「派手に年越しを祝うってのに興味があってね。夜景が綺麗だって」
「――ようこそおいでくださいました。ステュアート様」
帝国首都にある高級なホテル。
そこに到着した俺たちをホテルマンが出迎えてくれる。
着いただけで車のドアまで開けてくれるとは、なんという歓待か。
「家族だけ先に案内してくれるかな?
駐車に付き合わせるのも、娘たちを退屈させてしまうから」
そう言いながらリタとシルフィの方を見る。
特徴的な耳も、髪の色も隠してすっかり人間の少女に見える2人を。
……まったく本当にこの2人の父親役なんて冗談じゃない。
「承知しました――」
そうホテルマンは、他の従業員を手配し、女性3人が先に案内されていく。
……この感じ、思考通信を使ったのだろうな。
知識として入れられていたが、やはりこの帝国でのナノマシン定着率は高い。
「駐車場までご案内しますね」
彼の案内に従い、ゆっくりと車を進める。
一応、自動車の運転方法を入れられていて助かった。
もしも俺にそれができなければ、別の方法で潜入していただろう。
シルフィは運転できるらしいけれど、人間のフリをしても14歳の少女。
怪しまれてしかたないし、クロエ先生は運転ができるはずもない。
まぁ、クロエ先生に14歳の娘がいる母親を演じさせる時点で無茶苦茶だが。
「運転お上手ですね、お父さん」
駐車場に車を入れて、車から降りる。
人間の国で仕入れたものだが、国境近くの街は半ば機械帝国だ。
ナノマシンの普及率だけは違うが、自動車まで手に入るのだから。
「まぁ、帝国の近くで仕事してるんでね」
「皇国の方に、年越しの旅行先として選んでいただけたのは嬉しい」
彼に導かれながら歩みを進める。
年季こそ入っているが、清掃が行き届いた高級感がある。
……正直、こちらは緊張しっぱなしだ。
人間の国の一般的な父親を演じなければいけないのだから。
「うちより派手に年越しを祝うってのに興味があってね。夜景が綺麗だって」
「ええ、ご予約されたお部屋からよく見えますよ。
街全体を使ったイルミネーション、最大の観光名所です」
都市全体を使った夜景でのイルミネーション。
流石は機械帝国だ。これが普通の国家なら、同じことはできない。
たとえこの国と同じように金属とコンクリートに満たされたとしても。
「それは楽しみです。うちの国では夜景ですら珍しいんでね」
なんて会話をしているうちに自然と高層階の一室に案内される。
そこには既に案内された3人。
「遅かったね、パパ?」
「そう言うなよ、シモーヌ。これでも急いだんだ」
簡単にホテルで受けられるサービスや部屋にあるものの説明を受け、去っていくホテルマンを見送る。そしてしばし視線を交わす。
シルフィの確認が終わるまで、この変装は続けなければいけない。どこに目があるか分からないこの国では。
「――良いぞ。やはり読み通りだ」
部屋の中への探知を済ませたシルフィが呟く。
それを聞き届けて、少し息が楽になる。
「なんだってこんな高いホテルにしたんだよ、シルフィ」
「最初に話しただろう? 下手に安いホテルよりも監視される可能性は低いと。
安いホテルはどんな奴でも使えるからな。金は信用なのさ」
最初に用意した身分さえ割られない限り逆に安全だというのが彼女の読みだ。
だから俺が父親、クロエ先生が母親で娘2人の家族を演じている。
最初は半信半疑だったが、意外にもよく当たったな。
「それで、これからどうします? お2人が1人で外に出ると目立ちますよ?」
クロエ先生が2人に質問する。
確かにここに来るまでエルフやドワーフの姿はなかったし、人間の変装のまま外に出たら目立つ。昼間ならともかく、もう夜が近いから尚のことだ。
「必要な道具は既に仕入れている。私はここで充分だ」
どこかミルフィの姉さんに似た趣味のファンシーなキャリーバッグ。
中には、人間の国で仕入れたパソコンが入っている。
一応、メガネ型のデバイスも全員かけているが、それ以上が必要だと。
「それ足つかないのか?」
「つくさ。だが、つくころまでここに居るつもりはない」
……流石は機械帝国の創始者。
できることとできないことの区別がついているように見える。
「しかしまぁ、少しはゆっくりしようじゃないか。
せっかくこんなホテルに泊まっているんだ。楽しまなきゃ損だぞ?」
「そういえばここの温泉が凄いって話だったよね、シルフィ」
リタの言葉に頷くシルフィ。
しかしこうやって髪の色を揃えているとそれなりに姉妹に見えるものだ。
「ジョンは1人になってしまうが、行くか?」
「じゃあ、私がジョンについて行こうか。
シルフィは無理でも私なら男湯に入れるはずだ」
……何とんでもないこと言ってるんだ、この女は。
人間の見た目で言えば確かに幼く見えるが、100歳近いくせに。
「やめろ。俺が気が気じゃない」
「なんだなんだ? 親父は娘と風呂に入れないのか~?」
「悪ふざけはやめろ、本当に」
飛び掛かってくるリタを抱える。
「ま、シルフィより先にそういうのをすると怒られるか」
「――おい、リタ」
「おっとっと、先に怒らせてしまったかい? シルフィ」
リタに視線を向けるシルフィ。
まぁ、かなり怒っているだろうな。そんな感じだ。
「……別に。ただお前は行かせん。それでいいだろう? ジョン」
「ああ、別に温泉に興味ないし」
「ふふっ、いくら帝国内といえどホテルの温泉くらい危険でもないぞ?」
それもそうか。別に今の俺たちに目を付けている連中もいないだろうしな。
「逆に初日のうちに入っておいた方が良いか」
「そうだな。時間が経てば目を付けられる機会も増える。
まぁ、今日は温泉に入って、その後に夜景でも楽しもうじゃないか」
”――最初で最後の帝国観光だ”
なんてシルフィの軽口が、やけに重く響いてきた。




