「それで、この後、陛下の新年あいさつを見に行くんだったね?」
『ひと口食べればわっくわく♪ ワクワクあふれるわっくわくバーガー♪』
帝国首都・ウィンストンタウンで聞くその音は、アディンギルで聞いたそれと全く同じで、俺はどこか懐かしさを感じていた。そしてあの日と同じように、目の前に座るシルフィは美味しそうにメガワックを食べている。
今回は俺も同じようにメガワックを頼んだ。
肉の枚数が多くジューシーさが凄まじい商品だ。
チーズワックとは、インパクトが違う。
「せっかくの帝国観光なのに、悪いね? パパ」
「いいや。シモーヌが食べたいものを食べるのが一番さ」
黒髪にして、長い耳を隠したシルフィと、親子のふりをする。
ジョナサンとシモーヌ、仲の良いステュアート一家のふりをだ。
「それで、この後、陛下の新年あいさつを見に行くんだったね?」
こちらの言葉に頷くシルフィ。
帝国内部への潜入からしばらく、機械皇帝が表に姿を現す機会を知ったシルフィは直接そこに行くと言い出したのだ。
どうも、一度本人がどこに居るかさえ分かれば、後はナノマシンから出ている電波を拾って場所が掴み続けられるらしい。シルフィが俺に掛けてくれているような妨害を施さなければ必ず追えると言っていた。
「せっかくの機会だもの、この素晴らしい国を造ったお方の顔を拝見したいわ」
「確かに。皇国じゃなかなか分からないもんね」
基本的に政治の場では代役を立てることが多いらしいのだが、それでも、この新年の挨拶だけは本人が出てくる。機械皇帝の居場所を確実に掴むには絶好の機会だと。
だからこうして2人でホテルから出ているのだ。
4人で行動すると目立つから俺とシルフィだけで。
「――どうしたの? パパ」
メガワックを食べ終えた俺は、ゆっくりと食べ進めるシルフィを見つめながら、ポテトをつまんでいた。ブラックソーダもアディンギルと同じ味だ。惚れ惚れするくらいに。
「いや、幸せだなって……」
俺の言葉に対し、シルフィが素に近い声で笑う。
とても14歳の少女とは思えない重みのある笑みだ。
普段なら何かここで返してきたんだろうが、変装が変装だ。
14歳の少女らしい言葉で返すのは困難だろう。
「……さて、行こっか」
食事を終えたシルフィと共に立ち上がり、店の外へと進む。
新年の祝賀挨拶は、機械皇帝の宮殿で行われるらしい。
俺はそう聞いただけだが、これだけの人の流れ。間違える方が難しいだろう。
「本当に人気なんだなぁ、皇帝陛下は」
「そりゃあ、世界で一番の為政者なんて言われているからね」
物知りな少女のように説明してくれるシルフィ。
そう言いながらも、その表情と声色には複雑さが見える。
自らの親友が500年統治し続けた場所を前に、何を想っているのか。
「……少し遅かったかな」
「いや、帝国の外から来た私たちが近くを占領しても仕方ないでしょ?」
開かれた皇帝宮殿の庭、その入り口付近の人だかりに紛れ込む。
かなりの数の帝国民が並んでいるし、ちらほらと俺たちと同じようにメガネをかけている人間もいる。皇国からの観光客だろうか。
「肩車でもしようか? シモーヌ」
「いや、良いよ。それよりもはぐれないように」
スッとこちらの手を握ってくるシルフィ。流石に肩車は目立つか。
……こうして彼女の手を握っていると、あの日のことを思い出すな。
旧魔王城に踏み込んだオークの国での出来事を。
「っ……」
宮殿のベランダ、そこに機械皇帝が姿を現した瞬間。
隣で立つシルフィが息を呑んだのが分かる。
それは俺も同じだ。……なんだ、あの外骨格は。全身を包む鎧は。
距離はあるものの、こうして直に見ると自分に入れられていた情報がいかに断片的だったのかを思い知る。全く知らなかったぞ。機械皇帝が、あんな全身を機械で覆った人物だなんて。
『――皆さま、新年あけましておめでとう。
まずは大きな災いもなく、去年という1年を終えられたことを、こうしてまた共に祝えることをこの場に居る者、この言葉を聞く者、そして全ての国民に心より感謝を申し上げる』
この距離では聞こえないと思っていた機械皇帝の挨拶が、メガネ型のデバイスを通し、こちらまで聞こえてくる。落ち着いた低音、何か加工されているのか、男の声なのか女の声なのか分からない。
アガサという本名を知っているからこそ女なんじゃないかと引っ張られるが、知らなければ分からないだろうな。
つらつらと続けられていく機械皇帝の新年あいさつ。
去年1年間で名を挙げた人々への賞賛が続く。
なるほど、こういう感じなのか。
『そして、新たなる監察官ウォルター・ウォーレスが暴いたように、帝国内部での人身売買を許すつもりはない。この問題については全力を尽くし、取り組んでいく所存だ』
皇帝の挨拶としては、かなり具体的な話が進んでいく中でウォルターの名前が挙げられた。この話だけ聞いていると、俺やウォルターへの洗脳を行ったのがあの機械皇帝の指示とは思えないが、実際はどうなっているのか。
ウォルターを旗頭に使っているのだから人身売買を許さないというスタンスは見せかけに過ぎず、洗脳技術に絶対の自信があると解釈することもできるが、事実を判断するには情報が少なすぎる。
「――行こうか? シモーヌ」
機械皇帝の挨拶が終わり、人々が離れていく。
だというのにシルフィは全く動く気配がなくて、俺はそう声をかけた。
「……ジョ、父さん、早く帰ろう。はやくみんなと合流しなくちゃ」
今まで見えていなかったシルフィの表情が、青ざめているのが分かる。
なんだ……? こんな急変するようなことが何かあったか?
「シモーヌ……?」
「心配しなくて良いよ、それよりも早く」
そう言ってシルフィが走り出す。
今、話さないということは聞かれたらまずいってことだろうな。
いったいここで彼女が何を掴んだのか。
――その答えを知るのは、しばし後のことになる。




