第7話:春休みが終わり
「うーん。美味い」
俺とカホル、コヲリとホムラ。全員と寝て、それから春休みを満喫したんだけど、一応誰にも手は出していない。一緒に添い寝してもらって、ぐっすり寝ただけだ。
「アクヤ様、私を滅茶苦茶にしてください」
「アクヤ様、私を踏みつけてください」
「アクヤ様、せめて手を出してください」
そんなこと言われてもー。というわけで寝取り竿役としては立場を見失っている気もしないではないけど、俺は未だに童貞だ。カホルの親御さんは娘が男に好き勝手にされて心を痛めているだろうし、コヲリとホムラの親もまた同じ気持ちだろう。なので、その気持ちを汲んで、俺は彼女らから処女を奪う気はない。
「今日から学校だな」
「アクヤ様とは少し離れてしまいますが……ご命令はちゃんと聞きますので」
「あ、あたしはアクヤ様と同じ六組だから何でも申し付けてね?」
「えーと。じゃあ学園でも友達としてよろしくお願いします」
「友達……ですか?」
「え、だめ? ほら。さすがに学内で性奴隷はマズいだろ?」
三人とも俺の性奴隷だが、そんなことを公言するわけにもいかず。
「じゃあ学校では友達として振る舞え……ということですか?」
「そうしてくれると助かる」
「わかりました。誠心誠意友人としてご奉仕させていただきます」
「だからそこまで覚悟完了しなくていいんだって」
「じゃ、登校時間はずらそうか。俺と一緒に登校するわけにもいかないだろうし」
「アクヤ様はあたしと登校したくない?」
捨てられた子犬のように俺を見つめるホムラ。見てみるとカホルとコヲリも同じ目をしていた。
「いや、一緒に登校してもいいけど……噂になるぞ?」
それでもいいのか? お前らにだって好きな男子くらいいるだろ。人公アルシとか。
「大好きな人は……それはいますけど」
「だろ。じゃあ俺と噂になるとマズいんじゃあ」
「……カホル。……アクヤ様はそう言うお方ですのよ。……知っているでしょう?」
「そうでした。愚問でしたね」
「???」
なんか妙なやり取りをされたので一人ついていけなかったんだけど、それはそれとして。
「じゃあ行ってきまーす」
オートロックで施錠をし、開錠するには網膜認証なので、俺たち以外は誰も入れない。そんなセキュリティバリ高のマンションに俺たちは住んでいる。そこから学園に通うのだけど、生来の九王アクヤの知識から、果たして日本レールの電車が動いているのか疑わしかったが、そこは問題なく。俺は電車に揺られて学園近くの駅まで。それは三人のヒロインも一緒なのだが。そうして学校につくと、やはりそこでも九王アクヤの知識が役に立って、学校の構造そのものを把握しており、俺はクラスの振り分けで安定の六組へ。一組にはカホルが。二組にはコヲリが。これもゲームの設定どおり。
「同じクラスだね。アクヤさm……アクヤくん」
学校で様付けは禁止。そんな俺のルールを思い出したのか。間一髪軌道修正するホムラだった。俺としても助かった。このままアクヤ様とでも呼ばれようものなら学内の男子から総スカンをくらう。そうして二年六組に顔を出して、そのまま始業式。
「えー。春の季節にまた皆さんと顔を合わせられたことまことに――」
眠気を誘うような校長先生の御言葉を頂戴しつつ、俺はどうしたものかと悩んでいた。
「九王アクヤは学校ではあまりいい評価じゃないんだよなぁ」
金持ちのボンボン。と思っているのは人公アルシであり、彼からは警戒されていて。その警戒通りに俺は三人のヒロインを好き勝手に抱いていたのだ。だが安心してくれ人公アルシ。俺はヒロインに手を出していないぜ。あとは好きに恋愛をしてくれ。スピードワゴン並みにクールに去るつもりだった。それからホムラと一緒にクラスに顔を出し、最初のホームルーム。自己紹介も今更だったが、それよりも。
「転校生の小比類巻マキノさんだ。みなさん。よろしくするように」
「どもー。小比類巻でーす。ラブレターと現金書留は何時でも受け付けますんでシクヨロ」
ギャルギャルしい女子が入ってきた。転校生の小比類巻マキノ。まさにギャルといった風貌で、制服をも着崩しているしメイクもバッチリだしで、童貞にはキツイ仕様。四人いるラブハートの最後の一人。ギャル枠のヒロイン。小比類巻マキノだ。彼女も成績が悪いので六組に所属することになる……というのは知っているのだが。
小比類巻マキノの席は窓際最後方で、俺はその隣だ。
「ニヒー。よろしくね。お隣さん」
ヒラヒラ~と手を振ってくる小比類巻さん。天使はいた。と俺が思っていると。
「惚れちゃった?」
直球でそう聞いてくる。うん、まぁ。惚れないわけもなく。ゲームでは人公アルシ視点だったから小比類巻さんの言動は結構謎なんだよな。彼女のルートだと、お金より真実の愛に気付いて人公アルシと恋仲になるのだが。
「惚れるのは構わないよー。あーしからOKは出さないけどね」
童貞をからかう小悪魔。といった感じだ。うん。こういうところは小比類巻さんっぽい。
「じゃ、そゆことで」
彼女はお金を欲している。それでお金目当てに九王アクヤと付き合うことになったのだ。だが最後は人公アルシの真実の恋にあてられて改心する系のキャラ。ニコニコと笑って俺をからかう小比類巻さんはともあれ。
「アクヤくん。一緒に帰ろ?」
「ん? あ、そうだな」
悶々としているとホームルームは終わっていた。そうしてホムラが同じクラスだということもあって、声をかけてくれる。アクヤって学校ではちょっと孤立しているんで友達ムーブは素直にありがたい。だが周りはそう思わなかったらしく。
「二條ホムラさんが九王と……?」
「野郎。どんな汚い手を……」
「やはり顔か。顔面偏差値か」
と、このように嫉妬の嵐。ヘイトが溜まりまくっている。そうして二年生にもなって、そもそも転生する前は三年生だったのだが、それはまぁよく。どうせガリ勉のオタクだったから、筋肉ボディの今の方がありがたいまである。
「おーい。九王。なに二條さんと一緒に帰ってんだよ」
なんでと言われても。俺の性奴隷だからな。
「野球部に入る気にはなったか?」
へー。九王アクヤ。野球部からスカウトが来ているのか。
「アクヤ様。ちょっとカッコイイところ見たいです」
ホムラが赤面しながら、そんなことを言ってくる。とは言ってもスポーツ音痴の俺が野球なんて出来るはず……………………できた。できてしまった。
「フッ!」
相手が投げた球を視線で捉え、直感でバットを振るう。それは金属バットの芯に当たってホームランだった。
「おー……」
誰が驚いてるって俺が一番驚いている。だってモヤシでスポーツクソザコのガリ勉だったんだぜ? こんなにスポーツができるようになっているとは誰が思うよ。これは逆に勉強は出来なくなっているタイプか。守備では犠牲フライを受け取って、思いっきり投げる。それはレーザービームのように三塁側へとボールが飛び、走り出した選手よりも先に三塁手に届いた。結果アウト。そうして野球を楽しんで、思いっきりスポーツが出来ることを喜んでいたら、すっかり忘れていた存在……二條ホムラが手を叩いていた。というか。見ればカホルもコヲリもいた。三人とも俺を見る目がキラキラしているんだけど。気のせいか?
「アクヤくん。カッコいいんだよ」
「アクヤさん。素敵でした」
「アクヤくん。もう。もう」
三人が三人ともに俺を持ち上げる。ちょっと面映ゆくて、俺は頭をかいた。スポーツができるって嬉しいことなんだなぁ。みたいな。そうして三人と一緒に帰路につき、そうして今日はホムラに手料理を食べることになった。ところで人公アルシはどうしたんだろう? 今日は始業式だし、ヒロイン三人と接触したりしなかったのだろうか?




