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「じゃあ、シルフィにはバレないようにしないとダメかな」

 ――湖底都市フォン・ド・リュー。

 湖底船に揺られ、足を踏み入れたその場所は本当に美しい都市だった。

 太陽の光は分厚い湖に阻まれていて、代わりに至る所に用意された灯篭が優しく照らす街並み。


 灯篭と言っても火が使われている訳ではない。

 なにかクラゲのようにふわふわと漂うものが入れられている。

 その柔らかな光が何よりも幻想的だった。


『すまないな、しばらく皆には退屈な思いをさせるだろうが、この都市はエルフでない者にとっては危険だらけだ。今までのように気軽には出歩けない』


 深水月の儀への協力。そのためにシルフィとは別行動となった。

 そして彼女が言う通り、この都市はエルフ以外には危険だらけだ。

 何か危険な生物がいるとか、エルフ以外は狙われるとか、そういうんじゃない。


 結構な場所が水に満たされているのだ。

 一応は濡れないように移動できるルートが用意されているらしいんだが、平気でぶっ壊れて浸水している。水の中でも呼吸できるエルフだから許される杜撰さ。


 おかげで俺たちのような水の中では数分しか生きられない種族にとっては、危険極まりない場所になっている。


「……確かに凄い場所ですけど、誰もここに来たがらないのが分かりますね」


 シルフィ以外は、ということで押し込まれた部屋の中でクロエ先生が呟く。

 ここは最奥の、窓もない密室。

 だから安全ということらしいが、正直これでは湖底都市にいる甲斐がない。


「祖父さんから聞いてはいたけど、そりゃ二度と来たくないっていうわけだね」


 クスクスと笑うリタ。しかし、こりゃしばらく暇だな。

 そう思いながら数日が過ぎた頃だ。

 ちょこちょこミルフィーユの生徒さん達とか、色んなエルフたちに呼ばれて、思ったほど退屈しない時間を過ごしていた。


「っ――さすが、ですね。あのシルフィーナ様と肩を並べるだけのことはある」


 そして今、俺はエルフの学生と模擬戦をやっている。

 武器は木刀。といっても使っている木が違うのか、かなり柔らかい。

 怪我をしにくい加工がされている。


「……まともにエルフと戦ったのは、身内売り連中以来だが、強いな、アンタ」

「そうですか。あいつらより強いとは嬉しいですね」


 細身の体格からは想像できないパワフルさ。

 確実な技術を身に着けていることによる迷いのなさ。

 少なくともあのエルフの子供を他国に売っていたという連中より遥かに強い。


「この都市を見ていると、身内を売るような連中が出てくるとは思えないんだが」


 木刀を交えながら、相手に話しかける。


「奴らは湖底都市の出身じゃありませんよ、陸のエルフです。

 陸の連中が全員そうって訳じゃないんですが、外にかぶれると外道に落ちる」


 なるほど、出身地の違いに、他国への憧れって訳か。

 これだけ独立した土地柄だと、外貨を手に入れるのも大変そうだしな。


「そういうお前はどうなんだ? 外に出てたよな」

「楽しかったですよ。けれどあいつらのようにはなりません。

 そうなってしまうと思い込む老人が多くて大変なんですけどね」


 ふむ、ということはミルフィーユに連れ出されたのは良い経験って訳か。

 あの女性なら、そういうつまらない懸念に囚われないだろうしな。


「――中立主義を見直すべきだというシルフィーナ様の考えも、ようやく体感できました。外の世界は、我々の知る記録とかなり変わっていた。それだけ動き続けているということだ。私たちは中立・不介入を盾にして、外が変わっていることに気づいていない」


 っ、こいつ、これだけ喋りながらよくもまぁ、攻撃の手を緩めずにいられるものだ。一瞬、加速思考を発動してしまった。使うつもりはなかったのに。


「アンタみたいな若者がいてくれれば、シルフィも少しはやりやすいのかもな」


 相手が放ってきた本命を間一髪で受け止める。

 危なかった。これは加速思考を使わなかったら防げなかった。


「――流石だねぇ、クレール。シルちゃんのジョンと対等に渡り合うなんて」

「ミルフィ先生! 深水月の儀の準備中では……?」

「今日の午後は休憩なんだ。それでちょっとジョンくんを借りても良いかな?」


 俺との組み合いを解き、スッと木刀を収めるクレール。


「随分とあっさり引き下がるんだな?」

「先生の邪魔はできません。お忙しい方ですから」

「じゃあ、模擬戦の続きはお預けか」

「ええ、また近いうちに続きを、ジョンさん」


 軽く握手を交わし、ミルフィーユさんに向き直る。


「男の友情って奴だねぇ、嬉しいな」

「アンタの生徒、よく鍛えられていると思う。それに博学だ」

「ふふっ、ありがと。私は手助けをしてるだけだけどね」


 全てはクレール自身の力だと。

 謙虚な先生だ。


「それで何の用なんです? 俺に」

「んー、それはちょっと私の部屋に来てからでも良いかな?」

「構いませんが、男を入れて良いんですか?」


 こちらの言葉にくすくすと笑うミルフィーユさん。


「問題があるとすればシルちゃんが怒るってことかなぁ?

 最近ジョンくんとの時間が少なくてピリピリしてるみたいだしね」


 ……ピリピリしているのは、嫌いな故郷に居るからだと思うが。

 夜になって戻ってくるたびに愚痴ばかりだからな。

 エルフの国は嫌いだとか、面倒なだけの儀式に付き合いたくないとか。


「じゃあ、シルフィにはバレないようにしないとダメかな」

「そうかもしれないね。別に特別に隠せとは言わないけれど」


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