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「……興覚めだ。お前、ジョンと言ったな。俺と組まないか?」

「そうか、俺が魔王か――お褒めいただき光栄だ。勇者に認められるとは」


 告げたテオバルドが、王冠を掲げる。

 全てを吸収するかのような、どす黒い王冠。

 あれがオークの神、闇の神が最初の王に託した力。

 ――魔術師を選定する絶対的な権力か。


「チッ――」

「……無駄だ、カラクリ仕掛の魔力弾で撃ち抜けると思うな」


 王冠を伝い溢れ出してくる奴の魔力が、こちらの弾丸を撃ち消す。

 もはや障壁のような術式さえ必要ではない。

 ただ、濃密な魔力が、全てを無力化しているのだ。


「黙って見ていろ。魔王の再誕をな――」


 溢れ出した魔力が、奴の装束を変えていく。

 話に聞いていた魔王が纏ったという装束へと。


「――小手試しだ」


 力を得たテオバルドが、俺の周囲に魔族を転移させる。

 そうだ。これを確実に処理するために、俺はこの力を得たのだ。

 

 ――加速思考を発動するまでもなかった。

 ウィルフレドの血で目覚めていた吸血剣は自ずと、軌道を描いた。

 迫る魔族を斬り殺し、さらなる血を得るための軌道を剣自身が欲したのだ。


「なるほどな……魔王の天敵という訳か」


 こちらの剣技を見定めたテオバルドが呟く。

 全くもってその通りだ。今、送り込まれた数だけの魔族から血を奪った。

 一太刀で、二度と再生不可能なほどに吸い尽くしたのだ。


「……なぁ、お前、自分の顔、見たことがあるか?」


 漆黒の魔力を身に纏うテオバルドが問いかける。

 釣られて、この建物に残る窓ガラスに移り込んだ自分の顔を見つめる。

 ……なるほどな。これはシルフィも躊躇うわけだ。


 まるで御伽噺の吸血鬼じゃないか。

 髪も瞳も、血のような赤に染まっているなんて。


「今、初めて見たよ。いやはや、勇者ってのも大変なものだな」

「ああ、俺よりよほど化け物じゃないか。

 ……興覚めだ。お前、ジョンと言ったな。俺と組まないか?」


 ハッ、この期に及んで何を言い出しているんだ。

 こいつ、自分の弟でさえ手にかけるような異常者と誰が組むと思ってるんだ。


「――俺と手を組んだら、お前は、どこまで殺すんだ?」

「そうだな。シルフィーナだけはくれてやっても良い。

 だが、現体制は皆殺しにする。それがこの500年の為政に対する責任だ」


 なるほど、シルフィをカードに使ってくるか。

 俺に対する交渉としては妥当なラインだな。

 ……少し付き合ってやるのも悪くはない。


「責任ね。そんなもののために、お前はクラウディアを殺そうと」

「当たり前だ。

 あの娘自身は復権派に近い考えを持っているようだが、それがどうした?」


 ――そこからテオバルドは堰を切ったように語り始める。

 俺が聞きたかったことを。

 なぜ、自らの目的の成就を前にして、クラウディアを狙ったのかを。


「カルリオンの血族は、一度も王冠を取り戻そうとしなかった。

 500年もの間、ただの一度もだ。それが必要だと分かっていたはずなのに、それを唱える者たちをことごとく排除し続けてきた」


 ここまでは、俺が知る通りだ。ウィルフレドからも聞いたこと。

 為政者が為政者としての責任を果たして来なかった。

 だから、復権派は過激化し増長する。


「それを、たかだか魔女シルフに便乗しただけの小娘1人で、全て水に流せと?

 今まで死んでいった者たちの血は何だったんだ。排除された者たちは。

 魔王を殺した強者どもの都合で、俺たちは生きているんじゃない……!」


 ――なるほど。この男の中では理の通る話だ。同情もしよう。

 俺はシルフィと近い人間。彼のような反感を覚えはしない。

 だが、理屈として、感情として、遠くに立つ彼の心情は理解できる。


「お前の考えは分かる。

 だが、お前の仲間はそう思っていなかったんじゃないのか?」


 テオバルド・アルリエタが抱える怨恨はとても理解できる。

 このような怨恨があるからこそ、統治というものは困難なのだとも。

 だが、復権派の中で、彼ほどの怨恨を抱えている者は、他にいたのか。


「――何が言いたい?」

「お前の仲間たちは思っていたんじゃないのか?

 王の再選定さえ叶うのならば、これまでの責任の在り処など問題ではないと」


 俺の問いかけを前に、怒りを見せるテオバルド。

 ……てっきり、攻撃を仕掛けてくるかと思ったが、まだ動かないか。


「それが許せなかった。こんなところで、戦いを終えてなるものか。

 こんな理由で、丸く収まって終わりだと?! ふざけるな!

 これじゃあ俺は、死んでいった仲間たちに報いることができない!」


 そのために、さらに仲間を手に掛けたわけだが、分かっているんだろうか。

 自分がどうしようもないことをしたのだということを。


「それで、もう一度聞くぞ。お前は俺と組んで、どこまで殺すんだ?」

「――カルリオン家を根絶やしにする」

「シルフィは、それに頷かないだろうな?」

「ならばそいつも殺すだけだ」


 ……つくづく、救いようがない。

 これから俺を抱き込もうとする男の台詞とは思えない。

 怨恨が野心を正当化し、力が殺しを選択肢に入れる事への恐れを掻き消す。


「そんなことを言う男と俺が組むと思うか? 弟でさえも犠牲にする異常者め」


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