「だから最後まで付き合ってもらいますよ。私の進む道を。描く未来を」
「――行ってしまわれましたね、みなさん」
勇者ジョンたちは、旅立っていった。
迎えた時と同じように交易都市までバシリオ隊長の部隊が送り届け、そこからは馴染みの馬車を用意しているらしい。
「機械帝国に行くらしいですね。つくづく困難な戦いに身を置く方だ。彼女は」
僕の言葉に姫様が頷く。言葉にしなくても分かっている。
シルフィは恐らく、機械帝国を討つつもりだ。
だから、自らの力を取り戻そうと、今、旧魔王城に仕掛けた。
「今の私たちには無事を祈ることくらいしかできません。
正直、かの国の危険さは理解していますが、目下の敵ではない」
「はい。ここのような砂漠を狙ってきませんでしたからね、奴らは」
オークの国は、不毛の地だ。水源管理でさえ危うい。
わざわざ最初に狙う必要もなかったのだろう。14年戦争も遠い話だった。
実際、あれに巻き込まれていたら終わっていたから助かった面はあるが。
「できればここが戦い終えた彼女たちを守れる場所の1つになれば良いのですが」
機械帝国のどこまでと戦うつもりなのか分からないが、戦い終えた後の彼女の立場はかなり危ういものになるだろう。魔王討伐の時とは違う。各種族の全てが後ろ盾になっていたあの戦いとは。
「……実際、相当難しいでしょうね。
数年あればそこまで持っていけるかもしれませんが」
姫様がこちらの言葉に頷く。本当に間髪入れずに彼女たちは動くだろう。
その間に機械帝国から彼女たちを匿えるほど、国力を回復できるとは。
「しかし良かったんですか? 交易都市まで見送りに行かなくて」
「ふふっ、そんな暇はありません。
これから復権派の残党と、和平を進めなければいけませんからね」
なるほど。そちらを進めていけば、ゆくゆくはシルフィ様たちの力になれる機会を生み出せるだろうし、今ここで見送ることよりも大きな恩返しができるはずだ。
――しかし、その旗頭を務めるのはどうにも僕になりそうだ。
まず、兄が手に掛けなかった仲間と合流し、復権派を説得する。
そうして足場を作りそこから国中の復権派を味方につけていくのだ。
「……大半の奴らは分かってくれると思います。
ただ、どうしても兄のような考えを持っているのもいるでしょうね」
「覚悟しています。でも、貴方が橋を渡してくれるのでしょう?」
……全く、姫様は以前にも増して僕に無理難題を吹っ掛けてくるようになった。
まぁ、それも仕方のないことか。王冠を手に入れたここからが勝負なんだ。
外交上の問題は、シルフィ様が後見人になってくれたから少しは収まるだろう。
人間の国の使者に対して王冠を取り戻したことを糾弾するなと釘を刺してくれた彼女の動きは本当にありがたかった。500年前の英雄の言葉はそれだけ重みがある。魔王を倒した英雄自身が、オークの王と魔王は違うと宣言することには。
「善処します。外交は、シルフィーナ様が抑えてくれましたからね」
「ええ。何かあれば切り込まれるかもしれませんが、それは今後の私たち次第」
クラウディア殿下ならば大丈夫だろう。そう思ってしまいたい。
けれど、だからこそ僕が支えなければいけない。
1人で背負える役割ではないと分かっているのだから。
「とりあえず国王の座と王冠の使用者を分けられたのは計画通りです。
ただ、できれば父と私ではない方が良かった。私たちは近すぎる」
姫様は、敢えて父カルリートから王位を継ぐようなことはしなかった。
王冠の持ち主が王であるという500年前の慣習を、復活させなかったのだ。
元々そう考えていたらしい。権力は分散していた方が良いと。
「しかし今、姫様から王冠を移すのは事ですよ」
「分かっています。まずはこれからの動乱を最小限に抑えなければいけません。
事が済んだら、カルリオンの血筋ではない者から王冠の継承者を選びたい」
彼女の思い描く最終的な権力の図式はこうだ。
カルリオンの血筋は、国王としてオーク軍を束ね続ける。
そして闇の神が与えた王冠を持つ者は、魔術師の選定だけを行う。
それも、自分自身が選んだものではなく、新たな機関が選んだ者たちを魔術師にしていく。そうすることで、かつての王が一手に担ってきた権力を分散し、魔王の再誕を防ぐのだと。
クラウディア殿下の計画を聞いて、シルフィーナは後見人を買って出たのだ。
元々そのつもりだったのかもしれないけれど、それでも姫様の思惑を高く評価していたのは間違いない。
「でも、私のうちに魔術師を増やしておかないとダメなんですよね。
あまりやりたくないんですが」
「――ええ、最低でも各都市に数名ずつ置けるようにはしなければ」
それだけで疲弊したこの国を立て直す礎になるのだから。
どこにどれだけの魔術師が必要かという試算はずっとしてきた。
復権派としての僕も、姫様自身も。けれど問題は誰を選ぶかなのだ。
「じゃあ、ウィル。最初に貴方はどうです?」
「……ダメです。僕を厚遇しすぎると、復権派に反感を覚えさせる」
「確かに……ちょっとこれは難しいですね。今の魔術師たちに頼みますか」
数少ない魔術師たちを、現体制は厚遇している。
確かに彼らに近いものから選ばれていけば、技術の継承は容易い。
「ウィルフレドの故郷にいる、私の師匠とかなら」
「え、師匠が居るんですか? 姫様の――」
今の今まで聞いたことのない話だ。
いや、師匠になり得る魔術師が誰かはすぐに検討がつくが。
「10年前に。半年くらい基礎の基礎を学びに」
そう言った彼女の顔を見て、懐かしい顔を思い出す。
……一時期、僕らの孤児院に顔を出してくれた育ちの良い少女。
ある日を境にすっかり顔を見なくなっていたのだけれど、まさか。
「っ――もしかして」
「貴方らしくもなく鈍かったですね。てっきりもう気付いているものかと」
「いえ、全く……なるほど、そういうことだったのですか」
奇妙な厚遇だとは思っていた。
王城に入ってすぐのころからクラウディア殿下は僕のことを重用してくれたから。
思想が似ているからだとは思っていたけれど、まさか。
「……ウィルフレド、今の私があるのは貴方のおかげです」
そうか、あの日々が姫様を変えたのか。両親が直面していた孤児院の貧しさが。
彼女に王城では学べない考えを与えていたのだ。
……無駄じゃなかった。両親のやっていたことは。少しだけ、そう思える。
「だから最後まで付き合ってもらいますよ。私の進む道を。描く未来を」
簡素だが、今、再び彼女に忠誠を誓う。
これまでとは違う、本当の意味で、僕は僕の力を彼女のために使う。
彼女が思い描く未来を実現するために。
「はい。いつか、貴女が王冠を手放せるその日まで。
お供いたします、クラウディア殿下――」
「ええ、そして願わくは、そのあとも私を支えて欲しい。ウィルフレド」
ご愛読ありがとうございます。これにて第3章、完結です。
連載開始から今日まで、毎日更新し続けることをモットーに頑張ってきましたが、4章からは本当のクライマックス。
物語の終盤戦に向けて、しばらくのお休みをいただいてから連載を再開したいと思っています。
まだ、明確な予定は立てられておりませんが、近いうちに必ず。
しばしお待ちいただければ幸いです。
それではまた、第4章にてお会いしましょう――




