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『必ず、貴方の想いを成し遂げます。父上』

『――テオバルド。私は、義務を果たすことができなかった』


 病に倒れた父さんの最期の言葉を、俺はよく覚えている。

 母さんが死んでから3年。決して治らない病気じゃなかったはずだ。

 貧しさに追い立てられていなければ。私財を孤児のために投じていなければ。


『……本来なら、私がやらなければいけないことだった。

 王冠を、取り戻さなければいけなかったのに。

 現体制に、それを果たす力はない。テオバルド、すまない――』


 “お前に全てを託す。お前が取り戻すのだ。我らの王冠を”


『……必ず、貴方の想いを成し遂げます。父上』


 弟のウィルフレドはまだ小さかった。そして、父さんは弟を可愛がっていた。

 だから俺に託したのだ。俺こそが役目を果たすに相応しいと。

 それからの人生は、全てこの瞬間のためにあったと言えるだろう。


『なぜ、人間の国に潜入する必要がある? マルロ』


 父の死から10年と少し。

 両親が救った孤児の1人にして、我が親友であるマルロと交わした最後の会話。

 魔法による念話ではなく、実際に顔を合わせた最後の会話を思い出す。


『……魔族化の術式を完成させるには、実験台が必要になる。

 同胞を使う気には、なれない』


 そう言った彼を見つめながら、俺は思っていた。

 どうせこの国では掃いて捨てるほどのオークが死んでいくのだ。

 多少の金を積めば、子供の1人を買うことくらい容易い。


 ――だからお前が危険を冒す必要はない。そう言いたかった。

 けれど、同時に分かった。

 この提案をすれば、マルロは買った子供のことを自分と重ねるだろうと。


 そこまで自覚したうえで、俺は自分の考えにゾッとしたのだ。

 なんて恐ろしいことを、考えてしまったのだろうと。


『――分かった。出来る限りの支援は行おう』

『ああ、万が一に俺がどうなろうとも、俺の研究成果は、お前に送る』


 この国では稀有な魔術師。

 それが2人揃っている幸運が、マルロに決断を促したのかもしれない。

 いざという時のために、俺という保険が存在することが。


 ――そして、この保険は役に立ってしまった。

 彼から送られた最後の情報で、俺は魔族化の術式を完成させた。

 帝国が用意した勇者という脅威を知ることもできた。


 母さんも、父さんも、マルロも、この戦いのために失った。

 復権派として王冠を取り戻すため、魔王の力を取り戻すための戦いに。

 だからもう2度と退くことはできない。俺が役目を果たすのだ。


『はい、テオバルド兄さん。

 必ずやオークに勝利を、陛下に再び忠誠を誓える日まで』


 久しぶりに戻ってきたウィルフレドに、マルロの死を伝えた時。

 あいつは確かにそう言っていた。

 だが、どこかで俺は理解していたと思う。


 ――結局、あいつは、潜入しているカルロス派に寝返ると。


 王女クラウディアがこちらに近い考えを持っていることは聞いていた。

 そうでなければウィルフレドがあれほど重用されるはずもない。

 そしてだからこそ、あいつは王女を新たな王にすればいいと考える。


 ……俺の予測は当たってしまった。

 ウィルフレドは王女を庇い、王女もまた裏切ったはずのあいつを守ろうとした。

 弟でさえも、土壇場で尻込みした仲間たちと同じだったのだ。


 ――ふざけやがって。

 結局、現体制から王が現れるというのなら、俺たちの戦いは何だったんだ。

 復権派を許してはならないと、封じ込まれ続けた俺たちは。


 この500年、飢えで死んでいった者たちへの責任は、誰が取るというのだ。

 現体制を、カルリオン家を、生かしておいて何が復権派よ。

 どうしてそれで死んでいった仲間たちに顔向けできるというのか。


「つくづく俺には理解できないよ、ウィルフレド」


 だが、お前は役に立ってくれたな。

 最後の最後まで王女の味方をしようとしたお前でなければ、魔女の隙を突くことはできなかっただろう。


 マルロの残してくれた魔族化の術式。そしてお前の身体があったからこそ。

 俺はとうとう手に入れることができた。

 この500年、復権派を名乗った先人たちが求め続けてきた力を。


「よう、見つけたぜ。テオバルドさんよ――」


 王冠を手に取り直した、まさにその瞬間だった。

 あの男の声が響いてきたのは。

 機械帝国が用意した偽りの勇者、魔女の付き人、マルロの仇。


「……サングイスか。紛い物が本物の力を手に入れたと」


 魔族たちを通して戦況は見えていた。

 魔王の間の外で戦う魔導甲冑が2人と、その奥に控える我が国の部隊。

 そして中でウィルフレドを助けようとする魔女と王女。


 ――今、魔導甲冑と戦わせている魔族への支配を行えなくなれば、敵はまとまった戦力で俺を追ってくることは目に見えていた。だから完全に逃げ切らずに、旧魔王城近くに潜伏していた。離れすぎると操作できなくなるから。


 だから、この状況は、ほぼ思惑通りだ。

 誤算があるとすれば勇者の武器が、機械帝国のカラクリではなくなったこと。

 しかしまさかここでサングイスとは。つくづく巡り合わせだな。


「魔王を打ち倒すには、最適な武器だろう? テオバルド」


 口ぶりだけは吐き捨てるように笑っているが、目はこちらを捉えて離さない。

 つくづく一流の戦士だ。本来であれば、あの魔王の間で殺していたはずなのに。

 流石はマルロを殺した男。生半可な覚悟ではこちらが獲られる。


「そうか、俺が魔王か――お褒めいただき光栄だ。勇者に認められるとは」


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