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「ウィルフレド、戻って来て早々ですが頼みがあるのです」

「――戻ってきたのですね、ウィルフレド」


 カルロス派の本拠地、いや、王城に戻ってきた自分を姫様が迎えてくれる。

 カルリオン家の直系であるクラウディア・カルリオン様が。

 ……今、僕の表向きの役職は彼女の護衛役であり、彼女の右腕だった。


「はい。この度は暇をいただき、ありがとうございました。姫様」

「礼には及びませんよ。ウィルにはよく働いてもらっています」


 にこやかに微笑む姫様を見ていると、本当に信頼されているのだと感じる。

 オークとは思えぬ明るい肌色、絹のように柔らかそうな髪質。

 姫様は、本当に立ち姿だけで華がある女性だ。


「そう言っていただけるとは。恐縮です」


 ……そうだ。僕は今、スパイをやっている。

 両親が復権派に傾倒していたことは露見しなかった。その前に死んだ。

 だから、彼らの残したコネを使って、王城での仕事を貰った。


「お兄さんの孤児院、様子はどうでしたか?」

「なんとかやってはいますが、資金繰りが厳しいようで」

「もっと支援ができれば……これでは貴方のご両親に顔向けできませんね」

 

 両親は元々、王城で働いていた。

 孤児院の運営を任されるようになって、その中で復権派に傾倒していったのだ。

 そしてそれは表沙汰になっていない。


「いえ、姫様から、陛下から、既に多くのものを賜っております」


 僕の両親は、孤児院の運営に注力する中で、病に倒れた。

 そういうことになっているし、事実としてそうだ。

 目の当たりにした貧しさと惨状を嘆き、復権派に傾倒もしていたというだけで。


「……ウィル。できればこのようなことは、私たちの代で終わりにしたい。

 今、この国は、貧しさが全てを鈍化させています」


 ――クラウディア殿下は、本当に聡明な女性だ。

 王城で務めてから、彼女の話を聞いて、振る舞いを見て、確信した。

 姫様は、両親が抱えた感情と同じものを持っている。


「はい。痛いほど、実感しています。だからこそ復権派のようなものが」

「……王の力を、取り戻さなければなりません」


 我ら復権派と同調するかは別にして、やはりその結論にたどり着く。

 そうだ、オークの国が直面している状況を考えれば、打開策はそれしかない。


「ウィルフレド、戻って来て早々ですが頼みがあるのです。

 これからシルフィーナ・ブルームマリン様が、ここへ来ます。

 私が生まれた時のような、定期的な来訪ではありません」


 ――魔女シルフは、定期的に来訪していたのか。

 といっても前回が姫様の生まれた頃となると、相当に周期は長いな。

 正直、全く知らなかった。


「……カルロス陛下の戦友、ですね? 定期的に来られていたとは」

「ええ、彼女はカルリオン家のことを気にかけて」

「しかし、今回の来訪はそれが目的ではない」


 こちらの確認に頷く姫様。

 ……探りを入れる前、戻って来て早々に兄から頼まれていたことを果たすとは。

 でも、これからが大変だな。姫様の思惑、兄さんの思惑、僕は――。


「あの人は、自らの力を回収するつもりです。旧魔王城に残した力を」

「暴走した魔族に閉ざされたあの場所を、再制圧すると」

「そうなるでしょう。おそらくこの機を逃せば、王冠を取り戻すことはできない」


 ――500年、未踏の地だった。

 魔王という主を失った魔族が、死人のように彷徨い歩く魔境。

 オーク軍だけでは、とても拓くことができなかったし、試す余裕もなかった。


「父は、及び腰です。

 シルフィ様が行くのならば止めない。それだけのつもりだ。

 そうなれば、旧魔王城を拓くことはできない」


“いくら慈悲深いシルフィ様でも、それでは目的を果たして終わりでしょう”


「つまり、軍を動かせということですか?」

「可能であれば。それができずとも、シルフィ様に同行し、王冠を取り戻す。

 もちろん、私も行きます。それがカルリオンの義務だ」


 “だからウィルフレド・アルリエタ、私についてきて欲しい”


「――是非もありませんね。元より私は姫様、貴女に命を捧げた身であります。

 しかし、クラウディア殿下。私だけの同行に留めた方が良いかと。

 私が必ずシルフィーナ様の力になり、王冠も取り返してきますから」


 こちらの言葉に、姫様は首を横に振った。


「忌まわしき魔王を生み出したオークの王冠、あの力に触れる責任。

 それを果たすことこそカルロスの血を引く者の責務なのです。

 ウィル、お前の力を信頼していない訳ではない。でも、これは私の手で」


 ……なるほど、本当に聡明なお姫様だ。

 もしここで僕1人を行かせていれば、復権派に流すことも容易いと思ったが。


「分かりました。それが殿下の望みであれば」


 簡易的にではあるが跪いて、彼女の命令を受け取る。

 ここに誓いを立てるのだ。


「ありがとう、ウィル。

 それではまず、シルフィ様を迎えに行く部隊に合流してほしい。

 私自身も行きたいところですが、本命の前に父を欺くわけにも行きません」


 くすりと笑うクラウディア殿下。

 なるほど、旧魔王城に同行することを許されなかった場合のことも想定済みか。

 その前にいたずらに警戒されたくないと。


「承知しました。貴女様に代わりまして、シルフィーナ様を迎えて参ります」


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