第13話:人公アルシも大変だ
【カホル視点】
私の名前は花崎カホル。私立アルケイデス学園に通っている一般的な女子生徒。一組の所属で成績はまぁ自慢するほどじゃないけどトップ。
「あー。花崎。ちょっといいか?」
で、今日の授業が終わって、そのまま帰ろうか、という話になったところで、生徒指導の先生に呼び止められました。
「ええと。何でしょうか?」
生徒指導の先生にお世話になるようなことはしていないつもりなんだけど。成績も落としていないし、品行方正……ではないかな? アクヤ様と添い寝しているのはちょっとエッチだと私も思う。
「いや。花崎に指導をするとかそういう話じゃないんだが。どちらかと言えば協力してほしいことがあって……」
「? ……はあ」
言われて私は生徒指導室に。
「あ」
「……どうもです」
「カホルもかー」
生徒指導室にはコヲリとホムラもいた。この三人に共通となると……。
「コーヒー飲むか? 緑茶もあるぞ」
ガタイのいい生徒指導の先生は、私たちに教育的指導をしたいわけじゃないので、穏やかな姿勢を崩さなかった。電気ケトルでお湯を沸かしてあり、私たちはコーヒーをオーダーする。全員、躊躇いなく飲んだ。
「無糖で飲めるんだな」
先生が苦笑する。
「俺なんか大学でゼミに所属するまで飲めなくてなぁ」
あはは、と愛想笑い。それでメインの話をして欲しい。
「その。下世話な話になるんだが」
実際に下世話なのだろう。先生も言いにくそうだ。
「お前らって……」
とは、私ことカホル。それからコヲリとホムラを指しているのだろう。
「人公の幼馴染……なんだよな?」
「えーと。はい」
「……ですね」
「それが?」
ホムラが話を進める。
「アイツが調子崩しているのは知っているか?」
「…………」
「…………」
「…………」
私たち三人は視線を交わす。もちろん知っているわけもない。春休みからアクヤ様の性奴隷になっているし、名目上一人暮らしの特訓ということで九王グループのお金で高級マンションに住んでいる。つまり、アルシくんの事情を把握するのは無理筋だ。
とはいえ、そもそもそんな事情を話すわけにもいかないし。情報のアップデートをしていない学校側からすればアルシくんのご近所さんという認識はそのままなのだろう。
「アルシくんが……何か?」
「始業式からこっち、ちょっと学業意識が低下している。最初の一週間なんて昼前当校で、理由が寝坊。厳重注意をしたんだが、一向に改善の気配が無い。二週目も月曜日は遅刻しなかったが、それ以降は……」
で、その原因を私たちが知っているかも……という話ですか。
「いえ。関知していません」
代表で私が答えた。そのままブラックのコーヒーを飲む。
「何か話は聞いてないか? さすがに内申に響くから人公のことも考えて、これ以上解決を先送りにするのも問題でな」
「……ええと……その」
で、コヲリが答える。
「ある意味で私たちが関係していないわけではないんですが」
「喧嘩した……とかか?」
「……その。……大学進学を考えて、……今は一人暮らしの練習で部屋を借りて過ごしているんです」
コヲリの発言は対外的には正解。ただ本質はそんなんじゃないんだけど。
「一人暮らしをしているのか? 大丈夫か?」
「……はい。……セキュリティに関しては安心してください。……ただそれでアルシくんのフォローは出来ない状況でして」
「もしかして今まで人公は君たちに朝を起こしてもらっていた……とか」
「……そういうことになりますか」
言いにくそうにコヲリが言う。
「なるほど。それで君たちが離れたから生活のサイクルが乱れているわけだな?」
「と、思います」
ホムラがそう締めくくる。
「フォローは不可能か?」
「不可能とは申しませんが、そもそも責任が無いことでは?」
私が強気にそう言う。
「言いたいことはわかるが……このまま人公が落ちぶれていって、お前らは大丈夫か……と聞いているんだが」
「まぁ」
「……別に」
「だぞ」
意外とあっさり言葉は出た。先生は困ったように頭をかく。
「そっかー。わかった。じゃあ今日のことは忘れてくれ。元々生徒の管理は学校側の責任だ。お前らには話したのは溺れる者は藁をもつかむ……の精神だ」
「ちなみに、このままだとどうなります?」
「さすがに内申はな。受験する際の事情にも響くし。まさか内申点を改竄するわけにもいかんしなぁ」
つまりこのままだとアルシくんの未来はお先真っ暗ってことか。
「借りた部屋は遠いのか?」
「まぁ。あまり気楽に実家に戻れる距離ではありませんね」
あとアクヤ様のお世話もありますし。
「余計なことを言ったな。すまなかった。お前らに頼りたかったが、それも難しい。それがわかっただけでも収穫だ。人公については根気よく生活サイクルの改善を促してみる。お前らも今日のことは忘れてくれ」
「注意喚起くらいは出来ますが……」
「生徒指導でこってり絞ってこれだからなぁ。幼馴染の忠言ならまだワンチャンあるか?」
「先生が気にしていることは理解しました。こっちでも可能な限り気にかけてみます」
「花崎は全国模試は受けるんだろ?」
「ええ、まぁ」
「成績を落とさない程度に気にかけてくれ。ウチの学校から国公立の合格者を出すのは経営戦略的にも重要だ。くれぐれも勉学意識を落とさないようにな」
「教師がそんなこと言っていいんですか?」
「失言だった。だが、やっぱりこういう目立たない学校で、いい大学に行った生徒が出るって言うのは嬉しいことなんだよ」
「誠心誠意、頑張らせていただきます」
そうしてコーヒーカップをテーブルに置く。三人揃って部屋を出た。
「どうする?」
私が聞く。
「……まずはアクヤ様に相談すべきじゃないでしょうか?」
「でもあたしたちにはアクヤ様への御奉仕があるし。そりゃアルシは心配だけど……」
コヲリの意見もホムラの意見も、それはそれで妥当で。
「じゃあまずは聞いてみますか」
「……ですね」
「このまま没落されても困るのは事実だけどさ」




