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4話:叫びだし、その現実は、夢と化す、渇望するも、それは叶わず(後)14


「探せって言うけどさぁ……手掛かり一つ無いのにどうやって探しゃあいいんだよ。だいたいあいつらが変なことしなきゃここまで大規模なものにはならなかっただろ」

 校内を歩き始め、周囲に俺以外の人間がいなくなった途端、涼太は露骨な溜め息を吐きながら愚痴ってきた。

 とはいえ、俺も内心では同じ気持ちだった。

 ゾンビの襲撃に逸早く対応できる状況にいながら、独断で応戦した挙げ句、不用意にサイレンサー無しで撃ったことでただただゾンビを招き入れる結果をもたらしたというのがまず理解出来ない。

 大島隊長が女子チームの子に他の面々へと危険を知らせる為に撃たせた判断は間違って無いだろう。実際、大島隊長と嵐山先輩は今回の件で大多数のゾンビを無傷で屠っている。

 俺だって自分の危機的状況を伝える目的と、近くにいるかもしれない誰かが来てくれるのを願って仕方無しにサイレンサーを取り外して撃った。

 だが、戦場に出たことが一回や二回の分際で大島隊長に指示も煽がず撃ったというのはただただ気にくわない。

 

「まぁ、これに関しては俺達がどうこう言って始まるものでもなし。さっさと見つけて……これって」

 歩きながら涼太と話していると、地面に薬莢が落ちているのが見えた為、俺はそれを拾った。

 その薬莢はまだ新しく、Δチームの修善寺(しゅぜんじ)椿(つばき)が愛用していたマカロフの九ミリ弾と同じように見えた。

「なぁ、涼太。椿君の遺体って駐車場には無かったよな?」

「椿ってΔのか? どんな感じのやつだったっけ?」

「俺達の二個下で黒髪短髪のやつだよ。ほら、左目の下にほくろがある……」

「……あぁ、なんかお前の腕を尊敬してるとかでよく挨拶とか質問に来てたな。そういや確かにそいつの死体は見てないな」

「てことは、死体が無かった長谷川達と一緒に逃げてる可能性が高いよな。拳銃主体の射手が一人で戦うのは自殺行為に近いからな」

「じゃあつまり、俺達は運が良いことに正しい道を歩いていたって訳だな」

「そういうことになるな。椿君は命令に忠実だし、Δのリーダーを任せられている数珠掛(じゅずかけ)さんの命令にはまず反したりしないだろう」

「でも数珠掛(じゅずかけ)さんってあれだろ? 隊長の同期で俺が入る前の桜の副隊長だった人だろ? あの人ならまず真っ先に隊長へと連絡させようとするんじゃないか?」

 確かに涼太の言う通りだ。

 数珠掛(じゅずかけ)梅護(ばいご)さんは常に冷静沈着であり、特殊な棒術を得意とした戦闘員だ。二年前に子どもを瓦礫から庇った際、利き腕である左腕を負傷してからは、技術指南として戦列を離れたが、その実力は未だ衰えず、かくいう俺も右腕一本になった彼にすら武術で勝てていない。

 今回の件も、数珠掛さんがついて来てくれると言ってくれたから迷いなく動けたと大島隊長が言っていた。


 そんな人がいるというのに前線を後退する事態になったことが解せない。

「……いや、こうは考えられないか?」

 しゃがんで銃弾を見つめて考え事をしていた俺に、涼太が語りかけてきた。

「最初の奇襲で数珠掛さんがやられて、大黒柱を失って混乱した男子共が応戦するけど、そのうちの誰かが混乱したせいで誤ってサイレンサーを取り外したままだったとか? 結果それでゾンビが更に増えた挙げ句、何人かやられて敗走したとか」

「あの梅護さんがやられるとは考えにくいが……そうなるとサイレンサー無しで撃つ可能性が一番高いのは椿君だろうな」

「椿が? なんで?」

「あの子がいつもマカロフを入れてたホルスターはサイレンサーを外さないと入れれないやつだったし。テンパってたってんならサイレンサーつける余裕は無かったかもしれないしな」

「まぁ、他の連中は数珠掛さんに教えられてるからかほとんどが近接武器だもんな。まぁ、サブウェポンとして銃を携帯している連中はいるが、その腕は素人に毛が生えた程度、俺も彼がサイレンサー無しで撃った人間で間違い無いと思う」

「どちらにせよ急いだ方が良さそうだな」

 俺が指差した先を涼太が釣られて見た。

 そこかしこに転がっているゾンビの死体から少し離れた場所に、俺は不自然な血溜まりを見つけた。

 俺は握っていた空薬莢をポケットにしまい、ゆっくりと立ち上がり、血溜まりを目指して少し歩いた。

「ゾンビの肉片も無し……おそらく怪我人が長時間とどまった結果だろうな。死体らしきものが無いってことは移動したんだろうが、この怪我人と同行しているならそう遠くには行って無いはず……」

「おい誠!! こっち来い!!」

 涼太の声が少し離れたところで聞こえた為、俺はそちらを向いた。

 てっきり近くにいるもんだとばかり思っていたのだが、彼はいつの間にか校舎の角先に立っていた。

 まるで切羽詰まったような涼太の表情を見た俺は、そちらの方へと趣き、涼太が見ている場所を見た。

 そして、その光景に思わず絶句した。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


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