『我が機械帝国は”究極の民主主義”を実現した国家なんだよ、シルフィ――』
「俺を造ったのは、帝国議会の独断と言うのなら、お前はどこまで知っている?
お前はどうしてこの場に俺たちを呼び出した……?」
こちらの言葉に静かな笑い声を立てる機械皇帝。
『――ここは、お前の生まれた地、お前が造り出された場所だ。
そして同時に我が過ちの、私の怠慢が身を結んだ場所でもある。
我が帝国が至るべくして至り、犯すべくして犯した罪の象徴がここだ』
語りながら自嘲するアガサ。
そんな彼女を見つめ、シルフィが口を開いた。
ここまでの怒りを僅かに収めたシルフィが。
「なぁ、アガサ。お前、帝国議会をどう変えた?
どうして議員の1人とも会えない? どうして議員の情報は出てこない?
この国の検索エンジンを使っても誰1人の情報も引っかからないのは何故だ?」
彼女の言葉にゾッとする。
俺も知らなかった。帝国議会に関する情報は入れられていない。
それ以上に調べていなかったから何も知らなかった。
「100人は居たはずの議員が、どうして1人も見つからないんだ?」
『――我が国民が、それを望んだからだよ。シルフィ』
そう答える機械皇帝を見つめながら、嫌な予感がする。
この場所と同じくらいに悍ましい答えが返ってくるような、そんな気がした。
「どういう、ことだ……?」
シルフィの問いを前に、機械皇帝は語り始める。
彼女が去ってから、この土地に起きた歴史を。
今日に至るまでの機械帝国の過去を。
『――全ては、議会不要論が起こったところから始まった。
君が去ってから数十年くらいだったかな。
議員たちの世襲は進み、民主的に選ばれるはずの存在が身分となり始めていた』
……皇帝という立場はその身分に裏打ちされた存在だ。
目の前に立っているのは、最初の皇帝が今日まで生き続けているという例外だが普通は、皇帝の血を引く者たちの中から次の皇帝は選ばれる。
血という身分が、歴史によって裏打ちされる為政者。それが皇帝だ。
対する議会は違う。どうやって議員が選任されるかにもよるが、帝国議会というのは帝国民の選挙によって選ばれる組織だろう。
シルフィが居た頃は、アガサとシルフィという為政者に対して、国民の意思を反映させるための存在が帝国議会だったというのは聞いている。ならば恐らく選定方法は国民による総選挙か、選挙権に制限を掛けていても近い形のはず。
『選挙という手続きは空疎な儀礼と化し、議員が幅を利かせ賄賂なしには大きな事業を行うことも難しい。そんな世の中になりつつあったのだ。そこで台頭したのが議会不要論、全権を私に委任すべきという世論だ』
議会を排除して皇帝1人に頼ることが正当な世論として台頭してくるのか。
それだけアガサという女の為政者としての腕は、確かなものだったと。
「……不正が横行するから、選挙による議会ではなくお前個人に頼るとは」
『ふふっ、理屈としては通らぬ話だよ。
私が付け届けによって動くだけで破綻する、より脆弱な統治の形だ』
自嘲する機械皇帝にシルフィは冷静な瞳を向けている。
「……お前は、そんな女じゃない。だから今の繁栄があるのだろう?」
『君は、認めてくれるのか。この私を、この国を』
「少なくとも、かつての貴女は確かにこの世で一番の為政者だった」
この世で一番の為政者。どこかで聞いたことのある評価だ。
確か、ステュアート一家として変装していた時にシルフィが言っていた。
「しかし、アンタは完璧主義に過ぎる。
ジョージを蘇らせるという目的を失ってからは特にそうだろう?
そんな貴女は、議会不要論を前に何をした? この国をどう造り替えたんだ?」
シルフィの持つアガサへの評価。
その言葉を聞いていると、本当に単純ではない関係なのだと分かる。
認めているところも、そうでないところも、入り組んだ深い関係なのだと。
『私1人に全てを委任するべきという議会不要論はナンセンスだと判断した。
理由は簡単だ。私自身が道を踏み外す可能性もあるし、私の身柄を押さえればこの国の形をあまりにも簡単に変えられてしまう』
”民主主義から逃れて、私というカリスマに頼ろうなどとは、子供の理屈だ”
『しかしだね、確かに分かった。国民にとって民主主義というのは荷が重い。
最善が存在しないように思える決断を繰り返す重さに耐えられぬ。
議会を多少造り替えたところで、幾度でも私を求めるだろう。
同時に個人に権力を与えるのも危うい。必ず私利私欲が入り込むものだ』
アガサの言葉を静かに受け止めるシルフィ。
……いったい、機械皇帝はどんな手を打ったのか。
どんな手を打って、今日という結果があるのだろうか。
『民主主義を残しながら、人間が選出される帝国議会を解体する。
それが当時、私の出した答えだ。
国民全体の意志の抽出は為政のために不可欠。
だが、それは議員を選ぶという形では完全なものとはならない』
アガサがそこまで語ったところを聞いて、シルフィが口を開いた。
「その時、ナノマシンの普及率はどこまで行っていた?」
『体質上問題のある人間を除き、ほぼ100%だよ。
君が去る前は、まだそこまで普及していなかったかな』
シルフィは既にアガサが何をしたのか理解しているように見える。
そして、アガサもまた、気付いたシルフィを前に喜んでいるのだろうな。
「ナノマシンを使って国民の意志を吸い上げたな? アガサ」
『その通りだ、シルフィ。それもそうと気づかずに負担を掛けない形でな。
細かい政策までアンケート形式を取っていたら何も進まない』
「――深層心理へのアプローチか。私のいた頃よりも研究を進めたと」
ナノマシンを入れている全国民の深層心理から意思を吸い上げる。
それを元に国家運営を行うという訳か。
なんて、恐ろしく手の込んだ真似を……。
『掛かった金、資源、人員は膨大だったが理想的なシステムが構築できた。
この見知らぬ異世界で、私は、私の故郷よりも完璧な民主主義を造ったんだ。
我が機械帝国は”究極の民主主義”を実現した国家なんだよ、シルフィ――』




