疑問《ハワード side》
メイヴィスと感動の再会を果たしたというのに、複雑な心境に陥る私は一人トボトボと長い廊下を歩く。
胸の奥底から湧き上がってくるのは、メイヴィスの本意に反する行動を取ってしまった罪悪感だった。
まさか、下界での仕打ちについて一切話していなかったとは、思わなかった……多少なりとも、説明しているものかと……。
『率直な感想を言うことも出来なかったのか……?』と思案する私は、コテリと首を傾げた。
「余程、ショックが大きかったんだろうか……?」
白い天井をぼんやりと眺める私は、最も現実味のある可能性を口にする。
芯のある女性とはいえ、まだ十代の子供……死のショックを受け入れられるほど、強くないのかもしれない。でも────。
「────妙に引っ掛かるな」
ボソリと独り言を呟いた私は、次から次へと溢れてくる疑問点に目を細める。
ずっとメイヴィスの傍に居たからこそ、分かる圧倒的違和感に思いを馳せた。
少なからず、ショックを受けていることは本当だろうが……どうも、腑に落ちない。
だって、本当にショックを受けているのなら────トラウマの象徴とも言える私を見て、喜ぶ訳ないだろう。
『また会えて嬉しい』という気持ちに嘘はないだろうが、それよりも先に恐怖を感じる筈では……?なのにメイヴィス様は怖がる素振りも見せず、笑いかけてくれた。
これが本当にショックを受けている人の反応だろうか……?
もし、既にショックから立ち直っているのなら────メイヴィス様は一体、何に怯えているのだろう?
どうして、レーヴェン様とカシエル様に真実を話さないのだろう?
何故、あんなに思い詰めた顔をしているのだろう?
メイヴィスの心情を推し量る私は、『分からない事だらけだな』と溜め息を漏らす。
モヤモヤとした気持ちを抱えたまま進む中、ようやく目的地に辿り着いた。
銀の装飾が施された扉を見つめ、私はドアノブに手を伸ばす。
刹那────聞き覚えのある声が耳を掠めた。
「第二の……は謎の疫病をばら撒……」
「いいですね……でも、直接手を下す前に首謀者たちに死なれては……ます」
「じゃあ……の効果範囲をある程度限定して……」
「そうしましょう……第一の……で、あの女の……は使い物になりませんし……これこそ、まさに天罰ですよ」
執務室から漏れ出る声に動揺し、私は反射的にドアノブから手を離した。
疫病?首謀者?効果範囲?一体、何の話をしているんだ?
『聞いちゃいけない話だろうか?』と考え、私は数歩後ろへ下がる。
そして、報告はまた今度にしようと判断し、身を翻した。




