村長との交渉
「信じてもらえますでしょうか?」
クロゴが俺の目をまっすぐ見つめ、なにかを探るように聞いてきた。
といっても……ドラゴンか。
「実際にその現場を見せて頂くことはできますか?」
「それは……このことはできるだけ外部の人にお見せしたくはないのですが、お話しだけでは魔石を譲って頂くことはできないでしょうか?」
「もちろん信じたいのはやまやまですが、俺たち冒険者としてはこの国の危機があるのであれば知っておきたいというのもあります。一度ドラゴンが暴れ出せばこの村だけではすみません。もちろん、寝ているものを起こすようなことはしませんし、変な噂を広めてご迷惑をかけるようなことはしません」
「そうですか……ところでロックさんは魔石と何を交換を希望されますか? 多少でしたら雪茶をお譲りすることもできますし、この村の特産品であれば融通することができますが」
「できれば雪結石を頂ければと思うんですが、こちらで手に入ることはできますか?」
「もちろんですよ。魔石を譲って頂けるなら質の高い物を準備させて頂きます。ただ……やっぱりドラゴンを直接見るのは諦めてはくれませんか? できるだけ刺激をしたくないもので」
村長はどうしても、俺たちにドラゴンを見せたくないようだ。
でも、封印をしたいのであれば俺たちも役に立てる。
「村長はドラゴンの動きを封印させておきたいんですよね?」
「もちろんそうです。少しでも長時間ここの村の地下で眠っていて欲しいと思っています」
「それなら、俺の仲間に賢者がいますのでその封印をするお手伝いができるかもしれませんが、いかがですか?」
「ロックさんの仲間……ですか? それはどちらに?」
村長はわざとらしく部屋の中を見渡し、誰も連れて来ていないことを確認した。
ここにいないという理由で断ろうと思っているのか、少し表情がにこやかになったが、それも一瞬のことだった。
「ドモルテ、でてきてくれるか?」
箱庭に向かって呼びかけると、ドモルテがモコモコの可愛い雪山の服ででてきた。
シャノンとはまた違った可愛さがあるが、むっちりとしたボディラインはに村長の目が釘付けにされていた。
別にそういう目的で呼んだわけではないんだけど。
「村長さん、初めまして。賢者のドモルテといいます。お話はすでに聞かせて頂きました。ドラゴンの封印をしたいということですよね? 私もドラゴンに興味があるんですけど、もしかしたらお役に立てるかもしれませんから案内してくれませんか?」
ドモルテも村長の目がドモルテの身体にいっていることを把握しているのか、いつもよりもゆったりとした声で話しかける。
雪人の反応も人間と変わらないらしい。ただ、どんなにいい身体だとしてもドモルテの場合は骸骨だけど。
「あっゴホッン、本来ならドラゴンを外部の人間に見せるということはこの村の安全管理上難しいが、今回は特別に案内しよう。それでドラゴンの封印が長期にわたってできるのであれば私としても異存はない。ただ、先に魔石の方を渡してくれないか?」
村長意外とチョロかった。
「もちろんです。ドモルテ魔石は持ってる?」
「もってますよ。村長さんはどれくらい欲しいんですか?」
「そうだな……20個……難しければ10個でもいい」
「ドモルテそれなら少し多めに出してやってくれ」
「わかりました」
ドモルテは服にあるポケットに手を入れるとそこから20個くらい魔石をとりだした。
「結構持ってるんだな」
村長はポケットから20個の魔石がでてきたことに驚いていたようだ。
「えっ……もっとありますよ?」
そう言うと身体中のポケットから魔石をどんどん取り出していく。
まぁ隠蔽魔法にも使うからそれなりに数は持っていないといけないんだろうけど……身体中のどこに隠していたのか全部で50個以上とりだした。
「これくらいでいいですか?」
「これくらいってことは……もっとあるのか?」
村長はドモルテが取り出した量に圧倒されている。
普通の冒険者はこんなにも持ち歩いていることはない。
「フフフ……あるにはありますよ」
「いや、ドモルテ十分だよ」
ドモルテが意味深な笑みを浮かべているが、全部の魔石を渡してここで骸骨に戻られても困ってしまう。
「これを全部交換してくれるのか?」
「村長さんが望むなら全部交換してもいいですよ? ただ雪結石と交換とドラゴンを見させてくださるのであればかまいませんよ」
「まぁ仕方がないだろう。雪結石はどれくらい欲しいんだ?」
「通常のレートでいいですよ。コロン村にはどれくらいで卸しているんですか?」
「そうだな……魔石5個で雪結石1個くらいが正規の値段ではあるけど、それは通常時だからな。魔石3個で雪結石1個でいい。ついでに雪茶も少しならつけてやろう」
「いいんですか?」
予想外に安い値段に驚いてしまった。間に入る業者が多くなればなるほど、価格が高くなるのはわかるが……。そうなるとこの家がこれだけ豪華なの雪結石の売り上げがあるからというわけではないようだ。
「まぁ……口止め料的なものも含まれていると思ってくれ。私たちが一番求めているのは、ここで平穏に暮らすことなんだ。私たちの祖先が迫害から逃げてこの場所へやってきて、何百年とかけてここを切り開いてきた。私は親からもらったバトンを次の世代に繋ぐことが目的なんだ。なにより一番は……私たちは静かに暮らしたいだけなんだ」
「俺たちは……あなたたちの生活を脅かすつもりはありません。ただ今後の脅威となる魔物がいるのであれば知っておきたいというだけです」
「脅威か……ドラゴンよりも一番の脅威は……。とりあえず行こうか。魔石が手に入ったのなら早めに届けなくちゃいけない。それと一つ言い忘れていたけど、封印をしている女性がいるんだけど……彼女はとても気難しくて、それでいて繊細でやっかいだ。頼むから彼女の機嫌を損ねるのだけはやめてくれ」
「……とにかく気を付けて欲しいってことですね」
「あぁそういうことだ。それじゃあこっちへ来てくれ」
村長の案内で俺たちは村はずれにある洞窟へと向かった。




