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ヴァンピールの少年【1】

 ヴァヴにとって、ヴァンパイアは憎い敵だ。母親が昔負った深い傷も、ヴァンパイアに負わされたものだ。奴らは他のモンスターや人間を積極的に襲って喰らう。そんなヴァンパイアに昔から対抗してきたのが、狼人間ライカンスロープだった。

 ヴァンパイアの歴史はそう古くない。その始祖は多数の人間やモンスターを喰って力を付けた元人間だとも言われている。奴らは自分たち以外の種族を食糧程度にしか思っていない。他のモンスターはヴァンパイアを警戒し、特にライカンスロープとは激しく戦ってきた。

 だが、ヴァンパイアは人間の中にも上手く溶け込んでいた。奴らは狡猾で、人間になりすまし信頼を得て、森で大人しく暮らすライカンスロープたちを悪魔の手先だとけしかけた。騙された人間たちに捕らえられた大勢のライカンスロープが、〈魔女狩り〉と称され、火で焼かれたり吊るされたりした。

「でも結局、私の家族はみんな死んでしまって、私は去る。なんだったのかしら? 私たちは何のために戦っていたのかな」

 森の中を歩きながら、ヴァヴは傍らの夫に尋ねた。

「君たちのお陰で救われた命もあって、今も息づいてる。この森だって、君たちのことを忘れはしないさ」

 なりたての夫の言葉に、ヴァヴは微笑んだ。

「創の言うことは、いつも美しいわね。あなたがいて良かった」

「僕も君がいて良かったよ。僕の家族に君を紹介するときが楽しみだな。君が綺麗だから、とても驚くと思うよ」

「緊張するわ。仲良く出来るかしら?」

「君ならすぐに。可愛いほのみと並んでるところが早く見たいよ」

「あなたって本当にほのみのことしか言わないけど、弟が二人いるのは本当なのよね……?」

「うん。眼鏡と金髪の……あれ? ねえ、ヴァヴ、いま、誰かが呼んだ?」

 創がふと立ち止まる。

「え? 何も聴こえなかったけれど」

「聴こえるじゃないか、あっちから」

 創が指さしたのは、昨日母親の遺骸を埋めた辺りだった。死体を漁る獣だろうかとヴァヴは焦った。

「私には何も聴こえないわ」

 ずっと森で暮らしてきたヴァヴのほうが、創よりは目も耳も良い。

 だが、創には不思議な勘があった。「僕が見て来るよ」と言って去ってから、怪我をした小鳥を拾ってきたり、獣の仔を連れて帰ることがままあった。どうやって分かるのかしらと不思議に思っていた。森に長く住んでいるヴァヴよりも、よっぽど森の主だ。

「じゃあ、君は待っていて。見て来るよ」

 創はたちまち黒い狼になって駆けだした。それをヴァヴは追いかけることもなく、小屋に向かった。日本に行くための荷物を作らなければ。

 創のことだから、どうせいつものように小動物の仔を連れ帰るだろうと思っていた。




 ヴァヴが小屋の片づけをしていると、足音が近づいてきた。

 創だと思って外に出て行くと、青年と一緒に、見たこともない少年が立っていた。愛する青年がにっこりと告げる。

「ただいま、ヴァヴ」

 その隣の少年は、擦り切れた粗末な衣服に、靴も履かず、頭から布をかぶっている。布の下で翳った目許から、紫色の瞳がヴァヴを見た。肌は陶器のように真っ白で、血の気を感じさせない。前髪も真っ白だった。少年が鬱陶しげに布を剥がすと、白い髪は腰の下まで伸びきっていた。

「ヴァンパイアの仔!」

 ヴァヴは後ろに下がり、ウウウと唸った。美しい女の口が裂け、牙が露出している。

「なんてものを連れて来るの!」

「彼女がヴァヴだよ」

 のん気な青年が、少年の傍らで言った。

「離れなさい、創! そいつにはたくさんのヴァンパイアの臭いがまとわりついてる!」

 ヴァヴは銀狼の姿になり、唸り声を上げた。

「うん。だからね、この子はヴァンパイアを殺して回っているんだよ」

 殺気立つ妻に、創は穏やかに告げた。

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