表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/128

「そして内部犯がいたとすれば、お前だと思っていたよ、ウィルフレド」

 ――今日ほど、自らが魔術師でないことを恨んだ日はない。

 たった今、シルフィーナ・ブルームマリンは封印術式の向こうに消えた。

 もう一刻の猶予もない。彼女が再び現れるよりも前に動かなければいけない。


 ……この瞬間を迎えるよりも前、王都から出た少し後のことだ。

 兄さんから念話が送られてきたのは。


 内容は端的で、旧魔王城を制圧していること。

 魔王の間にある封印術式について、手を出せていないことが伝えられた。

 その上で兄が僕に求めたことは2つ。


 1つは、シルフィに封印術式を解除させろというもの。

 もう1つは、その場にいる者たちを皆殺しにしろと。

 

 ……反論しようとした。

 その場にクラウディア殿下が居合わせるのは分かっていたから。

 兄さんが後のことをどう考えているか知らないが、姫様を殺めてみろ。

 現体制との決裂は避けられない。泥沼の内戦が始まるぞ。


(ッ……いったい、どこにいるんだ、兄さんは)


 今、シルフィは術式の解除を始めたばかり。

 この場にいるのは、クラウディア殿下と勇者ジョンだけ。

 ――外で仕掛けてきた魔族どもは兄さんが仕向けたのだろう。


 恐らくはマルロの残した術式を使った。

 彷徨う魔族たちを支配したんだ。だからここを制圧できた。

 それ以外には考えられない。復権派の戦力で魔族を制圧はできない。


 ッ、どうする……? ジョンを殺すか?

 僕はまだ彼の力を知らない。こんな何気ない戦士がマルロを殺したなんて。

 そのカラクリが分からない以上、やるのなら不意打ちしかないぞ。


「……ウィルフレド」


 姫様が、僕の前に立つ。

 不安げな瞳が、こちらを見つめていた。


「姫様……」


 彼女がこんなにも自信のない瞳をしているのは、初めてだった。

 いったい、どうして。何か元気づけてあげないと。そう、思った。


『――今だ、ウィルフレド。まずはその女を殺せ』


 兄さんからの念話が送られてくる。


『待てよ、兄さん。アンタはこの後のことを考えているのか?』


 こちらからの言葉に反応はない。

 聞くつもりがないって訳か。クソ、魔術師め。

 僕にも同じ力があれば……ッ!


『ウィルフレド、もしお前がやらないというのなら――』


 それが最後通告であることは理解できた。

 これでもずっと兄弟をやっているのだ。本気かどうかはすぐに分かる。

 だから、僕は姫様の肩を掴み、そのまま羽交い絞めにした。


「っ……ウィルフレド、なんのつもりですか?」


 もう少し抵抗してくるかと思ったが、随分と大人しいものだ。

 ……いや、相手は魔術師。僅かな隙で形勢を逆転される。

 そして、されてしまえば兄さんは彼女を殺すだろう。容赦なく。


「鈍いですね、姫様……そこの勇者は気付いているみたいですよ」


 それにしたって早いな、この男。

 既に拳銃を引き抜き、こちらに銃口を向けているとは。

 ……姫様には悪いけど、盾になってもらうしかない。


「気づいてたのかい? ジョン!」

「……今まで復権派が動いていないことの方が異常だったからな。

 内部に食い込んでいることは予想していた」


 マズいな、この男。銃口をわずかに動かしている。

 ……やる気だ。姫様に当てず僕だけを狙ってくる自信がある。


「そして内部犯がいたとすれば、お前だと思っていたよ、ウィルフレド。

 正直、あまりにもあからさまで逆に違うと思いたかったが」


 まったくブレがない。冷静にこちらを狙っている。

 今、撃ってこないのは何故だ? 何かを待っているのか。


「だが、どうしてクラウディア殿下の身柄を拘束した?

 正体を晒す前にやるべきは、俺を殺すことじゃないのか?」


 ッ……こいつ、よく分かっているじゃないか。

 そうだ、まだ仲間だと思われているうちに殺すべきはジョンの方だった。


「……ジョン、銃を捨てろ。姫様を殺すぞ」

「バカを言うなよ、ウィルフレド。剣が震えているぞ、俺よりもずっと。

 それにオークの姫様が俺に対する人質になると思うな。何ならお前ごと」


 ジョンの指先が、引き金の上に乗る。

 ……クソッ、何が勇者だ、

 こいつ、最初から姫様ごと殺すつもりか!


「やめなさい、ウィルフレド。今ならまだ不問に処します。貴方の過去も全て」

「……知っていたとでも言うのか。クラウディア殿下」

「いえ、知ってはいなかった。けれど、恐れてはいました。その可能性もあると」


 そうだと思っていて、なぜ僕を重用したんだ! クラウディア!

 貴女が、貴女が僕をこんなに見込んでくれていなければ、兄さんが今日ほどの情報を掴むこともなかったのに……ッ!!


「……復権派、ですか。ご両親の代から? あの孤児院すべてがそうなのですね」

「ッ、無駄口を叩かないでもらおうか。自分の立場を理解しろ、クラウディア」

「ウィルフレド……」


 ……クソ、なんだって、なんだってこんな形で、正体を晒しているんだ、僕は。


『動くなよ? ウィルフレド』


 兄さんの声が響く。瞬間、ジョンの背後に円形の魔術式が展開された。

 闇の弾丸を放つものだ。しかもあの大きさだ、1度に10発は放てるだろう。

 ――狙っているのは、ジョンだけじゃない、これは!!


「姫様……!!」


 ……きっと、動いていなければ僕だけは助かっていたのだろう。

 クラウディア殿下と勇者ジョンを殺すための仕掛け。

 兄さんは完璧主義だからな。本当に趣味の悪い術式だと思う。


「――ウィルフレド! どうして、どうして私を庇ったんです?! ウィル!」


 背に傷を負った僕を抱えるクラウディア殿下。

 ……良かった。彼女は無事だ。


「やはり、そう動くわけか。ウィルフレドよ」


 念話じゃなく、実際にこの場所に兄さんの声が響く。

 テオバルド兄さんの声が。


「フン、いよいよ黒幕のご登場って訳かい。随分と待たせてくれたな」


 闇の魔力によって生じた煙の中、声が聞こえた。

 聞き間違えるはずもない、あの男の声だ。しかし、あり得ない。


 どうして、どうして、無事なんだ……?

 あれだけの弾丸が降り注いでいたというのに、なぜ避けられた?

 彼自身は神官でも魔術師でもない。魔導甲冑を装備している素振りもない。

 単純に無数の弾丸を避け切ったとしか考えられない。


「ほう、生きていたか。やはりマルロを殺しただけのことはあるな」

「ケッ、そういう繋がりもあるのかよ。厄介だな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=403406111&s
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ