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『14年戦争だ。お前が、私を殺すと心に決めたあの戦争の話をしよう』

『我が機械帝国は”究極の民主主義”を実現した国家なんだよ、シルフィ――』


 選挙を通じて代理人を選出することによる間接民主制ではなく、ナノマシンを用いることによって国民総体の意志を抽出する直接の民主制。なるほど確かに機械皇帝が究極の民主主義と言い切るのも理解できる。


「バカを言うな、アガサ。民主主義を実現するには、全ての国民に正確な情報が与えられていることが前提だ。意思決定を行う基礎となる情報が改竄されているのでは話にならぬ。それでは情報を握る者が国を操るようになるだけだ」


 ……なるほど。たとえシステムとして国民の総意が吸い上げられているとしても情報統制がなされているのであれば、その総意自体をいくらでもコントロールできると。


「いくら大層な理念とシステムによって構築された民主主義であろうと、その仔細を伏せている時点で”究極の民主主義”には程遠い」


 シルフィの言葉を静かに受け止めるアガサ。

 その表情は鋼鉄に覆われていて窺い知ることはできない。

 しかし、民主主義とは縁遠そうなエルフの国の出身であるにもかかわらずここまで弁が立つとは。流石、伊達に500年という時を生きていない女だ。


『――情報の隠蔽か。ふふっ、それ自体も国民の総意なのさ、シルフィ』

「なに……?」

『私も最初から全てを伏せて政策を進めたわけではない。選挙の廃止も、ナノマシンによる深層心理に働きかけた委任も、全てを開示して始めた政策だった』


 ――バカな。では、今の情報統制はなんだ?

 俺の中には帝国議会に関する情報は入れられていなかったし、今、デバイスで検索を掛けても何も出てこないじゃないか。


『何も出てこないだろう、勇者くん。それはそうだ。

 今、この国の意思決定に関するシステムは何をどう調べても出てこない。

 当時の人間が、石にでも刻んでいれば話は別だがね』


 こちらの瞳を静かに見つめてくる機械皇帝。

 顔は何一つ見えないが、目が合っていることは感じ取れる。


『国民総意の抽出、それを導入してからしばらく。

 システムを逆手に取った不正が横行した。

 特にシステムへのクラッキングが悪質でね。

 社会問題にまで膨れ上がるのにそう時間はかからなかった』


 彼女の言葉に俺もシルフィも息を呑むのが分かる。


『そこで”総意”が弾き出した答えが、システムの隠蔽だ。

 不正を行える標的が存在するという情報を、歴史と社会の認識から消し去る。

 認識していない相手に不正を働くことはできない。最高のセキュリティだ』


 帝国議会不要論に対し、国民総意を抽出するシステムを用意した。

 そしてそのシステムに対する不正が横行した時、抽出された総意が、システムの隠蔽を選択したと。


『シルフィ、君の言葉は正しい。

 民主主義の根幹は正しい情報が与えられていることにある。

 だがね、その民意が自分たちの幸福のために情報の隠蔽を選んだとしたら?』


 アガサの言葉にシルフィは返す言葉が出てこなかった。


『議会不要論と同じだ。民意は、民主主義と自己矛盾した選択をする。

 結局は耐えられぬのだろう。重要な意思決定するというストレス、そこに不正が存在することへの怒り、不正の芽をひとつひとつ丁寧に摘まなければいけないという現実から目を逸らし一足飛の成果を求める。その結果がこれなんだ』


 ”全てを私に委任することで、政治から目を背けた者たちの集まりがこの国だ”


『彼らは、今の帝国議会が何なのかということにさえ疑問を持たぬ。

 いや、深層心理では知っているのだから、敢えて知らぬことを選んでいる。

 この情報統制は、民意が始め、民意が選び続けている結果なんだよ』


 ……直接の民主制を実現しておきながら、民意によってその自覚が奪われた国。

 それが、この機械帝国の正体だというのか。

 機械皇帝という為政者が、自嘲しながらそれを語ると。


「――じゃあ、今の帝国議会は何なんだ? 俺を造ったのも民意だってのか?!」


 こちらの言葉に頷くアガサ。


『今の議会は、私が用意した人工(artificial)霊魂(ghost)だ。

 形式的として大臣の個人名は用意しているが、そんな人間は実在しない。

 吸い上げた民意を私1人で実行するのは不可能でね』


 帝国議会が全て、ゴーストだと……?


「誰を元に造った?」

『私自身。10個用意して既に1つ潰している』

「……ゴーストにはモデルが必要なのか?」


 アガサとシルフィの間では通じ合っているのだろう。

 だが、俺には分からなかった。

 人工(artificial)霊魂(ghost)というものが、いったい何なのか。

 俺自身がそうだというのに、未だに分からないのだ。


『どうにもお前は違うようだが、少なくとも初期はそうだった。

 人工(artificial)霊魂(ghost)というのは、電脳空間に人間の脳を再現してシミュレートすることによって生み出される存在だからね。神経の構造から細胞の一片に至るまでを再現し、動かすことで人格が生まれるのだ』


 頭脳の完全再現によって霊魂を宿すというのか。

 だから、特化型のAIとは違うと。


「――それで、1個潰したというのは? 

 今のお前と議会が対立する理由はなんだ? アガサ」

『そうだな、そろそろ本題にしようか、シルフィ』


 語ってから地下の研究所を見渡すアガサ。


『14年戦争だ。お前が、私を殺すと心に決めたあの戦争の話をしよう』


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