第17話:今日はカホルがいない
「うぅん……」
俺こと九王アクヤは目を覚まし、そうして目覚めるとベッドの隣にホムラがいて。
「あ。起きられましたか?」
「ああ、おはよう」
俺はくすぐったくなって苦笑した。昨夜は二條姉妹と一緒にベッドで寝たんだった。ホムラがちょっと姉よりおっぱい小さいのを気にしていたが、俺の方はあまり気にならなくて。貧乳も巨乳もまとめて愛する童貞が俺だから。
「じゃ、起きるか」
「おはようのキスはしないんですか?」
「歯磨きした後な」
「おはようのセクロスは?」
「やったら遅刻だろ」
そもそもクソ童貞にそんなことを求めるなって話で。
「……あ……おはようございます。……アクヤ様」
で、ダイニングに顔を出すとエプロンを着ているコヲリが朝食を作っていた。味噌の香りがいい感じ。
「もうすぐできますので、お茶でも飲んで待っていてください。コーヒーがよろしければホムラちゃんに準備させますので」
「……ホムラ」
「はーい」
そんなわけで、ホムラにコーヒーを淹れてもらい。カフェインを摂取しながら俺は目を覚ます。今日はカホルはいないのか。そういや月曜日なんだよな。
「……カホルちゃんはアルシくんのところに行っていますよ」
「起こす役目だったか?」
「……ええ、……後は朝食と夕餉の準備ですね。……朝早く出たみたいで」
「大変だな。お前らも」
「……本当は百パーセントアクヤ様に尽くさなければならないのですけど」
「ごめんなさい。アクヤ様……」
二條姉妹が揃って謝る。
「いやいや」
俺は手の平を左右に振った。そもそもお前らの愛しい幼馴染だろ。ゲームのヒロインなんだから主人公の好感度を上げるのにやり過ぎるということはない。そのために俺は竿役でありながら寝取ったりしていないのだから。一番に理由は童貞だからに帰結するのだが。
そうして大豆だらけの朝食をとって、そのあと登校。そうして教室につくと。
「やっほー。アクヤ。おはよ」
俺の隣の席のマキノが声をかけてきた。相変わらず制服のブレザーの胸元が苦しそうだ。
「おはよう。マキノ」
「昨日はちゃんと寝れた?」
「もちろん。睡眠不足によるモチベーションの低下は問題だからな」
「…………ヒソヒソ(あーしは何時でもおっぱいアイマスクしてあげるからね?)」
タプンと揺れる巨乳を下から持ち上げて、挑発するようにマキノは言う。
「嬉しい提案だ」
それだけ言って、俺はカバンを置く。教室ではホームルームが始まって。そのまま授業。俺は勉強をして、そうして昼休み。
「マキノさん。お昼ご飯にしない?」
「ホムラさん。ご飯食べよ?」
そうして六組にいるヒロイン二人はクラスメイトたちとご飯の時間を共有するらしい。俺は一人で購買でパンを買って、モシャモシャと食う。教室で一人。虚しい。こういうことには慣れているとはいえ、心に来ないモノが無い。うん、まぁ、ボッチだね。陰キャには相応しい末路だ。
「…………」
スマホを弄りながらソシャゲのセルランを見て、そのまま新しいゲームでもダウンロードするか検討しながら、結局何にも手を出さないという。
「……アクヤさん?」
そこに、話かけてくるマイエンジェル一人。コヲリだった。
「よ。もう昼は食べたのか?」
「……食べましたけど。……ホムラちゃんがアクヤさんのことを気にかけていらっしゃいまして」
「見に来たと」
「……はい。……お友達がいないんですか?」
「んー。まぁ。そういうことになる」
「……意外ですね。……外見は社交性の塊みたいな感じですけど」
金髪だし不良顔だし筋肉バッキバキだしな。
「カホルはどうしてる?」
「……アルシくんと学食に行きましたよ。……一応遅刻はしておりません」
「良かった良かった」
「……良くないです」
ムスッとしているコヲリ。
「…………ヒソヒソ(アクヤ様の性奴隷としては他の男にかまけている時間が損失です)」
「とは言ってもなぁ」
そもそもこの世界の主人公は人公だし。彼にはヒロインを幸せにしてもらわなければならない。そのためなら俺はラリルトリオを寝取られても構わない。カホルにしろコヲリにしろホムラにしろ、幸せに出来るのは幼いころから一緒に育った人公アルシだと思うから。
「因業って奴か……」
「……何がです?」
「いや。そもそも何か? コヲリって好きな人とかいないのか?」
俺が無愛想に聞くと、
「――――ッッッ」
急激に赤面するコヲリ。いると言っているようなものだ。もちろん人公アルシなんだろうけど。
「……な、……な、……なんで……そんなことを?」
「いや? 興味本位」
エロゲーのヒロインなんだから、主人公が好きで当たり前だよなーって話。
「…………ボソボソ(そりゃ確かにアクヤ様のことは心から愛していますけど)」
何か言ったか?
「とにかくですね。アクヤくんはもうちょっと御自分の立場を理解されてください」
「陰キャがでしゃばるな?」
「ち・が・い・ま・す」
そんな一語一語に気合を入れなくても。
「アクヤくんはもっと自由でいいと思いますよ?」
「はあ……?」
何を言っているのか。自由とか抽象的なことを言われても。
「…………ボソボソ(今ここで股を開いてもいいくらいなんですから)」
また何か呟いている。
「ホムラさん。おっつー。九王さんと話してんの?」
「ええ、まぁ」
どうやら俺のクラスメイトは目の前の少女をホムラだと思っているらしい。水色の髪のコヲリと赤色の髪のホムラを見分けるのは簡単だと思うが、それは俺のメタ的な視線によるもので、この世界の住人にはコヲリとホムラは区別できないのだろう。
「とにかく。もっと私たちを頼ってくださいね?」
「肝に銘じるよ」
そうしてコヲリは席を離れていった。
「何の話してたん?」
男子生徒が聞いてくる。
「人生とは何ぞや、だな」
「そりゃまた禅問答。面白いな。お前もホムラさんも」
ケラケラと笑うクラスメイト。さっきのはホムラじゃなくてコヲリなんだがな。ところでこの世界って男はどういう立場なんだろう。主人公と竿役とヒロイン以外知らんのだ。




