃらを袖からじっと睨みつける。

「い、いやっ、すまんかった。わしが悪かった」

 男は丸め投げた書状をそそくさと手に取り戻し、それを丁寧に広げていって、

「わ、わしも実は嬉しかったのだ」

 などと言いながら、大きな掌で丹念に皺を伸ばし始める。

「これはしっかりと受け取らせてもらおう。な、なにしろ、簗田殿のご好意であるからな」

「じゃあ、返書をしたためてください」

「あ、ああ。かしこまった。すぐに書き記そう。おいっ、冶右衛門、筆と紙を用意させいっ」

 利兵衛は涙のない瞼をぬぐいながら、これで憂いなく帰れると安堵した。



 大久保新十郎からの文に目を通した牛太郎は、

「これで弥八さんも三河に戻りやすくなるだろ」

 と、目を細めながら文を折り畳み、利兵衛に渡した。

 受け取った利兵衛は、なぜか不服そうである。

「なんだ」

「それだけですか?」

「何がだ」

「まったく知らない家を訪ねた私に、よくやったとか、面倒かけたなとか、そういった言葉はないのですか?」

「何を言ってんだ? あるわけねえだろうが。ただ、手紙を渡しに行っただけで、なんで、褒めてやらなくちゃならないんだ。甘ったれるのもいい加減にしろ、このクソガキ」

「甘ったれてなどおりません! 大久保新十郎殿はまったく張飛翼徳みたいな御仁で、こんなに大きくて、こんなに腕も太くて、融通もまったくきかないし、大変だったのですよ!」

「はいはい。よくやりましたね。さすが新ちゃんですね」

「利兵衛です!」

「まあまあ、利兵衛殿」

 治郎助になだめられて、ようやく口をつぐんだ利兵衛だが、地獄から這い出てきたような鬼婆に追いかけ回されて、大変だったのはこっちだったと言いたい牛太郎は、寝転がりつつ、利兵衛に背を向けると、そのまま、

 ぶっ

 と、放屁した。

 清潔感だけには神経質な利兵衛は、鼻をつまみながら外に逃げ出した。

 翌日、牛太郎一行は善兵衛と設楽ヶ原での再会を誓うと、浜松をあとにし、一路、長篠城を目指した。吉田川を渡ると、豊河の宿で一泊し、朝になって吉田川沿いを上流に北上していった。

 長篠城守将は奥平九八郎貞昌、齢二十の若武者である。三河守の長女亀姫との婚姻を提示されて、父の美作守とともに武田を出奔してきたのだが、これにはどうやら抜き差しならないわだかまりが、奥平親子と三河守にはあるらしい。

 奥三河の番人として、基盤を築いていた国人衆の奥平美作守は、岡崎の松平家が再興されるとともに三つ葉葵の旗下に加わるが、武田徳栄軒の圧迫になすすべをなくして、一度は武田家に翻る。

 徳栄軒死後、三河守の説得により、奥平親子が人質の命を無にしてまで、徳川家に戻ってきたことは、牛太郎も昨年の長篠探索のさいに知り得たことである。

 しかし、東海道を一時期飛び回らせていた於松が、裏の事情を仕入れてきた。

 奥平親子帰参のさい、三河守が望んでいた奥三河の手土産がなかったのだという。三河守が取り戻したかったのは奥平親子ではなく、奥平親子が勢力基盤にしている、長篠城の向こう、奥三河の地であった。

 奥平親子は、徳川家に帰参する以前から、武田家に寝返りを怪しまれていた。人質を差し出したのも、こうした疑念を払拭するからであったが、徳栄軒の死と、武田家首脳陣の小さないさかいに将来を危惧した美作守は、武田の厳しい監視の下、嫡男の九八郎とたった二人で奥三河を脱出し、徳川に戻ってきたのである。

 三河守も長女を差し出した手前、彼らを無碍にすることもできず、奥平親子も三河守の本心をわかってはいたから、父の美作守は隠居して三河守の側に仕えるという人質同然の生活を送り、嫡男の九八郎は前線の長篠城への配属を願い出たのであった。

 牛太郎からすれば、誤算である。質実剛健の三河武者を信用していないわけではないが、浜松と長篠の間にそんなきな臭さが漂っていると、事象はどう転ぶかわからない。

 三河守の長女を娶って、父親を人質に出している立場上、そう簡単には長篠城を開け渡さないであろうが、しかし、開け渡してしまったら、一貫の終わりなのだ。

 絶対に勝利するいくさだということを、美作守の倅に念押ししなければならない。その一心で、牛太郎は長篠城に入った。

 長篠城は南東西を断崖にし、北を山にした要害であるが、もし、それがなければ二万五千の軍勢に一夜にして押しつぶされてしまいそうな、曲輪構えであった。無論、天然の要害であればこそ、ここに城が築かれたのだが。

 利兵衛と治郎助を外に待たせて、牛太郎は御殿の広間に通された。

 ほどなく、守将の奥平九八郎がやって来る。

 上座には腰掛けず、牛太郎の横に膝をついて、頭を深々と下げてきた若武者は、絶望的なほどの優男だった。

「奥平九八郎にてございます。誉れ高き羽州殿にお越しいただけるとは、夢にも思っておりませんでした」

「これはご丁寧に」

 と、牛太郎も頭を下げる。内心は忸怩たる思いであった。善兵衛のような気骨の滲み出る三河武者を想像していたというのに、こんな優男、とてもじゃないが武田二万五千を真っ向から迎え撃てるような男じゃない。

 手土産を携えてこなかった男に可愛い長女をくれてしまった三河守が、この最前線に人柱として置いているのではないかとさえ疑った。

「して、わざわざこんな田舎まで何用でしょうか」

「え、ええ」

 牛太郎は頭をかいた。迷った。雌雄を決するために奮闘してほしいなど、彼には重圧に感じてしまうのではなかろうか。

「羽州殿?」

「ほ、本題の前に一つ訊ねたいのですが、九八郎殿は――」

 牛太郎は口を一度つぐむと、手元に視線を落とした。目をつむり、拳をぎゅっと握り締めてしばらく間を置くと、ぎらりと開けた眼光を若武者に差し向けた。

「武士にとって大事なものは何かとお考えですか」

 急なぶしつけな問いに九八郎は眉をしかめ、牛太郎の攻撃的な眼差しに対して、みるみるうちに瞳の点を固めていった。

「なにゆえ」

 野太くも、通る低音であった。

「無礼を承知でもう一度訊ねる。なんと考えていらっしゃる」

「意地だ」

 若武者の瞳は怒りに燃えている。牛太郎はほうっと息を抜くと、非礼を詫び、九八郎に設楽ヶ原作戦のあらましを伝えた。

 一通りを聞いた九八郎は、涼やかな目尻を垂れ下げて、

「そういうことですか」

 と、微笑した。

「ご心配に及びませぬ。拙者には帰る場所などないのですから。むしろ、大役を担うことに武者震いさえ起こしますよ」

 その物腰の柔らかさが、返って牛太郎を納得させ、九八郎の手を取ると、一言、

「ありがとう」

 と、言った。


 その頃すでに、織田上総介は入洛していた。居心地が良かったのか、また、相国寺に宿所を置いており、そこで市中のありようをつぶさに観察し、朝廷との友好にも務めた。

 ある日、上総介は相国寺に公家を集め、荒廃著しい禁裏の内情などを聞いていたが、ふと、珍客が訪れる。

 あの今川義元の嫡男、今川刑部大輔氏真であった。

 東海道の英雄、義元が桶狭間で討たれて以降、今川家没落の最大の要因が彼の怠惰なふるまいであったことは、天下に知れ渡った事実であり、徳栄軒の裏切りにより駿府を追われた今では、今川家人質であった徳川三河守の庇護を逆に浜松で受けているという有様であった。

 愚か者が何を目的に、と、織田の将たちは訝しんだが、当の上総介は快く迎え、口端を緩ませて笑った。

「なにゆえ、京に」

 問いかけると、この都かぶれの男は、薄丸の眉を押し上げて、にたあと微笑んだ。

「三河守に、京に出かけてみてはどうかと薦められた次第でおじゃる。上総介殿が入洛されているというので。しかし、三河は訳のわからぬことを申しておりました。丑三つ時は成ったこと、上総介殿に伝えてほしいと」

「なるほど」

 上総介がうなずくと、刑部は満悦そうに頬を緩めた。

 矮小な彼の仇は、父を討った上総介ではない。自らの居場所を追い出した武田家であった。

 その後、今川刑部は公家たちとともに蹴鞠を披露した。彼は名門今川家を一代で潰してしまった愚将中の愚将であったが、蹴鞠だけはどうしてか達人であった。

「竹」

 上総介は傍らに従えていた長谷川藤五郎に言った。

「愚将と呼ばれる男でも、使いようによっては達人にもなる。うつけをうつけと決めつけてしまう奴こそ、真のうつけよ」

 刑部や公家どもが蹴鞠に興じるのを前にして、第六天魔王はいつになく上機嫌であったが、ややもすると、織田全軍を統べる総帥の眼差しへと変えて、藤五郎にひそかに囁いた。

「岐阜の奇妙に伝えろ。愚将の言葉通りに整えておけと」

「御意」

 天下の人々は、まだ、何が起こるか知るよしもない。

 冬の峠も越えて、市中にも花がほころび始めた春、京に駐在していた上総介は、馬首を摂津へ向けた。和睦を破棄した石山本願寺の攻撃及び、河内国に残る三好の残党狩りであった。

 このとき、上総介は、事実上の摂津目付役となっている細川兵部大輔に、文でも簡略な書状でもない、命令文書、朱印状を送っている。

「来たる秋、石山合戦を申しつける。しからば、そのほうに丹波の国人衆を与力として付けるため、粉骨砕身働くよう」

 しかし、秋と言いながら、上総介は織田領内の各地から兵を集結させて、十万の大軍を形成せしめた。織田軍は河内高屋城を根城にしていた三好残党を一挙に攻め、城主の三好笑岩は名物の茶壺を上総介に差し出して降伏。

 さらに、かつてない大軍勢を要して織田軍は石山に押し入った。が、堅牢な石山御坊を目前にして、実際に行ったのは、田畑に植えられた苗や麦を発育途中のままに刈り取っていく作業であった。

 天王寺に本陣を置いていた上総介に急報が届いたのは、初夏の香りが漂い始めた四月の末であった。

 武田大膳、甲府を出立。その数一万五千。進路は長篠。


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