哀れみ
─────同時刻、貧民街の裏路地にて。
人探しのため、王都のあちこちに足を運んでいた私達は、ようやく目当ての人物を発見する。
やっとの思いで探し出した金髪の美女は、もう既にボロボロの姿だった。
自慢の金髪は馬のしっぽのようにボサボサになっており、着ている服も汚れている。
また、業火の影響で酷い火傷を負っており、貴族令嬢としての面影はもはや残っていなかった。
息も絶え絶えといった様子の彼女を視界に捉えつつ、私達は地上に降り立つ。
地面を舐めるように動く業火は、私達を避けるように脇へはけた。
「随分と見窄らしい姿になったね。追われる身になった感想は、どうだい?────ロゼッタ・グラーブ・ジェラルド」
「っ……!!」
旦那様の皮肉を込めた質問に、ロゼッタ様は悔しそうに顔を歪める。
震える手をギュッと握り締め、彼女は鋭い目付きで旦那様を睨みつけた。
「あ、貴方は誰なの……?」
「おや?分からないのかい?君は外見の美しさと共に、賢い頭も失ったようだね」
「っ……!!うるさいわね!分かってるわよ!貴方はメイヴィスの夫で、神様なんでしょ!!」
旦那様の言動が癪に障ったのか、ロゼッタ様は噛みつかんばかりの勢いで反発する。
どんなにボロボロになっても、プライドだけは捨て切れなかったらしい。
必死にこちらを威嚇する姿に、私は思わず苦笑いした────と同時に自分の変化を実感する。
不思議ね……ロゼッタ様を前にすれば、もっと色んな感情が溢れてくると思ったのに……信じられないほど、落ち着いている。
それどころか、相手の境遇を哀れむ余裕さえ、あった。
まあ、だからと言って────許すつもりは毛頭ないけど……彼女は、私とハワードを死に追いやった張本人なのだから。
『嘘に踊らされ、暴走してしまった民衆とは訳が違う』と考え、私は情けを掛けなかった。
妥協しない姿勢を貫く私は、物怖じすることなく、ロゼッタ様を見据える。
糾弾された当時の記憶を呼び起こす中、私はゆっくりと口を開いた。
「ロゼッタ様に一つお聞きしたいことがあります。何故────私から、聖女の座を奪ったのですか?」




