「短い命を繋ぐからこそ果たさなければいけない役割がある」
「ふふ、よかろう。仕切り直しだ――」
黄金に染め上げた剣を構える竜人アウルを前に、加速思考を発動する。
――周囲の現実は時を止め、自らの思考だけが加速していく。
その中で考えるべきは、勝利への道筋だ。
黄金竜アウルが仕掛けてきたゲーム、その勝利条件は奴の剣を折ること。
つい先ほど、リタの虚肢剛腕がへし折ろうとして折れなかった点と、奴が魔力を流し込んで強化した点から考えて、奴が握っている限り折れない可能性がある。
竜が常に魔力を流し込んでいる剣は折れない。そこまでは良い。
問題はどうやってそれを破るか。どう、手放させるか。
非殺傷設定のビームブレードを叩き込んでも、奴は剣を手放さなかった。
……殺傷設定に変更して、アウルの腕を切り落とすか?
いや、それは違う。これはゲームだ。
いくらアウルの実力が遥か上だからと言って、殺傷設定で挑むものじゃない。
では、どうする? ここで勝たなければダイヤモンドの魔宝石は手に入らない。
リタの祖父、クロエ先生の患者、シルフィの戦友の悲願は叶わない。
それはダメだ。勝たなければいけない。何をやってでも勝たなければ――
しかし、非殺傷設定の解除はしない。
となれば俺が勝つ手段は、リタに活路を見出すしかない。
非殺傷設定のビームブレードよりも強力な武器はないのだから。
「――リタ、まず奴から剣を奪おう」
「ほう、分かるんだね? ジョン」
「ああ。あいつが剣を握っている限り、剣を折ることはできない」
流石は技術屋だな、リタは。
俺が加速思考を使って考え抜いたことを一瞬で見抜いているなんて。
「俺が剣を折る。あいつから剣を奪ってくれないか」
「――了解、順当な作戦だ」
そう告げたリタが前に出る。
「作戦会議は済んだか。初手をくれてやる。全力で掛かって来い、リタ」
「――良いのかい? 後悔することになるぞ、アウル」
「ふふ、小娘程度に後悔させてもらえるのならば本望だ――」
リタの魔導甲冑が強く輝き始める。
「……ジョン。私が剣を弾くまで手を出す必要はないぞ」
山犬たちと戦っていた時にも、同じようなセリフを聞いたな。
あの時は、彼女のことを男だと思っていたが。
しかし、あの時とは違う。俺には明確な役割がある。
「ほう……素晴らしい魔力だ」
輝きを増し続けたリタの甲冑が炎を纏い、そのままアウルに突っ込んでいく。
彼女の速度は尋常じゃない。
俺がアウルに詰められないはずの距離を詰められたときよりも速い。
「ッ――!!」
「少しは、驚いたようだな?」
距離を詰めた瞬間に放たれた右の剛腕。
握り込んだ金属の拳を、黄金の剣で受け止めるアウル。
「まるで巨人の拳に殴られているようだ。ドワーフのそれとは思えん」
ここまでの戦いと同じように、新たな技への感想を述べるアウル。
……しかし、あいつ、リタの剛腕を連続で叩き込まれていて、あれとは。
剣を持つ右手と、拳を握る左手で全てを打ち返している。
「見違えたな、リタ。てっきり魔導甲冑の母と呼ばれているのを聞いて、技術屋の道を選んだのだとばかり思っていたが」
「――戦士になる準備はしてきた。父のように、祖父のように」
加速思考を発動しなければ、眼で追うことさえ難しい高速の殴り合い。
その最中で、平然と会話をする2人。
「そうか、戦士か。そしてあの巫女と共に戦おうという訳か」
「――だったらどうした? 貴方には関係のない話だろう」
「ッ……なに、見知った子供が死地に飛び込もうというのは気が進まんのだよ」
2人の殴り合いが一瞬ばかり止まる。
組み合う形にもつれ込む。
「機械皇帝はかつての魔王になりつつある。誰かが討たなければならない。
取り返しのつかない事態に陥る前に」
「そのために短い命を使うか、リタ・シュミットハンマー」
組み合ったところから、虚肢剛腕を一時解除し、再展開するリタ。
唐突に膠着状態が解除されたことでアウルも対応できていない。
その隙に巨大な拳を叩き込む。しかし、剣を手放すまでは至らない。
「短い命を繋ぐ群れだからこそ果たさなければいけない役割がある。
私はこの世界の、社会の一員だ。
自らを外に置く貴方とは違う。世界が有り様を変えても生きられる貴方とは」
短い命を繋ぐ、か弱き存在だからこそ、社会の有り様に対する責任がある。
「――そうか。そこまで考えているのならば、もはや言うことはない。
元より俺は永遠の時を生きる者。
社会の外側にいる俺と、そうでないお前は全てが違って当然だ」
そう告げたアウルが、黄金の剣で刺突を放つ。
並みの相手ならば避けられない一撃。
それを左の虚肢で受け止めるリタ。
「ッ……!! 敢えて貫かせたな?」
「戦いにはこういう搦め手も必要だろ?」
黄金の剣は虚肢剛腕を貫いた。しかし、抜けなくなったのだ。
これでリタはアウルの剣捌きを潰したことになる。
「だが――!!」
アウルはその左拳を放つ。それをリタは右の虚肢で受け止める。
両腕が潰れた、再びの膠着状態。
その中でリタは、自分自身の両腕を構えていた。
「ッ……!! ここで魔法だと――?!」
「忘れたかい? アウル。私は、炎の神に愛されているんだってこと」
虚肢ではない自らの両腕、それを使って魔術式を走らせていたのだ。
両手に蓄えられた炎が、竜人アウルに向けて解き放たれる。
そして、黄金の剣を貫いていた虚肢剛腕を振り上げ、虚肢を消し去る。
「今だ、叩き折れ、ジョン――!!」




