アネサ村へ到着。村長の家に入ると……金持ちっぽいぞ
コロン村からアネサ村までは雪の中を歩いて半日だった。
雪が積もっていなければ、それほど遠くないような感じだった。
ただ、アネサ村まで距離が近い割に交流が少ないのは、道が整備されていないというのがあるのだろう。
ほとんど誰も歩いた跡が残っていない平原や森、山の中を歩いていくような道だった。
途中で馬車とかが通れる道はないのかと聞いてみると、馬車の通れるルートもあるにはあるが、かなり遠回りのルートの上に断崖絶壁の近く通ったり危険も多いとのことで雪人たちも使うことは少ないようだ。
雪人の村は、元々は別の場所で暮らしていたが、数十年前に住んでいた地域を追われてこの国へ逃げてきたらしい。
元々がすべて村の中で完結できるようになっており、わざわざ外の人間と交流をとる必要はなかったらしいが、当時の村長が自分たちの身を守るために、コロン村と協力関係をつくったことで交流が生まれ、今では雪結石を使って人と交流をしているとのことだった。
あまり深く関わりすぎないのがコツだと笑って話をしてくれたのは、リスタの兄貴のアンドだった。
今回の魔石を探すのは兄弟で村長から依頼を受けたらしく、弟の面倒を見ながらコロン村までやってきたらしい。
たまにアネサ村にやってくる商人などを見るのが趣味のリスタは、かなり偏見が強いらしく、俺にも初対面であんな失礼な態度をしたと謝られてしまった。
村にやってくる商人は護衛やまわりの人間に態度がでかく、嫌な奴らしい。
いつも護衛を能無しとののしっているようで、それで俺たちを見た時にダメな奴らだと判断したようだ。
どうしても狭い世界で生きてきたとなれば、その世界だけが常識になってしまうから仕方がないが……アンドの気苦労はしばらく続きそうだ。
俺はラッキーのおかげで山道もなんとかなったが、普通にこの雪の中を慣れていない人間が進むのはかなり大変だ。
「もうすぐつくぞ。あそこを超えれば村が見えてくるはずだ」
山道を超えていくと雪の中に一人の男の子がいるのが見える。村の子供だろうか。
「たしかに村が近いようだな。こんなところ迎えが来てるぞ」
「迎え?」
「ほら、あそこに子供が……」
俺が指を指した方向にはもうすでに誰もいなくなっていた。
「こんなところに子供がくるなんてあまりないぞ。気のせいじゃないのか?」
たしかに子供が見えたようなきがしたんだが……。
それからさらに山を登ると村を一望できる場所までやってきた。
村は山の谷間にあり、村のあちこちから料理でもしているのか白い煙があがっているのが見える。
「ついたぞ。あそこがアネサ村だ。来てもらってそうそうで悪いんだが、まずは村長の家に来てもらうことになる」
「わかった。泊まる場所とかは準備してくれるんだろ?」
「もちろんだ。その辺りは任せてくれ」
山から滑り落ちないようにして坂道を下って行くと、村の近くにはこの村でも雪が無くなっていた。
「この村にも火の加護があるのか?」
「外から来たのに火の加護を知っているなんて珍しいな。火の加護はこの村が本流だ。どんなに雪が深くなろうとこの一帯だけは雪が積もることはないんだ」
「火の加護ってのはすごいんだな」
「あぁ、それがなければ俺たちは生きていけなかっただろうな。また新しい場所を探す必要がある」
「ラッキー助かった。箱庭の中に入っててくれ」
『あいよ』
「外には俺たちが知らない魔道具が沢山あるんだな」
リスタは関心したように箱庭を見ていた。都会でも持っている人間は見たことがないが、わざわざ説明をする必要もないだろう。
アネサ村はコロン村と違って厳重な塀などはなかった。
簡単な柵しかなく、逆に心配になる。
村の中に入るとアンドたちと同じ色白で肌が透き通るほどきれいな人たちが沢山住んでいた。彼ら全員が雪人と言われる種族なのだろう。
村の中には雪がないとはいえ、暖かそうなコートを着込んでいる人が大半だった。
田舎の村はシンプルな服装が多いが、青を基調したオシャレな服を着た人が多い。
本当に雪が積もらないのかと、地面に触れてみたが特別に暖かいようなことはなかった。
この村もそうだが、コロン村もかなりの広範囲に雪が積もらないようになっており、もし本当にこれだけの加護をくれるようなものがいたのなら相当な力が必要になる。
俺が持っているような魔石だけで対応が可能になるとは到底思えなかった。
「もうすぐ村長の家だ。その……悪いな。雪人の大人はあまり人間を信用していないからな。危害をくわえることはないと思うんだが嫌な視線を浴びせられることになるかもしれない」
先ほどから雪人の特に女性からの視線が多かったが、どうやら他の人間が歓迎されていないからだったらしい。
「田舎だからな。それは仕方がないだろ。襲われたりしなければ問題ないさ」
「そう言ってくれると助かる」
村に入ってからしばらく歩いた先、俺たちが来た山とは逆側の山側に村長の家はあった。
村の中では少し大きめだが、目を見張るような豪華さはなく、質素な感じだ。
アンドが村長の家のドアをノックするとすぐに中から扉が開けられる。
「良く帰った。魔石は手に入れられたのか……そちらの方は?」
「魔石を譲ってもいいとおしゃってくれているロックさんです。ただ、魔石をどう使うのかによっては譲れないとのことで、村長に直接お話をしてもらおうかと思い来ていただきました」
「それは、それは雪山の中大変だったでしょう。どうぞ中へお入りください」
村長の家の中は外が雪の村だというのを忘れるくらい暖かかった。
「ようこそおいでくださいました。村長のクロゴと言います。どうぞよろしく」
クロゴはアンドたちよりもかなり年配で少し皺などがでてきてはいたが、肌の白さや美しさは変わらなかった。
エルフのように外見が変わりにくい亜人なのかもしれない。
「ロックです。魔石が必要ということでお話を伺ったんですが、その理由は村長さんでないと話せないと言われまして、教えて頂けますでしょうか?」
「もちろんです。でもまずはお茶でも準備しましょう」
村長はそう言いながら部屋の奥へと消えていき、美しい陶器でできたティーカップを持って戻ってきた。
家の作りといい田舎の村にしては、相当稼ぎがあるようだ。




