「お前はもう、俺の仲間じゃない――カルロス派の“お気に入り”め」
「お前はもう、俺の仲間じゃない――カルロス派の“お気に入り”め」
テオバルドがそう告げた瞬間、全身に強烈な寒気が走った。
――姫様を庇わなければいけない。
そう理解して動こうとした俺に魔族の爪が迫る。
「ッ……クソ!!」
加速思考を発動し、最小限の動きで回避する。
そして、すれ違いざまに腕を切り落とすが、更にもう1体。
完全に俺を狙っている。数で押し潰すつもりだ。
「ウィル……? そんな、そんなことが――」
「逃げろ、クラウディア!! もう、そいつはウィルフレドじゃなくなるぞ!」
ウィルフレドの傷口から、どす黒い魔力が溢れ出す。
――忘れもしない。あの時と同じだ。アディンギルで見たマルロの姿。
そして反帝国派の連中が無惨にも堕とされた姿。魔王の力……ッ!
「ァ……ッ――」
皮膚が変質し始める。まだ完全に魔族に成り果てたわけではない。
だが、時間の問題だろう。
たった今、テオバルドという男は、自らの弟でさえも手にかけたのだ。
「さぁ、ウィルフレドよ。その女を殺せ、復権派の誇りを見せてくれ」
誇りだと……?
こんな、他人を自らの駒にして、命を、尊厳を奪うようなことが、誇りだと?
ふざけやがって――ッ!!
「攻撃しろ! クラウディア!!」
迫る魔族の首を貫きながら、叫ぶ。
こいつらを一刻でも早く殺し尽くさないと庇いに入れない。
だが、もう間に合わない。このまま彼女が無抵抗ならば、本当に……ッ!!
「――姫、様……ッ!」
ウィルフレドが振り上げた剣。
それはクラウディアを切り裂くかと思われた。
――しかし、そうはならなかった。
その刃は、ウィルフレド自身の腹に突き立てられた。
最期の正気で、ウィルは自らの動きを止めたのだ。操られる身体を。
「チッ、最後の最後まで……!」
地面に倒れ込んだ弟を前に、テオバルドが悪態をつく。
そして、クラウディア殿下は静かに眼前の男を睨みつけた。
「――貴方は、殺します」
殿下が何かしらの魔術式を走らせたのが分かる。
そこから放たれたのは闇の弾丸。
……テオバルドが最初に放ったものと同程度の威力だと思った。
それはテオバルドも同じようで、簡単な魔術障壁だけを展開した。
しかし、放たれた弾丸は、速度を保ったまま地面に衝突する。
「フン、何が殺すだ。戦場で魔法を使ったのは初めてか?」
吐き捨てるように笑うテオバルド。
しかし、次の瞬間。
「動かないでくださいよ。ジョン――」
高速で床に衝突した弾丸は無数に分裂し、弾け飛ぶ。
次々とバウンドする無数の弾丸は、捉えるのも困難だった。
無論、思考を加速すれば見ることはできるが、この数、対処できない。
「ッ――?!」
そして彼女の弾丸が、魔族の身体に炸裂した瞬間、その周囲が抉れて消えた。
最初の魔族は腹が、次のは肩、足、腰。
あの弾丸がぶつかった瞬間、その周囲がすっぽりと消えてなくなっている。
「冗談じゃない……ッ!!」
「――言ったでしょう、貴方は殺すと」
飛び退こうとしたテオバルドに対し、もう一撃放つクラウディア殿下。
……なんて、凄まじい魔法だ。
こんな力を持っていたなんて想像もしていなかった。
「舐めるなよ、小娘――ッ!」
瞬間、テオバルドは無数の防壁を展開した。
しかし、魔力の防壁では弾丸は起動せず、バウンドを繰り返すのみ。
……あの術式、生物とそうでないものを見分けているのか。
「ッ……!!」
まず一撃がテオバルドの足元で発動する。
なんとか、その範囲から逃れようもがくが、無駄なあがきだ。
右足は奪っていった。だが、別に走らせていた術式が発動する。
――瞬間、この場にいた魔族たちがテオバルドを守るように転移した。
誰も彼もが手足を失っていた状態。
それらを盾に、テオバルド自身はクラウディアの弾丸から逃れる。
「……外道が」
数歩進んだクラウディア殿下が、俺の隣に立つ。
――当のテオバルドは、自らの弟までをも盾にしたのだ。
隣に立つ彼女が下唇を噛んでいるのが分かる。
「自分を裏切っていた相手に、肩入れするんだな。王女様は」
「裏切ってなどいるものか。それは2度も私のために命を張った忠臣。
お前なんぞに渡しはしない――」
意識を失っている弟を盾にするテオバルド。
悔しいが、確かにこの状況、姫様があの攻撃をしないのも理解できる。
なら、動くべきは俺の方だろう。
そう思った直後だった。シルフィが消えた封印の術式が動き出したのは。
――彼女が、戻ってくる。
それを探知した瞬間、テオバルドが動き出したのも分かった。
「ッ――!!」
インテグレイトを放つ。だが、既にテオバルドは姿を消していた。
魔族を引き寄せた時と同じ魔法で、自らの位置を変えたのだ。
――思考を加速させ、周囲の時を止める。
封印術式が消えていくのが分かる。
テオバルドはシルフィが戻ってきた瞬間に、王冠を奪うつもりだ。
では、あいつは今、どこにいる……? 視界の中にはいない。
「ッ、クソ、真後ろか――!! 後ろだ、シルフィ!!」
加速思考を解除し、再度発動する。その繰り返し、進めた時の向こう。
封印術式から戻ってきたシルフィが見えて、更にその奥。
あの男の姿が見えた――
「無駄だ、もう遅い! もらうぞ、その命を!」




